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青春と惨劇  作者: OTASAN
2/11

2話目

音咲なずなは母校である県立八重高等学校へと登校していた。

音咲の通う八重高は県内でも有数の進学校である。

歴史のある学校でもあり、後数年で創立百周年となるそうだ。

だからといって校舎も百年前のものをそのまま使っている訳ではない。

別校舎が三十年ほど前に建てられており、現在の八重高生達はそちらを学び舎としている。一応百年前の校舎も残ってはいるのだが老朽化の問題で使用されることは既に無く、封鎖されている。

暦も十一月後半となり、寒さも本格的になっている。空気は冷たく張り詰め、吐く息は白く曇っている。

音咲の周囲には多数の八重高生達が歩いている。当然であるが皆一様に学校へ向う流れを形作っている。

音咲はその流れの中に見知った人物を見つけた。

音咲の友人の一人で、名を荒城秋という。とてもいい奴なのだが、他者への警戒心が強いのが、やや玉に瑕だ。

小走りに近づいて声をかける。

「ようっ、荒城。おはよう」

挨拶をされた荒城は振り返り、音咲を見て一瞬だけ間があったが、すぐに笑顔に作って挨拶を返してくる。

「おう、おはよう。今日は一段とさみーな」

荒城は、音咲が八重高に入学した時に始めて友となった人物である。

そして変人状態の音咲に付いてくることができる数少ない友達の中の友達、つまり親友でもあった。

荒城は、人見知りの激しい所がある。

初めて音咲が接触した時も自分の机に座り、一人で黙然としていた。

しかし荒城は一度打ち解けてしまえばとても人情に厚く正義感もあり、そして面白味のある人間であった。

二年になってクラスが違ってしまったのだが、二人は疎遠になることは無く、交流を保ち続けている。

音咲は荒城と他愛無い会話をしながら道を歩いていく。あと少しで学校に到着する頃、荒城が前方を指差した。

「あれ会長じゃねーか」

「あっ、本当だ。あの黒髪は間違いない」

やや離れた前の方に女子の一団がいた。

一人の女性を中心に数名の下級生女子が纏わり付いている。

中心にいる女性は髪を腰の辺りまで伸ばしている。その髪は朝日を浴びて光沢を放っていた。見事な黒髪である。身に付けている冬用の黒いコートと絶妙にマッチしていた。

後姿だけであるが、それを見ただけで彼女が誰であるか判ってしまう。

本堂夜香、八重高等学校の生徒会長である。

夜香は容姿端麗な麗人であり、大胆不敵な女傑でもある。

凛然としていて近寄りがたい雰囲気があるのだが、話しをしてみると意外と気さくであり、このギャップが初対面の人に大きく好印象を与えるという得な特性を持っている。それ以外にも様々な魅力があり人気が高い。

