表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/26

第二十一話「たったひとりの青い空」

 四日と半日が経った。

ジオ・ジャパンの陸上戦艦の大艦隊は、他国の領地である、歩行要塞から一千キロメートル離れた盆地に入っていた。ここで、シンヤたちの乗る陸上戦艦一隻だけが足を止めた。その一隻に見送られて、「おろち」を中心とした他の陸上戦艦たちは、丘を越えていった。それはアヤカの指示だった。作戦はすでに始まっていた。

 盆地に残った陸上戦艦がハッチを開いた。

 無限軌道のついたトレーラーに乗せられて、中から出てきたのは、AACVを一機だけ輸送できる、垂直離着陸飛行機だった。その輸送機にはAACVの肩についているものと同じ、高出力・全方向スラスターが四基、翼とは別についていた。その輸送機に、背中の部分で接続されているのは、シンヤの乗機である「やたがらす」だった。「やたがらす」の肩のスラスターには、なにやら妙な機械が追加されていた。シンヤは「やたがらす」の操縦席に座って、ぼんやりと周りの風景を眺めていた。

 この地上は、どこをとっても同じような風景が広がっている。暗黒の闇と、重苦しい漆黒の雲と、そこから降り続ける灰塵によって覆われた大地だ。その様はどこか地下都市に似ていた。だから、当たり前すぎて、今までシンヤは気づいていなかった。

 雲の上には空があるのだということを。

 今回決行する、アヤカが歩行要塞攻略のために温めていた作戦は、簡潔に言えば、ある一定の高度にて世界中を覆う、塵の雲の層を突破し、さらにその上空から、歩行要塞の直上への奇襲をしかける、というものだった。

 歩行要塞はミサイル、陸上戦艦、AACV等の「横」から来る敵には万全の対策を施しているが、直上からの攻撃に対しては、ほとんど対策を施していない。それは現代戦においては当然のことだ、とアヤカは言っていた。

 そもそもなぜ小惑星が衝突してから、弾道ミサイル、衛星兵器等の超長距離を旨とする兵器が居場所を失い、代わりに歩行要塞や、AACV等の近距離戦闘を中心に行う兵器が発達したのか? その原因のひとつには、あの雲の層があった。あの分厚い雲は、ただの火山から巻き上げられた灰と塵の集まりではなく、その内部に想像を絶する強さの雷と電磁波、パルスの嵐を内包し、さらに日光による膨大な熱も蓄えた、「熱と電子の壁」なのだ。

 今まで世界が打ち上げていた人工衛星は、それで全てが無力化され、同時にそれらを利用するあらゆる行動もできなくなった。通信の主流はいくつもの中継地点を介した、地を這うものになり、敵基地がどのような場所にあるのか、といったことも容易にはわからなくなった。だからAACVや陸上戦艦のような、近~中距離での戦闘を旨とする、今まで使い道の無かった兵器が活躍するようになったのだ。

 もちろん、今までに雲の層を貫いた通信を復活させようとした試みがなかったわけではなかった。彼らは様々な方法を試した。P物質とソーラーで半永久的に浮遊し続け、雲を貫いて垂らした長大なアンテナで通信の中継を行う飛行ロボット、使い捨ての通信ロケット、爆弾で雲を吹き飛ばすアイデア……全て駄目だった。

 飛行ロボットは熱で上昇のためのブースターをやられて雲を突破できず、通信ロケットは雲内部に吹き荒れる暴風のために軌道の正確さがまるで得られなかった。爆弾云々はそもそもが半ば駄目元の作戦だった。

 今回、シンヤとジオ・ジャパンは、その誰も達成できなかったことをしようとしていた。だが、当然に無策ではなかった。

 アヤカが提案したのは、宇宙に飛び出すスペースシャトルのように、途中までは輸送機の推力のみで上昇して、雲に突入、そして輸送機のスラスターが限界を迎える直前に、AACVを切り離し、その後はAACVのみで上昇、雲の層を突破する、というものだった。AACVのスラスターを強制冷却装置で覆った上でのこの方法なら、暴風にも熱にも負けることなく、精密機械であるAACVを、パルスや電磁波にやられずに、雲の上へあげられるかもしれなかった。問題点は、輸送機を一機確実に失うために、コストが莫大であることだった。

