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変態砂漠  作者: うこakl
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プロローグ

読んでくださりありがとうございます!

少し下ネタが出ますのでご了承ください。

「や……血が……ねえ!」


 虚ろ虚ろに声が聞こえた。 麻酔が効いているせいか、手足の感覚がない。 ふわふわと宙に浮いているような感覚の中で、微かに、聞こえる声だけが耳に残った。

 

「血が止まんねぇ! 死んじまうぞ! やべぇ!」


 激しい動揺が感じられる声をよそに少年はワクワクに心を弾ませる。


 ようやく行けるんだ……夢にまで見た砂漠に……



  ―――――――――



 物語の始まりは一週間前まで遡る。

 少年は大好きな場所……日本で一番大きい砂漠地帯、鳥取砂丘で寝転がって日向ぼっこをしていた。 少年の名前は春成 裸物(はるなり らもん)。 ここ鳥取砂丘でホームレスをしている十四歳の少年だ。 唯一の肉親である父親は一年前に飛行機事故で亡くなってしまった。 裸物と一緒に本場の砂漠に向かう旅の途中での出来事だった。 父の死も悲しかったが、なにより砂漠に行けなかったことが裸物はたまらなく辛かった。 焦らされた裸物はせっかくの機会なので一番大好きな場所、大好きな父との思い出の場所でもある、ここ鳥取砂丘で暮らすことにした。 学校の友達や、父の友人、近所のちびっ子にも別れを告げずにやってきたので裸物は正真正銘のひとりぼっちだった。でも裸物はこれっぽっちも辛くなかった。


「はぁ、最高だね」


 裸物は頬を緩ませながら呟く。 大好きな砂漠に囲まれながら暮らす生活は裸物にとって最高に楽しかった。 暖かい日差しと砂の床、夜には肌を鋭くつつく冷たい風……すべてが気持ちよかった。 町で拾う虫も、鼻が曲がりそうな悪臭を放つ残飯も辺り一面茶色一色のここで食べれば最高のごちそうだ。砂漠は最高のスパイスだ。 だがそんな充実した生活を堪能する裸物にも一つだけ心残りがあった。


 本場の砂漠に行ってみたい。


 学者だった父に何度も聞いた、砂漠の話。 父は歴史学者でよく裸物に話を聞かせてくれた。 歴史の話はまったく頭に残らなかったが、砂漠の話だけは別だった。 鳥取砂丘よりも何万倍も広い砂漠、過酷な環境に、珍しい生き物。 心の底からワクワクしてくる砂漠の話。 飛行機事故で行くことが叶わなかった本当の砂漠。 


「あぁ! 行きたいよー!」


 裸物は抑えきれなくなった気持ちを空に向かって叫ぶ。 


「お金が欲しいよー!」


 今、一番欲しいものを叫ぶ。

 お金、お金さえあれば砂漠に行ける。お金さえあれば飛行機に乗って寝て起きたら、砂漠に着く。裸物はそう考えていた。正確な金額は分からないが百万円あれば行けるはず。 裸物にとって百万円という額はなんでも買える、どこにでも行ける、まさに魔法の金額だった。

 だけどホームレスの裸物がそんな大金を持っているはずもなく、最近はどうやってお金を手入れるかと頭を悩ませていた。

 そんな悩む裸物に陽気な声がかかってきた。


「おーい! 彼女ー! なーに一人でたそがれてんのーー」


 裸物は半身を起こし声の主に目を向ける。そこには二人組の男がいた。笑顔の二人組は手を元気に振りながら裸物に近づいてくる。

 ちなみに裸物は彼女ではなく男だ。 だが顔つきはどちらかというと女性的だ。 むしろ顔だけ見ればかわいい女の子にしか見えない。 父が亡くなった一年前から髪を切っていないので、髪は女の人のように肩まで伸びていた。 ホームレス生活の影響で黒い髪はぼさぼさで腐ったイカ墨パスタのようになっていたが、遠目で、髪の長さだけを見れば女の子だと勘違いされるのは当然だった。

 学校に通っていた時も今より髪が短いにも関わらずよく女の子だと勘違いされていた。だけど裸物は特に気にしていなかった。


「一人ならさ、どう俺たちと一緒に遊びにいか……」


 近づいてくるにつれ男達の声が詰まっていき驚愕の表情に変わっていった。


「おぼぼえええぇ! く、くせぇ!」


 一人の男が両手で口を押えてうずくまる。 もう一人の男がすかさずにうずくまる男を隠すように前に立つ。


「あーこぉ……ッ! ご、ごめんね、俺たち用事があったんだったーごめんねーー」


 顔色を真っ青にした男たちは速足で裸物から離れていった。


 裸物のかっこはどこからどう見てもホームレス……浮浪児そのものだった。 大きな穴があちこちに空いて膝小僧が丸見えになってるぼろぼろの黒ジャージのズボン。これでもかと汚い色を混ぜ込んだようなゲテモノ色……それを下地に砂で茶色に汚れたTシャツ。加えて鼻が捻じ曲がるような悪臭。

 裸物も最初こそは汚れや、匂いに嫌々して水浴びで体を洗っていたが、そのうちめんどくさくなってしなくなった。 今では砂漠を生きる男の誇りある汚れだと思っている。



「もったいないな……あんなに可愛いのに」


「綺麗にしたらきっと高く売れるよなー」


 立ち去る男達の小言が裸物の耳に入る。


 ……高く……売れる?


 裸物は自分の汚れた体をまじまじと見る。 

 そういえば、小学生の頃、友達がこんなことを言っていた。


『小指を売れば十万円! 肝臓売れば百万円! 脳みそ売れば八百万円手に入るんだよーー』


 裸物の脳みそに大きな衝撃が走る。

 なんにもないホームレスの裸物が百万円を手っ取り早く手に入れる方法を思いついた。


そうだ! 売ればいいんだ! 自分の体を! よし売ろう! これで砂漠に行ける!


 そう決めた裸物の行動は早かった。 すぐに人が沢山いる町に向かって走った。 体のどこを売ろうか悩んだが、結局きんたま二つを売ることに決めた。 指は砂漠の生活に必要だし、肝臓も失うと物が食べられなくなりそうだから無理、脳みそは言わずもがな。 失っても砂漠の生活に困らない部分……よくよく考えたらちんちんについてる【きんたま】っていらなくね、って思い裸物は決めた。


「俺のきんたまかってくれーー!」と叫び、買い手がいなかったら次の町へ、そんなこと繰り返し、ついに大阪で目当ての人物と出会うことができた。 黒いスーツに怪しさの隠しきれてない黒いサングラスとマスクをつけた大人だった。 【きんたま】だけでは売れないので【ちんちん】を丸ごとでどうだと提案された。 おしっこは問題なく出来るよと言われたので裸物は首を元気よく縦に振った。 値段は五万円。百万円じゃないのかと不安に思ったが、五万円もあれば海外に行って遊んで暮らせるよと言われたので裸物は快く承諾した。




 裸物がきんたまを売るために鳥取砂丘を飛び出した日から一週間、遂に手術が始まった。


 そして手術に失敗した裸物は死んでしまった……

春成(はるなり) 裸物(ラモン)

結構真面目に考えた名前なんですがどうしても脳裏に某お笑い芸人が浮かんできて書いてる途中で何回か笑ってしまいました。

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