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私の推しが死んだ!


(ここは私の本当の居場所じゃない)

立花タチバナ 未琴ミコト、28歳でいまだにこんなことを漠然と思っていた。


「いいかげん、現実を見た方がいいぞ」と声をかけてくれる友人もいないまま、一人孤独にこの歳まで生きたためにこんな拗らせた考えをずっと思い続けたままだった。


(わかっている、そんなこと・・・。頭ではわかっているけれど、こんな味気ない人生に現実味を感じない。)


 私の毎日は実に端的だ。

平日は仕事して、土日はしこたま家で推しを愛でるだけのルーティンなのだから。

 

 幼少期から子供に関心のない親のもとで生まれ、やがて母方の祖母のうちに預けられそのまま疎遠。祖母にも厄介者として疎まれてきた。


 私は高校卒業後すぐに地元の商社でしがない事務として働きはじめてもう10年になる。ボーナスをもらったこともなければ月給アップもしたことがない。コミュニケーション力は培われず、いまだに雑用を押しつけまくられる日々。


 誰よりも働いた一週間を終え、私の土日は推しを吸収するために過ごす。

当然家の中は、推し一面に仕上がっているのは言うまでもない。家に着き小さな1Rを取り囲む一面の推しを眺めながら、小説と関連物を嗜むばかりだ。

 推しは小説(華麗なるガーデン)の二期から登場するキャラ『アレン・クロー』。歳は不明。ミステリアスキャラなので情報は少ない。


 彼は碧眼の眼差しとホワイトブロンドカラーの前髪かきあげ系の細マッチョ。

(いつも露出少ない彼は手袋と軍服で肌すら見たことはないのであくまで想像だけども。)


 初めてできた推しにして、私の全てだ。


 彼の特徴は・・・「とにかく笑わない」こと。

彼がニヒルに笑うこともない、口元が釣り上がるのですら、描かれたことがまるでない。そんなどこまでもクールなキャラだけれど、その理由すら愛しいのだ。


 華麗なるガーデンはその名の通り、花に例えられたイケメンたちが主人公を取り囲みその姿はまるで華麗なる庭にいるように感じられるために付けられたタイトル。


 豪華絢爛で様々なイケメンたちの攻略するラブゲーム色の強い小説から一変、二期はまさかのダークモード展開になった。


 イケメンたちが競い合い、殺しあう一種のバトルロイヤル的な要素も含んだダークファンタジーへ。

アレンクローは、突如魔王の登場を機に登場した存在で、今ままでお花畑脳でいた主人公を叱咤し、導き支える重要な役柄。だからこそ、一貫して笑わないのも、彼女の命を守る責任感が強いから!

(それで主人公がめっちゃ成長するんだから!)


 時には師匠のように見守り、そして時には裏で命がけで主人公を守る影のヒーロー。

主人公を誰よりも愛していることが間接的に伝わるエピソードが彼の奥ゆかしさを感じられて夢中になった。


 唯一の不満はいつもネット投票はなぜかまさかの最下位なことだけ。


この読者アンケートは、内容次第では、登場人物の登場回数や物語の展開に大きく関わることだからとても由々しき事態だったりする。私の推しがみんなに理解してもらえるように、彼のためにイメージアップ運動に勤しむ日々だ。


「もっと運営が彼の良さが伝わるプロモーション展開してくれれば変わるのに!」


 そんなぼやきも今日は未練がない。だって、今日はようやく小説の最終巻が出たのだから!

日曜日の朝から読み始めて、夕方になった頃・・・私は大声で悲鳴を上げた。


 「推しが死んだーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!」




 夕焼け小焼けの街のアナウンスが私の叫びを侘しく打ち消した・・・。






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