 シンヤは不安に胸が押しつぶされそうだった。だがユイと、地下都市の家族のことを思えば、その不安も大したことはないように思えた。それにもし、歩行要塞にたどり着くことができたなら、またリョウゴに会えるかもしれないのだった。シンヤが作戦に志願したのはそれが理由だった。シンヤはリョウゴと再会したかった。それが拳銃を向け合ってのことであってもかまわなかった。ただ、リョウゴに二度と会えないということだけは避けたかった。シンヤは幽霊屋敷に来たときと、集団亡命のときとで、二回も納得のいかない別れを経験してしまった。それが嫌だった。納得のいく別れであるならば、それが今生の別れでもかまわなかった。なぜならば、納得のいかない別れは、別れた相手のことがいつまでも心に残ってしまうからだった。シンヤは、ハナムラや、シマダとの別れを通じてそのことを学んでいた。彼らと二度と会えなくなる前にお礼を言えなかったことだけが心残りだった。シンヤは、そうした「心残り」こそが、遺された者たちにとっての「死」のもっともおそろしい側面なのだ、と思っていた。

 そしてそれは、裏を返せば、心残りさえなければ、その人の死はたんなる事実でしかなくなるということだった。シンヤは、リョウゴがいなくなることが、たんなる事実であってほしかった。そうでもなければ耐えられそうになかった。そしてそのためにもっとも適しているのは、自らの手で彼を撃つことだと思っていた。リョウゴが戻ってこないならば、シンヤは彼を殺してもいいと思っていた――

 シンヤはシートの側面にそっと手を触れた。そこにはユイからもらった音楽プレイヤーがガムテープで貼りつけてあった。シンヤはいまだにこの内容を聴けていなかった。戦艦の艦内は狭苦しいために、常に誰かと一緒だったうえに、スケジュールが厳格に決められていた。だから、完全にひとりになれるのはせいぜいがトイレのときくらいだったが、さすがにそこで内容を聴く気にはなれなかった。だからAACVで空の上に出て、地上との通信が途切れたときにこれを聴こう、とシンヤは思ったのだった。思い返せば、これを渡すときにユイがわざわざスピーカーで聴く方法の説明をしたのは、このことを見越してのことかもしれなかった。シンヤはユイの唇の感触を思い出して、上唇を舐めた。

 ユイのことを想うたび、シンヤは胸が温かくなる気がした。同時に、彼女の先がそう長くないという確信が、シンヤの胸を締めつけた。シンヤは彼女の心残りをなくすために、なんでもしてあげようと思っていた。そのために、一刻もはやくこの戦いを終わらせなければ、と思って、闘志が燃え上がった。

「クロミネくん、聞こえる?」

 通信機からアヤカの声がした。彼女は「おろち」に乗って先に行っているはずだった。

「時間よ、準備はいいわね」

 シンヤは大きく深呼吸をしてから「はい」と返事をした。

「これが最後の戦いであり、きみは世界の命運を決定づける役割。気合を入れて。絶対に失敗しないで。私たちを助けて」

「まかせてください」

 シンヤは力強く言った。数秒後、アヤカが言った。

「輸送機、エンジン点火!」

 追加スラスターを挟んで、「やたがらす」の背中と接続された輸送機は、アヤカの合図でエンジンに火を入れられた。強い振動が操縦席を揺らした。

 これからシンヤの機体は、輸送機にぶら下げられて雲の上へと送られるのだが、計算では雲を突破しきる前に、確実に輸送機は熱でスラスターをやられて爆発する。シンヤは爆発の直前のタイミングで、自ら輸送機と機体の接続を切り離し、それ以後は自機のスラスターで上昇しなければならないのだった。

