04 ご使用は、計画的に
次の日。カオリはいつものように、昼食の後毛布の山の中で昼寝をしていた。
「ミス·カオリ、いらっしゃるか!」
「なんですか、人が寝てる時に……」
「あなたは言ったはずだ。私がこの店の本を全て買い取れば、結婚してくださると!」
「……え? 買うの?」
カオリは思わず、敬語を忘れた。
男は得意そうにし、
「家の財産を全て売り払って、この店の本を全て買えるだけの資金を作り上げたんだ。全てはあなたと結婚するために!」
「はあ」
確かに男は前よりもみすぼらしい服を着ていた。
「買った本はどうするんです? どうせお読みにならないのでしょう」
「図書館に寄贈するさ。きっと、素晴らしい魔術師達が生まれるだろう」
そして男は、紙を差し出した。
「さあ! 婚姻届にサインを!」
カオリはしばらく、紙を眺めていた。
そして、またもやニッコリと微笑んで口を開いた。
「申し訳ありません。言い忘れていたことがあるんです」
男は、戦々恐々とした顔で続きを待った。
「実は、この店の地下に、まだ10倍の在庫の本があるんです」
男は、冷や汗を流しながら聞いた。
「……それも買えと?」
「はい。条件は、この店の本を『全て』お買いになることですから」
男は崩れ落ちた。
と、店の入り口から、屈強そうな男達が、2、3人入ってきた。
「おら、てめえ、借金返せ! 用は済んだんだろ!?」
「全部返すまで、寝る暇もないくらい働いてもらうからな!」
「ま、待ってくれ、私は……」
男はとうとう、カオリに名前を伝えることもなく、男達に連れ去られた。
借金までしてたんだ、とカオリは少しかわいそうに思ったが、金を受け取ったわけではないので、すぐに解放されるだろうと思い、男のことは忘れることにした。
それにしても、バカみたいに価値のある魔道書を、カオリの雇い主であるガジェットさんはどうやって仕入れてくるのか、カオリは不思議に思った。
ガジェットさんいわく、
「散歩をすると、本が落ちているから、拾っているだけ」
らしかった。
いまいちわからないが、本人がそう言うなら、そうなのだろう。
カオリは、あくびをして、毛布に再びもぐり込んだ。
今日もカオリは、やる気のない店番ライフを送っている。
(続く)
お読み頂きありがとうございました。男の名前はいつか出せたらいいな、と思います。