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第2の人生

「ここは…どこだ…?」

 川で溺れたはずなのに部屋?校長室のような、ドラマで見た応接間のような感じがするそんな部屋にいるらしい。そして俺はベッドではなくふわふわのソファーの上で横になってたみたいだ。

「おや?目覚めたかね?川で溺れたのになぜこんなところにいるのか。そしてこいつは誰だ。そんなことを思っているのではないかね?」

 ガチャっとドアを開けて入ってきた、ジェントルマンという言葉が似合う60代くらいの老人が入ってきた。言われた事を実際に思ってはいたが、普通の人ならそう思うのが当たり前なんじゃないかと思ったが何も言わないでおこう。

 そのまま黙っていると老人は

「戸惑っているようだね。とりあえず簡単に君の今の状況を教えよう」

 柔らかい笑顔でそう言い出した。そして俺に何があったのか説明を始める

「最初に1番驚きそうな事を教えよう。ここは君のいた世界とは違う世界線の世界だ。君の世界で言うと異世界転移と言うと分かりやすいかね?」

 お、おう……異世界感のない場所でそれを言われたらそりゃ驚くよ。俺、違う世界に来てたのか。部活が終わってから見るようになった深夜アニメでよく見かけた異世界モノと全然違う感じで転移したようだが、一応話を信じて続きを聞いてみるか。

「その顔はとても驚いてるようだね。では、なぜ君が選ばれたのか。それは君がこの世界の野球で活躍できる能力があるからだよ。君にはこの世界でプロ野球選手になってもらう」

 おいおいおい。こっちはこっちで驚く話じゃないか!異世界に来たのはプロで野球をするため?全然意味が分からない。

「驚きの連続なのは分かるがこのまま話を聞いてもらえるとありがたい。この世界のプロ野球の仕組みから説明しよう。この世界のプロ野球ではチームが全部で24チームあり、それが2つのリーグに分かれて12チームずつ所属している。その上位4チームずつでトーナメント戦をして、トーナメントの優勝チーム同士でその年のナンバーワンチームを決める戦いをする。君のいた世界で言うクライマックスシリーズと日本シリーズみたいなものだね。そして君のいた世界には無かった各リーグの最下位同士で戦うビリ決定戦もする。ビリ決定戦で負けたチームには君の世界で言うFA選手の獲得の権利はなくなり、ドラフトでの獲得選手の人数や戦力外選手の獲得人数を制限される。だが、リーグ戦で11位のチームと15ゲーム以上離されると他の世界線から1人、選手を獲得する事ができる権利が発生する。この権利は5年に1度しか使えないが、ドラフトよりも有望な選手を獲得できる可能性が高い。しかしその制度で獲得した選手が活躍する保証もないし、ビリ決定戦でのデメリットが勝つのでわざわざこの権利を狙って最下位になるチームは滅多にないよ。そんな中、見事に条件を達成してその制度を使って召喚したのが君というわけだ」

 そこで1度飲み物を口にする老人。なるほど。俺は11位と15ゲーム離されて最下位になったチームを救うために呼ばれた救世主というわけか。燃えてきたが俺である必要はあるのだろうか。そんなことを考えていると再び老人は口を開く。

「さて。そこで疑問に思うのはなぜ自分が選ばれたのか、そうだね?この制度で選べる人間には制限があってね。既に元の世界でプロやアマチュアでチームに所属している人間、もしくは元々所属していた人間。そして、プロや世間の大多数の人間から注目されている人間は選べないんだ。過去にプロ野球で活躍していた選手をこちらに呼んでしまったら、あちらの世界で行方不明ということで事件になって話題になってしまい大変だったためにこのような制限が設けられたのだよ」

 過去にプロ野球選手が突然失踪したという事があったとは知っていたが、こんな事実があったのかと驚く。

「我々のチームはね。ストレートに言うと万年最下位の弱小チームなんだよね。そのせいもあってさっき言った制限も球界を運営している組織とチームの他世界担当のスカウトマンたちくらいしか認知されてないのだよ。そして、その他世界担当のスカウトマンたちが他世界の様子を観察して候補を探してもらうための設備も場所も作られている。誇れることではないが、これは我がチームだけしかないんだよ。項目としては、有名ではない人間。途中で野球を辞めなさそうな人間。できるだけ若い人間。そして魔力適性のある人間だ」

 魔力適性……?異世界らしい単語は出てきたが、その魔力と野球が繋がらない。

「魔力適性。その単語に引っかかってるのではないかね?まあ、単純にこの世界の野球では魔力を使うという事だよ。野球の基本的なルール自体は君の世界と変わらない。だが、その基本的なルールに+α‬が付くんだよ。その中に魔力を使ってプレーするが入ってるんだ。大まかに魔力の使い方を言うと身体強化やボールに魔力を注いでコントロールをする事だね。魔力の使い方にもいくつか制約はあるけど、あとで実際に野球をしているところを見れば分かってもらえるはずだよ。簡単に、とさっき言ったが長くなってしまったね。さて、この世界でプロ野球選手になってもらえるかね?」‬‬‬‬

 間髪を入れずに俺は言う

「もちろん!やらせていただきます!」

 知らない世界で知ってるようで知らない野球をプロの選手としてする!ワクワクするじゃないか!

