辺境の街クアーラ 4
「リズ! エイク!」
「シエラお姉ちゃん」
冒険者ギルドから出てきた彼女はシエラと呼ばれていた。 年は子供達より上だが、私達よりは下だろう。 彼女は、すぐ横で子供達に話しかけていた私達に気づき走り寄って二人を引き離す。
「大丈夫よ、何もしてないわ」
「……あなた達は?」
なお警戒しつつ問いかけてくる。 当たり前だろう、知らない男女が子供達に詰め寄っていたのだ。 私は少し後悔して、疑惑を解くことにした。
「俺達は旅の商人だ。 ここで子供が二人だけで佇んでいたからな、少々心配になって声をかけただけだ」
「ええ、何もしていないわ。 ごめんなさい、疑われるようなことをしたわね……」
キースが言った言い訳に、私も謝罪をする。 彼女は警戒しているものの、悲壮な顔をする私に若干の罪悪感を覚えたようだ。
「……いいえ。 子供たちだけで待たせた私も悪いんです。 頼み込む姿を二人に見せたくなくて……」
ギルド内で必死に頼み込む姿を子供達に見せたくなかった。 その気持はわかる。 冒険者といえば、その冒険譚を子供達に聞かせることもある。 現実を見せて絶望してほしくなかったのだろう。
「お姉ちゃん、どうだった?」
「来てくれるって?」
「それは……」
言いよどむ彼女に私は一つ決意をする。 怪我人なら私の魔法で治せるはず。 魔物だって大丈夫。 私がやるんだ、必死に学んだ力で。
「……私が、その仕事を受ける冒険者よ! こう見えて私、魔法が得意なの。 怪我をしている人もすぐに直してあげるわ!」
「レティ」
突然そんな事を言う私にシエラ達は、きょとんとした顔で固まる。 そしてキースが、私を諌めるように注意した。
「レティ。 危険だ」
「キース。 お願いよ、放っておけないわ。 力を貸してあげたいの」
真剣な顔で言う私にため息を付いてキースは折れてくれた。 力を貸してあげたいと思ったのは本当だ。 それに加えて、なんだか胸騒ぎもした。 そこに何かがあるような、そんな感覚。 一瞬の気の迷いだと思ったので、それはキースには話さなかった。
「……わかった。 だが俺は何よりレティを最優先に守る。 お前も自分の身を守ることをまっさきに考えるんだ、いいな?」
「わかったわ」
そんな事を言って、キースは私も村人もきちんと守るだろう。 その不器用さに私は思わず笑ってしまった。 そして私は、やり取りを見ていたシエラ達を振り返る。
「それで、私達で良ければ助けてあげたいんだけれど……」
「で、でも、私。 あなた達に払えるお金が用意できなくて……」
シエラは泣きそうな顔で言う。 そう、この世界において魔法が使えるというのは良いステータスだ。 しかも治癒の魔法が使えるというのは珍しい。 法外な報酬を要求されることもある。 当たり前だ。 治癒の魔法がタダならば、治療薬は要らなくなるのだから。 そんな彼女に私は優しく声を掛ける。
「お金はいいわ。 困ってるんでしょう? でも、この事は内緒にしてね?」
「……はい……はい! ありがとうございます……!」
彼女は泣き出してしまった。 無償で引き受けたなんて、冒険者ギルドにバレたら怒られるのではないか。 少なくともそのギルドの目の前でやることではない。 私は誰かに聞かれていないか、少々不安になった。
「話の続きは移動しながら話そう。 すぐに出るんだろう?」
「はい! こんな事言うのは申し訳ないですが、すぐにでも出発したいんです……」
キースの問いにシエラは答える。 そうだろう、今も怪我で苦しんでいる人がいるはずだ。 私もすぐにでも出発したいと思っている。
「俺達も食料を買ったらすぐ出るつもりだ。 村はどっちだ?」
「東門からです。 私達は荷馬車に乗っけて貰って二日かけてきました」
馬車で二日。 彼女らのために敷物をもう少し買っていこう。 そう考えていると子供達が話しかけてきた。
「お姉ちゃん、魔法が使えるの?」
「凄い!」
「そうよ、村に着くまでに少し見せてあげる」
私が子供達にそういうと、二人は喜んで飛び跳ね始めた。 とても可愛らしい、私もつられて笑顔になる。 そしてキースはこの後のことを話す。
「なら、先に東門へ行っていてくれ。 村まで送っていこう、俺達は食料を買って馬車に積んだら向かう」
「…! はい! ……ほら二人共、行きましょう」
「またね!」
「待ってる!」
そういって彼女らは東門の方へ向かっていった。 私は早速、敷物についてキースに提案する。 彼も気づいていると思うが念の為だ。
「キース、さっきの……」
「ああ、分かっている。 敷物を追加で三つと食料を買って宿屋に戻ろう。 まずは一旦荷物を置きに行かないとな」
私の言葉を遮ってキースは言った。 危険だと依頼を請け負うことを断ろうとした彼だが、こういう所は優しい。 全く素直じゃない。
そして私達は、一度宿屋に戻り荷物を置いた。 その後必要な食料を買い集め馬車に積み込んでいく。 キースは宿屋の主人に鍵を返しに行っているところだ。
「はいよ、また来てくれ!」
「ああ、世話になった」
遠くからそんな声が聞こえ、馬車を停めている小屋の扉が開いた。 キースが向こうから歩いてくる。
どうやらもう出発のようだ。
「レティ、馬車に乗ってくれ。 出発するとしよう」
「ええ、東門ね」
キースが手綱を握り、東門へ向かって馬車を動かし始める。 彼女らが待っているはずだ。 荷台は人数分座れるように整理した。 少し狭いが、シエラ達が乗ってきたという荷馬車よりはましだろう。
いよいよ、私の力を人のために役立てるときが来た。 ちょっとした高揚感を覚えつつ、私は窓から空を見上げた。




