第6話
高校最初の授業は大抵、役員決めや、委員会の所属決め、部活動のアンケートなどをとって終わりである。
ここでもでしゃばりたい奴らが委員長だか役員だかをやるのが普通だろう。紫苑は進んで委員長などやる奴らの気が知れない。
自分で面倒事背負って、学園祭などの学校行事でも、クラスが負けたら委員長に責任が押し付けられるのだ。
そんなバカなことがあるか。そう思って、紫苑は今まで役員に立候補したことは一度もなかった。
そして委員長にはいかにも目立ちたがりといった生徒がなった。スカートは短く、挑発的な格好だ。紫苑にとっては望まないことこの上ないが、自分がやるのはもっとゴメンなので仕方がない。
その後も委員会、その他もろもろのクラス代表となる人を決めていたが、紫苑が進んでなにかするということは一度もなかった。そんなかんだで、最初の授業は終わった。
紫苑はおもむろに窓の外を見た。それにしても窓際最後列の席を取れたのは幸運だ。
窓の外には色々な発見がある。天気とか天気とか天気...とかだ。それに左と後ろがいないというのもポイント高い。色々発見があるなんて思ったものの、窓の外には、何も見えない。
隣接する部活棟の窓が見えるだけである。軽音部か、吹奏楽部の部室だろうか。高級そうな楽器がたくさんおいてある。
紫苑は朝話をした(していない?)柊友香のことを思い返した。会って突然、君は9.11を知っているか?などと聞いてきたのだ..。ひいき目に見ても、かなり頭おかしいやつである。
昨日は全校生徒の前で堂々たる弁舌を披露し、いずれこの学校の中心となるだろうと紫苑だけでなく多くの人が思っただろう。しかし、今日の朝の一件で紫苑の見解は一変した。あんな意味のわからない発言をする生徒に学校は任せられない。
いずれにせよ、彼女と同じ中学から来た生徒もいるはずだ、そのうち何かしらの噂が流れるだろう。そんなことを考えて以降、紫苑は朝の一件をそっと頭の隅へ追いやった。
その後も似たような授業が続いた。初日の今日は、通常の授業はない。12:40には自由解散となった。
校内を見て回るもよし、部活の部室にお邪魔するのも良しとのことだった。紅は部活動の見学にいくらしい。
「一緒に行こう」
と誘われだが、部活の見学が開始するまで1時間ほどあったし、女である紅と学校でずっと一緒にいるのは(噂などがたつと面倒)避けたかったので紫苑は1人、帰路についた。
こんなに早く帰っている人はさすがに少なかった。皆、部活の見学をするために残るのだろう。
ここを下校している生徒は紫苑と同じように部活などやる気力もない生徒なのだろうか。紫苑は自分もそいつらと同様に無気力そうな表情をしていると気づき、自嘲していた。
自分にもいつか、打ち込めるものが見つかるのだろうか。そんなことは自分にもわからないのだった。
朝沙愛と約束した通り、紫苑は夕飯の買い出しをするため家の近所のスーパーへ向かった。
家からは徒歩3分くらいの距離にある地域密着型のスーパーだ。東京の中心に近いここにこんなスーパーがあるのは珍しいが、住宅街となっているこの地域では少し離れた大型スーパーへは行かずに、ここのスーパーを活用する人も多い。紫苑もその中の一人だった。
スーパーの中は人がまばらだった。平日の昼間ということもあるだろう。紫苑はいつも通り野菜コーナーへと向かった。
基本、夕食は紫苑が作ることが多い。
朝食は早起きの得意な沙愛が基本的に作る。母親が亡くなり、しばらく親戚の世話になったが時期があったが、その頃から料理は頻繁にしていた。料理の本などはあまり読まなかったが、自分で試行錯誤してきた。焦がしてまうことも多く、当時の保護者(親戚)によく怒られたものだった。
しかし、今はそんなことはない。自分で新たなメニューを模索し、自分で食材を選んで作っている。紫苑の料理の評価は妹からしか聞くとこはできないが、妹いわく「かなり美味しい」らしい。
その妹の嬉しそうな顔が紫苑の料理に対するモチベーションにも繋がっている。
「さぁ...どれにするかな・・・」
紫苑はジャガイモ、玉ねぎを選んだ。
「カレーでいっか..バイトもあるし、時間かけたくないしな...」
そして精肉コーナーで豚を選んで、朝妹から渡されたメモを見る。
《調味料がないから買ってきて!いつものドレッシングね!あとお醤油、油もピンチ!お菓子もよろしくね〜♥︎》
.................新婚の夫婦かよ。なぜこんなに面倒くさく長ったらしく書くのかいつも疑問に思う。普通
《ドレッシング、醤油、油、お菓子》
で終わりじゃないだろうか。♥︎が付いているのも謎すぎる。まぁもう慣れたが妹はこういうやつだ。そのメモ通りドレッシングと醤油、油を購入、妹が好きなお菓子も選ぶ。ゴマせんべい、塩キャラメル、さつまあげ。とても年頃の女の子が好きなお菓子とは思えぬチョイスだ。
紫苑でもなかなか選ばないが、沙愛がくれるのを食べているうちに好きになってしまった。慣れとはやはり怖いものだ。