表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Memorial Symponia〜メモリアル・シンフォニア〜  作者: 桜庭つむぎ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

5/14

独白の残響(レゾナンス)

ロゼアとミリルが寝静まった深夜。楽器店の一階からは、低く、重厚なピアノの音が漏れていた。それは昼間の峻厳な態度とは違う、剥き出しの感情が鍵盤を叩くような、鋭くもどこか物悲しい旋律。

「……いいかげん、慣れるべきだな。あの子たちの目に、俺がどう映っていようとも」

ヴィクターは鍵盤から手を離し、暗闇の中で一人、溜息をついた。彼が二人に――特にミリルに厳しく当たるのは、かつて自分も「音」の不完全さゆえに、大切なものを守れなかった過去があるからだった。

「世界は、優しい旋律だけでできているわけではない。歪み、濁り、壊れゆく音……。それを律する覚悟がなければ、あの子たちの音はいずれ闇に呑まれる」

彼は懐から、古びた楽譜の切れ端を取り出した。余白には、かつて隣で笑っていた「誰か」の、躍るような筆致で書き込みが残されている。

「ロゼアの、あの危ういほどの無垢さは、いつか現実に折られる。……あいつが愛したものを直視するのは、時折、俺の臆病さが暴かれそうで怖い」

ヴィクターは再び、静かにピアノを弾き始めた。今度の音色は、冷徹な仮面の裏に隠された、祈るような、あるいは悔恨かいこんのような、深い響きを帯びている。

「……ミリル。お前の内にある『ノイズ』を恐れるな。それこそが、本当の意味で誰かの孤独を救う音になるかもしれんのだぞ」

その独白は、二階のベッドで眠る少女たちには届かない。

やがてピアノの音が止まり、静寂が店を包み込む。ヴィクターは窓の外の夜空を仰ぎ、消え入りそうな声で、ぽつりと呟いた。

(……お前の遺したこの音を、俺はいつまで守り通せると思う……?)

「……なぁ、姉さん」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