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第十七話「不死の軍隊」

 歩行要塞は闇の中を歩み続けている。それがひとつ歩む度に大地が震え、分厚く地表に積もった灰塵がまきあがる。その動きは非常にゆっくりではあったが、大きく、力強かった。

 山と見紛う程の巨体は、グラウンド・ゼロを目指している。そこにあるであろう、世界の覇権を握る資格を得るために。

 させてたまるか。そう思った各国首脳は連合を組み、そして自分たちの持つ戦力を歩行要塞の予想進路の約五百キロメートル前方、かつてのインド北東部に展開させていた。

 しかしその戦力は彼らのほんの一部である――それでも大規模と言えるが――陸上戦艦数隻だけだった。連合が消耗戦に持ち込む腹積もりなのはそれだけ見てもあきらかだった。

 歩行要塞司令官ジェイムズは、常に先行して進路上の安全を確認しているヘリコプターからの報告でそれを知っても、表情を変えなかった。彼はこの歩行要塞の弱点は把握していたので、連合がそういった戦法でくるというのは当然に予想ができていた。そしてそのために、自分たちは「彼ら」を得たのだ。

「『アンデッド・アーミー』、AACVにてスタンバイ、ひとりも生きて帰すな」



「――月――日、午前、零時をお知らせします」

 いくつかの電子音のあと、ブザーが鳴った。

「作戦スタート」

 「対北米連合」の第一回目の攻撃を任された、ゲルマン系の陸上戦艦の艦長は静かに言った。艦橋でモニターを見つめる軍人が報告してくる。

「被我間の距離約四百キロメートル」

「敵主砲の有効射程は事前に渡したデータのとおり、長大で、しかも恐ろしく正確だ。あらためて全艦へ警告する。敵との距離が百キロメートルを切ったら後退すること」

「各鑑より了解サイン受信しました」

「よし。全艦の一から四番までのミサイル発射準備、できているな?」

 艦長は別の男性軍人へ問いかけた。

「完了しております」

「よし、確認と連絡、テン・カウント後にミサイル一斉発射せよ。発射後速やかにAACV攻撃部隊、全機出撃。高度三百以下で接近、歩行要塞もしくは敵機目視後は各自の判断で攻撃を開始しろ。AACV部隊が交戦したら五番以下のミサイルを順次発射だ。カウント開始!」

 軍人たちは艦長の指令を復唱、伝達した。艦長はすこし待って、カウントを開始した。

「九! 八! 七! 六!」

 軍人たちの指がミサイルの発射ボタンにかかった。

「五! 四! 三! 二! 一! ミサイル発射!」

 艦長が言った。

 ボタンが押し込まれ、各陸上戦艦の発射口から、ミサイルが次々と空へ向かって飛び出し、大きな放物線を描いて歩行要塞へと向かっていく。

 遠方の歩行要塞では、ミサイルが向かっているのを感知して、自動で起動したミサイル迎撃装置が、小型ミサイルの発射準備にかかった。数秒後、連合側から飛んできたミサイルが、歩行要塞の姿を斜め上空から見下ろすかたちになったとき、迎撃装置から放たれた小型ミサイルによって、それらのミサイルは空中で爆破された。

 しかし連合の攻撃は失敗したわけではなかった。

 爆破されたミサイルの内部から、うすっぺらい特殊なフィルムが多量にばら蒔かれ、さらに同時に、強力な電磁パルスがミサイルの爆発の中から発生し、歩行要塞を襲った。

 電子機器を破壊する効果をもつ電磁パルスは、歩行要塞に施された防護膜によって防がれてしまい、効果が得られなかったが、ばら撒かれたフィルムには関係なかった。フィルムは一時的に歩行要塞のレーダー網に穴をあけ、最大の脅威である主砲を封じた。

 フィルムによってレーダー網に空いた穴からは、すでに発進していた、数十機の連合AACVの攻撃部隊が、歩行要塞に肉薄しようとしていた。

 歩行要塞は自動機銃や自動砲を向けるが、それらよりも早く連合のAACV部隊の迎撃を開始したのは、今まさに格納庫から飛び出してきた、機体カラーだけはダークグリーンに統一されたがそれ以外の機体や装備はばらばらなままな、アンデッドとギフテッドによってのみ構成された部隊である、「アンデッド・アーミー」のAACVだった。

