チーム事情
そしてボール練習4日目。開始1時間で残りを終わらせた俺はシュンを呼び2ケース分のボールを光らせ終わった事を伝えた。するとボールをケースごと最初に取り出した倉庫に片付けてグラウンドの方に来てほしいと言われたので急いで片付ける。気のせいなのか初日より魔力の分質量は増えているはずなのに軽く感じた。これも魔力の影響なのだろうか?そうしているとシュンがグラウンドの倉庫に近いところで待っていた。横には別のケースに入ったボールが置いてある。
「次のステップに入る前にまず球種、球種毎の特徴を教えてほしい。そうしたら俺が受けるからこのボールで各球種、求めた分だけ投げてくれ」
今までピッチャー用のグローブやバットを持ってるところしか見ていなかったがキャッチャーミットも持っているって事はキャッチャーもできたんだと始めて知った。
今までは基礎を特急で固めてたけど、ここから本格的なプロの練習になっていくというわけか。ブルペンに行くわけでもなくその場で投げるように促された俺はまずストレートを投げる。
最後のあの予選では最速147km/hを出せたが1球だけで、平均は141くらいだった。高校生の平均よりは速いが今の時代、そこまで珍しいわけでもないと思う。
15球ほど投げ、次の球種のスライダーに移る。本来なら右投げだとピッチャーから見て左側へ大きくスライドするように曲がるのだが、俺のスライダーは球速もほどほどで曲がりも小さく真っスラのなり損ないだと思ってる。それほどに中途半端であまり使ってこなかった。
5球で首を振られ、次はカーブを投げる。これはスライダーと違い、かなり自信を持っている。現代野球ではカーブと一口に言っても様々な種類があるが、俺のカーブは海の番長のカーブを参考にしておりしっくりときたので使っていた。山なりに緩やかにピッチャーから見て左側へと曲がりながら落ちていくいいスローカーブのはずだ。
これも5球ほどで終わり、次はフォークを投げた。これはスライダーよりも自信がない。フォークはなるべく回転をかけないように投げ、打者の近くでストンと落とす変化球なのだが、制球が難しくよくすっぽ抜けたりキャッチャーの後ろへと跳ねたり転がっていったりして試合では使うことはなかった。
これも5球ほどで終わり、次が最後の球種のシュートを投げた。シュートは変化球の中でも球速が速い部類であり右打者側の手元の方へと曲がっていく変化球だ。これも動
画サイトで参考にして投げるようになった球だ。最後のあの試合で接戦に持ち込めたのはこれで右打者の内側を上手く攻めることができたからだと思っている。そしてこれは10球ほど投げ終わる。
5球種合わせて50球投げ、体もだいぶ温まっていた。そしてシュンが受けた感想を言ってくれる。
「ストレートは体づくりを進めて魔力も使いこなせればいけば160は優に超えると思う。ピッチングフォームも安定してる方で出処も見にくいから十分に使えるだろう」
いきなりの高評価に驚く。後で知ったがこの世界では魔力による回転量の増加や回転力の強さが上がるため160km/hは珍しくなく、170以上出す人も普通にいるらしい。
「そしてスライダーは握り方が合っていないのか微妙な感じ。カーブは球自体はいいが他の球種があってこそ生きる球だからスローカーブ以外のカーブを覚えた方がいい」
この世界では動体視力も魔力で補えるらしく、ストレートが速くても対応されるため、やはり変化球が重要とのこと。だから自信のない球も自信のある球も厳しめの評価だった。
「そしてフォーク。これは君自身というよりキャッチャーが下手だったね。最初1人で練習していた頃はちゃんと投げられていたんじゃないかな?でもバッテリー練習の時になると、相手の能力を知っているから気を使って捕りやすい球にしようとしてフォームを崩した。フォークは細かく指導して身に付けてもらわないといけないな」
図星だ。たった5球でそこまで見抜かれるとは思わなかったがさすがプロだ。やっぱり見る目が違う。
「そして最後のシュートだね。自信があるようだけど、これはプロ、いや県予選の上位常連高にすら通用しないよ。シュートの時だけフォームにわかりやすい癖があってバレバレ。せっかく元のフォームは出処が見えにくく、いいサイド気味なのにシュートの時だけ角度が高くなり過ぎているね。でもストレートと球速の差があまりないからそこを矯正できればいい武器になるはず」