「いい返事だ。何か質問はあるかね?」

 嬉しそうな笑顔で老人は聞いてくる。いつまでも老人と呼ぶのは失礼だろう。となれば聞く事は1つだ。

「まだまだ聞きたい事は沢山あるけど、1番知りたいのはあなたの名前ですかね」

 冗談っぽく言った俺の笑顔に応えるように老人も笑顔で答える。

「あぁ……現状を理解してもらい落ち着いてほしいと思いすぎて私の名前を伝え忘れていたね。遅くなったが私は球団オーナーのエイベット・エンヌスだ。この世界には敬語というものが無くてね。エイベットでもエンヌスでも呼び捨てで呼んでくれたまえ」

やはりオーナーだったか。と思う俺は彼をエイベットと呼ぶことにした。


 そんなところで一息ついていると、コンコンと誰かが扉を叩く。そうすると若い女性……いやもう少し若く、女の子という感じの声で話し始めた。

「エイベットおじさん。転移者が目覚めたと聞いて来ました」

 エイベットに促されると想像通りの年頃の女の子が部屋に入って来た。年齢は中高生くらいに見た目だったが、それよりも服装に驚いてしまった。

 身長は150を少し越えたくらいの可愛らしい小柄な身体にはこれまた可愛らしいチアの衣装。スカートは短く、歩く度に揺れて太もものさらに先の方がもう少しで見えそうになっており、否が応でも見てしまう。どうにかして視線を上げてみると胸は大き過ぎず小さ過ぎでもないほどよい大きさで、髪は肩の高さより少し下まであるポニーテール。二次元の世界から出てきたのではないかと思えるくらいに完璧で可愛い女の子ではないか。むしろ自分の好み過ぎて怖いくらいだ。

 そうするとエイベットが立ち上がったので俺も立ち上がる。

「彼女はサブ・ラスティの監督。パキラだ。見た目通り若く、君よりも1つ年下の17歳で野球自体はあまり経験したことはないが僕が任命したれっきとした監督だよ」

 お辞儀をされたので俺もお辞儀をする。ってそれより、高校生の歳で野球の経験もないのに監督!?それは俺の国、いや他国でも滅多にないであろう珍しい事なんじゃないか?そう思っているとエイベットが説明を続ける。

「この世界ではね。戦略ゲームのプロや野球に関するあらゆるデータを自分でまとめていたサイトの管理人が監督になったケースもあるくらい野球未経験者が監督になることは珍しくないんだよ。もちろん、OBが引退後に監督になるケースの方が多いんだけどね」

 そう説明をしたエイベットは僕と監督の2人を座らせ、「あとは若い2人で気楽に話してくれたまえ」と言い残し部屋から立ち去った。

 だが、初対面の美少女を目の前にしたのはいいが今まで野球ばかりで部活の女マネージャーもいなかった生活をしてきた俺には自らどうにかしようにもなんと声をかければいいのか分からない。そうした沈黙が続くのかなと覚悟しているとパキラが口を開いた。

「エイベットおじさん、逃げるように出ていったでしょ。昔は実の孫のように可愛がってくれていたんだけど、監督を決める時に色々あってね。今年の初めに私が監督に就任してから、若く将来の決まっていなかった私にやらせる事に負い目を感じているのか、あまり顔を合わせてくれなくなったのよ」

 今の服装に似合わないどこか悲しげな表情でそう語る彼女を見ると、未経験者が監督をやるのは珍しくはないけど普通でもないものなんだなと気付く。

パキラはハッとなって空気を変えようと明るく話し出した。

「どこまで話は聞いたの?順を追って話していても、あの人も見た目通り老い始めてて伝え忘れていることもあるかもしれないけどね」

 冗談っぽく言う彼女に俺も明るく返答する。

「俺が選ばれた理由。この世界には魔力を使って野球をする事。大まかに言えばこんな感じかな?」

 よくよく考えると話を聞いてるうちにワクワクし始めちゃってこの世界の事に関してそんなに知らないじゃないか。

「そうね……まずは私たちと話せている事に対して疑問はない?言語が一致してるなんて偶然あるわけないよね?」

 言われてみればおかしい。俺なにかされているのか……?

