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赤い薔薇は嫌い  作者: カワセミ


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4/5

ローズ王女と青年についての考察 下


愛しのローズ姫へ.

あなたは幸せでしたか.


親愛なる読者の皆さんへ.

寒くなってきたね,僕はスープが飲みたい.



 さてみんな,待たせたね.


 上巻の続きから,


 ローズ姫とヴィオルールは出会い,そしてローズ姫はヴィオルールに恋に落ちた.


 しかし,ヴィオルールにとっては,ローズ姫は親の仇であった.


 2人が話すことは一度たりともなかった.


 そこまではみんな大丈夫かな?


 ヴィオルールの父が処刑される前から,国民の王族への不信感がどんどん募り始めていたんだ.

 そこに,ヴィオルールの父の処刑があってから,王族への不信感は爆発した.


 増え続ける税に,国民の声を聞かない国王.

 不満が溜まるのも当たり前のことだね.


 ちょうどヴィオルールがお城で仕事を始めた頃から,国王が王宮から出なくなったとローズ姫は日記に書いている.


 その頃には,お城に食料を納めに来る人間も少なくなり,食卓に並ぶ品物も少なくなっていったそうだ.


 それに国民たちは,城の壁に,石や泥を投げつけた.


 白く美しかった城の壁も泥で汚く汚れた.しかし,それを綺麗にする人間,メイドや家来たちはどんどん城から消えて行った.


 この頃,国王の顔色は常に悪かったらしい.

 ローズ姫は心配げに日記に残している.


「お父様の顔色が最近とても悪い.

 お父様の好きな卵のお城への搬入が滞っている.

 気づけば,メイドも何人か辞めている.

 とても心配,不安」


 ローズ姫の不安が感じ取れる.


 このローズ姫の日記の数日後,国王は,フロランシア国を捨て,家族で逃げることを決意する.


 ローズ姫は,国王にそれを告げられた時のことを日記に残している.


「お父様が,ここはもう危ない,明日隣国へ逃げる,と言われた.この国を捨てる?危険?もうわからない,とても怖い.お父様の言うことは正しいのだろう.この国から逃げることが正しいのだろうけど,でも私は,彼と(上から塗りつぶされており読めない)」


 ローズ姫が最後に何を書き残したか,それは僕にもわからない.それでも,ローズ姫が国を捨て逃げることよりも彼,ヴィオルールについて考えていたことをわかる.


 僕がローズ姫なら,「彼とまだ一度も話してないのに」と続けたかもしれない.


 さて,これ以降,彼女の日記は残っていない.

 なぜなら,彼女はこの日以降牢屋で過ごすことになったからだ.


 この日記は,彼女が亡命に失敗する前日の日記.彼女が死ぬ前に残した最後の日記.


 この後のことは,あまり詳しくわかっていない.

 特にローズ姫の心情については,全くといっていいほど残っていない.


 ブケリア家の人々は,深夜亡命のために馬車を隣国まで走らせようとしたが,国を出る前に民衆たちに囲まれた.


 そして,馬車の外へ引き摺り出される.


 亡命は失敗した.


「憎たらしい王族どもは,馬車の中にいくつかの大きな宝石を隠し持っていた.俺たちは,明日食べるパンすらないのに」(注1)


「処刑された男が,我々に残してくれた革命の火は,全く消えていなかった.王族どもを見た途端,またその炎は燃え上がった」(注2)


「我々は,年齢も性別も身分さえも違ったが,王族という敵への憎しみだけで協力をした」(注3)


「私たちは,ただ革命を口にした.そう叫べば,王族さえも敵ではないように思えた」(注4)


 恨めしそうに日記にそう記しているものがいた.


 きっとこの時初めてローズ姫は,国民たちに犠牲の上に自分たちが生きていたことに気づいたのだろう.

 そして,自分たち王族が国民から憎まれていることにも気づいたはずだ.




 捕まったローズ姫たちブケリア家は,同じの狭い牢屋の中に入れられた.ここまで,誰1人として対抗しなかったよう.


 諦めたのかもしれない.


 この時,国王が,自分の命だけで許して欲しいと国民に懇願したと残っている.


「あれほど我々の懇願を無碍にした国王は,我々に膝をついて縋り付くように懇願した」(注1)


 この懇願は全くもって受け入れられることはなかった.


 ブケリア家が牢屋に入れられてから3日が経った.


 国王が牢屋の外へと連れ出された.

 そして2度とローズ姫たちの前に戻ることはなかった.


 処刑されたから.


 当時発明されたばかりのギロチンは使われず,王が男を処刑した時のように,首は斧で斬られたようだ.


 その5日後,王妃は,妃が外へと連れ出された.

 王妃は,ローズ姫と王子にキスをして,ギュッと2人を抱きしめてから,背筋を美しく伸ばし外へ出て行ったらしい.


