第百三十七章 追撃イスラム国
地響きと銃声、喧騒が渦巻く最前線で何が最適かを見定める。ハンドディスプレイの表示と実際の戦況を連動させ、敵味方の強弱を体感で割り出した。
周辺の大隊を動かすならば、第五司令部を通じて命令を出せる。そもそもが従う義務がないのに従う異常、戦場で生き残るためにというのが理由にあればそれでよい。
「庁舎の北西に強固な防御拠点がある、砲撃で潰させろ! あのビルの三階に狙撃ポイントがある、歩兵を送り込め! 大通りは面で押すんだ!」
ILB司令部で言葉にしたものがワンクッション置いて実現する。徐々に優位に立つと戦線が北東へと動いていく、全体がどうなっているのかは頭の片隅にだけ置いて目の前を流し見る。
――敵の本営はどこだ! 最強固地点を見抜くんだ、俺になら出来る!
一進一退しながらクァトロ戦闘団の攻撃力で一部を押す、そこへ歩兵を送り込み確保して勢力図を塗り替える。地道にやれば多くを獲得できるかもしれないが、それでは時間もかかり過ぎるし何より戦闘団の被害が多くなりすぎる。
ドローンの映像がハンドディスプレイに出る。無言で数秒見詰めていると、イスラム国の動きに規則性があるように思えた。確信は無かったがマリー中佐は直感を信じる。
「サディコン大隊に戦闘団の直掩をさせろ、ここのスーパーマーケットが敵司令部だ!」
各所で攻め込まれて退く際に、スーパーマーケット側に後退しているように思えた、ただそれだけ。稀薄すぎる根拠と言えばそれまでだが、長年の戦闘経験からの勘がそう告げていた。
大隊への側面攻撃を防ぐ意味で、少し離れて場所を確保した。二方向を護るようにして取ると、少しして黒の戦闘車が接近して来る。
――ブッフバルト頼むぞ。
数十台の戦闘車両が一団となり進む、通りはサディコン大隊の歩兵が路地を監視して敵のロケット攻撃を許さない。
駐車場に構えられている防御陣地を圧倒的な火力で蹂躙し、スーパーマーケットの建物に主砲を撃ち込んだ。一度、二度と続けると建物反対から黒い集団が退避していくのがドローン撮影で明らかになる。
映像で動きを追跡させつつ全体の状態を確認すると、妙な方向に動き出す部隊が幾つも見られた。
――司令部が後退したことに気づいたんだ!
恐らく先ほどの黒い集団がそうだと確信する。ハンドディスプレイに街を広範囲で映させる、このままでは北西にある部隊と合流してしまうだろうことが解った。
「ILBは戦場を迂回して先回りするぞ!」
敵が少ない場所を狙って車を走らせる。遠回りはするが時間は節約できる、移動の阻害を行える箇所に割り込むことが出来た、それは同時に挟撃を受けることを意味する。
前後に敵を抱いて激しい攻撃を受ける。
「何としてでもこの場を守り切るんだ、敵を通すな!」
――こちらが音をあげるのが先か、あちらが諦めるのが先かだ!
背を第二中隊に預けて、マリー中佐は敵の司令部隊を防ぐ。幸い機材を抱えてのことなので足は遅いが、離脱するだけで良いので状況は五分五分。一方で第二中隊は劣勢で敵の攻撃を何とか凌いでいる。
北西に居る敵の数が多く勢いがあった、トランプ大尉が「これは無理だ、撤退を求める!」戦力差に否を突き付けた。数分あれば友軍が司令部隊を攻撃出来る位置に進出して来るが、その間にこちらが全滅しかねない。
判断する材料は少ない、だがマリー中佐は決めなければならない。
「司令よりILB全軍へ。その場を死守しろ! 今俺達は長く続いている対イスラム国戦の転機に立っている、ここを護り抜けば奴らを凋落への坂道に蹴り落とすことが出来る!」
――大被害は間違いない、だがここで退いてなどいられるか!
トランプ大尉は猛反対をするが、兵の大半がその場に拠って抗戦を決意した。被弾して流血しようと、砲撃の破片で骨折しようと歯を食いしばり耐える。
北西の敵陣でストライカーMCからの迫撃砲支援が行われたようで、速射で砲弾が降り注ぐ。敵の位置は映像とILBからの通信できっちりと把握している。
それでも敵の勢いは衰えずに前進して来た。士気衰えずに戦えているのはクァトロのエージェントが多数混ざっているから。
「やはり厳しいか……」
解ってはいたが被害が急速に増していき、限界が目の前に迫った。それでも歯ぎしりして耐える、友軍の到着を信じて。
第二中隊に接敵するほど浸透して来る黒い部隊。それを西――敵からしたら右手後ろから奇襲する部隊が現れる。
「YPJも参戦するよ! やっちまいな!」
アマゾネスが来援し、我先にと食らい付いて行く。その獰猛さは唖然とするほどだった、何せ銃撃しながら黒い服の男達に組み付く有様だったから。
「何だありゃ! 味方撃ちをするなよ!」
第二中隊でも混在する場所を避けて交戦を継続、一息ついても劣勢に変わりはない。が、そこへストライカーRVがVABやプーマを従えて突入してきた。
攻撃力は低めの装甲偵察車ではあるが、防御力は砲車と一緒だ。ロケット攻撃が無ければ抜くことができない装甲を頼りにして乱戦の場に無遠慮に入り込むと、黒い兵を狙い撃ちにして猛威をふるう。
「司令、友軍が司令部隊に攻撃を始めました!」
「きたか。声を上げろ、絶対にここを通すな!」
あと一歩で味方の中に逃げ込めたはずの司令部隊、突破を諦めると東へと進路を変更してゆく。
「よし、ILBは速やかにこの場を離脱するぞ」
役目を終えると躊躇なく場所を放棄する、価値が大暴落したからに他ならない。南東に足を向けると、友軍と交差するようにして抜け出す。どこかのショップの駐車場で止まると治療と補給を行う。
肩を怒らせたトランプ大尉が司令部に怒鳴り込んできた。
「この味方殺しが!」
いきりたつ大尉の方を向くがマリー中佐は冷静に言葉を受け止める。ここで怒鳴り返しても何も解決しないからだ。
「不満があるのは承知の上だ、だが司令部隊は追い返した、この意味が解るな」
イスラム国の頭脳が裸も同然で戦場をうろついているということが。瞳を見詰められてトランプ大尉も次第に心を落ち着けると「だが被害が大きすぎる!」声を上げた。
「大尉は犠牲も無く戦争を終わらせることができると信じている口か」
意地悪くそう口にすると返事を待つことなく「十倍返しにしてやるさ。司令部隊に追撃をかけるぞ」大いに煽った。
「まだ戦う気か!」
どれだけ神に吐露したか分からない、大尉の人生でこれまでにない位に頻繁なのだけは確かだろう。
「途中で止められるわけがない。だがトランプ大尉が離脱するというならば承認するがどうする」
司令要員の奴らに視線を流してみるものの、誰一人そんな感じの弱気が居ない。何故兵らがこうまでも士気が高いのか、全く理解出来なかった。
眉を寄せてしかめっ面をする。
「負傷者は後送する、くそが!」
「追撃への快い賛成だと受け取るよ。いいか、絶対に逃がしなどしない約束する」
軽口から一転本気の表情をのぞかせる、勝つまで戦いをやめるつもりは無い。相手が負けを認めるまで戦いは途中のまま、戦争とは勝者を決めるものではない、敗者を決めるものなのだ。
トゥヴェー特務曹長がマリー中佐に何かを耳打ちした。小さくうなづくと瓦礫に腰かけていたマリー中佐が立ち上がる。
「休止は終了だ。司令部隊が呼び寄せている部隊を阻止するぞ」
――どれだけ苦しくても俺はやり遂げてみせる。
◇
第五司令部では情報が大氾濫していた。各所の部隊の状況報告では敵味方の判別がつきづらいせいで、同じ情報をそうだと断定できない事例が多数あったから。
そのため全てを耳にして取捨選択をロマノフスキー准将一人が行うような状態。彼もそれを覚悟して全体をみるとマリー中佐に宣言していたので、これは想定の範囲内。だからと負担が減ることは無い、それを嘆くこともないが。
「大通りを北東へ動く部隊が三つ、庁舎の周辺で交戦している部隊が七つ、河沿い東に四つ、それと――」
未整理の報告を延々と聞かされ続ける、軍が部隊を別けて指揮官を置いて指揮を預ける理由が直接的に肌で感じられる。
「ILBはどうしている」
画像を見せられて市街地の北東部に移動していると指をさされた。その東――右手には大通りに部隊があり、左手にも複数の別部隊がある。常に半分包囲されるかのような位置に挟まっていた。
――苦労を掛けさせている、済まんマリー。ボスはお前にILBとして動くのを望んでいる、ここで死ぬなよ。
手勢を増援してやりたいが、それをやってはマリー中佐の努力が全て無駄になってしまう。どうしても窮地に陥り、命の危険を感じるその瞬間までは独力で戦て貰うしかない。
「これらの部隊をシャームの鷹団に攻撃させろ、こちらはシリア・サハラ大隊だ」
――しかしシャームの鷹団が呼応するとは思わなかったな、こいつらは情報が少ないぞ。司令はアフメドだったか。
どいつもこいつも似た名前なので取り違えに要注意、名前のバリエーションが極めて少ないのがアラビアンの特徴だ。
反イスラム国親シリアで汎民族主義者、いわゆる穏健派の武装集団という怪しげな集団。それでも今戦力になると言うならそれ以上は求めない。
小一時間ほどの交戦、どこも微妙な戦力差で等しく劣勢。それでも崩壊せずに推移できているのは指揮官らの能力だろう。
「敵が混乱して市街地へ後退してゆき、YPGが態勢を立て直しました」
押しに押されていたが、司令部が逃げ回っている間に連携が乱れて戦線を縮小した、それに乗じて守りを固めたということらしい。YPGが落ち付けば攻撃に兵力を振り向けることも可能になる、山場を乗り切った。
「西部でユーフラテスの火山が進軍を開始、市街地の一部を占拠します」
小競り合いに終始していたはずなのに急に、理由は簡単だイスラム国が退いたから。相手が下がればその分前に出るそれだけ。
では居なくなった兵がどこにいったかというと、それは西から東ということになる。全体が北東へと動きつつある、ラッカを放棄しての撤退戦を決めた可能性が高い。そうなればあとは流れに任せておいても趨勢は変わらない、水が低いところへ流れていくかのように、戦況も行きつくべきところへと流れてゆく。
「第五司令部より全軍、イスラム国が北東部へと移動を開始した、敵の離脱を遮る必要はない。各位は防御に専念し被害を減らせ」
――戦いの第二幕に突入だな。
事実上の勝利宣言に他ならない、歓声混じりの報告が多数上がって来た。ここで戦闘を終了するやつらはそれでも良い、だがそうではないロマノフスキー准将は一手も二手も先を読む必要があった。
徐々に部隊を糾合して市街地外縁北東に敵が集結する。東には革命家軍の少数と、ハッサン大佐の政府軍が控えていて不気味だ。北西から西にはYPGの本軍、これらに挟み撃ちにされてはかなわない。
充分な兵力が集合するまではその場で交戦しているつもりだった、だが戦況は不意に動く。政府軍がイスラム兵を無視して南東部よりラッカに入城し始めたからに他ならない。
「あの面の皮の厚さは世界レベルだな。追撃戦が始まるぞ」
――戦わずにラッカの権利だけをもぎ取るか、クソ野郎が!
