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【1:地味スキルしかない俺は、パーティを追放される】

「アディには、このパーティから脱退してもらおうと思う」



 ギルドに併設された酒場での、今日のクエストの打ち上げ。

 突然リーダーの【重剣士】ドグラスが重々しく口を開いて、そう言った、


「えっ!? 俺が脱退……? 何で?」


 一瞬、聞き間違いかと思った。


「お前は剣士だが、ほとんど剣士としての役割を果たしていない。俺たちに比べて弱すぎて、剣士のくせに最近はずっと後衛だ」


 ドグラスは大きな身体で俺を見下ろしている。

 全然、聞き間違いなんかじゃなかった。


「だよねー、ドグラス。俺たち3人の成長に、アディはまったくついてこれていない」


 【黒魔術師】フォスターは狐目を嫌らしく細めている。

 そして鼻をフンと鳴らした。


「ほら、フォスターもこう言ってるぜ、アディ。何か反論は? ……まあ言い訳の余地も無いだろうがな」


 【白魔術師】マリリアットは、目を丸くして言葉を失っている。


 俺以外の3人はパーティ結成から1年でAランクまで上がった。

 しかし俺は当初のDランクのままだ。


 俺も彼らと同じクエストをこなし、経験値を積んでいるはずなのに……なぜか俺の剣士としての実力は、ほとんど上達していない。


「俺はみんなと比べ、確かに戦う能力は完全に劣っている。でも……武器が折れる度に、何度も俺が【接着】という特殊スキルで直してきたじゃないか」


 そう。俺は子供の頃から、気づいたら【接着】という特殊なスキルを身につけていた。

 折れた物、割れた物を、手で触れて念じるだけでくっつくけることができるスキルだ。


 俺たちは貧乏だから、全員が武器や防具も、安物を長年使い込んでいる。


 ドグラスのサーベル、フォスターのマジックワンド、マリリアットのロッド。

 みんなボロボロで、何度も折れては俺が修理している。


 だから【接着】は超地味スキルなんだけど、武器修理だけには地味に役立っている。


「ああ、そうだな。だがそれがどうした? お前の役割は道具屋か?」


 いや、俺は道具屋になるつもりなんかない。

 俺がなりたいのは、強い冒険者だ。


「いいか、アディ。俺たちは既に、高難度のクエストを難なくこなせるようになった。今日の魔物討伐報酬なんて、100万ジルだぜ! 金も貯まって、新品の高性能な武器が買える。つまり、お前の接着スキルなんて、もう無用の長物ってことだ」


「あ、いや……フォーメーション指示だって、俺がやってるよな?」


「はっ? 確かにやってるが、それがどうした? フンっ! あんなのは、なんの足しにもなっていない!」


 ドグラスは鼻でせせら笑った。

 被せるようにフォスターも笑う。


「ははは、ドグラスの言うとおりだ! 俺もドグラスも、お前の指示なんか無視してるけど、何の問題もなく魔物を倒せるんだよ!」


  二人が言うのはもっともだった。

 確かに俺の指示を無視して動いても、パーティーは連戦連勝だ。


 ドグラスの物理攻撃とフォスターの魔法攻撃は凄まじい。

 それにマリリアットの強力な治癒魔法。


「なんならアディ。お前を道具係で雇ってやろうか? 月給1万ジルでな。クックック……」


 そんな薄給で?

 さすがに俺の価値をそこまで低く見られていたとはショックだ。


「断わる。俺がなるのは道具係じゃない。俺がなるのは、冒険者だ」


「じゃあ決まりな。お前はクビだ! お前には才能がないんだ! カッカッカ」


 嫌らしく笑うドグラスに、マリリアットが横から助け舟を出してくれた。


「ちょっと待ってくださいよ、ドグラスぅ……私たちのパーティには、やっぱり剣士は必要ですよぉ……」


 唯一マリリアットだけが味方をしてくれた。

 彼女は童顔で、優しくおっとりとした性格。


 だがドグラスは、自信満々に言い返す。

 そう言えば昔から、自信が服を着て歩いているようなヤツだった。


「安心しろ、マリリン。実はAランクの剣士が一人、明日から新加入してくれることが決まった。Dランクのアディと違って、俺たちと同じ(・・・・・・)、Aランクの剣士だ。これからはもっと稼げるぜ、へっへっへ」


「えっ……? もうそんなことまでしてたんですかぁ? そんなの、アディがかわいそうですぅ……じゃあ、私も……」


「おっと、マリリン。じゃあ私も抜ける、なんて言わせねぇぜ。お前はウチのパーティに必要な人材だ。お前は聖女にまでなって、弟を喜ばせたいんだろ?」


「そ、それは……そうですけど……」


 マリリアットは困った顔をしている。


 彼女にはまだ幼い弟がいる。

 その弟は、マリリアットがAランクに昇格してクエストで活躍していることを、目を輝かせて嬉しそうにしていた。


 そうだ。マリリアットは、弟のためにもこのパーティを抜けるべきではない。


「ありがと、マリリン。でも、もういいよ……わかったよ、ドグラス。俺は抜ける」


「おお、それが賢明な判断だ。お前にも、それくらいはわかるようになったか。少しは成長したじゃねぇかアディ」


「そうそう。それがいいよな、アディ! まあ元々いてもいなくても変わらないんだし」


 くそっ、ドグラスもフォスターもいちいちムカつく言い方をしやがって。


 1年前に同じ孤児院の同い年4人でパーティを組もうという話が出た。

 強いドグラス達と組めば、俺も経験を積めて、強くなれるはず。

 ──そう思ったから、俺はコイツらと合流することを決めた。


 嫌な性格の二人だと知っていたが、共に冒険をすれば、もしかしたらお互い分かり合えるかも……

 なんて考えていた俺は、甘かったってことか。


 だがここまで言われるなら、もうコイツらなんかこっちから願い下げだ。


「じゃあ、今日の分の報酬をくれ」


「ああ。ほらよっ」


 ドグラスがテーブルの上に放り投げたのは、しわくちゃの1万ジル紙幣。


「なんだこれ? 今日の報酬はみんなで100万ジルだろ?」


「ああ、アディの働きなんてホントはゼロだけどよ。餞別代わりに、特別にそれだけやるよ」


「はぁっ!?」


 なんだコイツ。

 どこまで俺をバカにするんだ?


 苛立って言葉が出ない。

 ドグラスの憎たらしい顔を睨むことしかできなくなっていたら、突如俺を助けるような言葉が横から聞こえた。


「おいドグラス! セコいことを言うな! お前みたいなヤツらがいるから、私たち孤児院出身者みんなが歪んだ目で見られるんだ!」


 振り向くと、1年前まで俺たちの孤児院にいたキャティという女の子だ。


 赤毛のショートヘアで、やや吊り上がった猫目のレッドアイズ。

 小柄で細くて華奢な体躯。


 とても美人なのだが、他人を寄せつけないクールな雰囲気をいつも纏っている。

 孤児院でも孤高の存在だった女の子。


 そんな子が──俺のためかどうかはわからないが──いきなり声をかけてきたことに驚いた。

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― 新着の感想 ―
[一言] お久しぶりです!!作者様の作品が投稿されている→読むしかない!! 更新お疲れ様です。次回も楽しみにしています。頑張ってください。
[一言] 先生の新しい連載、わたしには見るの一択しかありませんw 楽しみです!
2020/05/20 13:24 退会済み
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