No.9
負の感情が混じった視線など気にしていない様子で冒険者ギルドを目指すフウスイ。
かつて人類最強と言われていた彼にとってこの程度の視線など、外に出るたびに向けられていたものだ。むしろ親しみすら感じながら歩いていく。
のんびり街を見ながら歩いていたせいか、時計を見ると結構時間が経っている。
流石にのんびり過ぎたか、まあ着いたからいいか。
前の冒険者ギルドよりは小さめだがそれでも周りの建物と比べると、数倍以上の大きさである。
中に入って、大量の紙が貼ってあるクエストボードらしき所へ行こうとすると、横から大柄な男二人が立ち塞がった。
これはまさかのテンプレなのか。ややこしいことにならなきゃいいけど。
「何か用か?」
「後ろの狐獣人は奴隷か?」
「それがどうした。」
男二人の目は、欲で濁った目をしている。
「寄越せ。」
「はぁ?」
奴隷かと聞いてきた時点で譲って欲しいとかだと思ったのだが寄越せとか、
「命令形で話すなゴリラ。」
「なぁ!てめぇガキのくせにふざけるなよ!」
ゆでダコの如く顔を真っ赤にしながらもう一人の男から剣をとってこちらに向けてきた。
短期すぎるだろあと一応俺、成人してるぞ。
「剣を向けた。ということは喧嘩を売られていると受け取るぞ。」
瞬間 男は自分が絶対強者に狙われていることを知った。
瞬間 全ての音は消し去り、生物は動くのを辞めた。
ここで一つ考えて欲しい。称号に神々が畏怖する者がある人間がチンピラもどきに喧嘩を売られるのはおかしいと思わないか?
そうおかしい。では何故チンピラもどきが喧嘩を売れたのか。
それはフウスイが気配を薄めているからである。
前世で 人類最強と呼ばれていたが、何も身体能力だけで人類最強と呼ばれていたわけでは無い。その理由の一つに気配を操作出来るがあげられる。
一般人としか思えないほど存在感や気を普段は弱くしてある。
変装でもしていれば誰もフウスイと思えないほど。まるで忍者のごとく。
「ぁ...ァ。」
「ん、何びびってるんだ?喧嘩したいんだろ?殺ろうぜ。」
男は頭の中で己の愚かさを嘆いていた。
化け物に喧嘩を売ってしまった己を。
「はぁ、つまらん。別に威圧したわけでも敵意を向けたわけでもないのにこのざまか。」
そして歩き出す。静寂の中、フウスイは男の横に来てつぶやく。
「次喧嘩を売ってきたら殺す。」
「............ッはぃ。」
「めんどくさくなった。行くぞスカーレット。」
「............。」
フウスイにとっては日常、この地で生きてきた者にとっては災厄の到来である。