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港町リディル 6


「遺跡っていうのはね。 最近海から浮かんできた石造りの建物なんだ」


 私は早速、疑問が浮かんできた。 海から浮かんできた? 魔法でも使わない限り、勝手に浮かんで来るなんてことがあるのだろうか。 聞いてみようと思ったが、説明をすべて聞くのが先だ。 言葉を飲み込んで、ランに続きを促した。




「魚がたくさん取れるようになったのも、その時期だったはずだよ。 村の人が釣りをしていたら、沖の方に突然建物が浮かんできたんだって。 その時の波で結構な被害が出たけど、すぐに偉い人が来て街にするってお金も負担してくれたみたい」


 虫のいい話だ。 はたから見れば、被害にあった街への支援金。 おまけに、魚がよく取れるようになったので利益が上がると見ての投資だ。 しかし、見る方向によっては遺跡目当てで手を出したような感じがしないでもない。 当然、村の人達もそれは思ったはずだ。




「遺跡に何かあったの?」


「ううん、村の人達も遺跡に何かあるのかって偉い人を問い詰めてたんだけどね。 最初は、領兵が遺跡を調べてたんだけど……。 結局何もなかったのか、みんな引き上げて行っちゃった。 今じゃ彼処は立入禁止の観光名所だよ。 あ、壁に壁画があるって言ってたかな?」


 最後の言葉に私は反応した。 最近、街の地下で壁画を見たばかりだ。 遺跡の壁画に何が書かれているかはわからないが、一度調べてみるのも良いかもしれない。 エルヴィンの言っていた伝説について、何かわかることがあるかも。 となると、問題はどうやって中に入るかだが……。




「遺跡を調べるのなら、冒険者ギルドに行くのが一番可能性がある。 遺跡は立入禁止なんだろう? という事は国から依頼が出ているかもしれない」


「そうね」


 キースは私の意をくんで、遺跡にはいる方法を模索する。 特になにもないのなら、立入禁止にする必要もない。 そこまでして人の出入りを禁じているのは、まだ遺跡に何かあると考えているからのはずだ。 国の兵士が諦めて帰ったのなら、無い物ねだりで冒険者ギルドに依頼が来ている可能性は高い。




「そんなに遺跡が気になるの?」


「ええ、地下で会った二人に関係あるかもしれないの」


 わざわざ依頼を受けてまで遺跡に行こうとする私達に、ランは不思議そうな顔をして聞いてきた。 彼女に理由を説明すると、少し顔が険しくなる。 彼女にも勿論、地下であった二人のことは話した。 彼らが何の理由で地下にいたかは謎だが、言っていたことを信じるのならばゴーレムの核を回収しにきたらしい。 という事は、ゴーレムの召喚に関与している可能性が高いということも。 少なくともなにか知っているはずだ。




「危ないんじゃない?」


「そうね。 でも、放っておけないの」


 私の赤い瞳についてなにか知っていそうだから、とは言えない。 だから、あくまで街の人々を脅かす可能性がある人物を放っておけないという風に取り繕った。 ランは暫く考え込み、諦めたように息を吐いてこちらを見た。




「私も行く! レティだけに行かせられないもんね」


「ええ、ありがとう。 無理はしないわ」


 ランを私の事情に巻き込んで良いものかと一瞬思ったが、すぐに考えるのを止めて答えた。 本当に危険になったら、ランだけでも逃げてもらえばいいだろう。 やる気に満ちた彼女を置いて遺跡に行くのは容易ではなさそうだ。 それに、彼女の強化魔法は心強い戦力だ。




「じゃあ、決まり! とにかく、今日は遊ぼう? せっかく来たんだから!」


「そうね、そうしましょう」


 冒険者ギルドに行くにしても、今日くらいは遊び倒していいだろう。 遺跡が逃げるわけでもないし、今まで何も成果がなかったのなら、数日でどうこうなるとは思えない。 昼食を終えた私達は、休憩を挟んで再び海へと繰り出した。 遊び終わったのは辺りが暗くなってきた頃だ。 ランの気が済むまで遊ばせたら、こんな時間になってしまった。




―――――ザザ……


「んー! 疲れた……」


「はしゃぎすぎよ」


 暗い砂浜で、用意したシートの上に寝転がりながらランは体を伸ばしていた。 流石にこの時間になると少々肌寒い。 タオルで水気を吹いて、上着をかけて海を眺めていた。 暗い海も中々綺麗なものだ、星空が水面に写って輝いている。 思わず息が漏れそうになってしまう。




「エイリオ達は海に来てくれないから、こんなに遊んだのは初めてなんだ。 遊びすぎちゃった」


「そうなの?」


 この街に来たことがあるのに、海に来ないとはどういう事だろう。 水着が嫌いとか? そんなに神経質な二人には見えなかったけれど……。 私が顎に手を当てて考えていると、ランが笑いながら話を続けた。




「あはは。 そんなに考え込むほどすごい理由じゃないよ。 泳げないんだって、怖がってた」


「ふふ、そういうことね」


 確かに悩むほどのことではなかった。 まぁ、村で育ったのだから無理はない。 泳ぐどころか、海を見る事も無かっただろう。 冒険者になって初めてリディルに来て、海に尻込みしてしまったということか。 エイリオは特に、無様な姿を見せるのを嫌いそうだ。 ……となると、ランはどうして慣れているのだろうか。




「ランは、最初は怖くなかったの?」


「怖かったよ、泣くくらいね。 ……小さい頃、お母さんに連れられてリディルに来たことがあったんだ。 だから、冒険者になって街に来た時は、他の二人よりかは海になれてたかな。 でも、レティも平気そうだったよね!」


 少し声のトーンが下がった。 ランは子供の時に母親に連れられて海に来たことがあったらしいが、あまり触れて欲しくなさそうに話題を変えてきた。 私も深くは追求せず、その話題に乗っかることにした。 私が海に怖気づかなかったのは、本で知識を得ていたからだ。 魔法を追求していた時に、暇を見ては様々な本を読んでいた。 その中にあった冒険譚に、海のことが軽く書いてあったのだ。




「昔、沢山本を読んでいたの。 その中にあった物語で、少し知っていたのよ。 でも見るのは初めて、文字で読むのとは全く違うわね」


「そんなに沢山本があったんだ。 いいなぁ、村には本なんて少ししか無かったから羨ましい」


 実用的な本ならともかく、娯楽関連の書物は一般の住民には縁がないものだ。 そんなものを買うお金があるなら、勉学の本や道具を買うだろう。 少なくとも、私はその点においては恵まれていた。 欲しいものはだいたい手に入り、大人しくしていれば生活に困ることもない。 ただ、私が一番欲しかったのは両親の関心だ。 結局、それは一度も手に入ることはなかった。




「さぁ、冷える前に帰りましょう」


「そうだね!」


 そろそろ宿に戻ろう。 片付けようと後ろを振り返ると、既にキースが荷物をまとめ始めていた。 甘やかされているのは、今も同じかもしれない。 彼に感謝の念をおくりつつ、私も片付けを手伝い始めた。




 夕食は宿屋で済ませ、就寝の準備を済ませた私達は明日に備えて体を休める。 置きたら早速、冒険者ギルドに向かうとしよう。 依頼があれば、請け負って遺跡を探索しに行く。 もしなければ……それはその時に考えることにしよう。 魔法を使えば気づかれずに遺跡へ侵入できるかもしれない。 


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