 連合のパイロットたちはしかし彼らを見ても動じなかった。各国から出た北米生存同盟への亡命者たちが、パイロットとAACVを手土産にしていたのはすでに聞いていたからだった。突然の登場にもかかわらず、パイロットたちはアンデッドたちの銃撃を避けた。連合のパイロットたちも優秀だった。だが彼らがそうして避けた先には、すでに別のアンデッドが待ち構えていて、飛び込んできた機体を超高熱剣で両断した。爆発が起こった。

 出ているアンデッド・アーミーの機体の数は十機程度だったが、それでも彼らは数倍の数の敵たちと互角以上に戦っていた。

 その中に一機、異様な機体が飛んでいた。

 その機体には本来あるべき装甲が施されておらず、内部構造が露出していた。その代わりか、地味な色の大きな耐火布をマントのように半身に引っかけていた。その様は一見すると、墓場からよみがえった亡霊のように見えた。そして装甲が無い分、速い。その機体はベースとなった中量型では不可能なはずの速度と軌道で飛んでいた。しかしそんなことは普通の人間にはできるはずのないことだった。少しAACVに詳しい人間ならば誰でもそう確信をもって言えることだった。それだけに、その機体を目にしたパイロットたちは誰もが目を疑い、一瞬硬直するのだった。

 AACVの装甲は単なる防御だけでなく、重石の役割もしているのだ。もしも装甲が無いと、各部の強力なスラスターの推力に、自分自身が振り回されてしまい、空中での姿勢制御が著しく困難になってしまうのだった。そのため、装甲がないAACVは、普通の人間の反応速度や平衡感覚ではとても扱えるものではなくなってしまうのだった。だがその改造AACV、「エクシビショニスト」のパイロット、ハヤタ・ツカサキは、難なくそれをやってのけ、さらに連合のAACVたちに、歩行要塞に近づかないよう牽制をかけると同時に、こちらもやはり軽量化加工を施したライフルで、飛来するミサイルを次々と撃ち落とすということまでやってのけていた。

 人間業じゃない――操縦席内で、彼のすさまじい飛行を目にした、とある連合のパイロットの思考は衝撃のあまり停止した。その一瞬を逃さず、彼の目の前にあるメインモニターを破壊して、「エクシビショニスト」の超高熱剣が飛び出し、その連合パイロットの身体を上下半身に分断した。

 火を噴き、墜ちていく味方を見て我にかえった別の連合のパイロットが、ツカサキを下方からバズーカで狙うが、そのロックオンが完了する前に、ツカサキは素早く「エクシビショニスト」の半身を覆う耐火布をひっつかみ、自機の真下に広げた。機体の輪郭が見えなくなったことで、バズーカのロックオン・センサーはツカサキのAACVを見失った。続けてツカサキはその耐火布ごしに、ロックオンをせずにライフルを発砲した。銃弾は耐火布を貫いて、ツカサキから見えない位置にいるはずの連合AACVの操縦席を、正確につらぬいた。

 爆風で舞い上がる耐火布を片手でひっつかみ、また肩に羽織る間にも、ツカサキはべつの敵機の足を撃ち抜いて、バランスをくずさせた。その敵機は体勢を立て直そうとして、要塞の自動機銃に蜂の巣にされた。コンピュータが機能停止して、自由落下を始めたそのAACVのコクピットを、ツカサキはだめ押しに撃ち抜いて、それが爆発する間に銃の弾倉を交換した。

 レーダーをチラリと見て、妨害が弱まっていることを確認したツカサキは、通信機のチャンネルを回した。

「出番だぜ!」

 言いながら、ツカサキはさらにべつの一機をロックオンした。銃撃をかわして撃墜した。

 機体の肩スラスターを吹かして、ツカサキは要塞下部の出撃ハッチに近づいた。ハッチが開き、中からバズーカを持った一機の重装型AACVが姿を現した。

「リョウゴ、行けるな?」

「ああ」

 ツカサキの声に、リョウゴは操縦レバーを握り直した。

「メシの分は働けよ? お膳立てしてやったんだから」

「わかってる」

 リョウゴは肩スラスターを点火し、ハッチから飛び出した。ツカサキはリョウゴのそばにはりついた。

「これから敵艦をぶっつぶす! おまえの太くて硬くて熱くて長いアレを突っ込んでやれ!」

「ツッコまないからな!」

「突っ込むぞ! 敵の真ん中に!」

「エクシビショニスト」が耐火布を翻らせて飛行をはじめた。リョウゴと、さらに二機のアンデッドのAACVがそれに追随していく。高度を低くして飛んでいくと、遠方から、敵が防衛のために展開していたAACV部隊が、迎撃のために向かってきた。

