異世界召喚されると思ったら魔法使いがこっちに来ちゃったんですけど・・・
目の前に映る景色は何も変わらなかったけれど。
それでもやっぱり、あの日を境に僕の世界は変わった。
勇気を出せば世界はいつだって冒険や感動に満ちている。
そう、これは僕の異世界転生物語。
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本やアニメ、ゲーム画面の向こうの世界にはいつだって希望が満ち溢れている。
ワクワクするような冒険。称賛や栄光。かわいい女の子たち。仲間がいて、いろいろな困難を共に乗り越えて。
そして最後には必ずうまくいく。
なんてすばらしい世界だろう。
それに比べて現実はどうだ?
力が強いものが我が物顔で幅を利かせている。心根が優しくて正直なものは冷たくあしらわれるばかり。
なにも思い通りになりやしない。
女の子はろくでもないやつばかりに群がってるし、友情なんて紙っぺらのように薄っぺらくて、その場限りの関係だけ。
ただ毎日焼き増ししたような生活が繰り広げられるだけ。
「はあ。生まれてくる世界を間違えた。」
僕はすっかり口癖になってしまった愚痴をひとりでに呟いていた。
僕は普通の高校生。いや、普通以下か。
クラスではイケイケグループのいじられ役になっているカースト最底辺だし、女子からは馬鹿にされている。
つるむ仲間はいるけど僕がどんなにおもちゃにされているときだって決して助けてくれやしない。後になってあいつらむかつくよなと陰口をたたくことしかできない僕と同じような負け組。まあ僕も助けないだろうしお互い様か。
勉強はできないし運動もできない。
小説の主人公によくあるように実はイケメンでしたなんてこともない。普通に不細工だ。
ていうかイケメンだったらこんな暗い性格にはなってない。
好きな女の子はいて、その子と一緒にいられるときだけは人生に光が差したような気がするけど、半径100mくらいの距離感だ。遠くから見つめるだけで話しかけるなんてできやしない。
母親は勉強しろってうるさいし、授業は退屈だし、何にもいいことない。
唯一僕が安心していられるのは物語の世界の中だけ。
その中では僕は最強の勇者で、かわいい女の子たちに囲まれていて、自分を見下してたやつらを見返してやれるんだ。
「俺も異世界転生したら人生変わるのになあ。」
そんなのありえないってわかっちゃいるけどそう思わずにはいられなかった。
そんなとりとめのない物思いを部屋の中で一人していた時。
突然ごうっというすさまじい風が部屋の中に吹き荒れた。机の上に散らばっていたプリントが吹き上げられて宙を舞う。
そして足元にはまばゆいばかりの光を放つ魔法陣が現れた。
思わず目をつぶる。
部屋の中のごうごうと鳴る風の勢いはどんどん強くなっていく。
立っているだけでやっとなくらいだ。
「これって、これって、もしかして!」
突然身体がふわっと浮いた気がした。
それを境に風の勢いはだんだんと収まり、最後に紙がひらひらと舞い降り床にそっと着地する音が聞こえた。
期待に胸を膨らませ、恐る恐る目を開ける。
そして、そこに映った景色に、僕は絶句した。
クリーム色の壁紙。雑然と物が散らばっているがっしりとした木の机。漫画やライトノベルの詰まった本棚。
「自分の部屋じゃねえか!!!」
思わず怒鳴った。
なんだよ。なんだよこれ。めちゃくちゃ転生っぽかったじゃん。すげー期待しちゃったじゃん。
なのに自分の部屋って。上げて落とすのも大概にしてくれよ。
それとも妄想がひどすぎて頭がおかしくなったのだろうか。風の感触とかすげーリアルだったんだけど。
がっくりと肩を落としながら振り返ると、そいつはそこにいた。
いや、なんかいた。
思わず二度見する。
純白のローブに身を包み、肩をすっぽり覆うようなゆったりとしたロマンスグレーの髪をたなびかせ、胸元まで届くような豊かな髭を蓄えた男。
顔には壮年の厳しさが刻まれ、いかめしい顔には鋭い目がらんらんと光っている。
手には複雑にねじ曲がった木の杖が握られてる。
まさに大魔法使いといっても過言ではないような容貌と風格。
その男が優雅に跪くと大きな声でこう言い放った。
「お迎えに上がりました。勇者様。どうかエレスタイン王国をお救い下され。」