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港町リディル 8


「待って! レティ!」


 ランの静止を振り切って、私は食堂を飛び出した。 誰にも見られないように、顔を伏せながら部屋へと走ったせいで、体のあちこちをぶつけてしまう。 でも、今の私には気にしている余裕はなかった。 部屋に入り、ベッドに飛び込んで体を丸める。 いろんな考えが頭の中をよぎっていた。 嫌われる、せっかく仲良くなったのに。 また、あの目で見られる。 怯えるような、恐怖のこもった目。




―――――ガチャ


「……レティ?」


 扉を開ける音に、思わず肩がビクリとする。 声からすると、入ってきたのはランだろう。 急に彼女の言葉が怖くなり、更に深く丸まってしまう。 椅子を引っ張る音がする。 ランが私の近くに椅子を持ってきて座ったようだ。




「家を出たって……その赤い瞳と関係あるの?」


「……」


 ランの言葉に、再び方がビクリとする。 彼女は私が前に話した家を出たことと、赤い瞳について何か思う所があったようだ。 全く持ってその通りだ。 彼女の鋭さに、私は更に身を縮める。 次に出る言葉はなんだろうか……気味が悪い、とか?




「ね、レティ。 もう一回見せて? その赤い瞳」


「……どうして?」


 それまでの深刻そうな話し方から打って変わって、面白いものでも見つけたような口調でランは言ってきた。 この目が見たい? 意味がわからず、頭から煙が出そうになる。 思わずこっちから聞き返してしまったほどだ。 そして私は、小さく隙間を開けてランの方を伺った。




「ほらっ!」


―――――バサッ


 その様子を見たランは、突然掛け布団を引き剥がす。 隠すものが何もなくなった私は、慌てふためいて両手で目を隠して俯いた。




「ね、見せて? その綺麗な瞳」


「……綺麗?」


 ランがベッドの上の私に近づき、そんな事を言い始める。 綺麗? この瞳が? 私にとって、この赤い瞳は恐怖以外の何ものでもない。 綺麗だなんて初めて言われた。 少しずつ顔を上げ、そっと手を離して前を見る。 丁度、その方向に居たランと目があった。 彼女はじっと私を見つめ、すぐに笑顔になった。




「うん、綺麗な瞳。 私はそう思うよ?」


 何事もなかったかのように、ランは笑顔でそう話す。 私は身が救われるような思いだった、こうして赤い瞳の事を気にしないでくれたのは二人目だ。 ふと、部屋の扉の方を見るとキースが居た。 腕を組んで、じっとこちらを見ている彼の表情は、少し笑っている。




「ラン、あのね……」


 私はランにすべてを話した。 領を治める貴族の出身だったこと、暗殺の危機にあった時に赤い瞳が発現したこと。 この瞳が両親に畏怖される原因で、屋敷を飛び出した理由でもある事。 そして、この赤い瞳が世に伝えられる魔王と関係があるかもしれないこと。




「……そっか」


 説明し終わった後、ランは素っ気なく返事を返した。 全く気にしてないような彼女の雰囲気に、私は呆気にとられたような表情で見返した。 そんな私を見て、ランは面白いものでも見たように笑う。 私はますます困惑して、眉をひそめた。




「私の両親はね。 魔族に殺されたんだ」


 突然そんな事を言い出すランに、言葉をつまらせて固まってしまう。 魔族? 私の記憶が確かならば、本で読んだことがある。 確か、魔王に関連する本だ。 魔族とは、魔王が従えていた配下の事。 魔物と違って、見た目は人とあまり変わらない。 違うのは、体の何処かに魔物のような異形の部位があることだという。 しかし、それは伝説での話。 もし魔族が存在するのならば、もっと騒がれているはず。




「あはは、信じられないよね。 でも、見たんだ。 魔法で隠していたけど、角があった。 私の両親に魔法を放つ時に、ぶれて見えたの。 だから、私は冒険者になった。 私は必ず、あの魔族を見つけて……それで……」


 その目には憎悪の感情が浮かんでいた。 私は声をかけることが出来なかった。 ランが魔族を憎んでいるのならば、それと関わりがある魔王と同じ赤い瞳の私は……。 不安そうにする私に、ランはすぐに表情を変えて笑顔を向けてくる。




「でも! 私が恨んでるのは、あの魔族だけ。 だから、たとえ他の関係ない魔族を見つけたとしても、私は何も思わないよ。 それが魔王と同じ赤い瞳だったとしてもね」


 ランの考えは歪んでいる。 私がそうだったとして、果たして同じ事を言えるだろうか。 いや、私は関係ない魔族でも問い詰めるだろう。 同じ魔族だ、関係があるのだろう……と。 奇しくもそれは、赤い瞳の私と、赤い瞳の魔王を同一視している両親や使用人たちの考え方と同じだと気づく。 それに思わず胸が苦しくなった。 私も同列だ、人のことは言えない。 それでも、今は彼女の考えに救われた。 私を赤い瞳の少女ではなく、一人のレティシアとして見てくれているからだ。




「……ありがとう」


「レティはレティなんだから、胸を張っていれば良いんだよ!」


 キース以外にも、私をちゃんと認めてくれる人がいる。 その事に胸が救われるような思いだった。 ちゃんと面と向かって話せば、両親も私のことを認めてくれるだろうか。 そんな思いが胸をよぎり、服をギュッと握りしめた。 ふと、ベッド脇の手鏡に目を向けると、赤い瞳がすうっともとに戻っていく。




「大丈夫そうだな」


「最初から話してくれれば良かったのに! 突然だったから、少し吃驚しちゃったよ」


 ようやくキースが此方に近づいてきた。 ランはそんな事を言いながら、キースの背中を叩いている。 そうは言っても、すべての人に言いふらすわけにもいかない。 ランが特殊なだけなのだ、できれば黙っていてくれるように彼女にお願いしておこう。




「ねえ、ラン」


「わかってるよ、誰にも話さない。 これはレティが信用した人だけに、自分で話してね」


 良かった、大丈夫そうだ。 この瞳を見ても怖気づかない彼女なら、言い触らすようなことはしないだろう。 よし、落ち着いた所で何が起こったのか確認だ。 確か、山の方から光の柱が天に登っているのが見えた。 出遅れた分、早く情報を集めにいかないといけない。 ……原因は主に私だが。




「それで、あの柱は何だったのかしら」


「わからないけど、遺跡の方だったね」


 私の質問に、すぐにランが返事をした。 あの山の先に遺跡があるのか、とすると光は遺跡から? あの光に赤い瞳が反応したところを見るに、何か関連がありそうだ。 調べに行って、また赤く光ったらたまったものではないので、行くときは幻影の魔法をかけることにしよう。




「何かあったなら、冒険者ギルドに話が来ているはずだ。 予定通り、まずはギルドへ向かうとしよう」


「そうね」


 キースの言う通り、一番最初に動きそうなのは冒険者ギルドだ。 私は自信に幻影の魔法をかけ、瞳の色が変わってもバレないように準備しておく。 最近、瞳が赤くなることが多くなってきた。 魔法をかけ続けるのは疲れるし、何か対策を練らないといけない。

 

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