表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
86/93

港町リディル 15


「もう! レティが変なことするからー」


「お互い様よ」


 細かい事務作業を終えて、私達は冒険者ギルドの外へと出た。 さっきのことを思い出して、ランが小言を言ってくる。 彼女は抱きついてきて暴れているが、すぐにじゃれ合いへと変わっていった。




「ほら、また言われるわよ。 今日は疲れたわ……。 もう、宿屋に戻りましょう?」


「はーい」


 満足したのか、ランは素直に返事を返した。 彼女を連れて、止まっている宿屋へと歩みを進める。 今日はしっかり休んで、何をするかは明日決めることにしよう。 赤い瞳の影響か、ゴーレムと戦ったときよりも疲労感を感じる。 そう考えると眠くなってきた。




「レティ、大丈夫?」


「ふぁ……。 ええ、大丈夫……」


 前を歩くランは、度々私を心配するように後ろを振り向いてくる。 宿屋までもう少しという所で、私はついに限界を迎えてしまった。 足を躓かせて、地面に体を打ちつけそうになった。 思わず目を閉じてしまう私だったが、いつまで立っても痛みがやってこない。 薄めを開けると、キースに受け止められていた。




「無理をするな。 ほら、部屋まで送る」


「ええ」


 キースに促されるままに、彼の背中に体を預けた。 視界の端にランのニヤケ顔が写っているが、今はそんな事を気にしている余裕はない。 心地の良い暖かさに、私はそのまま彼の背中で眠ってしまった。




―――――ガサッ ……ボフッ


 何かが落ちるような物音で、私は重たい瞼を開いた。 辺りは薄暗く、私はベッドに寝かせられている。 あのまま寝てしまったようだ、寝支度も整えられている。 隣を見ると、寝ているランがベッドから枕を落としてしまっていた。




―――――トッ……


 ベッドから抜け出し、彼女の寝顔を覗き込む。 幸せそうな顔をしている、こっちまで笑顔になりそうだ。 落ちている枕を拾って、元の位置に戻そうとした。 するとランは、枕を抱え込んで寝返りをうってしまった。 ……まぁ、満足そうだし良いだろう。




「ん……」


 私は静かに体を伸ばす。 変な時間に寝てしまったせいで、こんな夜中にすっかり目が覚めてしまった。 食事も食べそこねている、小さく鳴ったお腹がそれを訴えていた。 こんな時間では、食堂が空いているはずもない。




―――――キィ……


 上着を羽織って静かに部屋を抜け出した私は、ゆっくりと階段を降りていく。 食堂にたどり着き、窓際の席に座って窓から外を眺めた。 昨日はここから光の柱が見えたが、今は静かな夜空しか見当たらない。 窓から射す星の光は、私だけを照らしている。




「レティ」


「……!」


 背後から掛けられた声に、驚いて後ろを振り向いた。 キースが私の方に向かって歩いてきている。 静かに忍び寄るのは止めて欲しい、私の寿命が縮まりそうだ。 彼は隣の席に落ち着くと、私の見ていた窓を同じように眺め始めた。




「驚かさないで」


「そんな意図はなかったんだが、驚かせたならすまない。 階段を下る音がしてな」


 驚いた、そんな音まで注意していたのか。 普段からそんなに気を張っているのだろうか。 それとも、私のことだから? 淡い期待をいだきつつ、キースに直接聞いてみた。 普段の私なら、決してこんな事は聞かない。 私達を照らす夜空の光に、少し酔っていたのかもしれない。




「それって、私の心配をしていたの?」


「そうだな」


 キースが答えたのは一言だけ。 それでも、その言葉に満足した私は満足して微笑んだ。 勢いの乗った私は、そのまま思っていたことを口にする。




「キースは……。 貴方は、これからも私と一緒に居てくれる?」


 自分で言っておいて意味がわからない。 言い終わった後に恥ずかしさがこみ上げてきて、彼の方を見ることが出来なかった。 今度の質問には、キースはすぐには答えなかった。 私は窓の方を向いていたので、彼が考えているのか、迷っているのか、どんな表情をしているのか……。 何も読み取ることは出来ていない。 少しの間をおいて、キースの方から、息を吸う音が聞こえた。




「ああ。 お前が望む限り、俺はいつまでも傍に居る。 約束しよう」


 その言葉を聞いて、私はようやくキースの方を振り向いた。 彼は表情が悟られないようにか、私と同じように窓の方を向いている。 気恥ずかしいことを言った自覚はあるようで、決して私と目線を合わせようとはしない。 でも、星空に照らされている彼の耳が、真っ赤に鳴っているのを私は見逃さなかった。




「……食事を取っていなかっただろう。 何か簡単なものでも作ろう」


 私の目線に耐えられなくなったキースは、そう言って厨房の方へと向かって行ってしまった。 この宿屋では、宿泊客が厨房を使って食事を作るのを許可している。 置いてある食材は、近くにある小袋に代金を入れれば自由に使っていい。 不用心だが、村の頃からあったらしい。 利用する人の善意で、この食堂は支えられている。




―――――カッ…… トントントン……


 キースが厨房で料理を作ってくれている。 普段は私が作ることのほうが多いので、とても新鮮な気分だ。 この街に来る時の野宿でも思ったが、彼はやれば何でも出来る。 何か不得意な事はあるのだろうか。 それに、こうしているとまるで……。 いや、恥ずかしくなるから考えるのはやめよう。




 薄暗い静かな空間で、キースの作ってくれた食事を楽しんだ。 この赤い瞳のおかげで、彼と出会う事が出来た。 その点に関しては評価してあげてもいい。 そんな事を考えながら、私は二人きりの食事を楽しんだ。 満足した私は、キースにエスコートされながら寝室へと戻る。 今夜はぐっすり寝られそうだ。 心を満たす満足感を感じながら、再びベッドに潜り込んだ。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