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赤い薔薇は嫌い  作者: カワセミ


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3/5

ローズ王女と青年についての考察 上

  作 マルタン・ヴェルディエ   

  訳 翡翠


 愛しのローズ・ド・ブケリア姫へ.

 あなたの愛する青年の全てをあなたに捧げます.


 我が友,シェニオール.

 僕は恋敵に勝てそうにないよ.



 先日出したばっかりの,僕の絵本を手に取ってくださった皆さん,どうもありがとう.

 もし,まだ読んでいない方がいたら,今すぐ書店に走ってもらえると嬉しい.


 僕の初めて出版する絵本が,今まで研究してきたローズ姫に関する本になるとは思ってもいなかった.

 いや逆に,僕がローズ姫に関する本以外を出版することの方がありえないか.

 今のところ,僕が出版した本を全てローズ姫に関するものだからね.


 そんなことは置いておいて,今まで僕の研究を見てきてくれた皆さんならわかると思うがすごい事実が最近発覚したんだ.


 え?知らないって?


 君の持っているスマホやパソコンはガラクタかい?


 仕方ない,僕が教えてあげよう.


 ひとまず落ち着いて,驚かずに聞いて欲しい.


 なんと,


 なんと,


 ローズ姫を処刑した青年についての文献が発見されたんだよ!



 だからどうした?って聞いてきた,そこの君.


 僕について全然知らないようだね.


 僕は,9歳でローズ姫の肖像画に恋に落ちてから,もう20年以上も,ローズ姫の研究をしているだ.


 僕にとって,この大発見は,ニュートンが重力を見つけた時以上の喜びと驚きなんだよ.


 あぁ本当に嬉しいよ.

 僕の大好きなローズ姫の愛した青年について知れることが,本当に嬉しい.


 この青年は,僕の永遠のライバルだったからね.


 名前も,何もわからないこの青年について,今まで研究者たち(僕を含めて)は,本当に悩まされてきたんだ.



 なにしろ,ローズ姫自身も,青年について知らなかったから,素性についてはほぼ残ってなかったんだ.


 今ままで,青年について僕ら研究者が知っていることは,ローズ姫と同じくらいのレベルだった.



 あ,ちなみに,一つ自慢させてもらいたいのが,ローズ姫を処刑した青年と,ローズ姫が恋した青年が同じだと1番最初に推測したは,僕なんだ!!

(絵本を読んでもらうと,切なくなるだろ?)


 ローズ姫の日記の内容から青年の年齢などを推測して,そこから,その当時の人たちの日記から処刑人の年齢を推測して,同じじゃないかと思ったんだ!


 正直,あまり根拠はなかったんだけど,当時の人たちの日記に


『2人の間に流れる空気のおかしさは,遠くから見ていた俺にもわかった.なぜか王女は青年を愛おしげに見ていたんだ!自分はこれからその青年に殺されるのに!!』

『王女の顔が微笑んでいた.これから自分を殺す男に向ける顔には,私には思えなかった.』


 こんなことが残されていたんだ.


 2人の様子が,というよりローズ姫の様子がおかしかったというのがわかるよね.


 このことから僕は,ローズ姫を処刑をした青年が王宮へ掃除をしにきていた青年,イコール王女が恋に落ちた青年だと推測したんだ.


 正直,初めにこの説を言ったときは,根拠が薄すぎるっていろんな人に言われたよ.

 僕も正直そう思ってた.


 それでも僕は,ずっとそうだと思ってたんだ.


 そして,今回の資料で完璧にわかった.


 やっぱり青年は,王女の愛した青年だった.


 王女は,愛した青年に処刑された.


 これはやっぱり事実だった.







 それじゃあ,青年について触れる…



 その前に,ローズ姫について,説明させてもらおう!


 もちろん,君は,僕の絵本は読んでくれたよね?


 あれは,少し子供向けにマイルドにしたものだったから,もっと詳しく説明していくよ.


