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トワルス


その夜、初めてシュンを部屋に呼び作戦会議をした。

「こんな感じでチームの情報を集めたけど、さすがに詳しいところまでは手をつけられなくて困ってるんですよねぇ……」

とどのつまり俺は時間なさに終われ情報を集めるのに限度があると理解し困っていたのだ。

「まずは7位のチーム、土井那珂・ユビシロンの事だな。ここはオーガ族が2人いるのはわかっていると思うが、年上の方のオーガ族のアワキロヌクは打率平均的だがホームランを打つことに長けていて厳しい球でも軽々とホームランにしてしまうからピンチの場面では最悪歩かせる事も考えていい。もう1人のオーガ族のアオヤックはインハイとアウトローを上手く使えば三振にできるが、甘いところに投げるとすぐにホームランにされるから細心の注意が必要だ」

細かい攻め方を教えてくれるのはありがたい。これも捕手をしているからこその視点なのだろうか。

「あとはショートを守ってるスカンセデオにも要注意だ。属性持ちではないが炎属性といい勝負の身体能力をしていて守備が固い。頭を越しそうな打球でさえジャンプでギリギリ捕る技術と体を持っている。できれば右打ちを心掛けたい。だが、体力や魔力がそれほど多くないらしく途中で交代することが多いから、打率は高めだがホームランは滅多にないから打席でカットさせまくったり、出塁させて敬遠を多めにしたり、あえてショートがギリギリ捕れる打球を打ち疲れさせるのもありだな。最後の案はその技術を持っているやつがいるかが問題だがな」

なるほど。魔力の消費という観点での対処もあるわけか。

「それと中継ぎはまだ調べられていないみたいだが、中継ぎに炎属性持ちが1人いるぞ。炎属性は身体能力や筋力の大幅なアップが特徴だから守備や打撃時に恩恵を受けやすいが、このピッチャーは投球時に使用して時々球速が大幅にアップするのが厄介なんだ。とはいえ属性魔力は消費が激しいから普段は通常の魔力でピンチ時に切り替えて使う事が多いみたいだがな。あとはコントロールがしにくいらしく打たれる時はとことん打たれるみたいでムラのあるピッチャーだよ。でもなるべく投げさせるシチュエーションは作りたくないね」

属性持ちがいるのは痛いが中継ぎなら出てこない可能性もあるし1イニングならなんとかなるだろう。ムラがあるからストッパーでもないのが幸いだ。

「チーム全体的に打高だが、投手力はイマイチだから打ち勝つ野球を目指してなるべく早くスカンセデオを交代させて守備力を落とすのが懸命かな」

打ち勝つ野球か。これは継投と打順の組み方が鍵になりそうだ。

その後もユビシロンについての細かい話を聞きながら対策を記した。


「次は10位のチームのチホック・ポックだな。このチームは地域性が独特で、諦めやすい傾向があるんだ。そのせいか試合中も4点差でチームが負けていると観客の多くは帰ってしまうんだよ。それもあり他の地域出身の監督には精神的にくるらしく同じように4点差つくと諦めて捨て試合にできるようにとチホック出身の人間が監督を務めるようになったらしい。だから早い段階で4点差以上離せられれば勝ちも同然だよ」

10位の割に負け試合はとことん点数を取られていたのはこれが原因だったのかと調べていた時の謎が解け、先制すれば勝機があるとわかり希望が出てきた。

「先発はリーグ平均より弱めなんだが勝ちパターンの中継ぎが磐石でそれを出されると負けを覚悟する必要があるくらいだ。属性持ちはいないが6回までに勝ち越しておく気でいないと厳しいぞ」

先行逃げ切りを目指す野球か。こっちもやはり継投のタイミングに気をつけつつ代打も早めに出す事を考えてもいいかもしれない。

「そのスタイルで戦って10位というだけあって打線もそれほど強力ではないからここで3連勝をしておきたいところだな」

と、なるとラスティの選手次第という事になるわけか。

「昨日見た感じ2軍にはいなさそうだったけど、ラスティには属性持ちはいないのか?」

これが1番の重要なことだ。いたらその分試合が楽になる。

「いることにはいる。だが、ちょっと問題があってだな。別に素行が悪いわけでもなくちゃんとしたいい子なんだがなぁ。話が長くなるかもしれないがそれでもいいか?」

そりゃあ聞くしかないでしょ。

「まずはその選手は監督の親戚で女性選手なんだがな。昔から運動神経抜群で男の子より活躍していたらしい。でも高校生の時に属性魔力に目覚めたのはいいが、一気に2属性に目覚めた事もあって魔力の制御が出来なくなったらしい。その後なんとか練習して魔力を制御する事はできるようになったらしいが通常魔力と属性魔力の切り替えができないらしく、フルで試合に出ると魔力が欠乏して数ヶ月試合に出られなくなるみたいなんだ。だから代打でしか出場できない。しかも代走も出さなければいけない。だが、能力は一流で必ず出塁するんだ。炎属性持ちが相手にいると打球を止められる事もあるが、威力があるからボールを弾いてエラーになる事もあり記録上は出塁率10割とはならないが出すと必ず塁に出るラストエリクサー的な役割を担ってくれる。彼女も今年で3年目だから対戦相手もそれをわかっていて中々まともな勝負はしてくれないから満塁で出すのが理想だね」