俺はどっちにしても甲子園には行けなかった。その現実を告げられた気がした。
だが、もう終わった事に未練タラタラでも前には進めない。今言われた事を胸に頑張るしかないんだ。
「課題が見えたところでまずは体づくりと球のコントロールから。体づくりはプロ野球のキャンプ中継とかオフの自主トレで見たような事とかやるから倒れないように頑張ってね。コントロールの方に関しては、まずはストレートでフォームに気をつけながら頑張ってみて。あ、それと今日からは朝ご飯も寮の食堂で食べてもらうから早起きしてね。食べる量も毎食2倍になって身体を大きくしつつ体力と魔力を付けてもらわないとね。そして今日から当分の間は魔力を使って増やすためにポーターも自分で操作して移動してきてもらうからよろしく。以上!」
そう言い残しシュンは練習メニューを渡して立ち去った。今日は体づくりだけらしく始めた。練習が終わり寮の食堂に行くと重くて運ぶのすら苦労するほどの量を出され、1時間以上かけてなんとか食べ切った。
吐きそうになりつつ帰宅したが動く気にならず、リビングで椅子に座りながらボールに魔力を入れたりして胃の消化を待っていた。
翌日からは午前中が体づくり、午後からはコントロールの練習となっていた。
さすがに朝は夜ほどの量ではないが大量のご飯を食べて体づくり。ハードな運動のため、それだけで吐きそうになるが朝ご飯の量も多かったので何度も危なくなる。
そうなりつつ次は昼ご飯。まだ朝ご飯が胃に残っている感覚があるがお構いなしに提供される。時間かけてなんとか食べ切ったが、味は美味しいのにご飯の時間が嫌になりそうだ。
そしてコントロールの時間。何度もやってきた魔力を込める作業のその先と考えたら楽しい練習だと思えワクワクしてくる。
ルンルン気分で練習場所に向かう。慣れ親しんだストレートを投げるだけなのに「変なところに飛ばして怪我させるといけないから端の方で壁当てしてて」って言われたのが気になるけど、どうでもいいくらいに嬉しい。ハードな練習続きだったから気分転換になりそう。
そんな気持ちが崩れたのはすぐだった。魔力を込め、いつも通りに投げたのに右に左に曲がってしまう。どういう事か分からずに無線機でシュンに聞いてみると、「魔力の見える眼鏡持ってきて着けながら投げてみたら?」と言われたので取りに行ってやってみる。
そうするとボールの中で乱気流のように魔力がうねり、その不規則な動きにつられて曲がってしまう様子が見えた。そう。俺はまだ魔力をコントロールできていなかったのだ。魔力をコントロールするというのは魔力を込めるだけではなく、込めた後の動きを制御できてこその事だったんだ。それを悟った俺は「これはプロの練習じゃない……まだまだ基礎の範疇だったんだ……」そう思い知った。
それから数日間、午前中は体づくりで体を扱き、午後は魔力のコントロールに勤しんだ。
そしてイメージ力が魔力のコントロールに必要だと思い出してから、魔力を込める時に投げる球の回転や軌道をイメージしながら入れる事により、乱気流のような状態からは抜け出す事に成功した。
だが、普通のボールと同じ感覚で投げてもボールを思い通りにコントロールできない。こればかりはイメージ力ではどうにもならず、努力しかないのだろう。
それからまた数日が経ち、俺がこの世界に来てから1ヶ月ほどのある日。
もうこの頃にはご飯の量にも慣れ始め、体づくりも難なくこなせるようになってきていた。これも元の世界で毎日練習してきたおかげなのだろうか。
だが、未だに思い通りのところに投げるコントロールには苦戦していた。そんな中でこの世界にも慣れ始め、ネットで日本の番組を見れると知ってからは、家に着いてはネットで日本の番組を見たり好きな野球チームの情報を見たりと楽しんでいた。
そんな中、たまにはこっちの世界の情報も仕入れとかないとなぁ。とテレビを付けると野球専門のニュースで試合の解説をしていた。ちょうど俺の所属するサブ・ラスティの試合らしく見てみるとあの可愛い監督が映っていた。
