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068:それぞれの想い

 なぎさの森づくりが始まった。マップと照らし合わせながら、『森』『畑』『村』の大体の位置を決めて同時進行で作業を進める。


 『森区画』は整地から始めていく。障害となりそうな岩や植物をどんどん素材化して取り除き『土壌改良』で土の栄養状態を良くしていく。

 栄養が染み渡った土壌にアルラウネが種苗を植えていくのだが、植物族なだけあって鼻歌を歌いながら楽しそうに作業していた。

 整地が終わったら『地熱』で地面を快適温度に保ちつつ緑水で栄養を与える

。これを朝夕と続けると、数日ほどで立派な森になった。


 『畑区画』は森と同様に整地してから、アラウルネに結界を張ってもらう。畑部分は素材化した木々で柵を作り『土壌改良』で畑を太らせていく。


 『村区画』は、村の境に壁と門扉を作った程度で、後はベオカ民に好きなように再建してもらうことにする。



 作業の間、竜崎は訓練を怠ることなく訓練場に籠っている。訓練場には、レアーのプログラムできる鉱石『魔水晶』を組み込んだ埴輪型のゴーレムを配置してある。

 ちなみにゴーレムにプログラムした内容は『避ける』のみ。強めの魔力を込めたので、そうそう攻撃があたることはないだろう。

 このゴーレムがかなり気に入ったようで、休憩時間を惜しんでまで戦っていた。時折アルラウネに手合わせをお願いしていたが、まだまだかなわないようだ。


 森林を大きくしている中で、アールド王子の凄さを知ることになった。

 草原が広がる何の変哲もない土地から森が出来るまで、ひたすら見守ってくれていた。休憩となれば僕を労い竜崎にも声をかけ、夜になればみんなを楽しませてくれる。肉体的にも精神的にもずっとフォローしてくれた素晴らしい王子である。

 竜崎はひたすら訓練に明け暮れていたが、美味しい食事やおやつを作ってくれたり掃除をしてくれたりと、女子力の高さを見せつけていた。



 全ての行程が完了し、ベオカ民を移住させる準備を整えるため一度コツに戻ることにする。その帰り際に『竜崎 琴』からこれまでの想いを告白された。


「帰る前に手合わせをして欲しい…… この場所に来てずっと考えていたんだ。通りすがっただけの村に、手を差し伸べて命懸けで助けている。それに、力を隠すために逃げることも出来たであろう魔人に、わざわざ戦いを挑んで私たちを助けてくれた。なぎさのように私も人を護れる強さがほしい」


 竜崎は一呼吸おいて更に想いの丈をぶつけた。


「魔人と戦って思ったの。力がどれほど大切なのかを…… 私は魔人を倒したあなたの力に恐怖した。それに魔人の桁違いな強さに圧倒されながら倒されていく仲間を見て恐怖を覚えた。そんな私の力がどの程度のものなのか見てほしい」


「分かった。手合わせを受けよう。でもちょっと待ってほしい」


 今までの長い付き合いと今の竜崎を見て構想を練っていた専用武器を、大きなお世話だと言われるかもしれないが、竜崎の強い想いに触発されて作って見たくなった。

 元々弓の名手である竜崎だが、今までの戦いや訓練を見ても剣しか使っているところしか見ていなかった。



 竜崎の専用武器は『弓剣』


 通常は剣として強力な攻撃力を生み出す。竜崎の魔力を流すと、刀身が真ん中から逆に折れ曲がりアーチ状となって弓モードに変形する。弓モードでも刀身の刃が外側を向いているので、双頭刃の剣としても戦うことが出来る。

 

 剣と弓モードの変形は竜崎の魔力がスイッチとなる。竜崎の魔力を受けたときに『魔水晶』の力で自動変形するようにプログラムしたのだ。刃はドラグナイト鉱石を多めに圧縮してあるので、重量はあるが切れ味もかなりのものになっている。


「竜崎。お前は弓の方が得意だったよな。試しにこれを使ってみてくれないか。魔力を流すと剣と弓が切り替わる武器だ。変形用の魔力は先生に補充してもらわないとならないけどな。挑戦はその武器を使いこなせるようになってから受けることにするよ」


 竜崎は受け取った『弓剣』のモード変化を確かめながら武器を振るったり弓を射る動作をしている。


「この弓はずいぶんと強弓だな。わたしにとってはこれくらいの方が使いやすくて好きだ。ちょっと待っててくれ……」


 僕とアールド王子を残したまま訓練場まで走って行った。





 …………試用が終わったのか走ってこの場に戻ってくる


「これはいいわね。どうしても将軍として前に出る必要があるから剣を選んでいたんだけど、これなら立ち回りに幅が生まれるわ。わたしはこの『弓剣』を人を護る力として先生と共に使っていきたい。次に会う時までにこの武器をものにしてあなたをビックリさせてあげる」


「私もなぎさ殿に武器をもらったが、あの武器を使うと自分が何倍も強くなった気になってしまう。……もう手放せん」


 アールド王子はそう言って笑っていた。それに釣られるように竜崎も笑った。この地で竜崎と再会してから初めて見せてくれた笑顔だった。


「さあ、コツに戻ろう」




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