「王妃はまるで舞台の上に上がるかのように,美しい姿で,処刑台へ登って行った」(注3)


 このように,民衆たちは残している.


 そしてやっぱり,2度とローズ姫たちの元へ戻ることはなかった.


 牢屋には,ローズ姫と兄である王子だけが残されていた.


 王妃が外へ連れ出されてから約一ヶ月後,王子が外へと連れ出されました.


 そして2度と戻って来なかった..


 それから,狭かった牢屋には,ローズ姫だけが残された.


 この間,ローズ姫がどれほど辛かったか,僕には想像すらできない.


 ローズ姫は王子が外入ってから一年近く,牢屋を1人で過ごしている間,国民たちの間では,ローズ姫をどうするかという会議が行われたそうだ.


 生かすか,それとも処刑するか.


 その会議は,すぐに終わった.


 ある青年が,ヴィオルールが処刑するべきだと言ったからだ.


 このことについて書かれた資料が今回見つかったものなんだ.


「青年は,父親は国王に殺されたと言った.1人でも王族を残せば,自分のように仇を打とうと考えるはずだとも言った.女であろうとも王族は全員殺すべきだと,そう言った」(注5)


 ある資料にそう残されていた.


 ヴィオルールは,父親の仇である王族たちを根絶やしにしようとしたんだ.

 この資料にはまだ続きがあった.


「青年は言った.父の仇である王女の首は自分に切らせて欲しいと.青年の瞳は,年齢に似合わず,ひどく濁っていた」


 資料はそう締めくくられており,それより先は,後の戦争によって紛失したようだった.


 ただヴィオルールの発言から,ローズ姫の初回は決定した.


 ローズ姫の処刑は,前日に本人にも伝えられた.


 ローズ姫の様子について,言及した資料は残念ながら一つも残っていない.


 これはとても不思議なことだと僕は思っている.

 王妃の記録は残っているのに.

 なぜローズ姫のものだけ残っていないんだろうか?


 僕はこれをブケリア家七不思議の一つに数えている.(注6)


 次の日,ローズ姫は断頭台へ上る.


 ここからは僕の想像でしかないけど.


 ローズ姫はきっととても驚いたと思う.


 あんなに話してみたかった,大好きだった青年がその場にいたから.


 ローズ姫にとって,断頭台は,青年と2人だけの舞台のように感じられはずだ.


 ローズ姫の最後の心情は,残っていないから正確なことはわからないけど,初回の瞬間を見ていた人の日記はいくつか残っている.


「王女は,自分の首を切る相手のことを,まるで恋人のように見つめた後,なんの抵抗もせずに断頭台は首を据えた.少しいたんだブランドの髪が彼女の首を切る刃物に鈍く反射していた」(注7)


 僕が1番気に入っているあるパン屋の男の日記を紹介したい.


「17××年8月×日 ローズ姫は断頭台に立っていた.

 美しかった.ローズ姫は,美しい微笑みを今から自分を殺す青年に向ける.その後,その青年に顔を寄せる.何事か話しているようだったが,俺のいる場所からは聞こえない.ただ,俺のよく見える目には,ローズ姫の表情は,これから死ぬ,殺される人間の顔には見えなかった.まるで恋人と,公園へデートへ行くような,どこかワクワクした表情に見えた.不気味だが,なぜか目を離せない.彼女の首が胴体から離れるその瞬間まで.俺はローズ姫から目が離せなかった」(注2)


 この日記は,死ぬ間際のローズ姫の美しさをどこか不気味に感じさせるところが僕のお気に入りのポイントだ.



 そして,ローズ姫はその日に処刑される.


 18年という短すぎる生涯に幕を下ろしたんだ. 

 ローズ姫の処刑によって,約200年続いたブケリア家の血も途絶えた.


 ローズ姫を処刑してからのヴィオルールのその後については,全く何も資料が残っていない.


 当時の農民の資料は全くと言って残っていないし,ヴィオルールに関しては名前すらわかっていないため,その後を追うこともできない.



 ただ,なんとなくだけど僕は,ヴィオルールは長生きしなかったんじゃないかなと思う.


 まあこれは,僕の想像だけどね.


 ここからが本題


 ローズ姫とヴィオルールについての考察だ!



 考察,というには情報がなさすぎるから,妄想や想像の方が多分当てはまってるだろうけど,あえて考察と言わせてもらう.


 まず,一つ2人を考える上で最初に考えなければいけないことがある。


 ヴィオルールの父,ヴィオレの処刑された事件,

「広場の薔薇事件」だ.


 この事件には二つの説がある.


 一つ目は,減税を嘆願しにきたヴィオレに対して,国王が薔薇の広場で斬首刑を命じたという説だ.


 フロランシア国研究家のほとんどが,この説を支持している.


