第3話
川村紅と紫苑は幼い頃からの仲である。紅の母と紫苑の母が昔からの大親友だったようで、紫苑と紅もずっと昔に知り合った。
まだ2人の記憶すらないときに。他の誰にも言えないようなこともお互いたくさん知っているし、知られている。
紅の恋の相談も受けてきた。主に「○○君に告られたんだけど、どーしょー」
などと聞いてくるのである。
そんなこと知るかという話だが、「好きなら付き合えば?」などとおおよそアドバイスとも言えぬアドバイスを繰り返してきた。小柄で胸もない紅だが、顔立ちは整っているため、中学時代モテたのだ。
「はぁーあー、高校生っつったって何もかわらねぇよなぁー」
2人は校門をでて、歩道を並んで歩いていた。余談だが、紅を前にすると気が抜けてしまうのは紫苑の癖だ。
「何も変わらないってことはないでしょ。クラスの人も全然違うし。」
「いやね?校舎とか学校を構成する人とかは変わるよ?でもさぁー、見ただろう?入学早々異性と絡むことしか脳にない恋愛脳共を」
紫苑は恋愛という言葉が嫌いだ。そして恋愛をすることがステータスなどと思っている奴らのことはもっと嫌いだ。
そいつらのことはまとめて「発情猿」と呼ぶようにしている。やたらと発情しやすくなっただけのただの猿、という意。もちろん心の中でだが。
「私もあーゆー人たちは好きじゃないなぁ。何考えてるかわかんないし..」
やはり紅は間違いなく非リア充サイドの人間だ。わかっていることだが。
紫苑たちは高校から徒歩数分、食べ物屋から雑貨屋さん、カラオケやボーリング場などが立ち並ぶ区の中心地へ来ていた。まぁ、この街でなにか外食をすると言ったら8割の人がこの通りを思いうかべるだろう。
「何処にはいるー?紫苑ちゃん選んでよー☆」
「俺は何処でもいい。あんま金使いたくないけど。」
「じゃー、うどん!」
「あー、ね、うどん、ね、おけ」
「んー?なんか不服そー」「いやいや、全然おけ」
紫苑的には全然構わない。むしろうどんは好きな方だ。だがここで迷わずうどんを選ぶあたり、女子高生として女子力が欠けていないかと思う。
たしかにコスパはいい。だが、果たして他の男と出かけた時にうどんを選択したらどう思うだろうか。考えて欲しい。
男「どこに入るー?紅ちゃんが選んでいいよー。」
紅「えーと、、じゃあうどん!」
男「あ、ああうどんネ。了解。」
となるのだ。
うどん屋なんぞ仕事途中のリーマンで溢れかえってるとこで会話は弾まないだろう。
まぁそんなことを紫苑が気にすることはないのだが。
「さぁーどれにしよっかなー」
紅はメニューを吟味する派だが、紫苑は違った。メニューを見始めてからわずか5秒、てんぷらうどん大盛りを注文した。
「じゃー私はぁ〜、てんぷらうどん大盛りと、かけうどん大盛りで!」
「おまえ...よく食うな..」
もう慣れたが紅はかなりの大食感なのだ。この小柄からは考えられない胃袋の大きさ...うーん人間の体とはまだまだ未知数だな...。
ちゅるちゅる。。。小気味好い音を立ててうどんをすすっていく。
「それにしてもおまえ、食うの早すぎじゃね?いくらなんでもそれ女子力低..」
「もう!紫苑ちゃんまでそんなこと〜!昨日、お母さんにも言われたんだからね!紅、ちょっと女子っぽくしなさいって...女子力ってなんなのっ?私は自由にいきたいよぉっ!」
「そうだな。自由が一番だ。法律で自由権が認められてるしな...」
女子力は低いが紫苑はこの紅が好きだ。紅のこの真っ直ぐさを受け止めてくれる男が現れるだろう。そのうちに。
「はーぁ、食った食ったぁ」
「うん、美味しかったね」
紫苑の倍食って、紫苑より早く食べ終わった紅が言う。
時刻は午後1:20。
「これからどうする?家に帰る?」
「うーん、せっかくの高校入学式なんだし紫苑ちゃんとどっか行きたいなぁー」
「どっかってどこよ」
こういう時の紅は何を言いだすかわからない。
「カラオケ?」
なんで疑問系なんだ。
「ああ、いいけど、平日だから安いしな。」
第3話まで読んでくれた方、本当にありがとうございます。是非とも続きの話もおねがいします。