待機戦力、包囲戦力としてそこにあったからこその効果があったのは否めない。それでも釈然としないのも事実、心証は最悪だ。
動きに気づいたイスラム国も少ししてから北東へと前衛を押し上げていく。警戒すべきは西、YPGだけ。そいつらとて先の攻撃で肝が縮でもしたのか積極的な交戦を避ける始末に悪態が出た。
「レバノン軍がラッカに進軍します。シリア東部同盟の軍が複数それに従っています」
他にもシリア・アラブ同盟、YPGの一部、数えだしたら止まらないほどにあちこちの部隊が肉に群がる野獣のごとくだ。
「渋滞に巻き込まれる必要はないぞ。マガッラ橋から東部に迂回してイスラム国の南東に位置取る、大隊を指名して移動を始めさせるぞ」
メナファ大隊、ハルワラ大隊、エルジラーノ大隊と順次指揮下の部隊を動かすようにさせつつ戦闘団も南部に離脱させる。こちらは西に大きく迂回させて北へと直進させた。
ILBと一部の部隊はイスラム国の南西部に接触して直接的な追撃戦を行っている。逃げる相手を攻めるのは被害が少ない、とはいえ気が抜けないのも確か。
「さてシャローム大尉、済まないが残業に付き合ってもらえるかね」
微笑を浮かべて継続して戦う意志を示すと「何なりとご命令下さい!」真面目な大尉が即答する。満身創痍の後輩の助けとなるべく、敵の注意を後ろ以外に逸らす手筈を整えながら。
◇
ラッカの北、山間に彼らは居た。市街地の攻防には加わらずにじっと時機を待つ少数の部隊。黒塗装の武装車両に、黒の軍服。太陽が傾きかけている空を見上げて風を一身に受ける男は、一人腕を組んでたたずんでいた。
周辺地域は厳重警戒をしており、簡易テントの中には同じく黒い軍服を身に着けた男達が通信機材を前にしてしかめ面を晒している。
包帯を腕に巻いて首から吊り下げている五十がらみの男がすっくと立ち上がった。そのまま腕組をしている男の傍にまで歩み寄る。
五十前後の男は二本線に星三つ、大佐の階級章を着けている。警戒を常として、己を律して生きてきたような顔つき。軍人を、将校を体現したような存在。
「閣下、イスラム国に動きがあります」
重要報告にピクリともせずに空を見あげたままの男の襟には星が三つだけ括りつけられている。多くの国で採用されている階級章のそれは中将を示していた。
明らかに年若い、だがそれは軍隊では無関係、上下は階級でのみ判別される。組んでいた腕を解くと振り返る。
「ハウプトマン大佐、敵をシリアから駆逐するぞ」
大雑把な目標を口にする。シリアから駆逐する、大目標ではあったが実際にこうやって実務を指して言葉にしたのは今回が初めて。ついに伏せていた全てを明かす時が来た。
若かりし頃よりずっと胸に秘めていた想いがフォン=ハウプトマン大佐の心を刺激する。親友と共に支えると誓った人物が、高みに登ろうとしている。支えたい、強くそう願う。
「どうぞ自分にやれとご命令を」
先の戦闘で負傷して満足に戦えないだろう大佐、だが彼は自身を指名しろと進み出る。クァトロ司令部には他にも戦闘を指揮出来る将校が存在している。
グロック准将を始めとして、エーン大佐でもヌル少佐でも可能だ。決して楽な任務ではない、死ぬ可能性が高いことは明白、それでも声を上げた。
じっと見つめてその意志が揺るがないだろうことを認めた。
「クァトロ司令官イーリヤ中将が命じる。フォン=ハウプトマン大佐、イスラム国軍の頭を押さえて北へと進ませるな。あらゆる装備の使用を許可する」
兵力は僅少、火力は恐ろしい程に高い。命は等価交換ではない、ここは戦場で彼らが軍兵だから。平和な世の中に暮らす一般人ではないのだ。
少数でも食い止めることは出来る、戦闘技術の補完は必須。兵器による圧倒、これなしには語れない。
「ダコール モン・コマンダンテクァトロ!」
「ヌル少佐の砲兵隊を預ける」
――俺は非情な命令を下さねばならない、死してでもことを成せと。
踵を鳴らして敬礼するフォン=ハウプトマン大佐に返礼して簡易テントに入る。中では将校らが現状把握に努めていた。外からはエンジンの始動音が聞こえて来る。
平静を装っているつもりだったが、長年付き合っている者からはそうは見えなかったらしい。少なくとも一つ星の准将にはお見通しだった。
姿を認めるなり歩み寄ると「行きましたか」命令を下したことを確認してきた。もし別人に行かせるようなことをしていたら、厳しく指摘されていただろう。
「ああ、きっと大佐は敵を防ぎきる。それは俺にも解るさ」
では何故そのような顔をしているのか、ということになる。指揮官が悩みを持つのは良くない、心を鎮めさせるのは年長者の務め。
「ヴァルターは今きっとこれまでにないくらいに最高の気持ちで臨んでいる。それを汚すのは誰であっても許されない」
親友を名で呼ぶ。今最もつらいのはグロック准将ではないだろうか、島の脳裏を過る考えなど承知で彼は続けた。
「俺が、俺達が支えたいのはお前の意志だ。それが目的である限り、己の命など二の次でしかない」
ここでイスラム国をクルド人自治区に逃がしてしまうようならば、戦乱は更に拡大してしまう。徹底抗戦しているところに別の軍がなだれ込み、今度はクルド人ごと抹殺しようとたくらむだろう。
特にトルコ軍などは我が物顔で援軍を叫んで乗り込み暴虐の限りを尽くすに違いない。微かな希望に沿って緩いながらも大連合を組んでいる勢力が空中分解する。また年単位で戦争が長引く、そうなれば理想の成就など出来るはずもなかった。
「そうだと理解している、そのつもりだ」
とはいえ飲み込めるのと落ち込まないのとは別問題。四十にすらなっていないような若僧が、他人の、それも身近な人物らの命運を左右させて平気でいるのは困難だ。それにグロック准将もそこまでを求めていない。
やることをきっちりとやれば、後は一人で嘆こうと激怒しようと、全てを収めるつもりだから。その為ならば他のことなど重要ではない、グロック准将の命であっても。
この場に在る、そう決めた時点で覚悟などとうの昔に決めていた。
「俺はな、夢を見られて今がとても楽しいんだ」
唐突にそんなことを言う。いつものしかめ面にうっすらと笑みが見て取れた、こんなことは極めてまれだ。どこかで政権が転覆するよりも少ないことだろう。
「ヴァルターも夢心地でいる。このまま果てるのは決して嫌じゃない、お前はそう思わせてくれるほどの奴ということだ。腑抜けるのは構わんが、始まる前には元に戻れよ」
隣を通り外に出る際に肩に軽くを置く。大いに悩んで元に戻れ、優しいようで難しいことを要求している。
――俺の理想なんて小さなものなんだがな。頑張りが認められる世界、ただそれだけなんだ。どうしてこうも死人を山のように出さねばたどり着けんのか。
椅子に座ると目を閉じて腕を組む。要員らは話など聞かなかった、何も見なかったと前を向いて職務に励むことにした。たった一人エーン大佐を除いてん。
深く息を吐く島中将の前に立つと「閣下、親衛隊が動く許可を頂きたく思います」無用の許可を求めてきた。何せ親衛隊はエーン大佐の完全なる私兵。
ゆっくりと目を開けるとエーン大佐を見る。黒い顔に白い歯は浮かんでおらず、真面目な顔で返事を待っている。
「エーンの手勢だ、エーンの思うように動かしたら良いさ」
「ご許可ありがとう御座います!」
そんな背景は完全に無視して謝辞を述べると彼も簡易テントを出ていく。今や本部の兵力はクァトロ直下の兵よりも、親衛隊の方が数が多い。指揮官はオルダ大尉だ。
◇
陽が沈むと敵も味方もその場に留まり朝を待つ。一部の兵が偵察に出たり、市街地では争奪戦が継続されたりはしているが。
いち早くラッカに治安宣言を出したのはシリア東部同盟だった。声明を出したのはハラウィ委員長、どうなるかが事前に解っていたおかげで政府軍よりもわずかに先に動けた。