今も夜香の周囲にくっ付いているのは彼女のファンである。

夜香は八重高で最も親しまれている人物であるのだが、諸事情あって、もっとも嫌われている人物でもあった。

「どうする?、挨拶していくか?」

「いや、いいよ。取巻きが邪魔くさそうだし。それに、どうせ放課後会うんだから」

「それもそうだな」

そうして音咲と荒城は夜香を傍観してから、再び取り留めのない雑談へと戻っていった。



八重高生徒会室に三名の人物が集っていた。

一人は生徒会長の本堂夜香である。残る二人は音咲なずなと荒城秋であった。

二人は生徒会の役員なのである。八重高生徒会は会長・副会長・書記・事務・執行委員の五名で構成されている。

会長は夜香、副会長は音咲、事務は荒城が務めている。残り二つの役職は三年生の女子が担っているのだが、本日は別件のため欠席している。

現八重高生徒会は、これまでの生徒会と比べて異彩を放っている。

ここ十数年間、八重高の生徒会はマンネリ化していた。

生徒から自主性は完全に失われ、自ら生徒会長に立候補する者は誰もいなかった。

そのため毎年、教師陣が適当な生徒を役員として選出していた。

指名された生徒は大学への入学時に内申書で優遇されるという餌に釣られて、とりあえず引き受ける。

そして信任されるだけの全校集会が開かれ、役員となるのであった。

不信任をする生徒は誰もいない。他に候補がいる訳でもないし、そもそも興味が無いので、とりあえず信任しておくのである。

そのため、自分の学校の生徒会長が誰なのか知らない生徒がほとんどであった。

教員達は、これを長い間、問題視してきたのだが、面倒を背負い込むのを嫌がり、また学校の重大な欠陥であるとも言い難かったので、対策は行われず放置が続いていた。

そこに新風を吹き込んだのが本堂夜香であった。

夜香は唐突に二年生の半ばで生徒会長に立候補した。

その時はまだ選挙の時期ではなく、当時の生徒会も任期の途中であったので、これは大変異例のことであった。

しかし教師陣からの反応は良好であった。夜香は品行方正で成績も優秀であり、評判も良かったので、先生方から一目置かれていたのである。

それに、終に待ち望んでいた自主性のある生徒が出てきてくれて喜ばしいということもあった。

さらに当時の生徒会役員達が夜香の話を聞いて、役職を譲っても構わないと言い出したのである。内申書にさえ反映してくれれば、煩わしい仕事から早期に解放されてむしろ有難い、というのが役員達の考えであった。

教員達と生徒会役員の思惑が合わさり、特例として急遽夜香を生徒会長とする選挙が実施された。

珍しい事態ではあったのだが、それでも全校生徒の関心は薄く

「へえー・・・・で、それがどうしたの?」

程度の反応しかなかった。

もはや出来レースともいえる信任投票が行われ、結果、不信任票無しの全会一致で夜香が新たな生徒会長に就任した。

夜香は会長になった途端、後に女傑として恐れられる本領を発揮し、強引な強権を発動させた。

他者の意見を一切聞かず、新生徒会役員を己の独断だけで選び出し、強制任命したのである。

夜香は事前に役員候補の目星をつけていたのだ。

二年生になったばかりの頃の夜香が色々なクラスや部活、委員会などに用も無く出没し、遅くまで学校に残っていたのは人材探しのためだったのである。

拒否は不能であった。

「全校集会で不信任はなかった。全会一致で認められたの。これはすべての生徒が私への恭順を承認したということだわ。自分の意思で決めたのだから責任を持ちなさい。従うしかないの、拒否権なんて無いのよ」

夜香からそのように言われ、抗うことは出来ず、指名されたすべての生徒は役員を引き受けさせられた。

この時、副会長に任命されたのが当時まだ一年生であった音咲である。

当初の予定だと、音咲以外、全員女子で生徒会は構成されるはずであった。

音咲はこれに異を唱えた。

音咲は女子だけのグループに一人でいることに喜びよりも、居辛さ感じるタイプだったのである。

夜香に一人男子を導入してくれるように頼み込んだ。

「誰かお勧めな子がいるの?」

と尋ねられたので、音咲は俗物的な手揉みをしながら

「へっへっへっ、いい子いますよ」

と答えた。

しかし何も考えていなかったので、とりあえず友達になったばかりの荒城を巻き込むことにした。

荒城は実に迷惑そうな顔をしていたが、引き受けてくれた。

こうして新生徒会を設立させた後、次に夜香は組織の改変へと乗り出した。

すべての権力を集中させ、議決と執行の両方を生徒会が掌握したのである。

これは生徒会という組織の理念に反するものであった。

元々生徒会は大戦後、GHQの民主主義定着政策の一環として設けられた自治会が発端となっている。

八重高の生徒会は民主というより、夜香を女王に頂く君主制の様相を呈していた。

この暴挙ともいえる流れを本来なら教員たちが諌めなければならないのだが、なんとすべて見過ごされてしまったのだ。

「我々は本堂のことを信用しているから」

それが教員たちの言い分であった。

信用している、とは、なんとも都合が良くて、いい加減な言葉である。

教員達は生徒会の会計のみ監査するだけで業務に関してはノータッチの姿勢を貫いた。

生徒達はというと、相変わらず無関心なままであった。

一般の生徒達にとって生徒会など、自分と関係ない別世界のことなのである。

しかし夜香が組織を整え終わり、予算・規約・年間行事等に着手してくると一般生徒たちも静観者ではいられなくなった。

八重高の部活動は停滞している。

目立った活動がまったく無く、所属人数は多いが幽霊部員だらけのクラブに大きく予算と場所が割り当てられていたり、精力的で実際に功績を上げているクラブが、規模が小さいというだけで部費に喘ぎ、活動の場を制限され嘆いている。