 もう一つは,広場の薔薇を酷く扱ったヴィオレに対して,ローズ姫が国王に処刑を望んだという説だ.


 僕はこの説を支持している,


 僕がこの説を支持している理由は,ローズ姫の薔薇への異常な愛情が日記にも残っているからなんだ.


「メイドが,私の薔薇に勝手に水をやった」

「庭師が私の薔薇を勝手に手折った」


 そんなが日記に何度も書かれている.

 普通のお姫様は,土に塗れてまで,花の世話をしない.

 ローズ姫は薔薇に執着に似た愛情を持っていたんだ.


 国王もローズ姫に対して,甘かった.

 わがまま姫というほどではないが,ローズ姫は甘やかされて育っている.


 また,国王は,ローズ姫のために市民街に薔薇の広場を作っている.そこもローズ姫自身が管理していた.


 その広場の薔薇は絶対に粗末に扱ってはいけない,という法律すらあったそうだ.


 僕は,このことを知った時,東洋のある国を思い出した.


 その国の王は,とても犬が好きで,犬を傷つけてはいけないという法律を作ったらしい.しかし,その法律をやり過ぎてしまい,殺したら死刑になったりしたんだそうだ.


 僕が想像するに,当時のフロランシア国でもこれと似たような状況になったんじゃないだろうか?


 今残っている資料から,この二つの説のどちらが正しいか読み取ることはできない.

 もちろん,もしかしたら全く別の可能性もある.

 今の所,一つ目の説の方が正しい可能性が高いと思うけど,僕は二つ目の説を支持している.


 今回の僕の考察では,二つ目の説で進んでいくからね.


 まず,青年,ヴィオルールが庭で憎々しげに薔薇の花を見つめていたのは,父親が薔薇によって処刑されたから.そして,間接的に父親を殺した人間の名前がローズ(薔薇)という名前だったから.見るたびに憎しみを思い出したから,ヴィオルールは,薔薇が嫌いになったのではないかと僕は思う.


 それに,ローズ姫の気に入っていた薔薇の種類は,真紅に近い,血の色によく似ているものが多かったから,父親の処刑の時を思い出していたのかもしれないと考えた.


 ローズ姫とヴィオルールは,処刑台の上まで,一度も言葉を交わすことはなかった.

 そして,処刑台での会話も残念ながら,内容は全くわかっていない.


 ただ,青年が初めて殺した人間はローズ姫であったことは間違いない.


 ローズ姫は,自分を殺すヴィオルールに対して微笑みを向けた.

 その笑顔はきっと,ヴィオルールの頭に張り付き,永遠に剥がれない.


 ある意味で,ローズ姫は,ヴィオルールの永遠になったとも言える.


 ローズ姫にとって,ヴィオルールは初恋であり,最後の恋であった.許されない恋であり,一生話すことすらできなかったはずが,人生最後の時に話すことができた.

 きっと彼女にとっては,幸せな最後だったんだろうな.


 ヴィオルールにとっては,ローズ姫は,親の仇であり,自分の人生を苦しめている王族であり,憎むべき女であった.しかし,その人間に会うことすらできなかったはずが,革命というもののおかげで,その仇の人生を奪うことができた.

 ある意味で,この青年にとっても幸せと解釈することもできる.

 ヴィオルールは,自分が殺すローズ姫からの笑顔を,どう受け取ったのであろうか.


 殺してやりたい,と思ったのか.

 それとも,もし違う出会いができていたらと思ったのだろうか.


 僕たちには想像することしかできない.


 ただ,ローズ姫は死ぬ最後の瞬間まで愛した青年と共にいたという事実だけは覆しようのないものだ.


 これで僕のできる考察はおしまい.

 僕は,ヴィオルールに勝てそうにないね.

 だけど,諦めはしないよ!

 初恋だからね


 それでは,僕の愛したローズ姫が天国で幸せに暮らしていることを願いながら,この本の締めとしよう.


注1 17××年 日記


注2 あるパン屋の日記


注3 ある貴族の日記


注4 ある女の日記


注5 ブケリア家についてのまとめ 青年について


注6 ①ローズ姫の誕生について

  ②王子の名前の由来について 

  ③ブケリア家がどこからやってきたのか

  ④ローズ姫の処刑までの記録の消失

  ⑤王宮の召使の決定方法

  ⑥ローズ姫の薔薇の育て方

  ⑦王家のティアラの行方 の七つの事


注7 ある司祭の日記



本書は、実際の出来事を題材としつつ、筆者の解釈および創作的要素を加えて構成されたものである。

そのため、内容のすべてが史実に基づくものではないことをあらかじめご了承願いたい。


また,本書の発行により得られた利益は、フロランシア国立博物館の維持・運営費用に充てさせていただきます.

 

 実在の歴史と人々に敬意を込めて。


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