わたくしって、やっぱり天才。
「あんな男と結婚するくらいなら、死んだ方がマシね」
わたくしは、イェリーベル・シルターナ。なんとか成人までにクズ男との婚約を破棄するべく、コソコソと作戦を立てている12歳のしがない公爵令嬢だ。
わたくしがどこかへ行方を晦ませば、婚約は自動的に解消せざるを得なくなる。それが出来れば、楽なのに。
1番簡単な方法を思い描いてみたとて、父が公爵家の力を使って国中を捜索する未来しか見えない。
わたくしが幼い頃に母親が亡くなったせいか、父は過保護気味だ。心優しき父にそんな心配は掛けられない。それに、生まれてこの方、領地以外の土地に足を運んだことの無いわたくしには、父にバレないよう他国にまで逃げるツテも体力も全くないのだ。まぁそれはもとより、今まで散々貴族としての恩恵を受け取ってきたのに、責任だけを放棄するなんて許容し難いことをするつもりも無いけれど。
わたくしは、生まれ育ったこの領地と、どこまでも活気溢れる領民たちを愛している。たとえ最終手段として表向きには姿を晦ますことになったとしても、生涯この領地の発展と未来に貢献し続けたいという想いは変わらない。そのためには、過保護な父の協力は必須なのである。
それにしても、公爵家にも王家にも利益のあるこの婚約だ。シルターナ公爵家には子供がわたくし1人しかいないため、結婚したあとに第三王子が公爵位を継ぐことになる。王族との婚姻も決して珍しくない高位貴族であり、王都よりも豊かな我が領地。甘やかされたせいで頭は緩いが、しっかり者のわたくしが支えれば、公爵としてやっていける。公爵家も、傍系ではなく直属の王族の血を取り入れることで、さらに箔が付く。そんな、心底くだらない打算のもとで成立した婚約なのだ。
性格の不一致による婚約解消など穏便な方法を目指していては、どんな問題ももみ消されて、なし崩しに結婚させられる可能性が大きい。やはり、狙うは婚約破棄一本のみだろう。それも、わたくしの過失はなるべく軽く済む方向で、殿下の過失による破棄に導く必要がある。
――う〜〜ん、もう気が狂った振りでもする?いや、あの男が狂った女など嫌だとごねても、良くて婚約解消にしかならないし、ましてやその後正気に戻ったとしても、きっと今は割と自由に過ごさせてもらっているわたくしへの監視が強まってしまう。下手したら、心配のあまり二度とこの家の敷地内から出してもらえなくなるかも。あの男のせいでわたくしが幽閉されるなんて、本末転倒もいい所じゃない。これは却下だ。
となると、やはり貴族としてのイェリーベルを消して、平民として過ごすか。その方法は色々考えつくけれど、どれも実現不可能ではない。まぁ、父の協力が必要ってことは変わらないけれど。
どんな立場で生きていくことになろうとも、学院で学ぶ知識は有用な力となるだろう。だから、非常に不本意ではあるが、とりあえず3年後にあの男と同学年で入学しておいたほうがいい。となると、やはり入学前にいくつか種を蒔いておかなくてはならないわね…
あの愚物の弱点といえば、美しい顔と豊満な体つきの女だ。あぁ、またあの時のことを思い出してイライラしてきた。この無駄に発育のいい胸のせいで、あんな男の婚約者に名指しされることになったのよ…!
……いいえ、落ち着くのよイェリーベル。わたくしのお胸は何も悪くないわ。悪いのは全部、婚約者を顔と胸で決めたくせに何故かそれが国のパワーバランス的にも最適な家の娘だったという最低にして最悪の凶運を持つ脳内空っぽバカ男の方よ。八つ当たりしてごめんなさいね、わたくしのお胸。
……あぁ、話がズレてしまったわ……ええ、そうそう、直ぐに女を侍らせるあの男の弱点を攻めるのが、1番効率的で最適な解決策に決まっている。
それなら、わたくしよりもっと豊満なボディを持つ女性に殿下を籠絡してもらって、嫉妬に狂った婚約者がその女性を影で虐めている、という噂でも流せば、薄っぺらい正義感に駆られたあの男から婚約破棄して貰えるのでは…?
……いいえ、わたくしの願望のために女性を1人不幸へ導くなんて、身勝手が過ぎるわね。あんな男に言い寄られる被害者は、わたくし1人で十分よ。
うーーん、それなら、いっそのこと…
「あ」
素晴らしい、この上ない妙案を思いついてしまったわ―――
ふふっ。
まずは、好きに使える資金を増やすところから始めなくては。今の元手で投資可能な組織だったら、将来性が最も大きいのは、やはりシファー海運かしら?実際に動くとなると、まずは信頼がなければならないから、街へ降りる頻度をもっと増やさなくてはね。今まで足を踏み入れたことはなかったけれど、あそこにもツテがあった方がいいわ…あぁ、それから、よく街を見渡して、良い子が居れば目星をつけておこう……
これから忙しくなるわね。
わたくしって、やっぱり天才。