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098:ドライアド族の女王

 緑の洗礼が終わったアルラウネの姿は、小学生のような出で立ちから成人式を迎えた女性の姿に成長していた。


 薄い緑色の肌は薄まって色白へと変わり、髪は淡く緑に光り輝き、緑のオーロラがなびくように美しく腰の長さまで伸びている。飾られていた一輪の真っ赤な花は、『飛仙髻(ひせんけい)』の両輪の脇に淡いピンクとなって飾られていた。


 緑色が基調の出で立ちだが、髪型や服装をみると天女をイメージする人が多いかもしれない。


「や…… やったー。これ──」 


 アルラウネが感嘆の叫びをあげたのを遮るようにウタハが大声を出した。


「──なんですかー これ!」


 主役であるはずのアルラウネから皆の視線がウタハに集まる。特に変わった様子はないようだが……


「胸が大きくなってますー。更に力が漲ってきましたよー!」


 アルラウネの儀式で入りきらなかった緑の力が行き場を失って、ウタハに引かれ力を取り込んだことで、更なるプロポーションと力を手に入れた。


「ちょっとー! ウタハ! 今はわたしの儀式なんだから邪魔しないでよー」


「そんなこと言っても、ビックリしちゃったんだからしょうがないじゃないですか!」


「ムムム……」


 アルラウネの髪がそれぞれが意思をもったように動き出しツタを形成していく。

形成されたツタの一本がうねるようにウタハに向かって伸びていった。


 カッキーン


 ウタハは天に向かって伸びた髪の一本を抜いてツタを弾く。その音は鉄琴を叩いたようなとても澄んだ音が反響していた。


「アルラウネさん。危ないでしょ! 止めて下さいよ」


 そう言いながらも、弾いた髪を矢として弓にあてがってアルラウネに向けるウタハ。狙いはアルラウネを外しているのは見て取れるが、これ以上のケンカは実害が出そうなので『変質』の力を使って2人をドラグナイト鉱石を使った格子で囲った。


「ウオー」「やったわねー」


 興奮冷めやらぬ二人は、格子に掴みかかり動物の様に雄叫びをあげていた。


「ウタハちゃんもアルラウネちゃんも随分興奮しているわね。ケンカはよくしていたけど、どちらかというと姉妹のような2人だったのにどうしちゃったのかしらね」



「みっなさーん、ごきげんよー」


 綿毛の様にふわふわと浮いている緑色の髪をした3頭身の女の子が近寄って来る。入口をカモフラージュして閉鎖している空間に得体のしれない不思議な女の子が侵入してきたのだ。


「ちっこいのが来たのじゃー」


 ウタハとアルラウネは興奮状態のまま矛先をその女の子に向けた。その子は臆することもなくふわふわと近づいてくる。


 僕はこの女の子を見たことがあった。初めて姿を見たのは裸だったのをしっかり覚えている(7話) 


「……ド……ドリアラ」


「あらなぎさちゃーん。覚えてくれたのねー」


「ど、ドリアラ様?(一同)」


 この小さな姿を皆に見せるのは初めてなようだ。皆がビックリする中、話を進めるドリアラ。


「アルラウネは緑の力を吸い過ぎて、ウタハさんは漏れ出た緑の力を吸収して興奮状態になっちゃたようだねー。だから~気持ちが高揚しちゃったんだね~」


 そういって、小さな体で小さな杖を振り払うと、ふたりの余分な緑の力も払しょくされ興奮状態が治まった。 ……ついでに、ウタハのツンツンした頭髪も元に戻っていた。


「ドリアラさま~。そんな話し方をして大丈夫なんですかー。長老たちにどやされるんじゃないのですー?」


「アルラウネ。いいのよーバレていないからねー。本体は緑の環で力を送っている最中だから動けないのよー」


「ドリアラ様とアルラウネは話し方がそっくりですね」


「リリス。わたしの一部を切り取った思念体みたいなものなのよー。だから成長する前の幼少期の性格が出ちゃうみたいねー」


「で、ドリアラはここに何をしに来たの? てっきり歩いて来いと言うくらいだから待っているのかと思っていたよ」


「ん~。ちょっとね~。困ったことが起きたのよ。長老たちに知られないようにこっそり話そうと思って時間を稼いだのよー。それに、アルラウネに緑の儀式もお願いしたかったからねー」


 相変わらずドリアラの長話が始まった。どうやら事は切迫しているようだ。ドライアド族が主に住むベヌスには影響が出てはいないのだが、地上に大きな厄災の渦が広がりかけている。

 厄災からベヌスを護るため、次期女王となるアルラウネの力を儀式によって強化したかった。が、ドライアド族の掟で、ベヌスの外で育った者の儀式を行うためには、制約が多く現実的ではないので、お願いしたそうだ。


「でも、僕がアルラウネの儀式をやってしまって良かったんですか?」


「いいのよー。なぎさの力は私よりも強いからねー。アルラウネをより強くしてくれると思ったのよ。仲も良いからエネルギーを効率よく取り込めると思ったわけよー。予想以上だったけどねー」


「なぎささん……。それよりも、私の持つ召喚獣がドライアド族の次期女王だなんて…… あの、アルラウネが女王様ですよ」


「ウタハー。そういうことなので、召喚獣としてのお仕事はこれでおしまいねー」


「そ、そんなぁ……」


「でも、大丈夫よ!。召喚には応じられないけど力は貸してあげるよー。ツタでペシペシやっちゃってねー」


「わーい。やったー。アルラウネ。ありがとうー」



「ドリアラ様。先ほど話をしていた厄災とは何があったんですか」


「そうそう。それで地上を守る役としてなぎさにお願いしようと思ったのよー」


 どうやら地上に鬼が復活したようで、タマサイ王国、スカイブ帝国、バチ王国の3つの力の均衡が破れつつあるようだ。タマサイ王国が大いなる力を得て勢力を増大させており、各都市への戦争を企てているということが分かった。

 今の、スカイブ帝国、バチ王国の力では太刀打ちできないだろうとみているようだ。以前のタマサイ王国の国王であれば平和的な解決も望めたのだが、新しく王位に就いた者が好戦的でサムゲン大森林で霊芝草を探しているという話らしい。


「ドリアラは良くタマサイ王国のことが分かったね」


「植物を介して色々と知ることが出来るのよー。サムゲン大森林はわたしたちの主たる情報源と言ってもいいかもねー」


「それで、僕たちはどうしたら良いのですか?」



「みんなにはー、『鬼』を退治して欲しいのよー」



「鬼ー!!(一同)」




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