だが、最初に感じたおしとやかさどころか上からな威圧感もなく、どこか居心地の悪さまで感じてくる。そして試合内容も盗塁やバントはなくみんな長打を狙っているような違和感を感じた。相手チームは盗塁やバントをする事もあり、この世界でもそれは普通の事でラスティがおかしいという感覚であっているのだろう。
翌日、この違和感はあの試合だけだったのか気になったため早めに朝ご飯を済ませて事務所に向かう。事務所なら今までの試合映像などを保管しているかもしれないと思ったからだ。
そうするとテレビのモードを変えると野球専門チャンネルが映るらしく、選手は無料で加入しているからいつでも好きなだけ見れるらしいと知れた。
1ヶ月もあったんだから、誰かしら教えてくれてもいいじゃないかと思ったが、なぜか他の2軍選手には避けられているのかシュンしか話しかけてもらえないし、他の知り合いはエイベットやパキラしかいない。シュンはエイベットやパキラに教わっているだろうと思っていたんだろうし、あの2人は多忙であれ以来会っていないから自分の落ち度でもあったかもしれないなぁ。
練習を終え、夜ご飯も済ませた俺は家に帰り試合映像を見てみる。
ベンチも映りやすいホーム戦を見ているが、スタジアムは広く綺麗で万年最下位の弱小チームとは思えない賑わいだった。空には満天の星空で野球自体も日本の野球とはそこまでの違いを感じなかった。
ホーム開幕戦から何試合か早送りで見たり各試合の試合結果を調べたりしたが、バントは無し、盗塁はたまにあるが大半は交代して出てきた選手がしていて、失敗も多かった。
試合中も監督がなにかする場面はほとんどなく、選手交代を告げるくらいしか見られなかった。交代時も選手から言われて交代しているように見え、これは監督が監督としてなにもできてないのではないかと思えてくる。
全員が個人プレーに走り、長打を狙ってそれを見抜かれ凡退。たまにあるチャンスも連打にならずに負ける。途中から出た選手も活躍しようと盗塁を試みて失敗。そう考えると辻褄の合う試合内容だ。
さすがにこんなバラバラのチームじゃ俺1人が抑えたところで勝てるわけがない。じゃあ、どうすればいいんだ?まずはこうなった原因を知らなくちゃなにもできないか。とりあえず明日シュンに話を聞いてみよう。
朝ご飯を食べ終え、シュンを見つけて話しかける。
「お?ボールのコントロールに苦戦してるようだな。アドバイスでも欲しいのか?」
といつも通りの呑気さで聞いてくる。
「今は俺の事じゃなくてチームの話をしたい。今年の試合を数試合映像や試合結果を見たんだが、このチームは一体なんなんだよ。みんなが個人プレーに走ってるだけでなにもできてないじゃないか」
そう言うとシュンは
「とうとうチーム事情を知っちまったか。自分の練習に集中してほしくて黙っていたが仕方ない。お前は気持ちで影響するタイプだ。今から答えるよ。なにから知りたい?」
と、練習に付き合ってくれながら教えてくれるらしい。
「まずはこの状況は今年からなのか?それとも以前からこうなのか?」
そう聞くと首を横に振りながら
「いいや。去年までは監督の言う通りに動いていたさ。だが、一流の選手はいなく1軍レベルの選手すら数人、ほとんどが1.5軍から2軍レベルの選手じゃ勝てるわけがない。選手層の違いだよ。それを分からずに監督のせいで負けていると思っていた奴らが、まだ17歳の嬢ちゃんが監督になると知って反発した。監督が代わった原因は突然元々の監督が倒れたからなんだ。それがキャンプインの前のタイミング。そんな時期だったからやってくれる人もいなく、誰も内部昇格を望まなかった。そんな中で監督の孫だった嬢ちゃんが立候補したんだ。大人達も瀬戸際だったから仕方なく了承したんだ。だが、選手たちは違う。移籍できる期限は過ぎてたからこのチームでやらなきゃいけない。だが、監督が嬢ちゃんじゃ去年より負けて自分たちは稼げなくなる。その結果、個人で勝手に動くことになったというわけ」
監督の態度が上からだったのは自分の現状への苛立ちがあったりして個人的に追い込まれていたからかもしれない。そしたら実績のある人間が指揮を取れば今の状況は変えられるかもしれない。そう考えていると
