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128 新たなる戦いに備えて【第8章完】

 白銀の翼の特訓が続いている一方、僕たちはマリンの屋敷に戻っていた。


 円卓に取り囲むように座る面々。上座にはマリンの兄であるワナギと伊和凪沙耶が隣り合って座り、呆れるような顔をしている古式がいた。


「凛ちゃん、一体何があったの?」

 

 首を振る古式、マリンはギルドの仕事で不在。妙に仲良く話をしているワナギと沙耶。恐る恐る何があったのか尋ねた。


「ああ、なぎさくん。わたしは沙耶と結婚することにしたよ」


 文字となった音が部屋いっぱいに広がるほどの驚きの声があがった。ニコニコと満足しているワナギの顔がそこにあった。


「驚いてもらえて何よりだよ。今までいろいろなサプライズをしたが最高の気分だ」


「ちょ、ワナギさんサプライズでそんなことを決めちゃっていいんですか」

 思わず近寄ってワナギと沙耶の顔を交互に見比べる。


「良いんだよ。これもひとつの縁だ。沙耶は記憶喪失になり力を失った。これから生きる術がない女性がひとり。僕もそろそろ結婚適齢期だ。沙耶が嫌いなわけではない。むしろ意中の男性に一途になれるその心が大好きだ。彼女の意中の女性が、岩谷なぎさからワナギ・イサヤになっただけだ」

 力強く拳を握り力説するワナギ。それを横で見る沙耶は笑顔で話した。

「わたしがなぎささんを追いかけていたという話しは凛ちゃんから聞きました。覚えているのは、私の中に感じる男の人の想い。その想いをワナギに感じるんです」

 

 凛が首を振って呆れたように口を開いた。

「彼女ね、”岩谷なぎさ”という名前に自分の”伊和凪沙耶”の文字が入っていることで運命を感じていたんです。そして”ワナギ・イサヤ”でしょ……まったく」


 ユニがテーブルの上に上って飛び跳ねた。


「めだたいのじゃ、めでたいのじゃ。つがいの祝いはめでたいのじゃ。祝言はどうするのじゃー」

 テーブルの上で抱え込むように座ってワナギを見つけるユニ。

「こら、ユニちゃん下りなさい。テーブルに上っちゃだめでしょ」

 ユニを引きづり下ろそうとするアカリ。必死に抵抗するユニ。

「いいだアカリさん。心から喜んでくれているのが分かる。ただ、結婚式はしばらくお預けだ。四大大国が大変な時に祝言なんてあげられないからな」

 真面目な顔で答えるワナギ。僕たちは静かに円卓テーブルに腰を下ろした。タナリでの経緯をポイントでワナギに説明する。その間に沙耶が紅茶を準備してくれた。


「それでなぎさくん、これからどうするのかね」


「はい、タマサイ王国に向かおうと思います。タナリで現れた魔神はタマサイ方面へ向かいましたので」

 同調するようにうなずくリリス、ユニ、ウタハそしてアカリ。


「そうか。わたしの力じゃ役に立たなそうだな。古式くんはどうする?」

 古式は俯いていた。色々な感情が渦巻いているのだろう……場の空気が静かになる。空気感を察しているのかみんなが古式の答えをじっと待つ。

 

 カップに入れられた紅茶が冷め始めた頃、古式の口が開かれた。



「わたし、強くなりたいです。スカイブ帝国の勇者パーティーともてはやされ、調子にのった私を戒めてくれたなぎさ先輩。それから私たちがどれほど井の中の蛙なのかを思い知りました。先輩が良ければ、私も白銀の翼の方たちと特訓をしてもらえないでしょうか」


 考えた。バスリングは閉鎖された世界。これから始まるタマサイ王国との戦いに備えている最中。後輩である凛ちゃんを戦場に送り込むことになりかねないのだ。


 リリスとアカリに同時に叩かれる。


「「いい、彼女の想いを大事にしてあげて。強くなることは生きる力を得ることでもあるの。彼女はきっと大丈夫、ダメだったときはしっかり守ってあげればいいじゃない」」


 ハモるように話すリリスとアカリに那由を感じていた。


 ──バタン、一つの扉が開かれた。部屋から出てきたのはマリン。仕事に行ったはずのマリンがそこにいた。


「マリン、仕事に行ったんじゃなかったのか。なんでそんな所にいるんだ」

 ワナギが立ち上がった。


「お兄様、なぎささんとの話を秘密にされそうで隠れていました。なぎささん、私も連れて行ってください。セレンの敵を討ちたいんです。きっとその方は私と関係がある気がするんです」


 セレンはマリンと同じ天女族。説明の中で一族の話しはしていない。きっと何か感じたものがあるのだろう。しかし、彼女まで危険な目に晒すわけにはいかない。


「良く言ったマリン。それでこそイサヤ家の一員だ! 君の言うセレンという女性がお前とどういう関係があるのかは知らないが、マリンの直感を信じるぞ」


 僕の脇にくると、力強く手を握り長い時間握手をされる。ここまですると断るわけにはいかない。


「なぎささんいいじゃないですか。死にに行くわけじゃないんだから、ダメだったら帰ってもらうことも出来ますし。マリンさんとセレンさんは仲間じ──」


 リリスとアカリによってウタハの口が塞がれた。一瞬ワナギは不思議そうな顔をしたが気にすることなく笑っていた。



 * * * 



 バスリングに徐々に集まる精鋭たち。力を蓄えタマサイ王国との戦いに備える。出来れば戦争はしたくない。


 馬頭鬼や牛頭鬼、羅沙鬼。そしてタナリから飛び立った『オメテオトル』。どんな戦いが待ち受けているか分からない。もし、魔神たちが王国を操っているとすれば必ずバスリングに集まった仲間たちの力が必要になる時が来る。少しでも……いや、一人でも罪なき人が死なないように力をつけてもらう必要がある。



 僕たちは平和な世界を求めてタマサイ王国との争いに備えるのであった。

 


「ちょっとなぎさ先輩、なんですかこのメイド服を着た人たちの強さは……」


「なぎささん、ここの人たちおかしいですよ。お母様(マーハー)に近い強さをもっている私でも全然かないませんよー」


 白銀の翼の面々、そして古式とマリンの眠れない日々が続くのであった。



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