00 薬店
この物語はフィクションです。
飲酒・グロテスクな表現等が含まれています。
――ここは華国と呼ばれる国の少しだけ北の方。
農地に囲まれた小さな街の昼下がり。
多くの商店が立ち並ぶ通りに行き交う人は多い。
街道に面しているせいか、良く賑わっている。
しかし、その商店の中の一つ、薬店から聞こえるのはそういった賑わいではないようだ。
小さいながらも歴史を感じさせる古びた店構えの中から、中年の男と少女の騒がしい声が聞こえてくる。
店の前には何事かと様子を窺う野次馬達の姿。
「黒ちゃまはね、忙しいから! これ以上お薬を作るのは無理だからー!」
「待って! ちゃんとお金は上乗せするから!」
「無理無理! また今度ねー!」
取り付く島も無い声の後、白い影が野次馬を割って薬店から飛び出す。
「ちょっとランちゃん! そう言わずに! お兄さんに頼んでおくれよ!」
つられて薬店の店主も店先に飛び出すが、既にそこにランと呼ばれた少女の姿は無い。
店主は喧騒を覗いていた野次馬達に視線を送ると、皆が指差したのは民家の壁の上を器用に走り去る小さな背中だった。
「ああもう、また逃げられた……。」
店主は、がっくりと肩を落として店へと戻っていった。