 少し,残酷な描写の説明をしたり,当時の文献を引用したりするから,差別的な表現があるかもしれないけど,許してね.



 まず,17××年 フロランシア国 ブケリア家の第一王女としてローズ姫は生まれた.

 彼女が生まれた日,王宮でとても美しい,真紅の薔薇が咲いたことから,ローズと名付けられたそうだ.(注1)

 彼女の髪は,まるで太陽の光を吸い込んだように美しいブランドだった.

 これは,母親譲りだったようだ.(注2)


 彼女には,7つ上の兄である,王子がいた.

 王子の方は父親によく似ていたようだ.(注3)

 王子についてや国王夫妻について詳しく知りたい人は,僕の別の本を読んでもらいたい.(注4)



 彼女の両親,つまりフロランシア国,国王夫妻は,とても仲睦まじい夫婦だったようで,ローズ姫は,両親について,


「私のお父様とお母様は,まるで1対の手袋のようです」(注5)


 と微笑ましげに残している.


 国王夫妻は,政略結婚だったようだが,とても仲の良い夫婦だった.


 ローズ姫は,名前の通り,薔薇の好きな美しい少女にすくすくと育っていった.


 ローズ姫の逸話として,「姫が笑うと薔薇が咲く」というものがある.

 ローズ姫が笑うと城中の薔薇が咲き,また泣くと城中の薔薇がはらりと散ったそうだ.


 本当かどうかはともかく,ローズ姫は,名前の通り薔薇を愛してたようだった.


 ローズ姫の城の中でいちばん気に入っていた場所は,薔薇の咲く庭だ.

 彼女自ら,薔薇を植えたり,水をやったりするほどだったようで,日記でも


「今日は,イオナラが色をつけました.」

「薄紫に,白の斑点のついた薔薇が咲きました.新種を見つけたようです.エトワレ(注6)と名付けました.」

「お父様の誕生日に,薔薇を摘みました.お父様喜んでくれるでしょうか.」


 など薔薇についてたくさん残している.


 そして彼女は,19歳で処刑されるまでに,28種類もの薔薇の新種を発見している.(注7)


 残念ながらその中で,戦乱で消滅してしまったものや,そもそも,病気などで色が変わっていただけで新種ではなかったものなどもあるようで今現在も見ることができるものは,わずか10種類のみとなっている.


 僕もそのうちの一種,ローズ姫が最も愛した,『ブケリア』という薔薇を育てている.


 なかなか,花が咲くのが難しい種類だけど,とても綺麗だから,みんな一度は見て欲しいな.


 さて,ローズ姫は,成長していき,14歳の頃にはとても美しい女性(それまでももちろん,とっても美人)になった.


 当時の女性としてはもう結婚を申し込まれてもおかしくない年齢になると,もちろんローズ姫は大変たくさんの男性たちから結婚を申し込まれた.


 当時,大変武力の強い国だったヴァルセオンの第一王子が釣書を送くったという驚くべき記録がある.(注8)


 そのほかにも,当時たくさんの植民地を持っていた錦羅国1の商人からの求婚(注9)や美青年と名高いボーフリアの第六王子からの求婚(注10)があったことがわかっている.


 それ以外にももっとたくさんの貴族や裕福な商人たちからたくさんの釣書が来ていた.


 しかし,ローズ姫はその誰にも心惹かれなかった.


 その当時の心境は彼女の日記にしっかり残されている.


「私はまだ誰かと生涯を共にする覚悟ができていません」

「運命の出会いでなくてもいいから,お父様たちみたいな夫婦になりたいです.」


 当時の庶民の少女たちと同じように,ローズ姫も恋に憧れる少女だった.


 そんなローズ姫のことを国王は,


「国王としては,早く結婚を進めるべきなのかもしれん.しかし,父親としてはもう少しだけ,ローズはただの少女であって欲しい.結婚はもう少し,先でもいいのではないだろうか」


 と残している.(注11)


 国王としての気持ちと父親としての気持ちの相反する気持ちに,僕に娘はいないが,すごく共感してしまう.