だがこの僅かなさが大きかった。政府軍の声明に続いて、YPGやその他の勢力も宣言をするものだから発言がかすむ。
「ラッカよりイスラム国兵を追放した。ラッカは自由だ。これよりシリア東部同盟が治安維持の助力を行い、自治政府の発足を求める。各地の代表はマガッラ橋傍の第一会館に集まってもらいたい」
自治政府。マヤーディーン他でも行った市民の意思決定機関を作ると宣言したのだ。もしシリア政府軍が先に何かを言っていたら、このような潮流には乗れなかっただろう。
共同軍を出した軍の代表らは面白いはずがない、しかしそこは市民の代表がどこに集まるかにかかっていた。より食いつきやすい提案、強固な後援を得られる軍の傀儡になるという。
それとて市民が受け入れるかどうかは未知数。少なくともシャリーアに縛られていて陰鬱に暮らしていた他教徒、それに法治を望む者達は変わることを期待しているはずだ。
即ちこのままの体制で維持するというお定まりの文句が使えない。ならばどれだけ具体的な未来を示せるかがカギになる。その時、シリア東部同盟の提案は市民にどう映ったか。
成功体験をした同盟の代表らがこうであれと言う、その説得力の大きさは桁違いだった。政治力での争いになれば軍隊の指揮官など実力を発揮できるはずもない。将軍クラスになれば似たようなこともできるが、シリア政府軍のハッサン大佐には荷が重すぎたようだ。
一方でYPGはというと、クルド人の権益を守ることが出来て、協力関係になれるならと支持する雰囲気が強い。他の小さな勢力では望みを一つ二つ捻じ込むのが限界で、全体を動かす程ではない。なるほどハラウィ中佐にラッカに残れと指名した意味が色濃く出ていた。
即日集まった地域の代表らから互選で暫定の首班を指名させた。街の復興をするためにも、余計なことで時間を使ってなどいられない。
「ラッカ自治政府の設立を宣言する。関係機関はすべからく指示に従うことを望む」
消防無線、テレビ、ラジオ、街頭での口頭、あらゆる手段を使い発足を周知させた。公共機関の多くが連なると宣言し、警察や役所の類も全てが自治政府の承認を行う。
より正確には、各所の責任者らが地域の代表になっているわけだが。
「自治政府より各軍事勢力に要請する。市内のイスラム兵残党の排除を求める。警察は市民の安全を最優先せよ」
最初に出された声明がそれだ。速やかに危険を取り除く、皆が求めていることだけに協調する声が相次ぐ。一つの踏み絵のようにも捉えることが出来た、反応を見せない勢力の扱いの。
「シリア東部同盟は要請に応じ危険の排除を行え、各位の行動に期待する」
これは命令ではない、要請への承認である。連合というものの不確かさを露呈するも、寝込みを襲われるのは誰しもが遠慮したいと掃討戦に参加した。
市街地中央部と南、南西はシリア東部同盟が治安維持の肩代わりをしている。東部、北東部はシリア政府軍が。北部と北西部にはYPGが勢力を張った。西部にはユーフラテスの火山が拠点を置く。細々とした勢力は、区画ごとに居場所を作り見回りを行う。
戦場だった昼間とどちらが危険度が高いか俄かに解らない。確たる敵の姿がイスラム国ではなくなっただけで、もしかしたら隣人は味方では無いのかもしれない。
大戦果を挙げたYPJとILBの姿が無いことにYPG司令部が気づくのに一晩を要した。いつまでたっても報告が上げられずに、不審に思っていたところで現実を知る。なんと司令部の命令もないのに追撃戦に参加していると言うではないか。
YPG司令部は上へ下への大騒ぎになる、何せ戦力が勝手に戦いを継続していると言うから。とはいえ自由な戦いを認めるとILBとの約束がある。後送されてきている負傷者はかなりの人数で、半数は脱落している計算になった。
たかが百数十人で何が出来るのか、不思議でたまらない。激戦を乗り越えたばかりで考えが及ば可なかった、或いは土地に残してきている兵力で何とかしろと考えていたのかもしれない。イスラム国兵が北上を続けたらどうなるかを。
そんな折、一つの民兵団がラッカを離れた。タリハール・アル=シャームだ。向かった先は北、更なる戦闘を求めてのことだとうかがい知れる。市街地へ重砲撃を叩き込んだことへの追及を避ける意味合いもあるだろうか。
国際社会はラッカ攻囲戦での勝利を喧伝した、これでイスラム国は勢力を失うと。味方への士気高揚措置でもあり、敵への分裂工作でもある。実際の現場では未だに渦中でしかないのを脇に、夜があけようとしていた。
山脈の先にある空に太陽の頭が浮かんでくる。オレンジ色の光が徐々に白く明るくなり、シリアに朝がやって来る。第一会館の会議室を一つ占領して事務室を置いていたシリア東部同盟。ハラウィ中佐が一睡もせずに立て続けに交渉を行っていた。
ふと外を見て今が朝だと気づいた。対面に座る地域の代表者に「自分がこのように在れるのも、義兄のお陰なんです」突如そんなことを述べる。
「委員長の兄上ですか」
事情通でも無ければこの場に居ない人物のことを知っているはずもない。なにより大っぴらにそうだと公言して回ったことなど一度もないのだ。
「あの人ならば、このシリアに必ず理想をもたらしてくれます。信じているんです。だから支えたい、全てを賭してでも」
いつも与えられてばかりで何もお返しが出来ていない。握る拳に力が入る。対面に座っている老人の目にもそれが入る、楽な道を行っているのではないのだなと小さくうなづいた。
「ラッカもシリア東部同盟に名を連ねる枠はあるでしょうか?」
投げかける前に望んでいた言葉を得る。ハラウィ中佐は少し驚いてから「こちらこそお願いします。必ず日常を勝ち取って見せます」右手を差し出すと約束した。これが出来ないならば自分は何の役にも立てないで終わるだけだと。
その日の昼、電撃的にラッカ首班から宣言がされた。
「シリア東部同盟にラッカも参加することをここに表明する。委員長は現任のハラウィ氏を支持する」
世界ニュースの材料に一つのスパイスが加わった、あまりにも巨大な民間団体が育ってきたと。その委員長がレバノンの軍人なことに問題ありと持ちあがって来るが、何故かアメリカもロシアもそれを批判することは無い。双方とも裏に何者が居るか知っている、大統領が核心を握っているからだった。
◆
敗軍の朝は早い、何せ一刻も早く根拠地へ逃げ込みたいからだ。イスラム国軍はシリア東部にある公道を堂々と集団で北上する。道を外れると畑があるだけで、東にそれれば山脈、なによりイラン国境を越えるとイラン軍とも戦闘が始まってしまう。
それだけに公道をゆけるうちはそれに沿って行くのが大前提。中ほどまで進むとキャイブヤラ道と交差する大動脈の終焉地とも言えるような場所が見えて来る。
丁字交差するそれは南北を貫く道に、シリア中央から東の端まで繋がる道。その最重要戦略拠点、本来ならばシリア政府軍が駐屯するようなところに黒い部隊が陣取っていた。
味方が出迎えに来てくれていると前衛が大喜びしたのも束の間、望遠鏡で見て見るとどうにも装いが違うことに気づく。
「敵部隊を発見した。黒い装備に黒の四つ星軍旗、少数のようだが陣地を構築している。交差点を要塞化しているように見える」
イスラム国司令部隊に通報がもたらされた。ここを越えて北部からアルビール南へ抜ける道を抜けられれば追撃も振り切れる。あとはゆっくりとイラン国内を移動して行けばよい。
敗軍の常で士気は低い、迂回して出来ないこともないがそれをやっては全てが瓦解してしまう可能性があった。ましてや少数相手に万の軍勢が逃げたなどと言われたら、司令部の更迭どころか断罪すらあり得た。
これは聖戦だ、師もどこかで見ていると勇気を振り絞る。