 失敗したら確実に死ぬ作業だった。気を引き締めてかからなければ、とシンヤは思った。輸送機の方は無人だった。エンジン点火と上昇開始までは遠隔操作で行い、飛行が安定したら、あとは予め仕込んであるプログラムに従って飛ぶらしかった。

 シンヤは目蓋をぎゅっと閉じ、また開けた。

「離陸まで一分!」アヤカが号令をかけた。

 シンヤは深呼吸をした。指を曲げたり伸ばしたりした。思ったよりは緊張していないようだった。

「離陸!」

 アヤカの言葉。ひときわ大きな振動。一瞬、上からぐっと押さえつけられるような感覚。重力を振り切った浮遊感。それらを怒涛のように経験しながら、シンヤはしっかりと前を見据えた。

 地面がどんどん離れていく。視点がどんどん上がっていく。それから少しの時間、闇の中を上昇し続けたあと、ついに画面の上方にそれはあらわれ、迫り始めた。

 灰塵の雲海は、いつもと変わらずに、この世界を黒く覆っていた。うごめく雲海の表面は、とても固そうに見えて、シンヤは不安になったが、すぐにそういったことは考えないようにした。

 息を、長く、する。

 そろそろだ。覚悟を決めて、ぐっと身を強ばらせる。

さぁ、来い――

――衝撃がふりおろされた!

 耳がゴー、という大きな唸り声のようなものに蹂躙された。機体は激しく揺れて、バラバラに引き裂かれてしまいそうだった。視界は真っ黒く塗りつぶされて、ときどき、その向こうから、目を焼く稲妻が姿を見せた。噛み締めた奥歯が大きな音を立て、恐怖に心臓が暴れた。落ち着け――

 輸送機のスラスター温度はコンソール上に表示されていて、その数値はめまぐるしい速度で上昇を続けていた。機体を切り離すべきレッドゾーンまであと何秒かは、正確に把握していなければならなかった。

 突然、ひときわ強い暴風が、機体と輸送機を横殴りに叩く!

 衝撃と閃光にもまれて、天地が逆転する錯覚に陥ったが、シンヤは叫ばずに何とか持ちこたえた。焦燥がシンヤの体を動かそうとした。あぁ、待て、まだだ。まだエンジンを点火するのには早い。シンヤは数値から目をそらさない。レッドゾーンまであと少し。

 雷鳴が轟く。それは苦しむ大蛇のように雲の中を切り裂いて、機体に直撃した! 一瞬、目の前が真っ白になったが、飛行には問題なかった。

 でも、クソ、早く、早く――

 そのとき、電子音が鳴った。画面を見ると、輸送機のスラスター温度の数値が、レッドゾーンに突入していた。切り離すなら今だ――シンヤはすばやくシート脇のレバーを引いた。

 AACVのスラスターを覆っていた冷却装置と、輸送機との接続部分が、背中から弾け飛んだ。同時に待機状態だった「やたがらす」のスラスターに火が入り、身軽になった機体は、今までよりもさらに速いスピードでの上昇を始めた。

 少し離れた下方から大きな爆発音が聞こえた。あれは輸送機のものだろう。シンヤは気にしなかった。

 そして数十秒後、視界は突然光に溢れる――

――静寂。

 シンヤは、稲光とは異質な眩しさに目を細めた。慣れたころにゆっくりと目を開け、そして、呼吸を忘れた。

 目の前には、今までに目にしたなにものよりも鮮やかな青が広がっていた。青色は地平線に近づくにつれて白く、頭上に近づくにつれて濃くなっている。透明感のある青色は、視界のほとんどを占め、コクピットの装甲を貫いて、今までにない解放感でシンヤを包んだ。

(これが、本物の空――)

