トーキング・スキンヘッド
ちーがーうーだーろー!
紅葉先生は、文系クラスの授業を始めるところだ。
「はい。今回は私と一緒に偉大なるゲーテの名作、
『若きウェルテルの悩み』を読んでいきましょう。
ドイツ語原文、和訳、英訳、フランス語、ラテン語。
これらに並行してふれていくスタイルでいきますよ。
和訳と英訳以外はなんとなくの理解でかまいません。
西洋言語の多面性にふれながら楽しく学びましょう。」
「………。」シュバッ
ここで郁子は、ここぞとばかりに勢いよく手を挙げる。
(おいおいおい、こいつきたわ…。)
紅葉響子は内心で戸惑った。郁子は語学については
学内でも全国でも首位や一桁順位の常連と優秀だが、
それなのに志望校には意識低い系でやや扱いにくい。
授業への積極性は高いがしばしば話が脇道にそれて、
善意の妨害になりがちだ。ピュアな不良って感じで。
お前もうアカデメイアかリュケイオンにでも行けや!
そんな心の声をグッと抑えて、紅葉は優しく応じる。
「三条さん、どうしたのかな?まだ授業は始まっても
いませんけど。なにか質問したいことでもあるのかな?」
「先生!先生はどうして、ウェルテルの悩みばかりを
取りあげるんですか?他にもっと悩んでいる人だって、
いるかもしれないのに。ウェルテルは特別なんですか?
そんな恵まれた人はほっといて、今日は私がノートに
書きとめた人の悩みを聞いてあげることにしませんか?
題して、『若き董卓の悩み』!これでどうでしょうか。」
(董卓って散歩しただけで周りが死体になるような
リアルガチ大魔王じゃん。あいつに悩みなんてある?)ざわ…ざわ…
にわかに、クラスには困惑と動揺の空気が広がった。
「三条さん。深い心の闇に想いをはせるのはとても
尊い心がけですね。先生もいいことだと思いますよ。
でもね、いまは三国志を勉強する時間じゃないのよ。」
「先生!先生は董卓なんてどうだっていいんですか?
彼は人知れず若ハゲに悩んで、仲間にバカにされて。
それで闇堕ち大魔王になったのかもしれないんです。
本当はさわやかな黒髪ロングにしていたかったのに。
悩みに悩んで弁髪にすることで気持ちをごまかして。
それであんなに荒ぶってたのかもしれないんですよ!」
ここまで聞いて、ついに紅葉の心の糸が切れてしまう。
聖女で初のスーパーサイヤ人に変身してしまったのだ。
「私は!私は!偉大なるゲーテの!偉大なる名作の!
話をしているんだァァァァァ!うぉぉぉぉぉぉぉぉ!プツーン
ダイナマイト!プッシーキャッツ?オーイェイッ!?」フゥー
そう叫びながら卒倒して、保健室に運ばれたのだった。
こうして、授業は自習の時間になった。やれやれだぜ。
イメージソング。
Blankey Jet City「Dynamite Pussy Cats」。
https://youtu.be/bdle8goRvJc?si=0EhYZkpHrJ-nWtMi
ちな私の三国志観は全面的に蒼天航路準拠です。
https://dic.pixiv.net/a/%E8%92%BC%E5%A4%A9%E8%88%AA%E8%B7%AF




