大福、ココナッツ、マジック。
「ねぇ、ママとパパって10歳違うよね?どこで知り合ったの?」
「え?どうしたの?急に。今までそんな事聞いてこなかったじゃない。」
「んー。まぁ特に理由はないけど、気になってさ。」
「ママとパパにそんなに興味があったの。ママうれしいわ。」
「いや、別に興味なんてないけど、ただ単に気になっただけ。」
「もう、照れちゃって。そんなに聞きたいなら素直に聞けばいいじゃない。」
「だから、さっきから聞いてんだけど。」
「あら、怒んないでよ。せかせかしないで。」
「あーもう、いいよ。このくだり疲れた。」
「ママとパパはね。」
「おぉ、急にスイッチ入った。」
「スーパーで出会ったの。」
あの日、私は新発売のもちもちシュガークリーム大福が食べたくて、学校帰りに近所のスーパーに行った。
本当は、パン屋のバイトが入ってたんだけど、風邪ひいて行けませんって仮病を使った。
下校のチャイムと共に急いでスーパーに行った。もう、売り切れてるかもって思いながら、自転車を飛ばして猛スピードで。
当時、もちもちシュガークリーム大福は数量限定で、cmは南西アイドルのココナッツ隊がやってたから女子高生に超人気で、しかもコンサートの抽選シールも付いてたから和菓子コーナーには列ができてて、あぁこれじゃ買えないかもって思いながらも並んだ。
だんだん前が見えてきて、棚には3個のもちもちシュガークリーム大福が残ってた。前の人は2人だったから、買える!って心の中で喜んでた。
でも、私の前の人はにやにやしながら、もちもちシュガークリーム大福2個買って行った。
そう!前の女子高生はココナッツ隊のシールを手に入れるためだけに買った。2個も!私は純粋にもちもちシュガークリーム大福が食べたかったのに。
あの野郎、ふざけんなよ。行列出きてたら、買っていいのは1個なんて、注意書きされてなくてもわかるでしょ、普通。
女子高生ってこれだから嫌い。まぁ、私も女子高生だけど!
スッゴい悔しくて、半べそかきながら、怒りながら、仕方なく完売の旗の隣にある豆大福を取ってレジに持って行った。
そこのレジの店員さん、スッゴいカッコよかった。
私の中で風が吹いた。
私好みの一重のたれ目で色白の黒髪。ココナッツ隊なんかより100倍いや、10000倍カッコよくて。
つまりは、私はこの時店員さんに一目惚れした。接客態度は至って普通で、神対応されたわけでもなくて。ただ、単純に顔と雰囲気が好みだった。
家に帰ってからは店員さんと仲良くなるためにはどうしたらいいかを考えた。
睡眠時間の一週間の合計が10時間に満たないほど考えた。そして、ある方法にたどり着いた。
口で言うのは恥ずかしいから、レシートとお釣をもらった瞬間に油性ペンで好きですって書けばいいんだって。
それから、私は高速で文字を書く練習をした。ずっと続けてたパン屋のバイトも辞めて、文字を高速で書くことだけに集中した。そして、1ヶ月がたった。私は0.5秒で好きですを書けるようになった。これは、きっと、レジでレシートとお釣を渡すよりも速いタイムだ。
本気で、力をいれて、歯を食いしばって、スーパーに行った。そして、アルバイトを辞めたせいで50円しか入っていない財布とビッグカツを持ってあの店員さんのレジに行った。
「30円になります。」
生唾を飲み込んで、50円玉をだす。
「お釣とレシートです。」
手を出された瞬間、私は思いっきり手を握って文字を書いた。恥ずかしくて死にそうだった。店員さんはたぶん動揺している。あぁ、こりゃだめだと思って、ビッグカツとお釣とレシートを受けとる前に走って逃げてしまった。
どうしよう。書くことは成功したけど、これじゃ返事を聞けない。やらかした。しょうがないから、翌日返事を聞きにスーパーまで行くことにした。
次の日はすぐきた。もう、財布の中には何もない。ただで売っているものもなく、店員さんを探しながらうろうろしてた。いつもは、レジをやってるはずなのに、その日はレジにいなかった。今日休みなんだ。帰ろうと思って、ドアに向かって歩くと、店員さんは野菜コーナーの品だしをしていた。
「あっ!」
私はおもいっきり大きな声で言ってしまった。店員さんも驚いている。そして、口を開いた。
「昨日の子ですよね。ああいうイタズラは辞めてほしいです。他のお客様のご迷惑にもなりますので、そこの所よろしくお願いします。」
プツン。イタズラという言葉を聞いて、私の中の何かがキレた。私は店員さんの手をとって走った。
「えっ?ちょっと、あの!」
ごちゃごちゃ後ろで何か言ってるけど、耳に入ってこなかった。抵抗もしてたけど握力70キログラム、50メートルのタイムが6秒の私から逃れることはできないようだ。
途中で公園を見つけたので、急ブレーキでそこに入った。