「前衛に攻撃命令を出せ。少ない敵など踏みつぶして先を急ぐのだ」
千前後の前衛部隊、重装備は失ってしまっているが、戦えないわけではない。交差点に居座る小勢が抜けないようでは話にならない。威力偵察を兼ねて、中隊一つに攻撃を命じる。
ガッチリと敵を観察するようにと各部隊に命令を出した。それにしても黒い装い、イスラム国分派ではないだろうかと頭をよぎった。
数人ずつに別れた歩兵が頭を低くして前進する。瓦礫を集めた防壁、その隙間から軽機関銃の斉射が行われた。一瞬で数十人を失いその場に伏せるのが精一杯。中隊長は顔を蒼くして「火力が違い過ぎます、増援を要請します」開始数分で無理と判断してしまった。
前衛司令もそれを飲む。無理なものはどうしたって無理なのだ。中隊を全て展開して半月状に包囲することで射線を分散させて一斉に攻撃を行う。
ところが、交差点の要塞からだけでなく、民家らしきところからも軽機関銃による斉射を受けて、たったの数分で兵力の半数を失う大失態を犯してしまった。分隊支援火器であるはずの軽機関銃、あっても十挺そこそこと見積もっていたのが仇になる。
そしてなにより要塞化が上手い。妙に攻めづらく視認しづらい場所に据えられているのに今頃気づかされる。
それもそのはず、要塞設置に関してはエーン大佐の親衛隊が力を発揮していた。戦闘工兵部隊でもある彼ら、レバノンガーディアンズからの特殊能力持ちの兵が突貫工事のレベルを底上げしている。
武器庫から多数の、あまりに多数の兵器を移送してきている。分隊で一挺どころか一人一挺を据え付けて、予備まで側に置かれている始末。最後の最後は自爆で敵に兵器が渡らないように処分するところまで込だ。
少数で最大の戦闘力を発揮する為には、個々が独立して最大火力を発揮する。半面で孤独に耐えられず、己だけが取り残されているかもしれない恐怖と戦うことが必要になり上手くない。
彼らは統制力を求められた兵、中でも本部に採用された精兵だ。忠誠心は元より、敢闘精神も持ち合わせている。最後の一人となろうとも、敵に降らず、味方を見捨てず戦う男達。
生きて帰ることよりも、ここで任務を全うすることを目的の上位に据えている。
前衛が進めずに躊躇している間に、イスラム国の本隊が追いついてしまう。通りの遥か南から様子を窺っていた。そこへ何処からともなく砲撃が行われた。
「な、なんだ! これは……七十六ミリ榴弾か?」
第二次世界大戦の遺物。アフリカを始めとした後進地域では未だに現役でもおかしくはないが、ここシリアにも流出しているとは思わなかった。一つ二つならば、という注釈付きだ。何と連続で砲撃を行えるほどの数を揃えて、どこからか撃って来ている。
司令部隊で幾つかの可能性が思い起こされたのはこの瞬間だ。
「黒い暴風、あいつらか! だがラッカにも参戦していたのではなかったか、こんなところにも!?」
神出鬼没でないのならば、これは先日のとは別の部隊である。こうも勇気と無謀に満ち溢れた兵が沢山いるとは考えづらい。少数ならば数で押せば或いは。
「司令官より命令だ。眼前の黒い部隊は少数、これを力押しする。迫撃砲撃と煙幕を焚いての白兵戦に持ち込め。これは聖戦だ、命を惜しむな!」
イスラムでは司令官以上が聖戦、ジハッドを宣言できる。この戦いで死んだアスカリはすべからく極楽へと行くことができるのだ。
目をぎらつかせて歩兵が小銃を握りしめた。極楽では現実と違い、美女が多数待っていて、自分の為だけに日々奉仕してくれると教えられている。手投げ、射出の別なく煙幕の準備が行われた。
駆け付けた迫撃砲班が思い思いに砲撃を開始する、瓦礫が吹き飛んで構築された要塞にダメージが入ると煙幕が投射された。もうもうと煙が立ち昇ると「突撃しろ!」指揮官らの命令で一斉に駆けだす。
視界はゼロ、圧倒的多数の兵力で押し寄せる。怒声だけが聞こえてきて、気が弱ければ卒倒しかねない状況。だがフォン=ハウプトマン大佐率いる部隊は反撃を行った。
軽機関銃の銃身が焼けようとも構わずに、撃てるだけ撃ち続ける。結果を確認することもなく、ゲームファインダーを通して敵がどこにいるかを確認して撃ち続けた。そもそもあてずっぽうに撃ったとしてもそこそこ当たるように細工はされていたが。
接近するイスラム兵があちこちで地雷を踏み抜いて四肢を散らす。敵がやって来ると予測できるならば、そういった兵器も威力を発揮できる。砲撃、射撃、地雷、全てを突破して肉迫してくるイスラム兵が多数居た。だが彼らはそこで衝撃的な事実を知る。
瓦礫に隠れていたのは個人のトーチカ。速乾コンクリートで固めた個室が、地面に半分埋まった状態で沢山設置されているのだ。単独では出られないような造りで、閉じ込められている。
かつてソヴィエト連邦で防衛隊が強制的に戦わされたそれと酷似している。敵が退くか、死ぬまで穴の中。肉迫したは良いが、兵の姿が見えずに動揺していると四方から射撃を受けてしまう。
決死隊の撤退を考えない戦術。死守すべき交差点に命を晒して、たったの百人以下で万の軍勢と対峙する為の布石。迫撃砲がトーチカに直撃した者は倒壊して死亡したが、そうでないものは殆どが生存していた。
それぞれが可能な限り戦い続ける。突撃した奴らがあらかた全滅すると、イスラム国兵が顔面蒼白になり息を飲む。そんな馬鹿な話は無い、自分達ですらそこまではやらないと。
呆然としているところに七十六ミリ砲が再度放たれた。こちらの被害はあってないようなものだが、射程内にいつまでも留まっているのも考えがない。
迂回して北上するか、南へ戻るか、シリア内陸へ行くか。どれも選べないならば東へ進んで山道からイランへ越境するしかない。山を下りるわけには行かないので、足場の悪いなかを北上しなければならい。
目の前の狂人部隊を抜くのとどちらがマシか、司令官は決断を下す。
「全軍東へ折れて進軍だ。越境するぞ!」
後衛がおざなりな追撃を受けているとも報告をあげて来る。戻って蹴散らす程の事もない、時間稼ぎをしながらついてこいと命令して終わらせた。
◇
装甲指揮車両、島が後部座席に腰かけたまま目を閉じている。各所からの報告はサルミエ少佐がふるいにかけて、重要な部分だけを島にあげてきていた。二度三度頷いたサルミエ少佐が声をあげる。
「ボス、イスラム国兵が東に向かいます。山岳を越境するつもりでしょう」
シリア側では国境警備師団を配備していない、イラン側では平地に国軍を置いていると調べがついていた。だがその北東にはペシュメルガが駐屯している。イスラム兵が目指しているのはモスルという都市なのは明白。
――よくやってくれた皆、あと一息で全てが見えて来る。
ここを道半ばにしよう、気持ちを新たにして方針を明かす。
「クァトロ戦闘団を呼び戻し直下に組み込め。第五司令部に通達、山岳で追撃を仕掛けるぞ」
クァトロ司令部も出る、ついに命令が下った。親衛隊に臨戦態勢が発令され、護衛隊も武装の再点検を行った。状況の変化が逐一副官に伝えられるが、ほとんどがそこで止められてしまう。
数字の報告や、決定的ではない全ては蓄積させるだけで後に定期報告で触れられるのみ。ところが一つ彼のところを突き抜けるものが出てきた。
「ボス、交差点部隊の報告です」
見事敵を退けて、親衛隊の工兵に救出されている最中。何があったかを仕草で促す。ただならぬ雰囲気から良くないことが起こっている、それくらいは想像出来た。
「オルダ大尉からです。フォン=ハウプトマン大佐のトーチカに砲弾が直撃、重態とのこと。ドクターシーリネンに通報し、ヘリを手配しているところです」
「大佐が……わかった」
――こんなところで失われて良い人物では無かった。だというのに俺は。止めることはできたはずだ、なのにそれを認めてしまった!