「ちなみに最初は君じゃない人が選ばれる予定だったんだ。だが、その子が怪我をしてね。怪我の経過を見て呼ぼうとしていた中で前の監督が倒れて判断できる人もいなくがチーム内は混乱していてそれどころじゃなかった。そんな中で1つ学年が下だったという理由で選べなかった君を夏の大会が終わったら呼ぶ事になったんだ。これも運命なのかな?」
これは運命なのかもしれない。誰かに助けを求めようにも目の前にいるシュンしかいない。そうなると俺がどうにかするしかないのだろう。
「さあどうする?」
いつものニヤニヤ顔でそう言い残し自分の練習へ戻っていった。俺は監督と直接話そうと練習後に掛け合いに行こうと決めた。
偶然今日は1軍の試合がない日だったのでパキラは会ってくれた。
「久しぶりね。少し身体も大きくなったんじゃない?」
そう言われ練習の成果を感じ嬉しかったが、今はそれどころじゃない。
「単刀直入に言う。俺を監督の子供でリトルリーグで指揮を取った事もあるという設定で監督補佐にしてくれ!」
いきなりの事にパキラは驚いた顔をしていたが、
「そんな事できるわけないでしょ?そもそもなんでそんな必要が……まさかチーム事情を知っちゃったのね。そうかそうなのね」
反論しながら納得をしたパキラは悩んだ表情をする。本人も今の状況は堪えているのだろう。そして口をゆっくり開く。
「この世界の野球はね。国技みたいなもので厳しい部分もあるのよ。星がそんなに大きくない事もあって国は1つ、だから地域毎に仲の悪いところもあるけど、戦争にはならずに済んでいる。代わりに自分の地域のチームに想いを託して戦ってもらう。それは地域間でもあるし種族間でもあること。だから監督は責任が重く1度就任すると4年間は代われないの。そして任期を全うした時にファン投票で続投か交代かを決められるの。投票をせずに辞任をする事はできるんだけどね。だから中々なりたがる人はいないのよ」
そう悲しげな顔で言う彼女に俺の心は傷んだ。
「で、でもこの歳で普通に暮らせば一生働かなくても済むくらいのお金が貰えるからそれはいい事かもね」
焦りながら自分でフォローする様子を見て、やっぱ助けてあげたいなぁと強く思った。
「それでね。申し出は嬉しいんだけど……」
これを言い切らせてしまったら俺は無理やり助ける事が出来なくなるかもしれないと思い咄嗟に声を出す。
「5年間チームは5連勝を1度もできてないんでしょ?だから次のホーム9連戦だけでいいから俺に手助けをさせてほしい。そこで5連勝を1度でもできればチーム内の空気も見方も変わるはずだから!」
息継ぎせずに言ったんじゃないかというくらいの勢いで言った。
「えっ。でも5連勝って……それができない要因は分かってるの?先発の駒が足りないのが1番の要因なのよ!?」
あぁ……わかってる。それをどうにかしなきゃいけないが、策がないことはない。だがそれがハマるかはわからないから博打だ。幸い対戦相手は7位のチームと最初と最後の3連戦をして残りは10位のチームとの試合で7位の方は完全に裏ローテで10位の方はいいピッチャーもそうでもなさそうなピッチャーも両方来そうなところだが、いいピッチャーは最近調子が悪く裏も特に良さげでもなかったからなんとかなるはずだ。
「決戦は10日後。エイベットに俺からやっていいか聞いておくから、これで許可を貰えたらいいよな。ちゃんと1軍の選手の状態確認しとくんだぞ」
そう言い返答は聞かずに退室した。これがパキラのためになるのかはわからない。だが、チームを変えるにはこうでもしないといけないんだ。
エイベットはやはり多忙らしく直接会う事はできなかったが、電話で話す事ができた。今の彼女の様子を見て思うところがあるらしくすぐに許可を貰えた。役職としてはチームスタッフという事でベンチに入る事を許可されるそうだ。
これでもう後には戻れない。10日間練習も頑張りつつ対戦相手の先発の6ピッチャーとスタメン野手を中心にデータを集めて準備をしておくしかない。
そして翌日、練習中にシュンがやってきた。
「という事になりました……」
初日からデータ集めに精を出し過ぎて寝不足気味の俺。一応昨日のあの後になにがあったかを報告した。
「そうなると思ってたよ。とはいえ監督の子供って設定ねぇ。俺は転移者だから転移者の条件知ってるけど、言われなかった?有名な人やその関係者は選ばれないって」
