内職de財産
「どう?これ、高価そうじゃない?」
私は、手の平に乗せた銀色に輝く丸い粒を爺さんに見せた。
すると、爺さんは腰を抜かさんばかりの勢いでそれを凝視し、興奮気味に呟いた。
「これは……銀塊の破片か……っ!」
違う。
正確に説明すると『家庭用アルミホイルを極限まで丸めて磨き上げた結果、なんか神々しくて高そうな丸い塊ができました。小学生時代の私の経験が生んだ偶然の産物だよ☆』だ。
小さい頃ハマったこの無意味な暇人の遊びが、まさかこんなところで役に立つとは……。
「これ、売れそう?」
「売れるも何も!こんなものが沢山あれば、うちは大金持ちじゃ!!」
★★★
私はおばあちゃんに居候を許されてから、どうにか食いぶちを稼ぐ方法はないかと必死に考えていた。
そこで、先日の事故現場から自分の引っ越し荷物をあさり、ろくなものが無い中考えた案がこれだ。
はっきり言って金目のものなどほとんどなく苦肉の策だった。
しかし、この厨ニ的な作業の産物。
なんの因果か……爆発的に街で売れまくったのである。
「これは……新しい鉱物かもしれん!」
「なんとまあ、見事な精錬技術だ」
「どこから発掘したのか教えてくれ!!」
爺さんは皆に詰め寄られて困るくらいだった。
私は「竹からザクザク出てきたとでも言っとけば!」と言い捨て、おばあちゃん、菊と共にアルミホイルを丸める作業に勤しんだ。
お陰で周辺の竹は村人に伐採されまくって景観がさっぱりしてしまった。
三人でアルミホイルをちびちびと丸め、磨くというシュールな作業が板についてきた頃、私たちはちょっとした財産を築くまでになっていた。
☆★☆
「これより、竹取家、家族会議を開きます」
私はお爺さん、おばあちゃん、菊を前に高らかに宣言した。
「議題、これからの住居について」。
お爺さんの家にお世話になってから数カ月。銀玉のおかげで食べるのに困ることは無くなったけれど、なにせ4人で住むにはこの家は狭い。そろそろ引っ越しを考える時期だろう。
顔に大きな青タンをたたえたお爺さんが挙手して言う。
「はい。この家で別に充分だと思います」
「却下。爺さんは黙っていて」
元はと言えば、爺さんが私の着替えをのぞく頻度が酷過ぎるのが問題だ。このまま痴漢行為が繰り返されれば、私はお年寄りを殴り殺すと言う惨劇を起こしかねない。
それに、おばあちゃんと幼い菊を隙間風の無い良い家に住まわせてあげたい。お金に余裕が出てきたのだから。
「私さ、前から思ってたんだけど。都にでたらどうかと思うの」
しばらく温めていた案を、私は発表した。
「都?」
おばあちゃんが目を丸くする。
「そう。都に屋敷を建てて、皆で暮らそう」
しばらく暮らしてわかったのだが、この土地は生活の便が悪すぎる。都までそう遠くないけれど、なにせ移動手段が徒歩しかないので買い物ひとつままならない。
あと深刻なのは最近の竹林事情。アルミホイルで錬金する時「竹から銀玉ザクザク説」のデマを適当に流した結果竹林は禿げるくらい伐採されまくった。これでは、竹取りを仕事としていた爺さんが無職になってしまう。
それに、
「……」
今だ言葉を一言も発しない菊。
最初は魂が抜けたように感情がなく何をしても無反応だった。しかし、共に銀玉を丸めながらご飯を食べ、時々遊ぶという何でもないが普通の生活を続けていくうち、少しずつ気持ちが顔に現れるようになっていた。体調については詳しくわからないけれど、いい方向に向かっている気がする。
都会に行ったら何か根本的な治療?の方法を知る人間がいるのではないか。
それに―――― 一つの仮説が私の頭に浮かんでいた。
「ねえ、菊。都の御屋敷でお姫様になりたくない?」
そういわれて菊は不思議そうに首を傾げた。
そう、菊に自覚はないけれど……菊は、菊は本当はかぐや姫ではないだろうか。
私は確信に似た思いで菊を見つめる。
きっとそう。これまでの経過を振り返り改めて思う。
ここらの竹林は散々伐採されまくった訳だが、一向に姫が出てきた話は聞かない。
つまり、竹取りの翁は竹からかぐや姫を発見できなかったのだ。
ならばかぐや姫がいなかったかというと、そうではないと思う。
竹取物語は伝説の域を超えない。けれど、私がタイムスリップしたことを鑑みると大概のフィクションは現実になりえる。かぐや姫はいる。いると仮定してサクセスストーリーを自分たちで作ったら良いのだ。
正確にはかぐや姫をモデルとした物語を私たちがなぞれば、それは実話として後世に語り継がれていく。伝承竹取物語をリアルに再現すればいい。都に出て公達無双をするのだ。
つまり、菊がこれからかぐや姫となる、と。
そういうことだ。
「ねえ、おばあちゃん。住み慣れた土地を離れるのは寂しいかも知れないけれど、私が働いて楽をさせてあげるから。みんなで引っ越そう」
菊がかぐや姫にならなかったら、それはそれでいいと思っている。
ただ、私自身、未来に帰る術がないのならば、皆の為にも現実的に生きていく方法を模索しなければならない。
この世界で私は何のスキルもない。けれど健康な体はある。
都に行けば職も多いだろう。何とか仕事を見つけて細々暮らしながら、お世話になったおばあちゃんにささやかな恩返しをしていきたい。
「そうだねえ。お前さんもいい年頃だしね。都の方が嫁の貰い手もつくかもしれない。べっぴんさんがこんな田舎に埋もれていてはかわいそうだ」
おばあちゃんはこの期に及んで私の心配をしている。今まで苦労したんだから、これからは自分の事だけ考えて都で派手に遊べばいいのに。
私はしわくちゃのおばあちゃんの手をじっと見つめる。
大丈夫。今度は私が頑張っておばあちゃんに贅沢させてあげるから。
私はおばあちゃんに微笑みながら、未来では出来なかった祖母孝行を密かに誓うのだった。