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港町リディル 17


―――――『向こうに運んでくれ!』 『おい、これ切れねえぞ!』


 海岸にたどり着くと、私達が昨日討伐したマーマンを冒険者ギルドの職員が解体していた。 こんな雑用もやるなんて……。 思っていたより、ギルド職員というのは大変そうだ。 その中には、武装して辺りを見張っている冒険者も見受けられた。 不当に魔物の素材を掠め取っていく者への警戒だろうか。




「私達も手伝ったほうが良いのかな?」


「邪魔になるだけよ、港の方に行きましょう」


 ランが彼らの様子を見て言ったが、私達では邪魔になるだけだろう。 遠巻きに見ていても、彼らが効率よく動いているのがわかる。 きっと、ギルド内に専門の部署あるのではないだろうか。 あそこに押し入っても邪魔になるだけだと思う。




「港は向こうの方角だ」


「船は……動いていないわね」


 港は遺跡とは反対の方角だ。 ここからでも船が見えるが、海に出ようとしているものは見当たらない。 自粛中なのだから当然か。 近くに見える建物に、誰か居ると良いのだけれど……。




「静かだね~」


 港付近に近づくが、人の気配がなく静かだ。 ちらりと建物を覗いてみたのだが、中にも誰もいる様子がなかった。 一件二件と覗いていく内に、建物ではなく船の方で作業している人を発見した。 どうやら一人みたい、近くに人影は見当たらない。




―――――ギリ……ガシャン!


 船で作業をしている人物は、私達に気づいて持っていた網を地面においた。 その男の体は日に焼けていて黒く、 立派な腕は漁で鍛えられたものだろう。 見た所、漁に使う道具を船に積んでいるようだった。 まさか、海に出るつもりなのだろうか。 自粛のみで禁止はされていないとは言え、随分危ない事をするものだ。




「あの……漁に出られるんですか?」


「……ああ。 魔物は冒険者ってのが倒してくれたんだろう? なら、別に行っても構わないはずだ」


 まぁ、彼の言うことも間違ってはいないのだが……。 ただ、身を危険に晒してまで漁に向かう人は少ないようだ。 閑散とした港が、それを物語っている。 彼は不審そうに私達を眺めている。 ……それもそうか。 いきなり人気の少ない港に来て声をかけたのだから。




「で、あんた達は何のようだ?」


「あ、ごめんなさい。 私達も冒険者なの。 聞きたいことがあって、ここに来たのだけれど……。 他に人が見当たらなくて」


 彼は腕を組んで問いただしてくる。 冒険者と言った後、視線がプレートの方に向かっていった。 銀色の板を確認した後、彼の雰囲気が幾らか和らいだ。 シルバーランクというのは、やはり一定の信頼があるようだ。




「ああ。 昨日の魔物を倒してくれたのはあんたらか。 それで、何を聞きたいんだ?」


 遺跡の事か? 昨日現れた魔物の事か? と彼は協力してくれる姿勢を示していた。 冒険者ギルドの派遣員とでも勘違いしているのだろうか。 そうではなく、私達が聞きたいのは……。




「いいえ、私が聞きたいのは……佃煮の作り方なの」


「は?」


 私の答えに、彼は呆気にとられたような顔をして固まってしまった。 暫くすると、口角を上げて盛大に笑ってしまった。 後ろの方からも笑い声が聞こえてくる。 ……きっとランだ。




「……は、はっはっはっは! 街が襲われたってのに、そんな話を聞きに来たのか? 全く、とんだ大物だな」


  彼の笑いは止まることを知らない。 段々と恥ずかしくなってきた私は、隣りにいるキースに助けを求めた。 彼は宥めるように私の頭に手をおいて、代わりに前へと進み出た。




「うちのお嬢様は美食家なんだ。 すまないが、何か知っていたら教えてくれないか?」


「……はっはっは! そうらしいな。 若いのにシルバーランクなんて、どんな曲者かと思ったが……」


 おかしい。 キースは私の助け舟に入ったはずなのに、一緒になってからかっている気がする。 私はキースの背中を静かに抓った。 ランは笑ってしまっていて話にならない。




「……ふぅ。 佃煮の作り方だったか。 そうだな、漁を手伝ってくれたら教えてやらんでもない」


「漁!? やりたい!」


 交換条件だ。 と言っても、私が答える前にランが興味を示してしまった。 作り方を教えてくれるのなら、私にも異論はない。 キースも頷いている、決まりだ。 もし魔物が出たとしても、私の魔法で追い払ってあげよう。




「わかったわ。 でも、漁なんてやったことないわよ?」


「おう、威勢がいいな。 大丈夫だ、殆どは魔道具でやるからな。 頼みたいのは、引き上げた後に魚をしまい込む作業だ」


 私もキースも漁なんて経験したことはない。 あの様子だとランだって始めただろう。 魔道具を使うなら大丈夫だろうか? 魚のしまい込み……? ここで考えても仕方がない、漁師の彼が大丈夫だと言っているなら平気なんだろう。




「もう出るのか?」


「ああ、もうすぐ準備が終わる。 船に乗って待っていてくれ」


 彼の言う通り、私達は早速船へと乗り込んだ。 佃煮の作り方を教えてもらいに来たら、漁に出ることになるなんて。 こんな本格的なことになるとは思ってもいなかった。




「よし、準備は終わりだ。 そう言えば、言ってなかったな。 俺はロウ・エリック、昔っからここで漁師をやってる」


「私はレティ。 彼はキースで、彼女はランよ。 察しの通り、冒険者よ。 この街には最近来たの」


 挨拶もそこそこに、船は海へと進みはじめる。 漁師さんの名前はロウというそうだ。 彼は昔から、この船を使って漁を続けてきたらしい。 いつもの漁場に着くまでの間、今までの武勇伝について詳しく話していた。 船の半分ほどもある魚を陸に上げたなどと、眉唾ものの話も混ざっていたが。




「俺にもお前さん位の娘が居てな。 今は魔術学園に通っているんだ」


「魔術学園?」


 唯一、その話だけには食いついた。 魔術学園……そこなら、ここと似たような遺跡について書かれている本が見つかるかもしれない。 それに、独学の私が魔法について教わる機会も。




「ああ。 俺んとこの娘は、生まれつき魔力が強くてな。 彼処に通うには高い金が必要だが……。 なんと特待生として免除されちまったんだ。 凄いだろ?」


 学園に通うには、高い学費を払う必要がある。 どうやらロウさんの娘は、その高い魔力適正によって学費を免除されたらしい。 有能な人材に対しては、学園の方から手厚い支援があるようだ。 そのまま、ロウさんの娘自慢が始まってしまった。 魔術学園について聞きたいのだけど……。 とりあえず、彼の気が収まるまで話を聞く事にした。


 

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