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港町リディル 12


「貴女を無傷のまま連れて帰るのは厳しいようですね」


 エドワーズは顎に手を添え、髭を弄りながら言っている。 随分余裕そうね、私は貴方のせいで私は擦り傷だらけなのに。 無傷でなどと、どの口が言っているのかと問い詰めたい衝動に駆られたが、そもそも彼は敵だ。 そんな事を言っても仕方がないので、言わずに飲み込んだ。




「ふむ……。 器を発見しただけでも良しとしますか。 また何れ、お迎えに上がります。 御身のためにも、どうかその時は抵抗なさらないように、お気持ちが変わっていることを願っております」


「願い下げ……よっ!」


 エドワーズは身なり通りの執事の礼をして、この場所を立ち去ろうとしていた。 そうはさせない。 牽制のつもりで、魔力の塊を彼に向けてはなった。 避けられるだろうと思いながら次の魔法の用意をしていたが、エドワーズは期待を裏切って塊を迎撃した。




「……それ、大切なものみたいね?」


 彼が避けたら、その先にあるのは祭壇の四角い箱だ。 好機と見た私は、エドワーズではなく箱に向かって杖を構える。 案の定、彼は箱と私の間に入り込んだ。 私の問いに、ニッコリと笑いながらエドワーズは会釈をした。




―――――ヒュカッ! ……キキン!


 予備動作もなく、エドワーズはナイフを此方に飛ばしてきた。 私が撃ち落とす前に、キースがナイフを切り払う。 その一瞬で、エドワーズは祭壇の箱の近くに近づいていた。 しまった。 そう思ったときには遅く、彼は懐から小さなアイテムを取り出した。




『"蔓"!』


 私は瞬時に魔法を発動させる。 地面から土の蔓が発生し、エドワードに向かって襲いかかる。 それが彼を捕まえる前に、手に持っていたアイテムが輝き出した。




『それでは、ご機嫌よう』


 そう言い残して、エドワーズは箱と共に消えてしまった。 戦闘中に転移の魔法を使用してこないと思ったが、どうやらアイテムの効果だったらしい。 光を失った小さな棒きれは、ざらざらと粉状になって消えていった。




「……」


 私は暫くエドワーズが消えた場所を眺めていたが、やがて立っているのが辛くなる。 その場にへたりこんだ私に、近くに居たキースが駆け寄ってきた。 赤い瞳が収まっていくのを感じる。 この瞳は私に魔族と戦えるほどの力を貸してくれたが、消耗も凄まじいようだ。 魔王の魂などと言われた力を、あまり使いたくないのも確かだ。 それでも今回は、これに頼らなければ連れ去られていただろう。




「レティ、暫く休んでいろ」


 キースが私を心配してくれている。 彼にも治療の魔法をかけてあげないと……。 その怪我を負わせたのは私だ。 そうは思うが、体にうまく力が入らない。 申し訳ないが、言う通りに少し休ませて貰うことにしよう。




「……魔王の復活だなんて、信じられる?」


 広間の壁に背中を預け、体を休めながらキースに聞いた。 隣りにいる彼は、暫く考えたような仕草をした後に返事を返してきた。




「魔族を実際に確認した。 お前が赤い瞳で暴走するところもな。 俺は、その信憑性は高いと思う。 ……あの時、何が起こったんだ?」


 あの時、というのは光の柱が発生した時の事だろう。 私はあの瞬間に瞳が赤く輝き、近くに居たキースに襲いかかったそうだ。 何度も呼びかけるが返事はなく、ただひたすらに、目の前の脅威を排除しようとしていたらしい。 その様子をみて、エドワーズは参戦することもなく褒め称えていたとの事。 ……趣味の悪い奴め。




「誰かの記憶を見ていたわ。 エドワーズの言うことが確かなら、魔王の記憶。 人に対する憎悪の感情が溢れていたわ。 全て滅ぼして、自分が作り直すとも言っていたわね……」


 私の説明をキースは静かに聞いている。 燃え盛る街、逃げ回る人々、それを手に掛ける私。 正直な所、二度と見たくない記憶なのは確かだ。 しかし問題は、その後に見た記憶の方だ。 明らかに場面が変わり、有ろう事かジェナが目の前に現れた。




「でもね、その後に急に場面が変わったの。 私は泣きながら、必死に笑顔を作って女の子を抱きしめていたわ。 誰だと思う? ……ジェナだったの」


「ジェナが……?」


 キースは顔をこちらに向けて、怪訝な顔をして聞いてきた。 その気持はとても良くわかる、私だって困惑しているのだ。 思った事が一つある。 ジェナと初めて会った時、彼女が執拗に抱っこを求めてきたのは、その時のことが関係しているのではないか。 という事は、ジェナの母親は魔王? いや、魔王の記憶の最後に出てきたのは男の子だった。 ジェナを抱きしめている時に見た自分は、明らかに女性だ。




「前半と後半の記憶は、全く違うものに思えたわ。 その後に、私は意識を取り戻したの」


「エドワーズは狼狽えていた。 そうなるとは微塵も思っていなかったようにな。 その記憶に、何か手がかりがありそうだ」


 私が意識を取り戻したことを、エドワーズは信じられないように狼狽えていた。 魔王の記憶と、もう一つの知らない記憶。 その二つに何か関係があるのだろうか。 どうせ何もしなくても、エドワーズは再び私を迎えに来るだろう。 それならば……記憶について先に調べ、何か対策を練れないものか……。




「あいつは箱を壊される事を警戒していたな」


「……祭壇の箱。 ねえ、同じ様な遺跡って他にもあるのかしら」


 キースの言葉に、空になった祭壇を見つめて思いつく。 私が見た記憶は断片的なものだった。 他にも同じ様な遺跡があるのなら、そこで残りの記憶も知ることが出来るのではないか。 魔王の記憶よりも、もう一つの知らない記憶の方に手がかりがありそうだ。




「私がここで見た記憶は一部だったわ。 だから、他の遺跡にも行くのよ。 記憶を掘り起こせば、何かわかるかもしれないわ」


「……危険だが、このまま何もしないよりはましだろう。 そうだな、街に残った伝承や本を調べ上げてみよう。 何か手がかりが残っているかもしれない」


 次の指針は決まった。 このまま何もしないで器とやらにされるくらいなら、必死で抵抗して困らせてやろう。 ……もう何度目の『危険だが……』だろうか。 そんな事を言いながら、最近はキースも私の意思を尊重してくれている。 文句も言わずに、黙って私を守ってくれている彼に改めて感謝の笑みを向けた。




   

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