「急に顔が青ざめているみたいだけど安心していいわよ。この星の人ならみんなが飲んでいる薬を飲まされただけだから」

 おいおいおい。知らないうちに薬を飲まされてるなんて怖いんだけど!?

「その薬は飲んだ人の魔力を感知して、聞こえてくる言葉を勝手にその人の言語に聞こえるよう変えてくれるのよ。この世界にはあなたの世界で言う獣人や亜人種という種族がいくらかあってその人たちとの会話を可能にするために作られた薬の応用ね。もちろん文字にも効果は反映されるから普通に本も読めちゃうのよ」

 まあ既に飲んでしまったなら仕方ないと落ち着いたが、亜人種かぁ。どんな種族がいるんだろ。

「その亜人種も野球をするのか?」

「ええ。している人もいるわ。ただ亜人種の人たちは自分の種族に合った仕事をするのが決まりみたいなものでね。先祖から伝わる職人技を受け継ぐのが当たり前になっているから、野球や他の職業をするのは珍しいのよ。例えば妖精族は森の統治や生育などの自然に関する仕事をしているわ。木から生まれるなどの特殊な生態をしていて魔力量も全種族の中でトップクラスの種族よ。とはいえ身体が小さくてボールを取れなかったり怪我のリスクが高いから選手になった人は1人しかいないけどね。他にもオーガ族は力仕事を主にしていて建設業では細かい職人技もあるらしく、自分たちの仕事に誇りを持っているらしいわ。魔力はそこまで多くはないけど、身体が大きく素のパワーが凄くて終盤の代打の切り札として出すチームもあるわね。まだ他にも沢山の種族がいるけど、長くなるから今はやめとくわ」

 おうおうおう。なんだこれ!楽しそうな世界じゃないか!そんなやべぇやつらと魔力を使った野球をしていくなんてワクワクが加速してきたぜ。

と、そんな感じでこの世界の話を小一時間ほどされた俺はワクワクの高まりは止まるところを知らなかったが、

「ずっと応接室のような部屋の中じゃ異世界にいる実感がそれほど湧かないよなぁ」

 冷静になりつつある自分の頭から自然と出た言葉だった。

「こんな部屋に籠らされても違う世界なんて実感ないわね。あっちの部屋にポーター、所謂瞬間移動装置があるから来て。設定されたところならどこでも魔力を使って移動できる便利な機械なのよ」

 これは異世界感出てきたな。そう思いながらついて行く。ポーターのある部屋は少し離れていて、その間にポーターについて少し話された。

 魔力は全種族あるわけでもなくポーターは魔力の使用量も多く、制作費用も桁違いに高いため一般人にはあまり普及していなく、芸能人や金持ちの移動手段として使われる事が多いらしい。 ポーターへの魔力供給は出入口どちらか一方から注げば使用できるらしく、野球選手は魔力量の多い人が多いため引退してからはポーターの魔力供給係として働く人も少なくはないらしい。売れない芸人が先輩芸人の運転手をするような印象だ。

 もちろん自分で魔力を注いでそのまま移動もできるそうだが、野球選手は試合中に魔力の補給を禁じられていて、体力同様に消耗すると完全に回復するまで休める時間がないからオフシーズン以外では自分だけで使う事はないらしい。

「着いたわよ。ここが転送室。とりあえず今日は私が送ってあげるけど、明日は係の人が操作してくれると思うから朝10:00には支度を終えてポーター前にいなさい。ポーター横のモニターがつくはずだから朝の移動の時にそれで分からない事は聞いて」

 そう言われポーターの上に乗せられた俺は次の瞬間家の中に居た。

 乗せられた時に渡された書類を見てみると、この部屋は政府から贈与されたマンションの一室らしい。家電などは電気で動くが魔力で動かす事もできるハイブリッドらしく最初は魔力を使う練習がてら魔力で動かすといいと書いてある。まだ魔力の使い方を聞いてないから今日のところは普通に電力を使わせてもらおう。

 さっき聞いた通り、本当に知らない文字も普通に読めるなんて異世界の技術はすごいなと思った。

 既に夜も遅かったし、なにより驚きや楽しそうなことの連続で久しぶりに感情が活発に動いた影響で精神的な疲れが押し寄せてくるからこのまま寝る事にしよう。

 そして布団の中に入ると監督のパキラについて考えていた。あれ?最初はおしとやかなお嬢様な印象だったけど、転送室に移動した頃にはそんな印象は微塵もなく威圧感すら感じたくらいだった気がするぞ。本当の性格はどっちなんだろう。もしくはどっちでもないのかな。そんな事を考えているうちに眠りについた。


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