 シンヤの頬を涙がつたった。気づいて拭おうとしたが、固定具とヘルメットが邪魔だった。シンヤは機体を空中で静止させ、ハッチを開けようとした。気圧調整のための数秒間すらもどかしかった。ハッチを開けると、風に煽られてよろけそうになったが、あわてて装甲の縁に捕まってこらえた。それからヘルメットを脱いだ。涙の跡が爽やかだった。

シンヤは下方を見た。眼下の灰塵の雲海は、上からでは濃いねずみ色に見え、これが本来の色だったのか、とシンヤはなんだか感心した。雲海はAACVの下方に、前後左右のすべての方向へと果てなく広がっていたが、なぜだか全然たいしたものではないように見えた。シンヤは視線を上にあげた。蒼穹のはるか遠方には、白い雲が、青のグラデーションを背景に漂っていた。この空のようにどこまでも続く広大な空間を、シンヤはいままで知らなかった。自分という存在がどれほどちっぽけなものか思い知らされたような気がした。それと同時に、地上で日々殺し合いを続ける人々と、そのさらに下の、閉ざされた空間で何も知らず生きている無数のひとびとが、なんだかとても哀れに思えたが、またその営みがとても尊いもののようにも思えた。

 しばらくの間、シンヤは任務のことなどすっかり忘れて、ただその蒼穹に心を奪われていた。が、酸素が薄いために、一瞬、意思に反して体が前後に揺れる感覚があったので、転落しないように慌ててシートに戻った。ヘルメットをかぶり直して、ハッチを閉じた。

 呼吸を整える間に腕時計を見た。腕時計はリョウゴから返してもらった、ガラスのひび割れたやつだった。次の行動を起こさなければならない時間まであと十分ほどの余裕があった。それから、シンヤはすべきことを思い出して、機体のシステムチェックを行った。雲内部の塵でスラスターがやられていないか、関節が詰まっていないか、センサーが潰れていないかなどを確認した。異常はなかった。

 すべきことがなくなって、シンヤは音楽プレイヤーのことを思いだした。地上との通信は雲海に遮られて通じなくなっている。聴くなら今しかないな、とシンヤは思った。シートから音楽プレイヤーを引っぺがして電源を入れた。小さな液晶画面にタイトルとファイルの作成者名が表示された。タイトルは「クロミネさんへ」作成者は「ユイ・オカモト」……



 ……最初の十数秒は無音だった。ただ、かすかに衣擦れのような音が聞こえることから、正常に再生されているのだということはわかった。彼女の最初の言葉はきわめて小さな声だった。

「えー、えっと、録音、できてる……よね」

 数秒の間があった。

「こんにちは、クロミネさん」

 ユイの声が聞こえて、シンヤは頬が緩んだ。

「少し、声が聞き取りづらいと思いますけれど、ごめんなさい。今、これは隠れて録音していますので」

 一体なぜだろうか、シンヤは疑問に思ったが、どうしようもなく、とりあえず聞くことにした。

「えぇと、そうですね……なにからお話しすればいいのか……」

 彼女の口調は真剣なものだった。シンヤは姿勢を正した。

「……クロミネさん。そこは今『空』ですか?」

 シンヤは視線を上げた。画面の向こうがわには無限の蒼天が広がっていて、まばゆかった。

「空は、綺麗ですか」

「オカモトさんにも見せたかったよ」シンヤはひとり、呟きながらうなずいた。

「私にはもう空を知ることはできませんが、クロミネさんは、知ることができましたか」

  シンヤは彼女のその言い回しが気になった。

「知ることができたのなら……私は、嬉しいです」

 また少しの間があった。重苦しい間だった。

「……今から私が話すことは、コンドウさんからは、決して話してはいけないと言われていることです……私も、伝えるべきではないと思っています。それに、本当なら、このメッセージを、クロミネさんが聴かないでいてほしいとも、思っています」

