令和幻覚浪漫譚
絶対に働きたくないでござる!
ある日の放課後。
郁子と薬子は保健室の前に立っていた。
郁子は戸を勢いよく開け、こう言った。
「たのもー!聖女殿はおられるか!」
シスター紅葉は、やれやれといった顔で応じる。
「なんですか、騒々しい。
道場破りですか?保健室に看板はありませんけど、
どうしてもというのなら、私が受けて立ちますよ。」
「これは失礼致しましたで候!
そんなつもりはないでござる!
どうか矛を収めてほしいでござる。
働きたくないでござる!」
「あなたはいったい、いつの時代の人なんですか。
誰に対する何の主張を私にぶつけているんですか?
大人になったらちゃんと働かないといけませんよ。
それで、用件はなんなんですか?」
「それなんだけどさ。先生って古楽器とかできるんでしょ?
私たち、ケルベロスってバンド組んだんだ。先生も一緒にどう?」
「あら、いいですわね。バンド名には若干の疑問がありますけど、
そういうストレートなグレ方は、先生もきらいじゃありませんよ。
サウンドの方向性は、どういったタイプなんですか?」
「んーとね。まず薬子が太鼓とピアノの達人だから、
それに合わせて私がベースをびよーんってやったり、
リコーダーを吹いたりラップしたりしようかなって。
先生には好きな楽器とか金属バットとかやってほしいなって。」
薬子は話に口は挟まないが、心の中で合いの手を入れる。
(先生って野球やってたのかな?なんか意外ー。)
「金属バットはともかく、最近はめっきりパイプオルガンにも
さわる機会がありませんでしたし。いいですよ、やりましょう。」
「やったー!さすがの聖女殿でござるな!
先生はお仕事でご多忙だろうからほんとたまにでいいんだけど、
うちらがスタジオ行くときは必ず連絡するから、
都合のいいときに参加してくれたらいいなって。」
「その代わりといってはなんですが、
私からもリクエストをしておきましょう。
バンドといっても、いきなりオリジナル曲オンリーは
いろいろとハードルが高いんじゃないかなと思います。
先生が若かりし頃に流行っていた古き良き音楽ジャンルに、
ヴィジュアル系というのがあってね。動画サイトで
このジャンルについて一通りお勉強してみてください。
まずはそれらのカバーから始めるといいかもしれません。」
「ふーん。よくわかんないけど先生が言うんなら間違いないよね。
うちらへの宿題だね。よっしゃ、まかしとき!受けて立つでござる!」
薬子はメタルが好きなこともあり、このジャンルにもいくぶん通じていた。
(先生ってバンギャだったのかな?なんか意外ー。昔の写真とか見てみたいな。)
帰宅後、郁子はベッドでゴロゴロしながら宿題に取り組む。
いろいろ聴いてみたけど、みんな格好いいじゃん。
テクニックもすごいし、お化粧も艶やかでいいじゃん。
ルナシーや黒夢もいいけど、ラルクはほんとやばいねこれ。
たぶんなんだけど、神に愛されてる人たちって感じがする。
特にこれ、この曲。私の薬子への想いにもぴったり重なるし。
歌詞だけ見ると一見女々しいのにポジティブなエネルギーすご。
なんだか、ヨハネがキリストを待ち焦がれてるような歌だよね。
ああ、最高ですわ、最高ですわー!高まってきましたわー!
シスター紅葉の思惑に、ばっちりはまっていた郁子であった。
イメソンはもちろん、ラルクの「flower」でございますわー!
https://youtu.be/Tj4aN-JxA7M?si=yuDC5fkB6Fbl1zMh
休日に自宅でくつろぐ紅葉先生のビジュアルイメージですわー!
https://www.pixiv.net/artworks/125207741