正当な評価が為されていない。しかし昔から決められている既得権なのだという理由で、各クラブは甘んじて状況を受け入れていた。

それを夜香は打っ手切った。

内情を調査し、遊んでいるだけのクラブの部費を大幅カット、単なる溜り場と化している部室・運動場は、他の活動的な部活に明け渡させた。

これにより部活動は大いに活性化されたが、予算を削られ、部室・運動場を追い出されたクラブの部員からは当然顰蹙と反感を買った。

また夜香は文化祭にも変革を齎した。

八重高の文化祭はルーチン化している。

先例を模倣した、決まりきった催しを各学年が行う。真似であるのだから、当然その内容も毎年非常に似通っているか、ほぼ同じとなってしまう。

楽ではあり、それなりに盛り上がりはするのだが、そこに新規性は皆無であった。

そこで夜香は斬新さの無い企画を持ってきたクラスにすべて駄目出しを行うことにした。

結果、全学年のクラスが最初に生徒会に提出した企画書にNGを出され、その後、再提出を繰り返すことになった。

参加放棄は許されないので、各クラスは腐心し、どうにか生徒会に認められるような企画を捻り出していった。

苦心惨憺の末、前代未聞とも突飛とも言える企画が次々と生み出されていった。

元々、進学校で八重高は頭の良い生徒が集まっているのであるから、その気にさえなれば、新鮮で新奇なもの作る力はあるのである。

実際に行われた企画の具体例を挙げると、数クラスが合同して学校全体を舞台とするミステリー劇で、各所で事件が起こるため何度も見直さなければ犯人がわからないという壮大なものから、クラス全員が海原雄山の格好をして、自分が店員なのにも関わらず、すぐに何かあると