 リョウゴが彼らの存在に気づいたときには、すでにツカサキとアンデッドたちが五機ほど数を減らしていたが、まだ二機残っていた。そしてその二機は、リョウゴがバズーカを構える前に、リョウゴたちの後方から飛んできた何かに直撃し、同時にバラバラになった。歩行要塞の主砲が復活したのだ。リョウゴは歩行要塞の主砲の威力と正確さに心の底から震えあがった。やがて遠方に敵艦の姿が見えてきた。ツカサキが散開指示を出した。

 リョウゴはバズーカを構え、敵艦の機銃の射撃を胸部装甲に受けつつも、バズーカでその機銃を潰した。そのあいだに、ツカサキがリョウゴの背後に回り込んでいた連合AACVを撃墜した。さらに他のアンデッドたちが、障害になる位置の機銃と敵機を破壊し、敵の戦艦への道を開けてくれた。

「たのんだ!」

 ツカサキが叫んだ。リョウゴは口元をぐっと引き締め、AACVの右腕についている超振動剣の引き金へ指をかけた。ペダルを踏み込んで、最大速度で敵艦に向かった。ついに艦の側面へと肉薄すると、リョウゴは操作レバーを倒しつつ、トリガーを引いた。

 AACVの超振動剣が、展開しながら敵艦の外壁を貫き、超振動で発せられる高熱によって内部機構を破壊した。さらに連鎖して、火器管制システムの回路にもダメージがあったらしく、周囲の自動機銃がうなだれた。リョウゴはさらに操作レバーを倒してペダルを踏み、敵艦の壁を蹴って、機体を再び空中へ跳ばした。肩スラスターを前方に吹かして後退しながら、バズーカを、超振動剣でつけられた大きな傷口に撃ち込んだ。砲弾は命中して、艦内が炎に包まれたのが、リョウゴにはわかった。

ツカサキが、リョウゴの一撃のおかげで無防備になった艦の懐に潜り込み、艦橋のある部位に超高熱剣をつきたて、そこから巻き起こった爆風と破片から耐火布で機体を守った。

 あっという間に陸上戦艦が一隻沈んだ。

 それを見た他の連合の艦たちは、撤退することに決めたらしかった。もともと長期戦に持ち込むつもりだったし、すでに大損害と言っても差し支えないが、これ以上の損害を避けようとするのは当然の選択だった。

 だがツカサキは叫んだ。

「一隻も逃がすな!」

 そのとき、空の向こう、歩行要塞方面から次々と飛んできたのは、残りのアンデッドたちのAACVだった。要塞を攻撃していた、数十機はいたはずの連合のAACV部隊は、一機残らず全滅させられてしまっていた。

 そこからは一方的だった。

 アンデッドのAACVたちはつぎつぎと戦艦にとりついて、まずは無限軌道を狙った。そして敵艦がこれ以上逃げられなくなったところで、機銃を潰しにかかった。最後にそれぞれの近接武器で艦橋を潰した。そうして十分もしないうちに、全ての戦艦が、煙と炎に包まれて動かなくなった。

「どんくらいやられた?」

 その場で滞空しながら、すでに操縦レバーを手離しているツカサキは、全員にむかってそう訊いた。

「全機、損耗軽微」

「よし!」

 彼はそう言って、鉄屑と化した陸上戦艦の上にAACVを着陸させると、ヘルメットのマイクを外部への拡声モードへ切り替えた。

「生き残った連合のみなさーん、聞こえますかー」

 ツカサキの声が周囲の闇に響いた。その声の調子は軽く、とても戦争の直後に発せられるものとは思えなかった。彼は避難用のビニールチューブや、非常口から這い出てきた陸上戦艦の搭乗員たちに向けて、さらに言った。

「えー、これから皆さんを捕虜にしますから、一ヶ所に集まってくださーい」

 ツカサキの指示を受けて、連合の軍人たちは諸手を頭の後ろにやりながら、寒さから逃れるために、炎に包まれている大きな瓦礫のそばに集まっていった。他のアンデッドたちとリョウゴは、その集団を囲むようにAACVを着地させ、それぞれに小銃や拳銃を携えて機体を降りた。