言われた気がする。でも、知ってる人は少なかったはず。
「まあ、そんなマイナーな情報知ってる人は少ないけど、一応公式なルールだから知ってる人もいるかもよ?」
うっ……言われてみれば変にルールに詳しいやつがいてもおかしくないよなぁ。
「そっ。それは適当に社会人野球の監督って設定にしたりすれば有名じゃなくなるからいいから後で考えるとして、話はここからで2軍に活躍できそうな選手はいませんか?今年はまだ1度も選手の入れ替えがされてなくて燻っていたり不満を抱えてる選手がいると思うんですよ!」
そうするとシュンはラスティの選手名簿を見せてくれた。
「こいつとこいつは今が調子よくて、その連戦中に当たるこれとこれとは2軍でも相性が良かったから活躍すると思う。あとはピッチャーだなぁ。若いのに押されて2軍にいるがベテランらしい試合を崩さない堅実な投球をしてくれるはずだよ。どこか1試合をマシンガン継投で乗り切る作戦にするならこいつはロングリリーフで役に立つ」
そんな感じで計7人の選手を教えてくれた。だがシュン本人は1軍には来ないという。
「俺がいると俺を頼っちゃうだろ?それじゃあ意味はないんだ。若者2人で頑張れよ〜」
と、この状況を楽しむように去ってしまった。
今日はテキパキ午前中の練習を終え、午後はリストアップされた選手を見に行った。練習はちゃんとこなしているし、打球も悪くない。ブルペンの方も俺とは比べものにならないくらい良い球だった。明日は2軍戦があるからそれも見学させてもらおう。
家に帰り今日はデータをまとめて、采配についても調べてみる。
プロ野球中継はよく見ていたからテンプレ采配ならできるがそれだけでは連勝は難しいだろうし、こっちの野球で通用するかはわからない。一応リトルリーグで小学生の監督を代行でやったことがあるのは事実だ。その時も監督補佐という形だったが実質俺が指揮を取っていた。その時は県でベスト8というなんとも言えない結果だったが、負けられない短期決戦と考えれば運次第だろう。そうして夜が更け寝ることにした。
次の日は午後から練習試合で試合場所はいつも練習している球場だった。こっそりついて行くこともなく堂々と見学できた。
「生でこっちの試合を見るのは初めてか?」
隣で一緒に見てるシュンが言ってきた。この時期はこっちの世界も長期休暇らしく2軍戦も人気なため、地方球場でやる事が多く俺はお留守番ばかりだったのだ。
「とはいえ、1軍戦だと球場によってベースが5つあったり強風や雪、霧の中でやるところもあるが、ラスティは1軍も2軍も普通の球場だから特に変わり映えはしないんだよな」
ホーム戦ばかり見ていたから初めて知ったんですが!?なにその知らない野球。公式記録で4塁打とか4点タイムリーヒットとかもあるわけ?どの指標が信憑性が高いかとか揉めてそうだなぁ。という感想に落ち着いたところで試合が始まる。
試合内容は1軍とは違い小技もしっかり使っていていい試合をしていた。シュンが口添えしてくれたのかリストアップしてくれた野手は全員スタメンで、中継ぎのピッチャーも出してくれた。
球速や守備時の選手の動きが速かったりと魔力を使うことで身体機能が上がっている事は実感できたが、それ以外では特に違いはわからなかった。
「どうだ?思ってたより異世界感ないだろ?魔力を使うとはいえ魔法が使えるわけじゃないから派手さはそんなにないんだ。だが、1軍だと何人かいる属性持ちのおかげか常人にはできない動きをする選手もいて面白いぞぉ」
属性持ちかぁ。シュンは違うのかな。と思っていると試合は終わった。4-5で僅差負けだった。敗因はリストアップしてくれた選手以外のやる気の低さだ。多分、ここで活躍しても1軍には上がれないというのがチーム事情から伝わってきていてモチベーションが上がらないのだろう。結果その選手のエラーから失点し逆転負け。当然の結果なのかもしれない。このままだと2軍や3軍まで腐ってしまうのかもしれないというプレッシャーを感じた。
「まあまあ。気楽に頑張って。采配とはいえ最後は選手個人次第だから思い通りにならないと思っとく方がいいよ」
と初めてアドバイスのようなものを貰えた。