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ウイユの村


 暫く馬車は進み、東門近くにたどり着く。 この付近にシエラ達がいるはずだが……。 私は身を乗り出して彼女達を探す。




「レティ。 落ちるなよ? ……あれじゃないか?」


「あっ、本当ね。 行きましょ」


 キースは私に注意しつつ、門付近にいる三人組を見つける。 あの小さいの二人はリズとエイクだろう。 となれば真ん中はシエラだ。




「シエラ! こっちよ!」


 私の声に三人は馬車に近づいてくる。 他の馬車の邪魔にならないよう、キースは道の端の方に馬車を寄せる。




「宜しくおねがいします」


「よろしくおねがいします!」


「します!」


 シエラに続いて、リズとエイクも乗り込んでくる。 冒険者ギルドの前で俯いていた時に比べて、随分と表情が明るくなった。 やっぱり子供には笑顔が一番だ。




「こちらこそ。 ほら、これを敷いて座って。 狭くてごめんなさいね」


「いえ、むしろ快適です。 依頼を受けて貰えるだけでもありがたいのに、馬車にまで乗せて貰えるなんて……」


 シエラは申し訳なさそうに荷台に座る。 そんなに畏まらなくても、と思ったが……。 そうか、往来の荷馬車にはお金を払って乗せて貰うのが普通だ。




「良いのよ。 ほら、座れる?」


「うん!」


「柔らかい!」


 リズとエイクにも敷物を渡して座らせる。 大好評だ、買ってよかった。 お店を紹介してくれた串家のおじさんと、雑貨店のお婆さんには感謝しないと。 笑顔で飛び跳ねる二人を見て私も笑う。




「ほら、ちゃんと座りなさい。 落ちるわよ」


「はあい」


「はい!」


 シエラ達が座ったのを見て、キースは馬車を出発させた。入る時と違って、出る時は通行証を見せれば直ぐに外へ出られる。 門をくぐった辺りで、キースが後ろを振り向いた。




「村は街道を進んでいけば良いのか?」


「はい。 一日半ほど進むと道が別れているので、そこを右に行くと村に着きます」


「わかった、分かれ道に着いたら教えてくれ」


「はい」


 そう確認してキースは前を向く。 さて、一日半か。 私はシエラ達とまともに自己紹介をしていないことに気づいた。 丁度いい、ここで済ませてしまおう。




「そういえば、まともに名前も言ってなかったわね。 私はレティ・エイル、彼は……」


「キース・メストだ」


 私は自分の名前を言った後、キースに目を向ける。 彼はこちらを向いては居ないが、聞こえていたらしく続けて自分の名前を言った。 もちろん偽名である。 これも館を出る時に決めていた事だ。




「あっ、わ、私はシエラ。 シエラ・フリントです。 この子達はリズ・フリントとエイク・フリント。 兄妹なんです」


「リズです!」


「エイクです!」


 随分仲が良いと思ったら家族だったようだ。 順番に名乗りあげる様子に私は微笑む。 ……私にもこんな時期があったのだろうか?




「あ、あの……レティさん?」


「あ……、ごめんなさい。 それで村に何があったか詳しく教えてくれる?」


 思わず考え込んでしまったせいでシエラが不安な顔になってしまった。 しまった、そんなつもりでは無かった。 別の話に切り替えよう。


 シエラは、長くなりますが……。 と断ってから話し始めた。 私も姿勢を正して、しっかり聞くとしよう。 キースも少し耳を傾けて聞いているようだ。




「はい……。 私達の村はウイユと言います。 森林近くで暮らす私達は、その森で狩りや採集をして生活していました」


 私に促されて、シエラは村で起きた事を詳しく話始める。 彼女の村は、ウイユと言うらしい。




「最初に異変が起きたのは、いつも通りに大人たちが狩りに出かけた後でした。 いつもは遅くても夕方までには帰ってくる彼らが、その日は夜遅くまで村に戻ってこなかったんです」


