港町リディル 13
―――――『レティ! キース!』
通路の方から大きな声が聞こえ、私とキースは座ったまま顔をそちらへと向けた。 走ってくるのはランだ、大袈裟に手を降って笑顔で近づいてくる。 よかった、何処に飛ばされたのか心配だったが大丈夫のようだ。
「ラン、大丈夫だった?」
「うん。 気づいたら他の部屋に移動してて吃驚したよ。 あれって転移の魔法?」
ランは遺跡内部の別の部屋へと飛ばされていたようだ。 となると、一緒に居た他の二人も同じように別の部屋へと飛ばされたのだろうか。 この部屋の先も無いみたいだし、一旦集合場所に戻るのが良いだろう。
「ええ、そうみたいね。 怪我がなくて良かったわ」
「何体か魔物に会ったけど、余裕で倒したんだから! レティも怪我は……って大丈夫? キース!」
ランにも大きな怪我は見当たらない、自慢げに言う彼女に思わず笑みが溢れる。 彼女は私の体を確認した後、キースの方に目線を移して驚いていた。 私はほぼ無傷だが、キースの方はボロボロだ。 ……殆ど私が付けた傷なのだけど。
「ああ、問題ない」
「何があったの?」
キースは問題なさげに答えているが、早く治癒の魔法をかけてあげたい。 思っていたより私は消耗していて、繊細な魔力操作が必要な治癒の魔法は、今の状態では万全に発動させる自信がなかった。 問い詰めてくるランに、私はここであったことのすべてを話す事にした。 魔族が出たと言えば、彼女がなんて反応するかは想像できない。 少し不安な気持ちもしていたが、ランに隠し事はしたくなかった。
―――――パラ……
「……そう」
全て話し終わった後、ランは静かに一言返事を返す。 削れた壁から崩れる破片の音が、私の耳にはやたらと大きく聞こえた。 想像していた反応よりランの様子は大分大人しく、それが逆に私の心を不安にさせた。
「うん? なに、そんな顔して。 大丈夫、何とも思ってないよ。 レティを傷つけたのは許せないけど」
私が微妙な顔をしていたせいか、ランは面白いものを見たような顔で笑っていた。 そんなに私は変な表情をしていたのかしら。 自分の顔に手をやりつつ、さっぱりとしているランを見てため息を吐いた。 ……深く考えて損した。
「でも、この事。 ギルドには報告しないほうが良いかもね」
「それは俺も思っていた。 あの執事は確か、貴族の屋敷に居たはずだったな。 どこに潜んでいるかわからない以上、言い触らすのは危険だ」
ランとキースの言う通り、あの執事は元々貴族の屋敷に居た使用人だった。 魔族が何処まで通じているのかはわからないが、貴族やギルド……国にも潜んでいる可能性がある。 変形しなければ、見た目は完全に人間のそれだった。 信用できる人以外には、やたらと話すのは控えたほうが良いだろう。 もし話した人が魔族に通じていなかったとしても、その人に危険が及ぶ可能性もある。
「私もそれが良いと思うわ。 ……さぁ。 大分調子も戻ってきたし、集合場所に戻りましょう? キース、そこに立っててくれる?」
ここでは適当な魔物と出会って戦ったことにすれば良い。 話も纏まり、私の調子も戻ってきた。 早くキースの傷を治してあげよう。 彼を私の前に立たせて、治癒の魔法を発動させる。
「Act.2 治癒」
「ひゃっ!」
治癒の水球はキースを包み、弾けた頃には傷は跡形もなくなっていた。 悲鳴を上げたのはキースではなく、横にいるランの方からだ。 彼女にも小さな傷が見えたので、同時に治療してしまうことにした。 ……不意打ちだったので、心地の良い悲鳴が聞けて満足だ。
「助かった」
「もう! ……ありがとう」
キースは体を動かして、自身の調子を確認している。 ランは私の不意打ちに声を上げたが、そこまで怒ってはいないようで感謝を述べていた。 二人の怪我も治った所で、私達は入ってきた通路を戻って行った。
―――――カツ……カツ……
来る時は周りを警戒していたので、自分の足音など気にもとめていなかった。 改めて進むと、この通路は随分足音が響くようだ。 集合場所の広間には、すぐ辿り着いた。 既に数人の冒険者が集合していて、通路から出てくる私達の方を見ていた。 その中には一緒に行動していた二人の冒険者の姿も見える。
「無事だったかい? こっちは突然魔物に襲われてね……。 しかも、突然彼らが現れたから混乱してしまったよ」
「貴女達は無事だった?」
最初に話しかけてきたのは、ここに来るのを先導していた冒険者だ。 彼が魔物と出くわした部屋に、私達のところから二人が転移されたようだ。 飛ばされた二人に目立った怪我はない。 彼らの方には、魔族は現れなかったみたい。 私が目的なのだから当たり前か……。
「ええ、こっちも魔物と出くわしたわ。 なんとか倒したけど……」
彼らには、魔族のことは伏せて話を合わせた。 遺跡内部で戦闘していたせいで、もう一度光の柱が上がった事には気づいていな様子だった。 その部屋で暫く待機していると、残りの冒険者も着々と集まってきた。 全員揃った所で、最後に来た冒険者が意見を述べた。
「この遺跡は早く出たほうがいいかもしれない。 俺達も魔物と戦っていて通路が崩れたんだが……。 どうやら、この下は空洞だ。 しかも亀裂が無数に入っている。 いつ沈んでもおかしくないぞ」
なるほど。 やたらと響く足音は、下が空洞だったせいのようだ。 簡単に言えば、この遺跡はランが使っていた浮き輪の上にあるようなものだ。 しかも、その浮き輪には無数に罅が入り水が流れ込んでしまっている。 それが満たされれば、再び沈んでしまうのは道理だ。 ……今まで浮かんでいたのに、何故急にそんな事に? あの光の柱が放った衝撃のせいだろうか。
「目に入る魔物は殲滅したし、今の所は他にいる気配もない。 一旦、ここから脱出しよう。 ギルドには、危険だから近寄らないように言っておくよ」
彼の意見に、反対するものは誰もいなかった。 来る時と同じように、隊列を組んで遺跡から外へと進んでいく。 ギルドに報告するのは、彼に任せることにしよう。 外に出た後、全員で遺跡の方を振り返って外観を眺める。 とりあえずは、街を襲う魔物の進行は止まった。 私は少し後ろ髪を引かれたが、ギルドの方へ向かう冒険者達に合わせて足を進めた。