「主を呼べ!」

と叫ぶ、美食倶楽部という名のコスプレ喫茶など、最上のものから珍妙なものまで、様々に催されることになった。

結果、今年の八重高文化祭は一味違うという噂が流れ、一般来客数は例年の倍近くまで達した。

夜香の大胆な行動により、変化の無い漫然とした学園生活は脆くも崩された。

そのことによって、恩恵を被る生徒もいれば、苦杯を呷らされる生徒もいた。

これが八重高において夜香という人物が生徒から慕われるか嫌われるかの両極端になっている理由である。

しかしその両方に対して夜香は共通した認識が植付けた。それは


学生という身分であっても、ここまで革新を起こすことが出来る


ということである。

これまでずっと学校の自治に無関心であった生徒たちが、俄然興味を持ち、熱を入れ始めたのであった。

そして今では学校の各所で、八重高をより良くしようという活動が活発になっているのであった。

ほとんどの生徒たちは一連の改革が夜香の独断によって行われたと思っているのだが、正確にはそうではない。

夜香が好き勝手に作り上げた五名の生徒会内のみであるが、議論が行われ修正と折衝を繰り返し、草案を練り上げているのであった。

よって八重高の君主制の王は、夜香一人ではなく、正しくは生徒会に所属する五名なのであった。

その五人の内の三人が、今、生徒会室において会議用の長机を囲み座っている。

「それでは、そろそろ始めましょうか」

会長である夜香が机の上で両手を組み、静かに告げた。

「では、荒城君。報告をお願い」

「はい」

荒城が立ち上がり口を開く。

今日の議題は、『反乱分子の動向について』である。

先に説明したように、八重高では生徒たちの間で学校を改善しようという気運が高まっている。

その中で、現生徒会の体制は良くない、解散させるべきであるという動きが出てきている。

順当に考えれば当然の流れである。一部の人間による権力の掌握と支配、こんなことは普通の学校にはあってはならないことである。

反乱分子のリーダーは大野友春という人物である。

清廉な雰囲気を纏った好青年で現在二年生である。

民主的な生徒会による自治を唱えている。

大野は辣腕家で、彼の活動は具体的な形にまでなっており、次の全校集会で現生徒会の解散と役員の免職を全生徒と教員に問うという所まで実現させていた。

夜香生徒会としては由々しき事態であった。因みに生徒会内では、この動きを『オオノトモハルの乱』と呼称している。

「彼らは着々と我ら生徒会打倒の準備を進めているようです」

「そう」

報告を聞く夜香に焦燥の色は見られなかった。危機が迫っているにも関わらず泰然としている。

実を言うと夜香にしても、他の四名にしても、現生徒会に執着心は皆無なのであった。

潰したいなら潰してもらって一向に構わない。むしろ、もっと早くにやってもらいたかったぐらいだ。

現生徒会の体制が異常であることは自身で十分理解している。夜香は八重高の沈滞し、漫然とした気風が嫌で事を起こしたのでる。

今ではその気風も吹き払われたと思っている。

夜香生徒会の目的は既に達成されているのであった。

だからといって素直に引き下がるつもりは無い。苦労なくして成長は無い。新たな者たちの前に障害として立ちはだかってやらねば、彼らの為にならないからだ。

「大野君は、どんな内容で攻めてくるつもりかしら」

夜香の質問に、荒城が資料に目を通しながら答える。

「これまでの生徒会の強引なやり口、権力の不均衡辺りだと思われます」

「正攻法ですね、正攻法で来られるのが一番我々に勝ち目無いですね」

音咲が椅子の背凭れに寄り掛かって、体を揺らした。

「我々は、叩けば埃の出る体どころか、実は埃の塊でしたってぐらいですから」

そうね、と夜香が微笑を浮かべる。

「それと、どうやら強力な切り札を準備しているようです」

「切り札?」

「ええ、残念ながら現状では概要すら掴めていない状態です」

音咲が身を乗り出す。

「その件に関しましては自分が目下調査中です。敵陣営に密偵を送り込みましたので、近々判明するはずです。詳細判りましたらご報告します」

「わかったわ、この件に関しては引き続き、貴方達二人に任せます。よしなにしてちょうだいな」

「「ははっ」」

頭を僅かに下げて二人は畏まった。

「まあ、いざとなったらすべての黒幕は音咲君です、私は操られていただけですって言って逃げるんで、よろしくね」

「お任せあれ。我が一族は献身的であることを旨とします。自己犠牲は大好物です。ご飯三杯はいけますから!」

音咲はビシッと、敬礼する。

「音咲家に伝わる名剣『久世町キラー』を使うという手もあるしな」

荒城の奇妙なフリに音咲は意気揚々と乗っかった。

「いかにも、我が家に代々家宝として伝わる剣『久世町キラー』、挟間市久世町の住人に絶大な威力を誇る伝説の超地域限定剣、それ以外の住人にはポップコーンをぶつける程度のダメージしか与えられない。しかも現住所だけでなく本籍も久世町でなければならないとう厳しい条件付。この剣をもってして、憎き大野をって・・・・そもそも大野は久世町に住んでなーい!」

「・・・・では、時間も時間だし、そろそろ・・・」

夜香の、閉めの言葉の途中で、カサリという僅かな物音が天井から聞こえた。

その音を音咲は耳聡く聞きつける。音咲は天井をキッと睨み、勢いよく立ち上がった。

「曲者だ!、であえであえ!」

当たり前だが、生徒会室にであってくれる人などいないので、誰も駆けつけて来ない。

「ぬぬうっ、槍もてぇーーいっ!」

「殿!、これに!」

どこから持ってきたのか、荒城が鉄槍を音咲に恭しく差し出す。

うむ、と頷き、鞘を払って音咲は天井を三回ほど突いた。

それから槍の先端を検分した。血痕が付着しているか、調べているのだ。

「チィィッ!、逃がしたか」

血は付いていなかった。音咲は大きく舌打ちした。

今のは本気で曲者を刺し殺そうとしたのではない。そもそも生徒会室の天井は人が忍び込める構造にはなっていない。

先ほどのカサリという音は鼠か、単に天井が軋んだだけである。一連の行動は生徒会室で、よくある悪ふざけであった。

八重高を支配しているといっても、夜香生徒会は厳格なものでは決して無い。毎回、こんなノリでやっている。

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