 さてこの頃,このブケリア国で革命の引き金となら事件が起きた.


 王宮に減税を嘆願しに来た国民の1人が,王の命により広場で,斬首刑になった事件だ(注12)


 この事件は,のちに「嘆願者断首事件」や「広場の薔薇事件」(注13)呼ばれる.



 そしてここで初めて,青年が関係してくる.


 この斬首刑になった国民


 実は,青年の父親だった.


 これには,僕も驚いたよ.


 処刑された国民の名前は,ヴィオレ.

 当時たくさんいた農民の1人だった.

 妻を亡くしている.


 彼について,僕らが知れる情報はこれだけだ.

 そして青年についてわかることも正直この程度.


 青年は,名前すら残っていなかった.


 王宮で働くためなのか,それとも関係ないのかはわからないが,青年の名前はどこにも残っていない.


 この本の中では,便宜上青年のことをヴィオルール(注14)と呼ぶことにする.


 ヴィオルールは,父が処刑されてから数年後,王宮の庭掃除の仕事を始めている.


 そして,彼は,父親の死の原因をローズ姫だと信じ込んでいたと僕は考えている.


 ローズ姫は彼との出会いをこう記している.


「名前も知らない彼は,私の大切な赤い薔薇の花びらをまるで親の仇でも見るような目で見つめた後,その瞳とは反対に優しい指先で袋に集めていた.なぜか私は,彼から目を離すことができなかった.」


 ローズ姫は,知らずのうちに,ヴィオルールの心情を言い当てていたのかもしれない.


 さて,ローズ姫とヴィオルール.


 2人が言葉を交わすことは一度もなかった.


 ローズ姫とヴィオルールの間には,とても分厚い身分という差があったし,また,親の仇という壁もあった.


 ローズ姫の恋は叶うはずがなかった.






 さてひとまずここで僕の話は一旦締めよう.

 続きは,下巻にて,ひとまずみんなちょっと待ってて欲しいな.


 考察があったら,ぜひ,僕に手紙を送ってくれ.






注1 『リリス・ド・ブケリアの日記』より,真偽の程は不明.偶然,薔薇が咲く時期に生まれた説が有力


注2 リリス・ド・ブケリアは美しいブランド髪で有名であった.レニエ・クロードの肖像画より


注3 マリゴ・ド・ブケリア王子の真っ青な瞳は,国王ソルヴァン三世譲りであった.レニエ・クロードの肖像画より


注4 『ブケリア家についての考察』

著マルタン・ヴェルディエ 訳翡翠


注5 『ローズ・ド・ブケリア姫の日記』


注6 薄いラベンダー色に花びらの縁に星のような細かい白い斑点がある薔薇.ローズ姫が見つけた新種とされている.現在は残っていない


注7 ローズド,ブケリア,マリゴーズ,ニュイフラム,プラージュ,フラメリュンヌ,エクラペ,ソルヴァン,リリージュ,サングリードのみ現存


注8 ヴァルセオン12世の日記より.イグナス・シュヴァリエ王子が求婚の手紙を送ったことを驚いたと記している.イグナス王子が,生涯で求婚の手紙を送ったのはローズ姫のみ


注9 段 澜飞の日記より.段 澜飞本人がローズ姫へ手紙を送り,ローズ姫から断りの返事が来た旨を残している


注10 ヘリット国王の日記より,テストゥド・スヒッター王子の求婚の手紙の稚拙さを嘆いている


注11 ソルヴァン三世の日記より


注12 一説には,ローズ姫の薔薇を踏んだから処刑となったとの説もある.真偽は不明.現在支持する研究者は少ない.筆者はこの説を支持している


注13 薔薇広場で公開処刑が行われたことから,こちらで呼ばれる場合もある


注14ヴィオレの子という意味

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