グロック准将にそれで良いと言われて嫌な予感はしていた、だが実際にこうなると心に動揺が走る。一喜一憂している場合ではない、それでも落ち着きを取り戻せないのは未熟の証。
戦闘後、或いは必要な時に報告しようとしていたことをここで明かす。
「ラッカがシリア東部同盟入りすると宣言しました。委員長にはハラウィ中佐を推しています」
難しいところを一つクリアしたと聞かされる。速報時に上げなかったのは副官の権限範囲内というところ。ダマスカス周辺を除けば、ついにシリア東部同盟が最大の連合になったことを意味している。
武装勢力らは面白くない部分もあるだろうが、未だ渦中となれば暫くは沈黙しているはずだ。
「そうか。シュトラウス少佐に確認をしておけよ」
「ダコール」
戦場が移り変わる、山岳では航空戦力が有効だ。対空兵器が全くないとは思えないが、戦闘機相手に残すだろうとみていた。それでも警戒を誘う為に一発位は撃って来る可能性はある。
救出作業を終えてオルダ大尉が戻って来ると、ほぼ同時にクァトロ戦闘団が合流してきた。武装ジープが数台失われはしていたが、装甲車両の類は全てが稼働中。
ブッフバルト少佐が下車してきて、指揮車両の隣に立つ。敬礼すると申告した。
「ラッカでの戦闘で死亡五、後送三、負傷十七、軽車両四を廃棄しました」
二百数十人居る戦闘団、死傷率は凡そ一割の計算にはなるが、実際のところは軽微な負傷者がもっといるだろう。何せ軍隊での軽傷とは四肢を撃ち抜かれたあたりからをいう。
「ご苦労だ。サイード中尉に相談し護衛隊から兵と車両を補充するんだ」
戦闘団は定数を満たせないと最大の力を発揮しない。縮小ではなく補充を指示する、最前線で戦う者達の負担を出来るだけ減らそうと。本部の防備が薄くなればなるほどに不意の大逆転を許してしまう。
「ダコール」
彼に否は無い。示された通りに補充編制をするためにサイード中尉のところへ向かって行った。ヌル少佐が交差点部隊の兵をねぎらって回っているのが視界の端に入って来る。
――あいつも随分と立派になったものだ、初めて会ったころのことが嘘のようだよ。
自我を封じ込めてしまい、自身のことでも無関心だった頃。土足で心に踏み入ってしまったことも思い出す。大切なものがあまりにも増えすぎた。
「報告します! 山に向かったイスラム兵が山道で渋滞を起こして後続と合流。追撃部隊が追いつき本格的な戦闘が起こっています!」
サルミエ少佐が席を離れているので、通信士が直接報告をあげて来る。
――道が細くて移動に支障をきたしているか。殿軍を叩くのは容易いだろうが、それでは本部を取り逃がしてしまうな。
こうなることは解り切っていたが、追撃部隊の動きが早かった。半数以上が逃げ出していれば逃げるのを急ぐが、多くが残っているならば逆襲を試みる可能性がある。
「ロマノフスキーに繋げ」
通信士は大きく頷くと第五司令部を呼び出し、ロマノフスキー准将を指名して回線を繋げる。発信元がクァトロ司令部ということで、いち早く反応が得られた。
「俺だ、どうした」
「兄弟、ここまで良くやってくれた。敵が渋滞中だ」
「ボスでしたか。マリーの奴が頑張ったからですよ。今も追撃の先頭に立っていますが、兵力がもう百と少しでして」
「反撃を受ける可能性が高い状況だ。出来るか」
「やってやれないことはありませんが、決死隊でも出てきたらILBが不安で」
互いがしばし沈黙する。身内びいきをしているわけではないが、核となる人物をここで失うような愚挙をするつもりはない。フォン=ハウプトマン大佐のこともあるのでいつもより弱気になっている部分もあった。
「……サイード中尉に護衛隊から五十を抜いて預け、マリーの警護に送る」
「そちらが手薄になりますが」
「俺なら何とかするさ。マリーは今が大事なんだ、頼む」
「解りました、背景はこちらででっちあげておきましょう」
通信機を置いて小さく唸る。万が一だが、反撃で追撃する多くが退くようなことになったとしても、マリー中佐を失わずにすむだろうと思えた。
「エーン、サイード中尉に五十率いてロマノフスキーのところへ向かうように命令だ」
「はい、閣下」
自らの側近に命令を伝えるようにさせて自身は残った、別の役割があるだろうからと。
「護衛を割きすぎて本部が風邪をひきそうな位だ。済まないがエーンの力を貸してほしい」
「お任せ下さい、自分はその為にここに在ります!」
守れと一言命じるだけで良いのに、島はエーン大佐に願った。遥か昔から変わらないその態度に、どれだけ忠誠心が刺激されたか。エーン大佐は持てる全てを捧げるつもりで快諾した。
一度己の居場所を失ってから知った、自分が何のために存在しているかを。頼られることがこうも嬉しく有り難いかを、彼は深く理解している。
確認を終えたサルミエ少佐が戻って来る。いつものように島のすぐ隣に待機すると命令を待つ。
「本部はこれより北部に移動、後に東に折れて越境。イスラム国の頭を取る、戦闘団が前衛だ」
「ウィ モン・ジェネラル」
副官サルミエ少佐によって、機関命令がブッフバルト少佐の戦闘団司令部に出される。ストーン中尉の装甲偵察中隊が全軍の先頭になり公道を進んだ。一時間の距離を置いて本部も移動を開始する。
◇
山の裾野に数千のイスラム国兵が待機している。追って来る部隊が居るので簡易陣地を構築して展開していた。移動中、それも敗走している最中では反撃など微弱でしかないが、このように待ち構えられるとそうもいかない。
シリア東部同盟の民兵が中心のゆるい連合が敗残兵に追いつく、距離を置いて銃撃をするが効果は今までのように出ることは無かった。ILBも土を掘り起こして車両の半分を遮蔽するようにして対峙するが戦果があがらない。
「追いつきはしたがこれではらちが明かん。どうにか出来ないか……」
マリー中佐は弱点が無いかを探すが、見付けられたとしても少数ではどうにもならない。このペースだと半日は渋滞が続く、そのあと撃破して追いかけたとしてももう司令部隊捕捉には間に合わないだろう。
ならばここに残る敵を可能な限り倒すのを目標に据える。
――友軍は二千弱か、士気の差を鑑みるとようやく互角といったところか。それもエージェントと偽装民兵込みでの話だ。
つまりは普通にやっていたら負けていた、イスラム国がこうも勢力を拡張できたのは運でも何でもない、それだけ強さがあったから。
「司令、敵が前進してきます!」
黒い兵がじわじわと迫って来る、簡易陣地に籠もっているものだと思い込んでいた民兵の一部が恐慌状態に陥る。いくら守りが有利だからと、防御施設の用意も無しでは差はない。
「弾丸の残りは気にするな、敵の勢いを削るんだ!」
――ここで傾いたら元には戻らなくなるぞ!
戦闘の機微を肌で感じているマリー中佐がいきなりの全力戦闘を命令した。様子をみて七分の力で戦っている民兵団は衝撃を受けて、一歩、また一歩と押されてゆく。
側面を護る味方が減ると、踏みとどまっている者も後退を余儀なくされてしまう。
――まずいぞこれは!
解ってはいてもどうすることも出来ない。両翼が下がって行き孤立しそうになる、そこへ第二線から見たことがない旗印の民兵が進出してきて左手側面を確保した。
何とか助かったと思いほっとしたのも束の間、マリー中佐は目を見開いた。
「あれはサイード中尉、すると本部護衛か……」
本来は島を守るために存在している兵がここに居る。出来るやれると戦ってはいるが、おんぶにだっこで戦わせてもらっているだけと気づいた。
「何が背中が見えただ、全然じゃないか!」
銃撃の爆音で隣にいるやつの声も聞こえない中で叫んだ。情けなくて叫ばずにいられなくて。
突如裾野で大爆発が起きた。爆風のせいで後ろに転んでしまうところで、咄嗟にしゃがむことでことなきを得る。
「いまのは何だ!?」
空を見ても爆撃機が飛んでいるわけではない、近くに戦車の気配も無かった。あちこちを見るもどこにもそれらしき姿が無い。
そこでまた大きな地鳴りと共に爆発が起こる。イスラム国兵は簡易陣地を棄てて四散する、狙われているのは屯している中央だから。驚きなのは連続で何度も着弾することだ。
「重砲撃か! するとタリハール・アル=シャームだな。自走砲を持っていたわけだ、しかも分速八射とはかなりの高性能だぞ」
感覚的には従来の半分以下の所要時間、そんな最新鋭兵器を持ち出して来て、動かない目標を粉砕しようとしている。問題は助かる為には混在するのが有効というところ。
逃げ出す兵の他に、向かって来る兵も一定数いた。ILBにも二百からのイスラム兵が殺到して来る。混戦になれば銃撃は出来ない、味方撃ちになるからだ。
「総員着剣! 白兵戦を行うぞ!」
教練ではやったことはあったが、殆どの志願兵は接近戦など殴り合いしかしたことがなかった。それはイスラム国でも同じだ。だがマリー中佐とクァトロのエージェントは違う。
「煙幕手榴弾投擲! 迎えうて!」
視界を遮り走り回る敵味方と出合い頭に戦う。技量の差はこの瞬間に一番出やすい。マリー中佐はすれ違いざまに敵をついては、銃床で顎を砕く。必死になりことごとくを殴り倒し、突き刺した。
鬼神の如き司令をみてILBの兵も勇気を奮う、次第に高揚して一方的な流れになると怒声を上げ続けた。砲撃が止んで煙が晴れる、足元には血まみれの死体が敵味方多数転がっている。
一つ言えるのは立っているのは味方だけということだ。
「勝鬨をあげろ!」
シリア東部同盟のうちで後退していた民兵団が声を聞いて勝ち戦だと考え再度前進して来る。ここが分水嶺だと第五司令部より命令が下った。
「エホネより全軍、抗戦するイスラム兵を掃討せよ」
