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赤い薔薇は嫌い  作者: カワセミ


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2/5

絵本 ローズ姫物語

全て嘘で


全て誠.


赤い薔薇の真実を誰も知らない.

相応しいのは,真っ赤な薔薇.


真っ白な薔薇は,恋人の血で赤く染まる.


美しい彼女に似合うのは,赤い薔薇.

 そんな,王女の,何も変わらない平和な日々の歯車は,ある日から,少しずつ狂い始めていきました.




 いえ,本当は,数年前,1人の国民の懇願を無視してから,狂い始めていたかもしれません.


 雨が降らず,作物が育たない.

 税金を安くして欲しい.


 そう懇願した国民を国王は,鬱陶しそうに罪人として,首を切り落としてしまいました.(注:1)



 その日から,国民の王族への不信感は,募っていきます.





 ある日から,国王が,王宮から出て行くことがなくなりました.


 食卓のメニューが少しずつ減っていきました.


 たくさんいたはずのメイドたちがどんどんいなくなっていきました.


 あんなに綺麗だった王宮の壁や窓に,泥や石が投げられ,汚くなっていました.


 ある日,国王は王女たちに,この国を捨て,逃げるということを伝えました.


 小さな馬車に,少しばかりの宝石とドレスを持った王女たちは乗り込みます.


 誰にも知られないように,夜の暗闇の中を馬車は進んでいきました.


 馬車が止まりました.


 大勢の人々の怒鳴り声が,王女たちを囲んでいます.


 たくさんの石が馬車に投げつけられます.


 馬が遠くに走り去っていく音が聞こえました.


 馬車の扉を誰かが開きます.


 ランタンの光が,馬車の中を照らします.


 王女たちは,無理やり馬車の外へと,引き摺り出されます.


 たくさんの民衆の中に引き摺り出されます.


 民衆たちの口元は,恐ろしいほど歪んでいます.


 かくめいだ.



 民衆たちは,狂ったようにそう繰り返しています.


 国王が数年前に首を切り落とした男の名前を叫ぶものもいます.


 王女は,初めて気づきました.


 自分たちの生活は,全て,この,民衆たちの犠牲のもとにあったこと.


 自分たち王族は,民衆たちから,言い表せないほど憎まれていることを.



 王女たちは,小さな牢屋に入れられました.


 それから,2日後.

 国王が外へ連れて行かれました.

 そして2度と戻ってきませんでした.


 国王がいなくなってから,5日後.

 次は,妃が連れて行かれました.

 そしてやっぱり,2度と戻ってきませんでした.


 それから一月経って,

 王子が連れて行かれました.

 2度と戻ってきませんでした.


 それから半年ほど経って,王女は外へ連れ出されました.(注:2)


 王女は,久しぶりに浴びる陽の光に目を細めながら,13段の階段を登ります.


 国民が罵る声が,王女を包みます.


 しかし,王女には何も聞こえませんでした.


 階段を登った先に,あの青年がいたからです.






 王女と青年がどんな話をしたかは,残っていません.


 しかし,死のすぐそばで,王女と青年が初めて言葉を交わしたことだけは,紛れもない真実です.


 青年と言葉を交わしている間だけは,王女がただの少女のように見えたと,民衆たちは残しています.


 きっと王女は,家族の中で,誰よりも幸せに,命を散らしたことでしょう.


 王女の首を切った青年が誰かはわかりません.


 彼が何を考えていたのか,何を思って王女の首を切ったのか.


 もう今となっては,誰にも知ることはできないのでした.


 おしまい.


注:1 一説には,ローズ姫が斬首を命じたというものもある.

注:2 一年後だった説もある.




   


  参考文献,

『177×年,フロランシア国革命』

『ローズ・ド・ブケリア王女の恋ついての文献』

『ローズ・ド・ブケリア姫の一生』

『ブケリア家一族』

『ローズ・ド・ブケリア姫の日記』

『ローズ・ド・ブケリア姫の恋とその相手についての研究』

『あるパン屋の日記』

『177×年,日記』

『ローズ姫の首を切ったのは誰か』





 本作はローズ・ド・ブケリアの生涯に着想を得ていますが、一部の心情や描写は作者の想像によるものです。

 また,本書の発行により得られた利益は、フロランシア国立博物館の維持・運営費用に充てさせていただきます.

 実在の歴史と人々に敬意を込めて。



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