表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
へっぽこ勇者の現代冒険譚  作者: 結城ケイスケ
2/6

邂逅

「お迎えに上がりました。勇者様。どうかエレスタイン王国をお救い下され。」

堂に入った麾下の礼とその発言は、現代日本の何の変哲もない、むしろ狭いくらいの部屋にはあまりにも不釣り合いだった。


「・・・・・・」

部屋に沈黙の時間が流れる。気まずさに身じろぎしていると、ローブに身を包んだ老人ががばっと顔をあげた。


「どうか我らをお救い下され!!」

あまりにも真剣な表情に気圧されていると、魔法使いと思しき男は早口で自分たちの窮状を捲し立てた。


「我らエレスタイン王国は昔日より人類の守護者として人々を魔物の脅威から守ってまいりました。しかし、近年強大な魔王が誕生し、その圧倒的な力に成すすべなく追い詰められております。このまま我らが滅びてしまえば、世界は魔物に支配された暗黒の世となるでしょう。どうか勇者様のお力を魔王討伐に貸してくだされ。」


うんうん。わかるよ。大変だよね。

僕だって力を貸すのはやぶさかではないんだ。魔王とだって戦ってみせよう。

ここが現代日本じゃなかったらね。


「あのー、、、」

僕は恐る恐る声をかけてみる。


「はっ、何なりとお申し付けくだされ。」

魔法使いはそういって再び麾下の礼をとった。


「いや、あの、その、あなたの王国が大変なのはわかったんですけど、それならなんでこっちに来たんですか?僕を召喚すればよかったんじゃないですか?」

「何をおっしゃっておるのですか、勇者様を召喚できるほどの召喚術師など存在するはずがございません。そもそも召喚術とは召喚した獣を使役するもの。自分よりはるかに強い勇者様をどうして使役できましょう。」


なるほど。そうなのか。

「そうなんですか。それで、あの、力を貸すのは別にいいんですが、あなたの世界にはどうやって行けばいいんでしょうか?」

「わしには人二人を転移させるほどの実力はありませぬ。座標はこちらで案内しますゆえ、勇者様のお力でわしと共に転移してくだされ。」


えっ。転移なんてできないんだけど。

もしかして何か力が付与されているのか。何も感じないけど、、、。


「あの、すみません。転移ってどうやってやるんですか?」

「えっ?」

老魔法使いは目を丸くした。

再び気まずい沈黙の時間が流れる。


「勇者様は転移をお使いにならない?」

魔法使いが恐る恐るといった調子で尋ねてきた。

「はい、転移どころか魔法の一つもわかりません。ここは現代日本なんで・・・。」

「なんと!!!?」

老人は白目をひん剥いて驚愕の意を露わにした。

「それではどうやって勇者様を我らの世界にお連れすればよいのですか!?」

「それはこっちが聞きたいんですが・・・。」


そういうと魔法使いはうーんとうなったきり静かになってしまった。

僕は身じろぎすることもためらわれてただその場で突っ立って待つ。

「わかりました。1ヶ月下され。その間に勇者様を我らが世界にお連れできるよう、2人同時転移の魔法を習得してみせましょう!!」

そう決意に満ちた表情で言い放つ。


おお。その手があったか。俄然僕もやる気が湧いてきた。一か月で憧れだった異世界に行って勇者となるのだ。


「ちなみに、向こうの世界に行ったら特別な能力とか付与されるんですか?それとも勇者専用武器があるとか?」

「何をおっしゃっておるのですか。勇者様に力を与えられるほどの付与術師も、勇者様の使用に耐えうるような武器も存在するはずがないではありませんか。我らの言い伝えによれば、暗黒の迫るとき異界から現れし勇者は、山をも砕き、海をも割る力を持っていたといわれております。そのような力を前に、どのような武器が役に立ちましょう。そのようなお力を持ってすれば魔王など恐れるに足りません。」


その世界の勇者ってそんなすごいやつなのか。規格外だな。

「あの、じゃあその力ってどこで手に入るんでしょうか?」

「すでにお持ちなのではないのですか!?」

またもや驚かせてしまったらしい。驚きのあまり卒倒しそうになりながら老人は杖にしがみついた。

「誠に失礼ながら、勇者様はどのような力をお持ちなのでしょうか?」


んー。力って言われたってなあ。特になんもないぞ。

いや、あれならあったか。


「バウバウ、グルル、わんわん、キャウン。」

最初からシベリアンハスキー、ブルドック、柴犬、チワワだ。

何度もやらされるうちにすっかり得意になった、やたらリアルな犬の声真似を僕は披露した。


「・・・・・・・」

老人は目をひん剥いて絶句している。

どうやら滑ったらしい。


「あー、特技は犬の声真似なんだけど、これじゃだめだよね?」

恥ずかしさを紛らわすように頭をかきながら、苦笑いを浮かべる。


「なんじゃそりゃー!!!」

僕の部屋に老人の絶叫が響き渡った。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