敵にも受信できるように暗号もジャミングも無しで全員宛に告げる。綺麗で丁寧なアラビア語を喋るエホネなる人物が司令官だと知ったイスラム兵、姿が見えない砲兵に、敵う気がしないILB、士気が高揚している民兵団、反面で離散してしまった黒い軍。
ついに秩序が崩壊、殿軍司令部隊だけは山道へと慌てて向かったが、他は思い思いの方向へと走って逃げていく。人は残酷だ、戦う意志を失った敵を追い立てることに喜びを感じる者がいる。
戦略的には凡そ無駄、戦術的には有害だろう戦力にならない相手を攻撃に散ってしまった。これも経験のうちだというならばそれまでだが。
トゥヴェー特務曹長が通信機を差し出してきた。
「よう後輩、生きてるか」
「ええ、情けなくてどうしよもない最悪の気分ですが生きてはいますよ」
「そうか。死んだら落ち込みようもない、反省は後で好きなだけしたらいいさ」
「ここらでILBも限界だろう。ラッカに戻るんだ」
「ですが――」
「お前はもう充分働いたさILBのマリー少佐はな。今戻れば最終決戦には間に合うだろう」
「そういうことなら戻りましょう。ちょっと面会謝絶の緊急入院でもしてきます」
「ドクターシーリネンに一報を入れておけよ。特別室を幾つも持っているからな」
通信を切断すると微笑を向ける。一部始終を耳にしていたトゥヴェー特務曹長、彼の心も既に先への工作に向いていた。
「ILBに通達だ。速やかにラッカに帰還するぞ、それと俺は怪我をして負傷入院することにする」
にこやかにそんなことを言う、事後の対処などそのときにでっち上げたら良い。
「では今の内から姿を隠してしましょう。屋根付きの車でお休みを」
◇
イランクルド人自治区首都、クルディスタンの西にモスルという都市がある。ここはイスラム国が建国を宣言した、精神的な柱になっている土地だ。始まりの地とでもいうべき場所。
アレッポに続き、ラッカを失陥してしまえばあとはモスルしか名のある拠点が残らない。そういった宣伝戦もあり重要視されてはいるが、戦略的にはこれといった価値がない都市だ。
後回しにされているのを鑑みても、欧米のこじつけといった感が否めない。それでも敗残兵が逃げ込むには丁度良いところなので、ラッカの司令部隊はモスルを目指した。
二千程の直下の兵を抱えて山道を北東へと進んでいく。南東にはイラン国軍が駐屯していて、東にはペシュメルガが対峙している。この二つの勢力は今現在も争っている最中で、互いに厳重警戒をしていた。それは即ち兵士の装備も数も練度も低くはないことを示している。
イスラム国と誰かが戦えば、その敵対者が利益を得る。そんな構図があるので接触さえしなければ見逃すとう判断がなされるだろう。
イランの西部山際を南北に走る公道47号、これが途中から東へ折れてモスルまで一直線。公道1号と合流してすぐに市街地へと届く。ペシュメルガの配備地域の北側に来ると公道から外れて、アル=バディ、バジ、シンジャールと進んで公道47号に復帰する。
そこから六十キロでモスルに到達してしまう。阻止するならばシンジャールが最終地点、クァトロはかつて占拠していた国境の検問所に姿を現し集団で素通りした。アルハジャジとの交渉で通行券を得ていたからだ。
国境を越えてすぐに北に折れると公道47号に乗ってシンジャールを目指す。先着したのはクァトロ戦闘団、完全機械化で徒歩が居ないのが決め手になる。街から南南西に五キロ程、ヤジディーンという集落があり、ちょっとした高低差がある丘が連なっている場所が決戦の地に選ばれた。
「赤と白のターバンに太陽のシンボルか。よそ者に向ける視線が痛いがこの地形を利用しない手はないからな」
――ここを通らねばかなりの迂回を強いられる、避けてはいけないはずだ。
指揮車両から外を観察する、シリアとは全く違った風景なのが少し違和感を誘う。地域の知識がある者など居ない、サルミエ少佐がオンライン調査をすると直ぐに答えが出てきた。
「ボス、ここはヤジディーン。名の通りヤジディ教徒の街です」
イスラム国から激しい迫害を受けた異教徒、邪教扱いをされている。それだけでなく、先のフセイン大統領からも迫害を受けていた。もっとも後者はクルド人ならば誰しもを公平に迫害していたのだが。
「なるほど、そうなると敵は市街戦も一切の躊躇なく行うな」
――これは上手くない。敵に協力することは絶対になさそうだがどうしたものか。
これから戦いになるから避難するようにさせるにしても、大人しく従うかは未知数。抵抗して反撃してくる可能性は低いだろう。
「避難勧告しましょうか?」
サルミエ少佐の提案に無言で考える。
――ヤジディ教徒はずっと厳しい立場に置かれ続けてきた。イスラム国の拠点に兵を逃せば襲撃の可能性が大きくなることも判断つくだろう。だからとこちらに同調するかどうかは別問題だ。いずれ話はしなけりゃならんだろうな。
接敵までには今少し時間があるはずだと、代表に面会を申し込むことにした。その間に街の南西部に防御陣地を構築する、そちらの責任者はエーン大佐を指名する。
「グロック准将、俺が直接交渉するから繋ぎをつけろ」
「目的は」
何を望んでいるかを確認して来る、彼は部下であり師匠でもある。間違いがあれば常に正してきた、今もそれは例外ではない。
「非戦闘員はシンジャールに避難を勧告する。もし戦うと言うなら武装供与してやるつもりさ」
敵憎しと思えば協力して来る可能性は否定できない。だがいつ裏切るとも知れない奴らを隣に置くのはもっといただけない。信頼できるものだけを使う、ずっと前からそう教えてきた。
会談の席は速やかに設けられた。相手がどのような態度をとるか全くの不明、それだけにアサド先任上級曹長は最大限の警戒で護衛に臨む。
街にある会館を使い、双方の代表者が席に着く。クァトロからは島のみが席につき、グロック准将以下が起立した。誰が頂点なのか一目瞭然、副官に秘書官を侍らせ防衛拠点の構築指揮はヌス少佐に預ける。
一方でヤジディ教徒からは街の長老、教会の長、中年男性に中年女性が一人ずつ。当然のように緊張した面持ち、かといって泣きはしないし卑屈にもならない。
「私がヤジディーンの長老でクーフです。あなたたちは?」
老年の割には聞き取りやすくはっきりとした言葉が、アラビア語で発せられた。面々を見れば英語が妥当だろうことは推測出来るだろうが、喋られないのだろう。
彼らの視線は島だけでなく、多くに等しく向けられている。少しでも情報を得られるように。
「我等はクァトロ。私が司令官のイーリヤ中将です」
短く事実のみを告げる。クァトロがなんであるか、それについては一切触れない。最初に感じたのはネイティブではないアラビア語、丁寧で柔らかい感じの喋り方。知識階層からの将軍なのかもしれない、第一印象がそれだ。
「そのクァトロが何か御用で?」
観光に来たと言われても拒否するだろうし、入信すると言っても答えは変わらない。クーフ長老は事務的に話を進める。
「一つの通告、一つの要請、一つの提案があります」
要請であって命令という言葉を使わなかった、それがお為ごかしであったとしても距離感を探る上では重要な違いだ。
「まずはお聞かせ願いましょう」
何の選択肢も与えられていないだろうことは明白。だとしても確認しないわけにはいかない、彼らは指導者なのだから。
「もうすぐここにイスラム国の戦闘集団が数千人単位で押し寄せてきます。我等はそれを迎え撃つ為にここより南西部に防衛拠点を置きます。住民は速やかにシンジャールへ避難するのがよろしいでしょう」
「イスラム軍が……」
大規模な戦闘が起きているのは彼等も承知していた。昨今敗北してどこかへ逃げていると言うのも、世界中で知られている。だがその危険集団がこの街へ向かっているのは初耳だった。
イスラム国は邪教であるとするヤジディ教徒を決して許しはしない、それが厳然たる事実。敗戦したイスラム軍が街にやって来ると何が起こるか、想像するのはさほど難しくはない。
腹いせに略奪暴行の限りをして、破壊を尽くすだろう。士気が下がっていて統制もいま一つ、ならばガス抜きの為にも推奨すらするはずだ。
「要請ですが、防御陣地構築の為に住民の手を貸していただきたい。無論賃金は支払わせて頂きます、指定の通貨で。アメリカドル以外はほぼ手持ちもないのでスイス銀行からの振り込み扱いでなら即座に処理します。いかがでしょうか」
想像していたのとはだいぶ違う要請をされたことに動揺が走る。確かにこれは命令ではない、言葉遊びでも何でもなく事実要請だった。しかも先払いとなれば懸念も少ない、いつイスラム国がやって来るか、心配はそこだけ。
中年男性が手を軽く上げて「男手が引き受けよう。他は直ぐに避難の準備をさせる」後ろに立っている若者を走らせる。一礼して即座に会館を出て行った。
「日当は一人につき五百ドル出します」
「ご、五百ドルだって!」
イラン、それも農村部では世帯の月収が二百ドルあれば多い方だ。ましてやこのような閉鎖的な地域であれば外貨、それもアメリカドルでその金額は恐ろしい程の購買力を持っている。
嘘でもまやかしでもない、島は真剣な表情でそう告げた。中年男性は難しい顔をして何かを考えている。
「長老どうしましょう」
「むむむ」
このまま暮らしていくにしても街がやせ細っていくのは目に見えていた。だからと多くの危険をこうむりこれを成すのかどうか。
中年女性が口を開く「決める前に提案というのも教えて貰ってもいいかい?」先に全てを知りたいと言ってくる。
「もちろん。もしあなた方がイスラム国と戦うと言うならば、我らが武装供与をして戦列を維持します。共同戦線を提案します」
「乗った! ミスラの女たちはクァトロと共同戦線を組む」