 彼女の口調は切なげだった。得体のしれない不安が心臓を這い上がってくる感覚があった。

「ですが、伝えます。クロミネさんは強い人ですから、きっと受け止められます……」

 シンヤは黙って次の言葉を待った。

「……今回の歩行要塞攻略作戦は、実は、過去に立案された作戦を改変したものなんです。以前にも、歩行要塞を攻略しようとしたことはあったそうです。ヤマモトさん――あの、『おろち』の艦長の方です――が車椅子になったのは、そのときらしいんですが……

……そのときは多数の地雷とAACVを用いた奇襲作戦を行ったらしいのですが、それ以外に提案され、却下された作戦が、今回クロミネさんがされているものの原型なんだそうです。

却下されたのは、ヤマモトさんが強く反対したからなのですが……それにはふたつ理由があって、まず成功率が低すぎることと、そして……」

 彼女はひとつ、息をおいた。

「……誰もやりたがらないからということ」

 シンヤは彼女の言葉の真意がわからなかった。

「クロミネさんは、今、空に居るんですよね」

 小さく頷く。

「作戦では、クロミネさんは無人輸送機で雲の途中まで引き上げられて、そこからは自力で上昇する――いえ『した』んですよね」

「ああ」

 つい声に出た。

「……クロミネさんは、何も疑問は抱きませんでしたか。こんな簡単なことなら、以前にもやった人間がいたはず、とは思いませんでしたか」

 ユイの言うとおり、たしかに最初にこの作戦の内容を説明されたとき、一瞬だけその疑問は頭をよぎった。しかし、シンヤはアヤカの説明で納得していた。

(――本当に、納得していたのか――?)シンヤの背中に冷たいものが走った。

「……この作戦の最大の問題は、AACVを引き上げる輸送機が、果たして正常に飛べるのか、という点にありました」

「でもそれは大丈夫だった」

「精密機器には地獄とも言えるような環境……その突破のためのプログラムを組もうにも、内部の暴風は予測不可……突破できる無人機は、現在の技術では開発不可です」

「え、でも――」

 いつのまにか、録音メッセージと会話しようとしてしまっていることにシンヤは気づいた。

 嫌だ、聞きたくない。この先は――

「確実に突破するには、飛行経験豊富なパイロットによる有人輸送機で、プログラムでは不可能な、風の気配を読んだ飛行を行う必要がありました」

「それ以上言うな」

「クロミネさん」

「やめろ!」

「……私のこと、忘れないでください」

「黙れ!」

「これは、私の、遺言です」

 彼女の声は冷たかった。シンヤの脳裏にさっき聞こえた爆発音が蘇った。

 今すぐこのメッセージの再生を止めたいが、指が動かなかった。シンヤの目は下方の雲海を映すモニターに釘付けになっていた。暗い雲海の表面は静かにうごめいていた。

「ヤマモトさんは最後まで反対してくださいました。コンドウさんを恨まないでください。これは、私がはじめて『自分の意思で成し遂げる』ことです」

「違う! そんなのただの自殺だ!」

 シンヤはのどが痛くなるほどの大声で叫んだ。

「私はこれで、記録として、この先の未来に永久に名前を遺すことになります。それが私の――」

「オカモトさん……!」

「――生きた証です」

「違ぇよ、そんなの……!」

 そうだ、違う。そんなの自分をごまかしているだけだ。命を自ら捨てるのに足る理由なんかあるわけない。

「たとえ私が居なくなっても覚えていてくれる人がいる。それは最高の幸せだと、私は思います」

 ……本当に、彼女はそう思っていたのか。深い喪失感が胸から手足へと広がっていった。だがそれでも、シンヤは彼女の声を聴いていた。

「だからクロミネさん、忘れないでください、私のことを。そして――」

「ああ――」

「――作戦を成功させてください」

「――もちろんだよ、オカモトさん」

 シンヤは音楽プレイヤーの電源を切り、ガムテープでまたシートの横に戻した。そして再び前方を見すえ、操縦レバーを力強く握った。

鋼鉄の怪鳥は青空に消えていく。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