冬の到来
屋根に雪が積もるので、日の出とともに除雪しなければならない。これは少年の日課だ。これを疎かにすると夜の間に積雪は増し、屋根が自重を支えきれずに抜けてしまう。そうなっては、冬の寒冷に耐えきれず次の日の目を見ることなく、少年と少年の一家は雪の底で永久保存されることだろう。だから少年は毎朝、欠かすことなく早起きして除雪作業に取り組む。
その日も少年は朝焼けとともに目を覚ました。外気に触れていた布地はヒンヤリとしていて、掛け布団の中と外の温度差を如実に理解させる。包まっていた布団の中から顔を少し出し、呼吸すると呼気は途端に白く染め上げられ、吸気が喉を少し刺した。喉を潤わせようとしたが唾が出ない。口は乾燥していた。
ゆっくりと手を外に出し、側の椅子に掛けていた厚手のコートを掴んで布団の中に引きこむ。これもまた、ヒンヤリとしていたが文句は言ってられない。早急にコートを羽織ると、やはり毛皮を内に縫い付けているだけあって暖かく、これなら大丈夫、と自分に言い聞かせるように掛け布団を捲った。
帽子を被り、ベッドの横に添えていた毛皮のブーツを履き、階上へと登る天井仕込み階段を登っていく。登った先は屋根裏部屋だ。少年は先ず、ここで屋根板の腐朽がないか、浸水してないかなどを確かめねばならない。耐水性の高い建材で出来てるとはいえ、もし、屋根板に異常があっては事だ。早期発見、早期改築はこの厳しい凍土で生きていく術。この点検作業も少年の仕事の一つである。
屋根裏部屋の隅々まで確認を終え、やっと少年は屋根裏部屋に唯一備えられている窓を開け放った。その窓から梯子を降ろし、先ず二階の出屋根に自分の背丈くらいあるシャベルを持って着地する。
新雪特有の足を取られるような深まりを感じながら、体感で屋根の上を歩くこと少々。屋根の端に来た。これ以上前に足を運べば雪と一緒に落下してしまう。
そこで少年はいつものようにシャベルで雪を突き崩していく。暑さ8cmほどの雪塊がボトボトと、少年のシャベルが突き刺さる度に落ちていった。
少年は繰り返し、何度も、何日も、何週も、何ヶ月も、何年もやってきた通りに除雪作業を粛々と行う。
途端、強い突風が新雪を巻き上げて一陣、少年を掠めて行った。帽子が飛びそうになるのを手で押さえ、体を縮こめる。
少しの間の後、顔を上げた少年は北の空を見た。
のっぺりと垂れこめた、遥か彼方の霊峰を覆い隠さんばかりの凍雲が、徐々に、ゆっくりなようで明確な速さでこちらへと迫ってくる。陽光を妨げるその威容は、白い闇を侍らせて辺り一面を巻き込むその威厳は、まるで軍隊の出征のようだ。
少年は今年もまたやって来たそれに毒づいた。
「……冬将軍の到来だ」
書きたい作品は未だ書溜め中です。
今年度末には間には合わせようと思ってます。
遅筆なので気長に待ってやってくださいm(_ _)m