一番悩むだろう部分に真っ先に即答されたことに間を置いてしまう。ミスラはヤジディ教徒が信仰する太陽という意味だ。エーン大佐が耳元で「ミスラの女たち、という戦闘部隊の名称です」情報を入れて来る。
「クァトロ司令官が承認する。サルミエ少佐、部隊に友軍の通知を出せ。ミスラの女たちと戦線を組む」
「サー、イエスサー!」
ここだけ英語で命令を出す、速やかに武装が供与されるようにとの通知も忘れない。後戻りはできない、そんなことは双方とうの昔に解っていた。
「大司教様、申し訳ありませんが教会で避難誘導をお願いできますか?」
中年男性が言うと、大司教がゆっくりと、だがはっきりと頷いて引き受けた。
「長老、俺達はここで戦います。これ以上黙ってられません。もう家族を失いたくない、あいつらに蹂躙される位なら一縷の望みに賭けます」
女が戦うと言ったのだ、男だけ逃げるなどありえない。それに逃げたからと助かるとは限らないし、生きているから良いとも思えない惨状が続いていた。
「……わかった。ヤジディーンはイスラム軍と戦う、防御拠点構築を支援し、住民は教会が避難させる。マクラ、アゼザル、戦いの指揮を」
中年の男女に決定を告げた。戦地に生まれ育った、平和なことなど殆ど無かった、ヤジディ教徒の長老は迷う時間がないことを理解している。
「部隊識別の為に軍旗をお願いします。我等は黒字に白の四つ星を、そちらは」
「白地の太陽を。ですが私達はヤジディ教徒、あなた方は?」
宗教都市に住んでいるのだ、そのあたりは特に気になるところ。実際に戦闘に影響が出ることもあった。
「何を信じるかは各自に任せています。思想や人種、肌の色で一切の差別をしません。ですが――私は世界の悪意を許しはしません。己が正義だと信じる道を貫く、ただそれだけです」
なるほど人種も肌の色もバラバラ、そこは信じられる。ならば思想についても本当のことだろうと納得する。
「エム、バウェリ イクウェド フェルマンダァラ」
たどたどしいながらも単語を並べて、エーン大佐が後ろから言葉を添える。不明の言語、島も拾えたのは一部だけ。だが充分何を言っているか推測出来た、対面に座る奴らの顔色が変わったからだ。
「ラ ウェィスト エーン」
まゆを寄せて振り向かずに制止する、同じくクルド語でだ。解ったのは神と司令官という意味だ。あとはいつものことだろうと想像したまで。
「司令官はクルド語を理解している?」
長老が驚く、それはそうだろう外国人が、それも中東以外の者が学者でもないのに修めているのは異常でしかない。仮にクルディスタンに暮らしていたとしても、アラビア語か英語を使うはずなのだ。
「アルビールに用事がある時に少し勉強しました、小学生並でしかありません。相手に理解してもらおうとするときには、相手を理解するところから始める、そう考えています」
「うーむ……あなたは珍しい気質のお方のようだ。もしかすると神が遣わしてくれた使者かも知れません」
変な方向に話が行ってしまう、目を閉じて小さく息を吐くと立ち上がった。
「私は神の使者などではありません。それに私が信じるのも神ではなく、自身と仲間、ただそれだけです。以後はグロック准将かエーン大佐、サルミエ少佐のいずれかに連絡をどうぞ」
後ろに立つ三人を指名して場を去る。戦う体制を作るのは司令官の務め、司令部に入り各所との連絡を調整しなければならなかった。
◇
翌日、太陽が昇り暫くしあたりでイスラム国の先頭集団が姿を現す。丘の上に設置した監視所から光学望遠鏡でだ。街の中央を走る公道沿いには一定間隔で収音マイクも埋め込んであった。
当然迫撃砲の目盛りは各所で測量済み、野砲は引いてこられなかったが点よりも面での攻撃力を求めているのでそこまで支障は無いだろう。司令部は半地下になっていて、指揮車両がそのまま後退でスロープを降りて収まっていた。移動の際はアクセル全開で脱出可能な造り。
「ミスラAよりリーダー、イスラム軍が接近中」
ヘッドセットを供与して、ミスラグループを設定。彼らの交信を受信可能で、送信も可能。だが彼らにクァトロからの受信は不能。線引きはしてある、いつ裏切られても良いようにと、単純に命令系統が違うからとの意味合いだ。
クァトロでも別個に監視班を出してある、こちらは直下の下士官と兵の組み合わせ。畑、或いは荒野に寝そべりじっと遠くを見つめている。いざとなったら傍に隠してあるバイクで撤収する。
公道以外は踏み慣らされた土、車が走るのも無理が掛かるので低速でしか行けないような不整地だ。一旦戦いが始まれば迂回しようとすると立ち往生するのが目に見えていた。
中央の公道には何重にもバリケードと防御施設が設置されていて、除去作業を気長にやらなければ通行不能。六輪の戦闘車両ならば不整地も走破出来るだろうが。
乾いた風が弱く靡く、煙が流れないだろう天候と状況だ。気象条件も利用しなければ野戦では勝てない、使えるものは標高差や太陽の向き、風も湿度も何でも使う。
「ボス、シリア東部同盟を中心とした戦力が山道に侵入。イスラム国の後備を押し込んで、中軍に迫っています」
四散した敵の一部はどこかに溶けてなくなった、いずれどこかで集合するのだろうが現在の戦力にはならない見込み。遅延戦闘を繰り返して逃げていく、追撃に苦戦している様子も伝えられた。
――追い込み過ぎず、緩すぎずか。兄弟なら上手くやる、そちらは任せておいて構わん。
周囲の防備を再度確かめる。薄く広く展開して、各所にトーチカが置かれた。今回は自力で脱出可能な半地下、後方には空間が開放されているものだ。理由は二つ、死守すべき場所ではないのと、敵に再利用されないように方向によって発揮できる能力が変わる造りにしてある。
ヤジディ教徒には突撃銃とグレネード、軽機関銃を供与した。弾丸も抱えきれない程で、充分過ぎる物量を。ただしそれらでは決して装甲車を撃破できないように、威力は控え目にしてあった。
「状況把握のみしておけ」
「ダコール」
戦時にはフランス語に統一して部隊を動かす、一部はスペイン語だ。民兵を数に組み込んでも精々千人という劣勢、だからとおじけづくことは無い。
――ヤジディ教徒を危険の矢面に立たすわけには行かない、崩壊が伝染するのが理由だ。
強固で堅固な防御陣地であっても、兵が逃げ出せば意味をなさない。戦うかどうかは恐怖とのせめぎ合い、どこかで逃げ出せば自分も取り残されない様にと逃げる、何も不思議ではない。
数が少なくなっても、戦意を持っている者だけを使った方が良い理由だ。もっともここには志願兵しかいない、だが勇気があるかどうかとはまた別問題。
外縁部にクァトロ歩兵とミスラの女たち、道中央にミスラの男らが陣取る。その後方、北東に司令部があり周辺を数少ない護衛部隊と親衛隊が囲んでいた。司令部北側にはクァトロ戦闘団機動部隊が控えている。
歩兵の司令はヌル少佐だ、トーチカの一つに身を置いて自らも最前線で敵を迎え撃つ。北方やや西寄りに移動についてこられた砲兵隊がいて、そちらはリンゼイ中尉が指揮をしている。牽引で戦闘に間に合わない砲兵はシリアで待機、山中でじっと連絡を待っていた。
――親衛隊のオルダ大尉、まだ二十歳そこそこだというのにあの集中力は有望だ。経験を積ませてやりたいが。
黒人の若者をチラッとみてそんなことを考える、明日の今頃自分が生きているかもわからないと言うのに。地面を掘り下げて鉄骨を通して屋根に土を盛った地下司令部、毎度おなじみエーン大佐の急造陣地だ。
司令部にはグロック准将とエーン大佐、他にサルミエ少佐が詰めていて、通信兵が肩を並べて座っている。視界はほぼゼロ、様子を見るのはカメラで充分、流れ弾が無いとは限らないので余計な危険は避けた。
「閣下、イスラム軍の数はおよそ六千程との見立て」
グロック准将が各所の情報を統合して、可能な限り精査した数字がこれだ。これより千多いことも少ないこともないはずだ。そこに混ざっている装甲兵力はどのくらいかを想像する。
――軽装甲戦闘車あたりがいる位だったな、隠し球で装甲車があったとしても一個中隊も居るだろうか。
諜報は続けていたがどうにも奥深くは不明で、元からぶつけるつもりがないのか、滅多に装甲車の類の目撃報告が上がってこなかった事実がある。ここ一番で戦わせない意味は一つしかない、この先の指導者として使うために要員を保護するために使っている。
だとしたらあまりに消極的過ぎて現状とそぐわない。いずれその殆どが歩兵のはずで、機械化された部隊もそこそこだろう。こちらと混在する時間が長い、不安はそこだ。
「完全にここでせき止めるのは無理だろうな。多くを取り逃しても構わん、司令部だけを狙い撃つんだ」
「ダコール」
それが出来るなら誰も苦労はしない、相手だって馬鹿ではない、頭脳を守るために全体を動かすだろう。いずれ大軍を通す為に道を行かねばならない、必ず一度は近くを行く、そのタイミングが勝負。
一方で少数のこちらは途中から暫くずっと我慢の戦いを強いられるのは間違いない。どこまで連携できるかも不明で、被害がどれだけ出てしまうか。そこまでして得られるのは何か、いつもながら小さく笑ってしまう。
――民兵会議での主導権を握る為にはここで勝利することが必須だ。シリアをまとめるには一つの意志まとめる力が要る、それには実力と実績、そしてどの勢力とも近すぎず遠すぎない関係が求められる。
中立程厳しい選択肢は無い、中立こそ力が求められる。永世中立国というのは身の丈を越えた武力を保持しているからこそ成立している、口で戦いを避けることなど不可能なこと、何せ相手があることだから。
地下司令部の扉を開けてふらっとコロラド先任上級曹長が入って来る。好きな場所で行動し、好きなだけ軍資金を使い、好きな諜報活動をしろとだけ指示してある。島の姿を見つけると猫背をさらに丸くして、下品な笑いと共に傍による。