 ツカサキは機体の操縦席から這い出すと、ヘルメットのライトを点けて、眼下の彼らを見下ろした。彼は集まった軍人たちをまるごと見下ろせる位置にいた。全員集まりきるのを待ってから、彼は無言で操縦席内に腕をつっこみ、シートの横にテープで貼り付けてあったものを手にとった。ツカサキは、こぶしほどの大きさの「それ」についている小さなピンをおもむろに引き抜くと、下方に見える集団の中心に向かって素早く投げ込んだ。

 直後、光と炎と轟音と悲鳴とが、彼らの中心からまきおこった。するとツカサキはすかさず通信機のスイッチを入れ、味方にむけて叫んだ。

「自爆だ! 応戦しろ!」

 その通信を受け、軍人たちを取り囲むアンデッドたちは一斉に銃器をかまえ、手当たり次第に発砲を始めた。

 リョウゴはいきなりの展開に驚き、何をすればいいのかわからないまま、右往左往していたが、組みかかってきた男の頭を、拳銃の銃底で思い切り殴り付け、倒れたその男の額が血まみれになったのが炎に照らされているのを見てからは、頭が真っ白になって、他のアンデッドたちと同じようになった。

 彼らがしたのは虐殺だった。



「全滅だと?」

 執務室で歩行要塞攻撃第一陣の戦闘結果報告を受けた、対北米連合のタクトウ・トウは、思わず立ち上がってそう聞き返した。その声からは平静を装おうとしているのがはっきりと伝わった。

 全滅。重すぎる二文字だった。

「本当に誰ひとり生き残らなかったのか?」

 彼が訊くと、部下は肯定した。

「そんな馬鹿なことがあるか、誰ひとりだと? 虐殺でも起こらない限りそんなことは――そうだ、虐殺は? 無かったのか?」

 部下は首を振り、答えた。

「通信記録には、こちらの人間が結託して捕虜になることを拒否し、自爆と抵抗を行ったので北米がわの人間が応戦した、ということはありましたが」

「自作自演ということは?」

「こちらの映像が無いので検証はできません。北米がわに提供を呼び掛けても、軍事機密を理由に拒否されるでしょうし、提供されても役に立たないのは確実でしょう」

「……そうだな」

 トウは顎に手をやりながら、革張りの椅子にゆっくり腰を下ろし、そして沈黙した。

 やられた。人権を重んじる北米生存同盟が、まさかこんな手で来るとは。

 「誰ひとり戻れない」この結果が二度三度と続けば、戦闘に出たがるものがだれもいなくなってしまう。そうなったら、そのうち戦力を供出できなくなる国が出て、連合を脱退せざるを得なくなる。いや、もしかしたらもう既に連合を見限った国もあるかもしれない――そのとき、デスクの上の電話が鳴った。部下が駆け寄り、応対した。

「ジオ・インドのパーティル大統領からです」

 トウは差し出された受話器を受けとった。敗北は既に始まっていた。



 開戦してから半月も経たないうちに、勝負は見えてきてしまっていた。

 対北米連合がわにつく国は少しずつ減っていき、今やその数は初期の三分の二にまでなってしまっていた。

(歩行要塞を落とすにはどうすればよいのか)各国は悩んでいた。

 敵の補給ルートを断つという作戦は、初期の作戦と平行して行っていたが、すでに対策がなされ、この半月の間に成功の見込みがどんどん薄くなってきていた。全戦力を一気に投入すれば倒せる可能性もあったが、しかし、もしそうなって敗北したら、本当に取り返しがつかなくなってしまう。しかも、短期決戦は向こうも望むところなのだ。遠距離からありったけのミサイルを叩き込むのは、歩行要塞のミサイル迎撃装置の性能を知っていたら考えもしないだろうし、そこにAACVまでも加わったらミサイルが命中する確率はいよいよ絶望的になる。

 核兵器や細菌兵器などの、国際条約によって禁止されている兵器をつかえば、それでも可能性はあるかもしれなかったが、そんなことをしたら自分たちの首を絞めることになるのはわかりきっているので、現実的ではなかった。

 やはり一番可能性が高いのは、全滅した第一陣が行った、レーダーを妨害した上でのAACVによる近接戦闘だった。だがそれも、あのアンデッドたちのおかげで成功の見込みが薄くなってしまった。

 打つ手無しだ。


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