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港町リディル 19


「気をつけて帰れよ!」


「娘に宜しくね!」


「ええ、お世話になったわ」


 家の前で彼らと別れの挨拶をする。 佃煮の入った壺を抱え、私達は宿屋へと帰還した。 馬車の魔道具に壺をしまい込み、部屋に向かって階段を登る。 ふと、そこでランに一つ聞く事にした。 この後、私達はノーランに戻る。 その後はアグレスに向かう予定だ。 彼女はどうするのだろうか?




「ねえ、ラン。 私達はアグレスに行くけど、貴女はどうするの?」


「ん~……。 一度村に帰ろうかな。 ちょっと会いたくなっちゃった」


 誰に、とは聞かなかった。 村には帰らないと言っていた彼女に、どんな心変わりがあったかはわからない。 恐らく、両親の代わりに彼女を育ててくれた人に会いに行くつもりなのだろう。 ここまで一緒に行動してきただけに、私は少し寂しい気持ちになる。 なんと言っても、同年代で仲良くなった初めての女友達だ。




「ふふ。 そんな顔をしないで? ノーランの街まではついてくし、会えなくなるわけじゃないんだから」


「……そうね」


 あまり未練がましくしていては、彼女にも迷惑だ。 その気持ちとは裏腹に、私の気持ちは沈んでいた。 大丈夫、またいつか会える。 彼女も私も冒険者だ。 どこかで同じ依頼を受けることになるかもしれない。 そう言い聞かせて、しっかりとランを見据えた。




「世話になったな」


「うん、ちゃんとレティを守るんだよ? 騎士様」


 キースとも挨拶を交わし、それぞれ部屋に戻っていった。 私を気遣っていたのか、ランはいつもよりしつこくじゃれ合ってきた。 お互い遊び疲れて、ベッドの上に転がる。




「また、会えるわよね?」


「もちろん! レティが嫌って言っても、会いに行くからね」


 結局、口に出して聞いてしまった。 それでもランは、嫌な顔一つせずに笑顔を向けてくれる。 ここまでの旅で思ったことを言い合いながら、私は気づかない内に眠りに落ちてしまった。




 翌日。 私達は思い出を残すように、街の中を回り尽くした。 ランが一番食いついたのは、ミカンを栽培して売っている店だ。 彼女は育て方を教わり、種を購入していた。 でも、私には枯らしてしまう想像しか出来なかった。


  様々な店に立ち入っては、冷やかして回る。 異変が起きたのは、それから三日たった朝方だった。 冒険者ギルドに依頼を確認しにきた私達に、遺跡に集合して欲しいとの要請が回ってきたのだ。




―――――ザリ……


 遺跡に到着した私達は、橋の前に冒険者が集まっているのを確認した。 そこにいるのは、以前侵入したのと同じメンバーだ。 近づくと、私達に気づいた一人が話しかけてきた。




「すまないね、遺跡から妙な音が上がったと報告が来たんだ」


 彼の話によると、今日の早朝から遺跡周辺で音が聞こえ始めたらしい。 何が起こるかわからないため、以前のメンバーが呼ばれたわけだ。




「音って、どんな感じなの?」


「ボコボコと空気が漏れる音だね。 恐らく、遺跡が沈みかけているんじゃないかと思うんだけど……。 一応、君達にも集まって貰ったよ」


 私も橋に近づき、耳を澄ませてみる。 ……確かに、泡が立つような水音が聞こえてくる。 ここは危険かもしれない、もう少し離れた場所に行ったほうが良いだろう。




「ねえ、もう少し離れましょう? 崩れたら危険だわ」


「そうだね。 皆! 遺跡から少し離れよう!」


 私の意見が採用されて、集まっていた冒険者は遺跡から距離を取る。 魔物が出てきても良いように、陣形を取りつつ警戒を続けた。 少しして、遺跡の方から大きな亀裂音が聞こえ始めた。




―――――ビキッ! ……ガラッ! ボチャン!


 遺跡の一部に罅が入り、崩れた欠片が水面へと落下する。 思っていたより規模が大きくなりそうなので、私達は更に距離を取ることにした。 今の所、魔物が出てくるような様子もない。 ……光の柱と魔族が出てくる様子も。




―――――ガガンッ! ビキッ! ガラガラ……


 徐々に音は大きくなり、遺跡自体が沈み始めた。 それが完全に海へと姿を消すまで、私達は近くで見守っていた。 あれが沈むということは、もうこの街にいる理由も無くなってしまうという事。 ランと分かれる合図でもある。 横目でちらりと見ると、彼女は珍しく真面目な顔で沈む遺跡をじっと見ていた。




「よし、何も起きそうにない。 ギルドに報告に行こう」


 その後暫く様子を窺っていたが、他に何かが起こることもなかった。 リーダー格の冒険者の判断で、私達はギルドへと報告に戻ることになった。 遺跡の沈んだ海は、まるで最初からそこに何もなかったかのような静けさを保っていた。




「ね、レティ? 私、良いこと思い付いたんだけど」


「良いこと?」


 ギルドに帰る途中で、ランがなにやら思い付いたらしく話しかけてきた。 いつものようにニヤけてはいないので、イタズラではなさそうだけど……。 とりあえず、彼女の話を聞く事にした。




「うん。 ギルドでね、"リンク登録"しない?」


「リンク……?」


 ランが聞き慣れない言葉を発している。 リンク登録? ギルドでという事は、冒険者ギルドで出来る事のようだけど……。 怪訝な顔をしていると、ランが詳しく説明してくれた。




「そう、リンク登録。 冒険者同士で登録するもので、シルバーランクからの権利なんだ。 何か知らせを送りたい時に、ギルドの人が他の街の冒険者ギルドに伝言を残してくれるの」


「便利ね……それ」


 なるほど、そんな事が出来るのか。 冒険者である以上、冒険者ギルドには頻繁に立ち寄る。 その時に、ギルドの人伝に伝言が残せるという事らしい。 確かに便利だ、ぜひ登録しておこう。




「じゃあ、決まりだね! キースも良いでしょ?」


「ああ、構わない」


 これなら、もし何かあったとしても落ち合える可能性は上がる。 それだけの事なのだが、なんとなく私は心が落ち着いていた。 もしかして、落ち込む私を気遣ってくれたのだろうか? 私もそろそろ切り替えないと。


 リディルの街に戻り、冒険者ギルドに足を運ぶ。 リーダー格の冒険者が受付で話している間、私達はリンク登録というものを済ませてしまうことにした。 別の受付へ向かい、リンク登録の意思を示す。 ギルド職員は、数枚の紙を持って戻ってきた。




「それでは。 此方に御名前を書いて頂き、ギルド証をご掲示下さい」


 その人の言うとおりに紙に書き、ギルド証を渡した。 なにやら細かく書き込んだ後、ギルド証に小さな印を押している。 これで登録は終わりらしい。




「はい、お返しいたします。 言伝は、距離に寄ってかかる時間が異なります。 遠い街ですと、数日では届かない可能性もあります。 その点はご了承下さい」


 まぁ、よく考えなくても当たり前か。 あくまで、ギルド職員が言伝を他に伝えてくれるに過ぎない。 お互いが遠い街に入れば、連絡が届く前に出てしまう可能性だってある。 それでも私は、確かに出来た繋がりに満足していた。



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