「イタズラじゃないです。」
私は思いの丈を伝えた。店員さんは息切れが激しくて、たぶん話は半分くらいしか聞こえてなさそうだけど、話を続けた。
「私は昨日、あなたに思いを伝えたえたくて、ずっと続けてたアルバイトを辞めて、1ヶ月速く文字を書く練習をしたんです。言葉で伝えるのは恥ずかしいから、書く練習をしたんです。だから、イタズラなんか言わないで下さい。私店員さんのことなら、1時間は語れますよ。私のタイプがドンピシャなんです。その目も髪も肌も何もかもが。」
やっと言えた。スッゴい清々しくて、やっぱり言ってよかったなって思った。
「あの、1つ聞いてもいいですか?あなたが僕に対して、熱い思いがあるのはわかりました。でも、あなたは僕のことをどう思って、女子ですなんて書いたんですか?」
「えっ?私、女子ですって書いたんですか?えっ、待って、頭が追いつかないです。」
「えっ?女子ですってはっきり書いてましたよ。まだ、うっすら手に残ってます。ほら!」
そういって店員さんが出してきた手の甲には、うっすらだけど、でっかく女子ですって書いていた。
「僕、昨日びっくりしちゃって、女子高生にからかわれたもんだと思ってました。周りのお客様とかパートのおばさんとかからも変な目で見られるし。ひどいことする人もいるんだなって思ってました。でも、僕のことを思ってやったことなんですよね。質問する前にまず、謝るべきですよね。イタズラとか言ってすいませんでした。」
「謝らなきゃいけないのは私のほうです。ご迷惑おかけしてすいませんでした。」
わー、恥ずかしい。こんなことあるのかってレベルで恥ずかしい。穴があったら入りたいってこのことなんだろうな。私は間違いを訂正するべきだろうか、どうなんだろうか。
「あの!本当は何て書こうとしたんですか?」
「えっ?」
「女子ですって書いたことびっくりしてたみたいだったので。」
「あっ、えっと。はい。本当は、本当は好きですって書こうとしたんです。」
あー、言ってしまった。とうとう言ってしまった。店員さんは目を丸くして驚いている。そしてガクガクと震えながら、私に問いかけた。
「あの、好きって恋愛感情と捉えていいんですか?」
「はい。」
「僕のことが好きなんですか。」
「はい。」
「好きってことは付き合いたいとかですか?」
「はい。」
「本気ですか。僕26歳ですよ。あなたから見たらおじさんじゃないですか。女子高生ってココナッツ隊みたいな人が好きなんじゃないんですか。」
「えっ?26歳なんですか。もっと若いかと思ってました。20歳くらいかなって。」
「よく、言われるんです。童顔なんですかね。」
「いえいえ、そんなことないです。26歳って言われれば26歳です。あっ、あと、私の前でココナッツ隊の話しないで下さい。」
「嫌いなんですか?」
「えぇ、まぁ、ちょっと、トラウマなんです。」
「そうなんですか。」
「あの、連絡先交換しませんか?お互いのこと全然知らないし、返事はそれからでいいので。」
「あっ、でも、僕なんかと。」
「いや、今返事聞きたくないです。どうせ、フラれるの目に見えてるし。だから、連絡先交換しましょ。」
「わかりました。ていうかこれ、犯罪になりますか?女子高生と連絡先を交換するって。」
「えっ?ならないと思います。たぶん。」
「じゃあ、あなたの言葉を信じて。赤外線でいいですか?」
「はい。あっ、来ました。来ました。」
「名前、名前聞くの忘れてました。」
「小野七海です。店員さんは?」
「小野太一です。同じ名字だったんですね。」
「本当ですね。」
店員さんは空を見て、伸びをした後、何か思い出したようにビクッと動いた。
「あっ!僕仕事抜けてきてたんだった。それじゃ、失礼します。」
「こうして、私とパパは出会ったのよ。」
「ふーん。高校生のときのママって思考回路ヤバイね。」
「まぁね。ぶっ飛んでたわ。でも、そのぶっ飛びがないとあなたは産まれてないのよ。」
「そうだね。ぶっ飛びに感謝!それとさ、結局、そのなんとか大福は食べたの?」
「うん、ココナッツ隊の人がね、熱愛報道がてで人気がなくって、それと共にもちもちシュガークリーム大福も人気がなくって、売れ残るようになって、パパがもらって来てくれたの。」
「昔っから、ママに甘いんだねー、パパは。」
「あなたにも甘いでしょ。こないだ洋服買ってもらったの知ってるのよ。」
「うっ。」
「まぁ、パパのそういう優しい所が好きなんだけどね。」
「娘にのろけんなよ。」
「あなたさ、こんな話ふってきたってことはいい人できたの?」
「何でわかったの?ママってエスパータイプ?」
「んー?私もパパ紹介するとき同じ手口使ったからさ。でっ、どんな人なの?」
「えっとね、目が一重のたれ目で黒髪の色白、そんでもって優しい人だよ。」
「血は争えないのね。」