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034:決別と再会

 その後の行方は知らないと言い放ったのだ。 聖は話し続ける。


 転移した者は、転移魔法陣の効果により、高い資質と身体能力に加えて個人毎に特化した魔法やスキルなどの技能が与えられる。

 帝国はその技能を伸ばす訓練を転移者全員に受けさせているのだ。


 技能に特化した訓練を受けることで身体能力と資質を磨き、その中でも『勇者パーティー』は選抜されたメンバーで構成されている。その強さは、帝国最強であり誰にも負けない帝国の切り札になっている。


 国外追放された友人たちは、帝国での訓練を受けたので、なぎさと違って、そうそうは死ぬことはないので心配はないと話していた。


「気になっていたんだけど、その女性たちは誰?」 

 古式の目つきが鋭くなり、リリスとユニを交互に睨んだ。


「恋人 (じゃ)」

 リリスとユニが同時に答えると、それを聞いた古式の目つきが更に鋭くなる。


「信じられない!」

 古式は憤慨し踵を返し大きな足音を立てながら屋敷に戻る。


「お前の噂は耳に入っているよ。15歳にしてレベル1だとな。一応教えておくがここの世界は1年間が600日ある。だから年を取るのが遅い。15歳で成人となり一般的なレベルは5だ。 選ばれた人間である俺達に、お前の力は必要ない。好きなように暮らせばいい。そして遠くから俺たちの活躍を見ているが良い!」

 そう言い残し、聖は王者のような風格を漂わせながら屋敷に戻った。


「君の力じゃ、一緒に行ってもすぐ死んじゃうからね。その子たちと普通に暮らした方がいいよ」

 里中はそう言い残しケラケラ笑いながら屋敷に戻る。


「じゃあね。なぎさくんさようなら。 待ってー里中さーん」

 斉木は里中を追うように走って屋敷に戻った。


 開門されることもなく、勇者パーティーとの間に壁が出来たまま再開となった。


 そして決別した。


 ……その場に残された僕たちは宿屋に戻る。帰路は口を開くこともなく静かだった。


「なぎさの友達って失礼な人たちなんだね」


「なぎさならちょちょいのちょいで倒せるのじゃ」


「いいんだよ。僕たちは僕たち。あいつらはあいつらだ。今どこかにいる友達や先生たちも自分を信じて今を生きているんだ。僕の幸せはリリスやユニと一緒に居ること。だから僕はあいつらとの過去と決別をする」


 昔のことを思い出しながら力強くそう言った。しかし友人関係にあった『勇者パーティー』との苦いやりとりが頭に浮かんでしまう。


「もうこの国には居られないな……」 

 ボソッと言葉が出てきた。うっすら涙が出ていただろう。


 (……最後に帝国で食事でもして帰るか)


 寝ている2人を起こさないように酒場に向かった。さすがに聖たちとのやり取りを気にしないようにしても、受けた言葉は心に刃となって突き刺さっていた。


 酒場の扉を開けると僕の心とは対照的にとても明るく騒がしい…… 心がざわついているのか、一層と騒がしさを感じ、それが煩わしくも感じていた。


『勇者パーティー』と僕の一件は瞬く間に帝国中に噂となっていた。ギルドで僕のレベルを笑っていた冒険者たちも酒や食べ物を奢ってくれた。


 そんな時、あるパーティーの会話が飛び込んできた。男3人と…… それともう1人…… どこかで見たことがある女性だ。


「そういう事だからな。俺たちは新しい仲間を見つけた。よってお前はお払い箱だ」


「そ、そんな…… どうしても迷宮にみんなと一緒に入りたいんです。お願いだから捨てないでください」


「もう決まったんだよ。お前は1人じゃ何もできない。どうせ金もないだろうから奴隷落ちしかないな」


「俺たちが今度のトーナメントを優勝するんだ。そして、お前の代わりに迷宮に行っといてやるよ。じゃあな」


 周りの冒険者は見てみぬフリ。その捨てられた女性はランクがカッパー。その他のメンバーはプラチナランクの冒険者で構成されていた。


「大丈夫ですか」

 女性を抱き起しテーブルに座らせる。


「ありがとうございます」


 …………あ──────


 あなたはキクで裁きを受けていた……


 その女性は、この世界に転移したとき、お風呂に入っていた女性の一人であった。兵士に捕えられ裁きを受けた時に証言をした女性。


 その女性との再会であった。


「こんな所で会うとは……。キクでは迷惑をかけてすいません」


「島流しにされたと聞きましたが、無事に脱出できたのですね」


「はい。なんとか脱出しました。不可抗力でお風呂場に飛ばされ、兵士に捕らわれた時はどうなるかと思いましたが、今は無事に旅を続けています」


 彼女は話の間、ずっと上の空であった。話を続けると、涙が溢れ出し、そのままテーブルへ突っ伏す。


「何があったのですか。良ければ話を聞かせてもらえませんか」


 彼女と僕の間には鳴き声だけが響き渡る。 


 ……彼女の返事をじっと待つ


 しばらく泣き続け、彼女は涙を拭って語りだした。


「私は、ウタハ・ルグリ・ニードと言います」




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