過剰に能力を持ってても使いこなせなきゃ意味がないか。ハンデと言われればわかるが、本人の気持ちを考えると心が痛む。監督といいその子といい、倒れたという元監督といいこの家系はなにをしたんだ。

そう思うが、起用する側としては必ず塁に出る代打はこれ以上ない貴重な戦力だ。

「ちなみに2属性ってどんな属性なんだ?」

普通に気になったことを聞いてみた。

「炎と闇だよ。炎はさっきも説明した通り身体能力の強化。そしてもう1つの闇は物の中を動いている魔力の動き方がわかるようになるんだ。イメージとしては君が最初の練習で使った眼鏡のような感じで見えるみたいだね。元の身体能力の良さとその闇属性の効果でデッドボールにはならず、球を見極めて真でしっかり打ち返す。その打球も強化された身体で打たれてるから相乗効果でまともには捕れない打球になる。バットに当たればホームランになる可能性が1番高いくらいだよ。バットに当たればだけどね」

炎と闇という悪役のような組み合わせなのにわかりやすく王道な能力とは少し羨ましく思う。


それから夜遅くまで作戦会議は続き1軍側の選手入れ替えの候補や理想的な試合展開から最悪な試合展開の想定を話し合った。

そして最後に

「あ、オーナーから言われたんだけど球団職員って形から臨時コーチ枠でベンチ入りできるようになったから登録名考えといてって。多分登録名は選手で出場する時にも同じの使うことになるからちゃんと考えた方がいいよ。間違っても本名にはしないようにね。本名だと野次とかネットで叩かれる時に日本の比じゃないくらいの勢いらしくて精神的にキツいみたいだよ」

突然言われても困るんですけど!?日本と違って球団職員でも臨時コーチでも役職があればベンチに入れるのは俺にとって好都合だがそこまでしっかりやってくれるとは思わなかったよ。でも、臨時コーチとしての方が発言力はありそうだからヨシとするか。


そしてホーム9連戦の前夜にまで日が経った。

今日はパキラと前日の打ち合わせの日だ。

明日の先発は前もって伝えていたが、選手の入れ替えや作戦などは詳しく話せてないので今のうちに話し合う。

全体的にはこの間シュンと話し合った作戦でいくことになったが、細かい判断はパキラに任せる事にした。そうしなければパキラへの信頼を得てチームを建て直すことには繋がらないからだ。ここでしっかり采配をして5年振りの5連勝を遂げればさすがに無視を続けることは厳しいはず。そもそも、この思惑が外れなければいいんだが……

とはいえ、なにを考えても今は勝つことしかないわけでそれに向けては神頼みくらいしかもうできる事はない。

「はいこれ。今のうちに渡しておくわ。」

そう言い渡されたのは俺のユニフォーム。来シーズン以降は選手登録をされるため今のうちから選手用の背番号、18番が刻まれている。そしてその上にはTOWALUS、片仮名で書くとトワルスと書いてある。意味は特にないが日本名は照れくさかったから外国人っぽくしてみた。

新しい自分のユニフォームを手に入れて気分よく家に帰った。ユニフォームはエメラルドグリーンのような色が基調とされ、星のマークも入っている。チームカラーはグリーン系のようだ。


そして翌日。決戦当日だ。

今日はナイトゲームで試合が始まるのは夕方過ぎだが、自分の練習はせず早めに球場入りする。

選手にはいつもより30分早くミーティングするから来るように言ってあるがちゃんと来てくれるのか不安だ。

緊張で時間の感覚が崩れているとミーティングの時間5分前になっていた。その頃にはほとんどの選手が集まっており、時間通りにミーティングを開始する事ができた。

様子を見ているとシーズンも終盤に差し掛かっている今頃になって突然選手の入れ替えが行われたりミーティングをするから早めに集まるよう言われたりして何事かと思い集まったようだ。


「本日はいつもより早い時間からのミーティングに集まって頂きありがとうございます。私は球団オーナーよりこのホーム9連戦の監督補佐という形でチームの一員に任命させていただいたトワルスです。この連戦中にチーム5年振りの5連勝を目標としているので皆さんよろしくお願いします」

前もってなにを言うか考えてきたのに頭の中が真っ白になり、ちゃんと挨拶できたかわからないが言おうと思っていた事はちゃんと言えたはずだ。

「このままスターティングメンバーを発表するので返事をお願いします」

返事なんて当たり前の事だなぁと思いつつ言う。スタメン発表を終え、1軍に上がってきたばかりの選手がスタメンになっていたりとザワつくが仕方ないだろう。

「皆さん個人プレーに走らず、これから説明する作戦に則った形でのプレーを心掛けてお願いします。では作戦内容は……」

と予定通り作戦を伝える。不満そうな顔をしている選手は見えるがさすがに子供のような反発はされない。なんだかんだ、変な設定を付けなかったがオーナーから任命されたという事が1番効果あったようだ。

そして俺の異世界での初戦が選手ではなく監督補佐という思わぬ形で始まるのです。

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