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プロローグ~異世界転移~


ポーンと上がった力のない打球を内野手が捕球したところを俺は二塁から走りながら見てる事しかできなかった。アウト!試合終了!と審判のハキハキとした、俺たちにとって残酷な宣告がされ両チームが挨拶をしに集まる。俺の……俺たちの最後の夏はここで終わった……

「キャプテン!3年間お疲れ様でした!」「「「お疲れ様でした」」」

そんな言葉を同級生も後輩もみんなが掛けてくれる。だが、俺はまだこの現実を受け入れられない。なんといっても仲間のエラーで出塁させてしまったランナーを俺が送球ミスしてそれが決勝点になって負けたんだ。悔しさしかないだろう。

俺は今までの人生全てを野球に捧げてきた。雨の日も雪の日も強風吹き荒れる中でさえも野球の練習をしてきた。毎日素振り3000回や壁当てに守備練習、壁当てで自宅のブロック塀がこれまで何度壊れたのか分からないくらいだ。

それなのに俺の最後の夏は予選の第2回戦敗退。あまりにも呆気なく終わった。しかも自分のミスとは今までの練習はなんだったのかと思いたくなる。

中学時代は守備も打撃も荒く、穴があったのは自覚していて高校の推薦が貰えなかったのは仕方ないと分かっている。勿論強豪校のセレクションも受けたが「自分の武器は何か?」と問われたが何も答えられず落ちた。推薦貰う気でいたから学業も下の中とよろしくない状況だったから無名の公立に進学するしかなかった。だが3年かけてみんなと血のにじむような特訓をしてきたから今年こそは甲子園出場できると信じていたんだ……

今の俺には体力もコントロールもMAX147km/hのストレートもあるがスカウトやマスコミどころか身内すらあまり来ていないこんな試合じゃ、俺のプロ入りは絶望的だろう。コネクションの大切さも痛感している。俺はあの頃から何も変わっていないのだろうか。今だけに全力で将来の事を考えているようで考えていなかったんだな……

大学野球や社会人野球の道もあるが俺の学力ではスカウトなしでは入れないだろうとも分かっている。俺の野球人生はここで終わったも同然だ。

少しずつ現実を感じ始めた俺はチームメイトに感謝を述べ、後輩に激励を送った。


あっという間に夏休みに入り、今までとは違う生活。普通の高校生らしい生活とでも言うべきだろうか。友達と出掛けて泊まったり短期のバイトをしてみたりとしながらそれなりに楽しんでいた。

そんな中でも日課だった練習は今までと比べたら質も量も落ちたが続けていた。野球人生が実質終わったとはいえ、今までの自分を否定するように思えていきなり今までの自分を捨てることと同意義の練習を辞めることはできなかったのだ。

そして今日。甲子園の決勝が終わった。両チーム合わせてエラー13個。それなのに3-4というロースコアの接戦。魔物が住むとは言うがそれにしても多すぎる。自分の送球ミス思い出す、そんな決勝を見せられた俺は悔しさが蘇ってきた。こんな時は寝るに限る。昼寝でもしよう。


「あんたどうせ明日も暇してるんでしょ?草野球チームで怪我人が出ちゃったらしくて外野のできる人を急いで探してるらしいのよ。ピッチャーをしない日は外野やっていたんだからできるよね?もう連絡しといたから。ユニフォームは現地で渡すそうよ。よろしくね」

夜ご飯の素麺を食べていると母さんが突然言ってきた。

「せめて連絡する前に一言聞いてくれ。そして素麺を食べてる時に言うな。噎せる」

と言い返したが、はいはい。と適当に流された。流すのは素麺だけでいい。何が楽しくてこんなちっちゃい機械で素麺を流してるのか……まあ、いい。ちょうど自分にイライラしていたから野球の事は野球で気分を晴らすとしよう。

翌日。小雨が降ったりやんだりとこれまたスッキリしない微妙な天気だった。それでも試合はするらしく隣町の河川敷まで自転車をかっ飛ばす。打球もこのくらいかっ飛ばしたいところだ。

着いてみると、打率0割台男で人気アニメの主人公の丸眼鏡がいつもガキ大将に誘われてやっているような河川敷についた。

キャプテンの人からユニフォームを渡され着替える。キャプテンはモジャ公のような頭をしていた。あれは野球をやる頭ではないんじゃないか?

そんな事を思っていたら試合が始まった。俺は9番センターらしい。後攻らしく急いで守備に着く。

社会人っぽい若い人もチラホラいるが大半はおっさんだ。日頃の会社でのストレスを発散したり運動不足にならないようにやってる人が多いようで滅多にここまでフライは飛んでこない。

3回裏、ようやく俺の打席がやってきた。だが、このピッチャーまだ20代らしく変化球のキレが凄い。こんな鋭くくい込んでくるスライダーなんて初めて見た。この人でプロには行けないんだ。俺が行けるわけなかったんだ。そう思い知らされた。結果はなんとかバットに当ててボテボテのショートゴロ。

そのまま試合は進み5回裏。相手はピッチャーを交代。どうやら肘か肩があまりよくないらしく長くは投げられないみたいだ。

そして2アウト満塁で俺の2打席目がやってきた。ベンチから見ていたが前のピッチャーに比べたら全てが劣っていて簡単に打ち返せそうだ。

初球はインロー。ギリギリストライクらしい。このおっさんピッチャー、もしかして制球がいいタイプなのか?2球目はアウトローへのボール球。そして3球目は変化球が抜けたのかど真ん中にきた力のないボールを俺は思いっきり振り抜く。

結果は川ポチャの満塁ホームラン。久しぶりの感触で俺はやっぱり野球が大好きで野球しかないんだと思い知らされる。ホームを踏み、ベンチに戻るとおっさん達に揉みくちゃにされる。顔に刺さる髭や加齢臭すら気にならないくらいに気持ちがいい。

そのまま4-0で試合は進み最終回の7回表。この回抑えれば勝利だ。こっちの3人目のピッチャーのおっさんも疲れてきているみたいで俺のところに2本フライが飛んできた。

だが2アウトランナーなし。あと1人で勝てる。踏ん張れおっさん。そう思っているとまたこっちにフライが飛んできた。しかも今までで1番大きい。後ろに走りながら追いかけるが思いのほか打球は伸びる。そして、あっ……ボッチャーン。

川に落ちてしまったらしい。いつもならこんなミスはしないはずなんだが、久しぶりの野球で自分も活躍していて気分が良かったせいで注意力が散漫していたみたいだ。でもこの川は浅いから大丈……あれ?なんで沈んでいくんだ?この川そんなに深くないはずじゃ……息が……意識が……うっ周りが突然明るく……

どれほどの時間が経ったのだろうか俺はどこかに打ち上げられたようだ。そして俺は目を明け、その光景に驚いたのだった。

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