「ボス、ちょいと情報を仕入れやした」
「おう、聞かせてくれ」
馴れ馴れしいとサルミエ少佐は顔をしかめる。一方で島は笑顔で返事をするともっと近くにと手招きした。通信兵らも度々見かける浮浪者じみたコロラド先任上級曹長に良い感情は持っていない。
「へっへっへ……」
すぐ隣にまで来ると島の耳元で囁く。笑顔だった島が一瞬だけ目を細めてどこか遠くを見付けたような気がした。
「ま、そういうわけでさぁ。俺はダマスカスに行ってきやす」
「そうか。いつも助かる、ありがとうコロラド」
大きくうなづいて感謝する。真っすぐに瞳を覗き込んでだ。島にしてみれば当たり前のこと、それでもコロラド先任上級曹長にとっては、いつ死んでも良い位に嬉しい気持ちにさせてくれる態度だった。
世の誰にも人扱いなどされず、蔑まれ続けてきた彼と対等に接してくれる人物。その島が喜んでくれるのが何よりも自分も嬉しい、どんな危険も困難も望んで踏み込もうと思わせてくれるのだ。
「へへへへへ。間違いねぇです、あと俺も調べがつかねぇ武装集団が一つありまさぁ。どうも反イスラム国って感じしか」
情けなさそうに視線を下げてしまう。あのコロラド先任上級曹長が諜報出来ない、余程の防諜能力を備えているか、それとも少数で結束が固いのか、存在だけでも掴んだのを褒めるべきだろう。
「お前が解らないなら、誰にもわかりゃしないさ。つまり今現在で最高精度の情報なわけだ」
――十数人程度の戦闘グループ? 大勢に影響は無いだろうが、何なんだろうなそいつらは。
今さらじたばたしてもどうにもならない、接敵するまでは腕組してじっと待つしかない。
来た時よりも足取りを軽くしてコロラド先任上級曹長が陣を出ていったが、誰にも差し止められなかった。ヤジディ教徒にもだ。各種の準備完了報告が続く、一度始まってしまえばもう乱れる一方だ。
現代戦闘は兵力密度よりも火力密度がモノを言う。重火器の充足率が限界まで高いクァトロだが、地形的な不全や防御能力の不足はどうにもならない。やられる前にやることが出来れば、或いは優位に立てることもあるだろう。
「ボス、最前線が敵の前衛を確認しました」
小さくうなづいて終わる。直ぐに戦闘が始まる、そうなれば一々報告をあげている暇もない。司令部で気づいてやらなければならないこともある、それらは全てグロック准将が受け持つことになっていた。
――俺にしか出来ないことをやれというわけだ。連絡の確保、それに限るな。
専属の通信士二人に声をかけて、予め一報を入れておくようにと指示する。程なくして「交戦を開始しました!」声が上がった。あっという間に地下司令部に情報が大氾濫する。
過剰になるので制限を掛ける、一定レベルより下の強度の報告は上げなくても良いと絶対量を減らした。その後に更に下限を引き上げることで何とか落ち着きを取り戻す。
「ヤジディ教徒たちはどうだ」
急造の民兵部隊がどこまで担えるかを知っておくのは大切だ。通信下士官が関連情報をまとめると椅子から立って島に報告をする。
「大きく崩れる様子はありません。アゼザルのミスラの女たちは士気も高く、現在は余裕すらみられます。マクラの男衆は興奮気味で浮足立っているようです」
男女が別々のグループとして戦っている、そういう事例は幾らでもあるので気にすることはない。むしろよくぞ逃げ出さずにいるなと感心すらした。
――ここでも女が強いのか、男女の平等を推進しなければならないのは平和な地域だけってわけじゃなかろうに。外敵が多いところは女が強くなるらしい、精神構造の違いだろうな。
理屈じゃない、そこは感性の違いだ。グダグダ言って遠くを見すぎるのが男で、直感で今を見詰めるのが女。どちらが優れているわけではないが、順応性では圧倒的に女性に軍配が上がる。
暴発しないように釘を刺すのは島の役目ではない、グロック准将が既に手を打っているようでチラッと姿を見るだけで終わりにする。片方だけにイヤホンを着けているエーン大佐が時折襟元のマイクに向けて喋りかけている。彼は司令部に居ながらにして最前線の状況を体感しているところなのだ。
どこからか迫撃砲弾が弾着して来るのが聞こえてきた。このあたりに落ちればどこでも良い、そんな感じでまばらに。一方でクァトロ軍からは曲射でグレネードが発射された、完全に対人のみでの想定。装甲車だろうと、戦車だろうと現れれば破壊するのはロケットだ。
本来ならば人が対抗することなど出来ない破壊の権化、死の代名詞。だが怖じずに立ち向かう男達が多数居るせいで、下手な戦車位ならば全く脅威にならない。
「前衛の足が止まり対陣が起こっています」
「そうか」
サルミエ少佐が火力で圧倒している状況を簡単に報告する。本隊が追いつくまでは身を隠しての攻防が続くだろう。
――時間を無為に過ごすほど眠たくは無かろうよ。
小さく口の端を吊り上げて腕組をしたまま。通信兵が早口のフランス語で何かをやり取りする。数分で「クァトロ戦闘団が敵前衛に突入、前線司令部を撃破しました!」その後は戦場を東へ抜けて離脱したと追加がなされた。
兵力の上ではさほどの損害を与えてはいないが、心臓部を一撃。完全に前衛の士気が失われ、徐々に後退していく。
「司令部よりヤジディーン隊、重傷者の後送と補給を行え」
グロック准将から命令が発せられた。敵が下がっているうちに戦場から離脱させてしまうのは負傷者の為ではなく、戦闘員の負担の軽減のためだ。誰かを保護しながら戦うのは恐ろしく大変なことなのだ。
弾丸の小型化はまさにこれを目的としている、負傷者を生かしたまま兵站の負担にする。えん戦気分が広がれば結果として停戦を求める論調が産まれ、交渉の場へと移り変わっていくものだ。
「偵察班より司令部、敵の本隊が姿を見せました。接触まで凡そ十五分の距離」
車両での計算で、歩兵はずっと遅くなる。それでも一部が前進して来るだけで充分な脅威になってしまう。距離にして大体の目安で十キロ、GPSからの位置情報がハンドディスプレイにも表示されている。
その画面に赤の丸い点が現れ、すっと動くとイスラム軍の本隊に重なる。円が点滅した、十数秒の後に遠くで爆発音が聞こえた。
「敵へ砲撃、一定の被害を与えている模様」
防衛部隊のヌル少佐が観測砲撃を指示したようで、山間のどこかから百五ミリ砲が放たれた。シリアで使った旧式の野砲ではなく、型落ちしたアメリカ軍の榴弾砲。イラク戦争などで使用されていて、今でも改修の上に高性能砲弾を装填して使われている。
使用しているものに関しては改修されていない予備役の品を、ジョンソン中将に貰ったわけだが、威力性能に全く問題はない。むしろ奪われそうになれば爆破廃棄しても惜しくないのは都合が良いとすら言えた。
一人二役など当たり前、少数精鋭の聞こえは良いが人手不足。その規模に対して目指す物事が常に大きすぎるのだ。
――迂回部隊が出てくるだろうな。
正面から崩せないならばどうするか、答えは簡単だ。側背を脅かせばよい、それを防ぐのもまた簡単な答えがある、延翼運動を繰り返せばよい。どこかでどちらかが数で破綻する、それを合図に一気に崩壊が始まるのが戦闘。
数が少ないクァトロがやられて一番困るのがそれだ。イスラム国も馬鹿ではない、小出しに戦力をすり減らし続けるような真似はしないだろう。
ややすると逃げ帰った前衛を左翼にしてイスラム軍の本隊が目の前にやって来る。目視での報告が多数上がって来た。
「質は中の下でしょうな、ですが数はこちらの数倍見当」
グロック准将が目を細めて寸評を加える、反応速度は中の中あたりだと。命令系統が細かく設定されていない場合、意外な速度で反応を見せることがある。
「エーン、準備はどうだ」
振り向きもせずに問いかける、答えは解り切っていた。
「全て整っております。アヌンバの若者らを林に伏せてあります」
親衛隊の一部を割いて北西と南東の林で伏兵として潜ませている。しくじれば逃げ場はない、だからこそ退路の無い任務に彼らを割り振った。アヌンバの親衛隊はこの時を待ちに待っていた、己の命を燃やして郷の英雄に尽くせる日を。
アフリカの巨人を神として頂いたプレトリアス族、その神の目の前で戦える名誉を前にして興奮を抑えきれない。
「死兵が必要になる。任せられるのはエーンしか居ない、頼むぞ」
「ヤ! セニャール!」
踵を鳴らして敬礼する。己の居場所を回復してからずっと望んでいた言葉を掛けられ、エーン大佐も心が躍った。一族に再度訓示を行い戦況を確認する。
――どのあたりで奴らを通すかが難しい、早すぎても遅すぎてもこちらが厳しい。
陣地を固守しすぎると全滅するまで戦わなければならないことになる、逆に早くに通してしまえば自由に動ける兵が多くなる。頑張れば通り抜けられ、余計なことを考えずに敗走する被害。まさに神の一手が求められているのだ。
「中央前衛が防戦を再開しました!」
攻め寄せる敵を守り寄せ付けない。銃撃の応酬ではらちが明かないのはいつものこと。平面だけでなく、三次元での攻撃を織り交ぜて攻防が続く。
「後方にイスラム国司令部らしき集団を確認!」
偵察班が少し遠くに発見、隠れているわけではないが誇示しているわけでも無い。長めのアンテナが幾つも見えているのが一つの証拠。
「司令部より前線司令ヌル少佐、威力偵察を出すんだ」
「サーイエスサー」
聞きなれたイントネーション、グロック准将の命令を弟子が了解した。すぐさま六十四人の部隊を編成して前進命令を下す、全体が守ろうとシフトするならばまず間違いないだろう。
「敵左翼、右翼が突出してきます」
制限をかけたと言うのに情報が飛び交い始める、戦闘のレベルそのものが上がって来たということだろうか。




