短編:エイプリルフールのその後
久々の三人称視点……。本当は昨日書こうと思ってたのですが今日になってしまいました……。
家族の絆メインのハッピーエンドものです!!
エイプリルフールから一日明けた日のこと。もう嘘をついてはいけない日である。
ミノムシのように布団の中でくるまっている少年がいた。彼の名前は青木航大と言って成績も運動神経も女子からの人気も平々凡々の男の子である。ちなみに思春期真っ盛りの十六歳だ。ただこの少年にはちょっとした悪癖がある。
手癖が悪いのだ。クラスメイトに取られたテスト用紙を即座に取り返したり先生に取られたスマホを取り返したり。別に良くも悪くもない行為なので周りは特に気にしていなかったが、この少年、やらかしてしまったのである。
それがミノムシのようにくるまっている理由だ。
「いい加減降りてきなさい!」
怒っているのは航大の母、紗智である。いや、怒っていると言うには少々語弊がある。呆れているのだ。
「……」
何も言わずに布団の中でイヤイヤと首を振る航大。さて、彼は一体何をしたのだろうか。ちなみに航大の家は三人家族で、父親はたまにしか家に帰ってこない。そう、航大が怒らせてしまったのは父親の慎であった。
時間を昨日に戻そう。航大はエイプリルフールという悪戯公認の日にどんな悪戯をしようかと考えていた。もちろん、小さな悪戯を。そんなとき珍しく家に居た慎の姿が目に入った。
航大と慎の仲は悪くない。ただなかなか会えないということもあって上手くコミュニケーションがとれていなかった。そこでピンときたのだ。
エイプリルフールというイベントを使って慎と仲良くなろう、と。
そして航大は慎に声をかけた。
「父さんおはよう!」
「おお、おはよう。なんだ朝から元気だな」
「いやぁ、いつもこんなだよ!」
嘘である。航大は朝がめっぽう弱い。今日だって目覚ましという目覚ましとアラームというアラームを総動員して起きたのだから。その数は二桁に上っている。
そして航大は二三喋った後父親が大事に身に付けている腕時計をポケットの中に入れたのだった。その後時間が経ち、返すことを忘れて学校に行ってしまった。
元々の予定では航大が学校に行く前に「父さん時計はどうしたの?」と聞いてネタばらしをする予定であった。これを見事に忘れたのだが。
そしてそのことを忘れたまま悠々と家に帰ってきた。クラスメイトに小さな悪戯を仕掛けて満足していたところに家中を探し回っている父親の姿である。吃驚仰天だ。
困った航大だったが馬鹿でも愚かでもない。
すぐさま荷物を放り出し父親の前に出ていってそれは見事な土下座を披露した。
「本当にごめんなさい。実は俺が持っていました」
時計を出して謝る航大から慎は時計を引ったくると自室へ閉じ籠ってしまったのだ。
それを作った原因が自分であるとはっきりわかっている航大もまた、自室に閉じ籠ってしまい今に至っているわけだ。
「いい加減出てきなさいよあんたたちは」
紗智は二人の部屋に向かって呆れながら声をかけ続けていた。しかし父親の部屋を訪ねていたときにとうとう堪忍袋の緒が切れたのか、部屋に入って首根っこを掴むとひょいと航大の部屋へ放り投げたのだ。なんと強いご婦人だろうか。更に航大から布団を引っぺがすとこう言った。
「本当にいい加減にしな! いつまでもうじうじうじうじうじうじと! 困るのは誰だと思ってんだい!! 良いかい!? 仲直りするまでこの部屋からは出さないし水一滴飲ませやしないからね!」
紗智が盛大に音をたててドアを閉めると部屋には呆然としている父子のみとなった。やはり強いご婦人である。この家の力関係がはっきりと分かるようであった。
その二人と言えばどちらも喋らないので静かである。しばらく沈黙が流れていたが、このままではいけないと航大が頭を下げた。
「ごめんなさい! なかなか父さんと遊べないから……。学校でも俺の手癖については手品みたいな扱いになってて父さんに見せたら喜んでくれるかなって思って……。本当にごめん、ごめんなさい……」
怒られると思っているのかその体はぷるぷると震えていた。
「いや。俺も言い過ぎた、すまない。お前の気持ちはよく分かった。時計だって返ってきたわけだし怒ったりはしないさ。……そうだ、このあと二人で出掛けないか?」
不器用な父子である。全くもって不器用だ。しかし愛情は人一倍、というやつである。
その日から慎はちょくちょく休みをとって家族サービスに励むようになった。大人になった航大は父のもとで学び、その後を継いだ。その腕には古いが大切に使われている腕時計があったという。
「と、まぁこんなところかな」
「幸せに終わったんだねー」
「何を聞かせてるんですか奥さんっ……!」
幾年の月日を経て大人になった少年は結という美しく気立てのよい娘を貰って息子を作り、幸せに暮らしましたとさ。




