リス
愛想という愛想を子宮に忘れてきた女、歓喜と憎悪を顔面に貼り付けた男。それらをほお袋に目一杯詰め込んでリスはサッと駆け出していく。軽々と。実に軽々と。実際詰め込んでいたのは形の整ったどんぐりだったかもしれない。でも、そんなのはどっちだって良いんだ。だって忘れ物に気づくのはヘビの兄妹なのだから。
あの躍動をちっぽけな一枚の絵画に収めておくのはまこと惜しいことだ。そうは思わないだろうか。眠りにつくのは午前3時から。それまでは夜な夜なティーパーティーをしなくちゃ。赤く熟れたキイチゴや、芳醇な香りを放っているブルーベリー、萎びさとは無縁に思えるたんぽぽの花を添えて。額縁の裏ではてんやわんやの大騒ぎしていることだろう。ペンギンの賑やかなご挨拶。お淑やかに座っているのは1人だけ。目を閉じて何かに聞き入っている。森の囀りにひとり心奪われているのが此処からでもすぐに分かる。他のものもやがてはそうなることも。でもどうしてそれが……?
我々のほお袋には一体何が詰め込まれているのだろうか。リスはストゥーパ、キリンは睡蓮、それなら人は? 終点。終点。どなた様もご乗車頂けません。こちらをじっと見つめる白い猫。風になびくポニーテール。朽ちた冷蔵庫。半分に折れた標識。愛か希望のどちらかひとつでも入っていればなぁ……。話は少しは違ったのだろうか。リスに頬張られることを夢見てはや34分。こんな陽気な日には雲の影にも出会わないものだ。