幕間
―――――キュンッ
荒野に一人、ボロボロになった執事服を来た男が現れた。 彼の名前はエドワーズ。 先程まで二人の冒険者と戦っていた彼は、自らの身なりを確認してため息をつく。
「代えを用意しなくては……」
もはや上着の機能を果たしていない服を脱ぎ捨て、小さくそう呟いた。 直ぐ側に転移の魔法陣が輝き、そこに別の人物が現れる。 エドワーズは、特に警戒すること無く視線を向けた。
「どうでしたか?」
「全く、驚くことばかりです。 ですが、器の大きさは大したものですね……。 丁度いい。 貴方が居るのなら、もう一度回収しに行きましょう。 あれを逃すのは少々惜しい。 もういくつか、転移の魔道具を頂けますか?」
エドワーズは男を見知っているようで、回収しそこねた対象を惜しむように増援を求めた。 しかし、尋ねられた男の方は無言で立ち尽くしている。 エドワーズが怪訝に思っていると、はっと思い出したように口を開いた。
「……ああ、申し訳ありません。 そこまで大きい魂でしたか……。 さぞ、良い輝きを放っていたことでしょう」
「ええ、それはそれは。 赤い瞳は輝かせた彼女は、まさに魔王たらしめる風格を纏っていました。 我らの悲願も……」
男の問いに、エドワーズは感じたことをそのまま口にする。 しかし、魔王と言った辺りで怒気を感じて口を閉ざす。 前を見るが、男は変わらずにこやかな笑みを浮かべていた。
「わかりました。 本当にご苦労さまです、貴方の役目はここで終わりとなります」
―――――ダンッ!
背筋にぞわりとしたものを感じたエドワーズは、瞬時に体を変形させて後ろに飛び退いた。 男の位置は変わっていない。 しかし、次の瞬間。 後ろに気配を感じて振り返った。 ……いや、振り返ろうとした。
―――――ドシュッ……
「……きさっ、ま」
エドワーズの背後から、彼の体の中心を貫通するように拳が突き出されていた。 その手には赤い核が握られており、急所を撃ち抜かれたエドワーズは血を吐きながら膝をついた。
「何の……つもりだ……」
『何の? 魔族を殺すことに何か意味が必要なの?』
エドワードの質問には背後の人物が答えた。 息絶える彼の視界に最後に写ったのは、無表情で笑みを浮かべる少女の顔だった。
―――――ドサッ…… ズッ
「もう……汚いなぁ」
エドワーズの体から腕を抜き、こべり着いた血を彼の服で拭い取る。 そのまま、赤い核を持って男の方へと近寄った。 その顔は無表情ではなく、さっぱりしたような笑顔だった。
「ご苦労さまです」
「うん。 こういう仕事なら、どんどん任せて!」
少女は核を男へと渡す。 渡された核を懐へしまい、転がっているエドワーズだったものに手を向けた。 キュンッと音を立てて、それは瞬時に消えてしまった。
「転移魔法って便利だよね~」
「貴女の強化魔法も便利だと思いますよ?」
少女は飛び散った血の跡すらなくなった地面を見て、男に話す。 彼も彼女の拳を見て言い返した。 先程、魔力を纏ったエドワーズの体を難なく貫いた"ナックルガード"を見ながら。
「彼女はどうでしたか?」
「うん、問題ないみたい。 次の方針も決まったみたいだし、私達も頑張らないとね」
エドワーズと話していた時とは違って、今度こそ本当に親密そうに男は少女と会話していた。 話し合っている内容は、エドワーズが題材にあげていたのと同じ人物の事についてのようだ。
「それじゃあ……私、戻るから送ってくれる? "エルヴィン"。」
「ええ、わかりました。 "ラン"。」
その言葉を最後に、エルヴィンの魔法によって彼女は掻き消えた。 誰も居なくなった荒野を眺めながら、エルヴィンは空を見上げる。 そして、自信も転移で移動していってしまった。
―――――キュンッ
「到着っと」
エドワーズが居た遺跡内部に着地したランは、通路の奥を眺める。 その先に居るであろう人物を思い出しながら、彼女は誰にも聞こえないような声で一言呟いた。
『ごめんね、レティ……嘘ついちゃった。 やっぱり私ね……魔族は皆、嫌いなんだ』
―――――そう言う彼女の顔は、輝くような笑顔だった。