 思い出すように彼女は話す。 普段から狩りに出かけていて、慣れているはずの狩人が帰ってこない。 考えられるのは、予想外の事故か……もしくは、普段はいない何かに襲われたか。




「不信に思った村長さんが、村に残っていた戦える人達を集めて捜索に向かわせました。 すると、森に入って少し進んだ場所で、怪我をした狩人達が休んでいるのを見つけました」


 怪我をして休んでいた……。 やはり、森で何かに出会ったということか。




「すぐに村へ連れ帰り、治療をしながら何があったが聞きまし

た。 彼らは口を揃えて、森の奥で真っ黒な狼に襲われたと言っていました。 幸い死人が出ることはありませんでしたが、その日を境に森に住んでいる動物達が凶暴化して襲ってくるようになったんです。」


 黒い狼? 聞いたこともないが、それが魔物なのだろうか。 キースを見るが、彼も知らないと首を振っていた。




「一度に来るのは数匹ですが、連日続いて来るので次第に村には怪我人が増えていきました。 これ以上、村で迎え撃つのにも限界があると村長は私達を街へ遣わせたんです」


 長い話の後、深く息を吐いて締めくくった。 私は水の入ったコップを彼女に渡す。 本当に切羽詰まっていたようだ。 シエラの依頼を引き受けて良かったと、改めて思った。




「……ありがとうございます。 私達は、その黒い狼が魔物じゃないかと疑っているんです。 でもギルドでは野生動物の退治くらいで、二日もかかる村へ行く人は少ないと言われてしまって…」


「黒い狼のことは話したんでしょう? 魔物が出たのなら立派な依頼になりそうだけれど……」


 確かに野生動物の退治の為に二日の道程を経て行く冒険者は少ないのかもしれない。 でも魔物が出たとなれば立派な依頼だ。 受ける人は居なかったのだろうか。




「話しました……けど、本当に見たのか?と疑われてしまって……。 私も見た本人ではないので強く言えなかったんです。 それに報酬も規定の半額程度しか出せなくて……」


 俯いてしまった。 なるほど、彼女の話をまとめよう。 魔物が出るかどうかも確かではない依頼に二日かけて、しかも報酬は半額。 確かに稼ぎにはならないだろう、ギルドのやることにも頷ける。 しかし、困っている人を助けるというのも冒険者ギルドの仕事では無いのだろうか……。




「昔は冒険者ギルドも、人のためにという名の下に行動していたそうだ。 だが最近は報酬を用意できなければ依頼を受けようとしない者も増えてきているという。 子供達には悪いが……これが現実だ。 彼らも生活がかかっている」


「ちょっと、キース。 はっきりと言わなくてもいいでしょう?」


 キースは振り返らずに淡々と話した。 そんな事を言うからシエラだけでなく、リズとエイクも表情が硬くなってしまった。 あとでお仕置きしよう。




「だが、そのような冒険者が全てではない。 中には無償で依頼を引き受ける熟練の冒険者もいる。 眼の前にもいるだろう? あいにく熟練ではないがな」


「……」


 キースは振り向かずに私を指さして、そんな事を言う。 全く素直じゃない、最初からそう言えばいいのに。 お仕置きは勘弁してやろう。




「そう……ですね!」


『お姉ちゃんありがとう!』


 シエラ達は笑顔になって、そう言った。 よかった、元気が出たようだ。 リズとエイクは同時に言ってきた、さすが兄妹。 息がぴったりである。




「そうね、私に任せなさい!」


「あまりと調子に乗ると怪我するぞ」


「ちょっと、せっかくいい感じだったのに!」


 少し強く行っただけなのにキースに茶化されてしまった。 全く……。 でもまぁシエラ達も笑ってくれているから良しとしよう。




 そして私達は他愛ない話をしながら街道を進む。 空はすっかり暗くなってしまった。 馬を休めるために、今日はこの辺りで野宿だ。 私にとって初めての野宿だが、大人数で良かった。 そんな事を思いながら、私達は夜を迎えた。

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