港町リディル 9
―――――『向こうに人手がいる!』 『こっちにきてくれ!』
宿屋の外に出ると、何やら騒がしい。 同じ方向に向かっているようだが、そちらは確か昨日遊んだ海岸のはず。 何やら胸騒ぎがして、早めにギルドへ向かうことに決めた。
―――――ギィ……
『冒険者の方ですか!』
冒険者ギルドを開けて、すぐに私達に声がかかった。 その言葉に頷くと、受付の人はそのまま私達を奥のテーブルへと案内する。 何やら急ぎのようなので、特に反論する事もなく、後ろをついていった。 席へ着くと同時に、その人は紙を取り出して机の上に置く。
「急に申し訳ありません。 ですが、緊急の案件なのでご勘弁を」
「どうしたんだ?」
少し息が切れながら言う彼を、キースが落ち着かせながら詳細を促す。 机の上に置かれた紙には魔物の絵が書かれていて、すぐ下には詳細な情報が載っていた。 その名前は"マーマン"。 体の半分が悪魔、もう半分は魚という海に生息する魔物の情報だった。
「先程の光は確認しましたでしょうか? あの後、すぐに遺跡方面から魔物が押し寄せて来ました。 今は街に滞在していた冒険者の方に要請して、応戦して頂いている所です。 出来れば、貴方方にもお願いしたいのですが……」
驚いた、そんな事になっていたのか。 外の海岸に向かっていった人達は、要請を受けた冒険者のようだ。 あの光の後すぐということは、原因はやはり遺跡なのだろうか。 彼は説明しながら、私達のプレートを確認する。 シルバーの冒険者なら立派な戦力だ、下手に出てはいるが極力向かって欲しいのが本音だろう。 私達としても断る理由はない、すぐに海岸に向かうことにする。
「わかったわ。 すぐに向かう」
「有難うございます。 此方が現れた魔物の情報になります。 確認できた敵のものだけなので、他にもいるかもしれません。 お気をつけ下さい」
私が了承すると、彼は机に用意していた魔物の情報が載った紙を渡してくれる。 ゆっくり見ている余裕はない、行きがけに読んでしまおう。 キースとランに確認を取り、私達はすぐに冒険者ギルドを飛び出した。 屋台や商店などに人の気配がなくなっている、安全な場所に避難したようだ。
「やっぱり、さっきの光と関係あるのかな……」
「そうね。 だけどまずは、海岸で戦ってる人達の応援に行きましょう。 詮索はその後でいいわ」
ランが私の方を見ながら尋ねてくる。 あの光が魔物の大量発生の原因ならば、私の赤い瞳……魔王の伝説が関係しているかもしれない。 魔王の封印が緩み、配下である魔物が暴れだしている。 そんな話でも、今なら信じてくれる人は多いかも。
―――――ギィン! ガガン!
海岸に近づくに連れて、戦闘音が聞こえてくる。 辿り着いて海を見渡してみると、マーマンの数が数十体は確認できた。 冒険者が応戦してはいるものの、マーマンは浅瀬にまでしか近づいてこない。 残りは海の方から水の魔法を放っていて、見るからに劣勢だ。 まずは海に居るマーマンをなんとかしよう。
「Act.2 激流!」
見える範囲に水流を発生させ、マーマンを海岸へとおびき寄せる。 結構な数を海岸へとおびき寄せると、好機と見た他の冒険者が戦闘に入った。 さすがに海の魔物と言うだけあって、数体は水流から逃れて逃げてしまっている。 あれは魔法を使えるもので対処しよう。
「キースとランは、海岸におびき寄せたマーマンをお願い! 私は奥のを倒すわ!」
「わかった!」
「気をつけろ」
キースとランに指示をして、私は海の方へ視線を向ける。 各々自分の得意な戦場へとかけていき、本格的に戦闘が始まった。 私は水流から逃れたマーマンに向かって、杖を構えて魔法を放った。
「Act.2 渦潮!」
狙ったマーマンの居る水面に巨大な渦を発生させた。 マーマンは逃れようと渦の中でもがくが、ついに水の中に閉じ込められてしまった。 水棲のマーマンを水に閉じ込めても、動きを封じるだけで倒すことは出来ない。 なので、私は渦を操って海岸の方へとマーマンを飛ばした。
―――――『グォォォォォ!』
叫び声を上げながら、私の近くにマーマンは墜落する。 ここなら、満足に動けないだろう。 そう考えていたのだが、起き上がったマーマンは器用に魚の下半身を使ってバランスを保っていた。 そしてすぐに大きく口を開いて、圧縮した水を放ってきた。
「Wait.3 反射!」
此方に向かう水の弾丸に対して、私は風の防御層を張る。 それは水弾を受け止めて、マーマンのを方へと跳ね返していった。 風の助力を得て加速した水弾は、細かくバラけてマーマンの体へ殺到する。
―――――『グォ…… アアアアアァ!』
跳ね返ってバラけた水弾によって体に無数の傷を負ったマーマンは、悶ながらも此方に接近してきた。 魚の下半身で地面を叩き、その勢いで此方へと飛びかかってくる。 そのまま体を回転させて、ヒレをぶつけようとしてきている。 よく見ると、ヒレには水の魔法がかかっていた。 水の膜を纏ったヒレは当たったら切断されそうだ。
「Accel.1 槍!」
その突進よりも早く、私のはなった魔法が完成した。 燃え盛る火の槍は、空中にいるマーマンの体を正確に捉える。 マーマンは"ネームド"の魔物だ。 普通は数人で相手をする、周りの人達もそうしていた。 私は一人で戦っているので、使える魔法は惜しみなく使うことにした。 射線に誰も入らないように、やや斜め上に放ったので問題はないだろう。
すぐ近くに居た冒険者と戦っていたマーマンが、空に放たれた私の魔法を脅威と感じたのか、目標を変えて此方に向かってきた。 その様子に気づいていた私は焦ること無く杖を向けて魔法の準備をする。 けれど、他にマーマンに近づく人影を見て放つのをやめた。
「Act.4 地割れ!」
―――――『グォッ』
迫りくるマーマンよりも高い位置から降ってきたランは、そのまま踵落としを食らわせた。 鈍い音をたてて、マーマンは地面へと沈み込む。 妙な声を上げていたが、起き上がろうとしている所を見るに倒しきれてはいない。 そこにキースが駆け寄ってきて、頭に止めの剣撃を食らわせた。
―――――ヒュンッ……ズッ……
魔力を纏って放たれたキースの突きは、マーマンの脳天を貫いた。 ピクリとも動かなくなったそれから剣を抜き、彼は私の体を確認していた。 その視線に、私は少し手を上げてアピールする。 大丈夫だ、ドコモ怪我していない。
「大丈夫そうだな」
「そうね、それなら……」
辺りを見ると、残っているマーマンは数匹だ。 討伐完了も時間の問題だろう。 そう考えていると、他の冒険者が近寄ってきて話しかけてきた。 プレートを見るに、彼らもシルバーランクの冒険者のようだった。
「君達、シルバーの冒険者だろう? すまないが、手伝ってくれないか? これから遺跡を調査しに行くんだ」
話しかけてきたのは、何人かのグループから出てきた一人の男だ。 彼がグループのリーダー格なのだろう。 話を聞いてみると、ギルドから実力者を集めて遺跡の調査依頼があったそうだ。 先程のマーマンとの戦いを見て、私達もそれに足ると判断し話しかけたという。 私としては願ったり叶ったりだ、是非彼に同行することにする。 戦闘が終わって静かになった海岸を確認し、ここからでは見えない遺跡の方にある山を眺めた。




