港町リディル 5
「キース、何か食べに行かない?」
「ああ。 食べ物を売っている店なら、向こうにあるようだ」
キースに話しかけると、彼は海岸沿いの小さな家を指さした。 遠目に見ると、どうやらそこには屋台が密集しているようだ。 人だかりも出来ていた。 近いし、あそこで良いだろう。
「行こう!」
「ちょっ、待ちなさい、ラン! ……キース、何か買ってきてあげるから、そこで待ってて!」
キースからお金を受け取った瞬間、ランは私を引っ張って連れて行った。 彼に一言話してから、私もランに続いて小さな家の方へ向かった。 キースは一度だけてをあげて、私達を見送っていた。
「……良い匂いだね~」
「ええ、本当に。 何があるのかしら?」
小屋に近づくに連れて、良い匂いが漂ってくる。 売っているものを確認しようと店を覗くと、主に売っているのは肉や魚を網で焼いたものだ。 貝を焼いて売っている店もある。 隣を見ると、ランがキョロキョロと、どれにするか迷っている様子だ。 私は彼女を笑いながら、一つ提案することにした。
「ふふ。 ラン、少しずついろんな物を買っていきましょう?」
「賛成!」
手を上げて賛同するランを引き連れて、片っ端から屋台に売っているものを買っていく。 肉串や魚の塩焼き、貝焼きとおにぎりもあった。 さすが隣街だけあって、ここにも米は流通しているらしい。 一通り買った後、キースの元へと戻り始めた。 ランは隣で歩きながら肉串を頬張っている。
「ねえ、良かったら"遺跡"に行かない?」
「君、可愛いね」
キースの元まであと少しと行ったところで、男二人に話しかけられた。 遺跡? よくわからないが、人気の無い所に連れて行こうという魂胆が見え見えだ。 今回はキースも近くにいるし、ランも隣りにいるので取り乱すこともなかった。 やんわりと断ろうと口を開いた瞬間、ランが私の前に躍り出た。
―――――ガッ! ボフンッ!
代わりに断ってくれるのかと思ったが、ランは男二人に突然足払いをかけた。 彼らは砂浜に頭から倒れたものの、音からして大事ではないだろう。 私は突然のことに口が空いている。 そんな私を無言でランは引っ張って連れ出していった。
「何すんだ!」
「このっ!」
背後で男たちがすぐに立ち上がり、私達に向かって激昂している。 片方の男が私をつかもうとするが、既の所で動きを止めた。 キースが剣を突きつけていたからだ。 どうやら、いつの間にか私達の方へ来ていたみたい。
「何か用か?」
「……い、いや」
そう言い残して男たちは走り去っていった。 舌打ちが聞こえたので隣を見ると、ランが拳に魔力を薄く纏わせていた。 いや、それは洒落にならないと思う。 騒ぎを起こしてしまったので、周りの視線がとても気になる。 私はそそくさと荷物を集めて、少し先へと移動した。
「もう、やりすぎよ。 あんな所で剣を出すなんて」
「すまない」
「いーんだよ、あれくらいで。 あーでもしないとしつこいんだから」
私の叱咤にキースが素直に謝罪する。 隣のランは逆に彼を肯定していた。 その態度からして、どうやら彼女は前にもこんな事にあったようだ。 どの街にもあんなのが居るものだ。
「まぁ、私を守ってくれようとしてくれるのは嬉しいけど。 ほら、昼食を食べましょう」
「そうだった! 食べよう!」
忘れていたのか、ランは即座にシートを広げて座る。 私は買ってきた物を紙皿に広げて、シートの上へと並べ始めた。 キースも私を手伝って一緒に並べてくれる。 準備ができた所で、ようやく食事を始めた。
「うん、美味しい!」
「ふふ、そうね」
どれもシンプルなものだが、こういう場所で食べるとより美味しく感じる。 私が齧っているのは、魚の塩焼きだ。 皮はパリッと焼き上がっていて、身はふっくらとしている。 塩加減も丁度よく、おにぎりが恋しくなる。 空いた手でおにぎりを一つ掴み、口へと運んだ。
「これ……」
私は思わず呟いた、中身は私が気に入っていた黒い食材だ。 やはり、ここにあるらしい。 ノーランの街の屋台主が言っていた事は本当のようだ。 後で売っていないか探さなくては。
「うん? レティ、佃煮好きなんだ」
「知ってるの!」
私のつぶやきに反応したランが、その食材の名前を言っていた。 身を乗り出して彼女に聞く私に、若干ランは引いていた。 恥ずかしくなった私は、小さく咳払いをして聞き直す。
「佃煮っていうのかしら? この食材」
「う、うん。 ねえ、なんか喋り方が変だよ?」
もう一度言い直したが、やはりランは引いたままだった。 おかしい、誠意を持って彼女に質問したはずなのだけど。 まぁ、そんな事はどうでもいい。 これの所在を聞くのが先だ。
「この街に売っているの?」
「うーん……。 売っているっていうか、ここに住んでる人がよく食べてるって聞いたことがあるよ。 ここで買うおにぎりとかによく入ってる。 最近は、それだけ売ってるのは見たことないかな」
ランは私が持っているおにぎりを指さしている。 この街……いや、前身の村だった頃の特産物と言った所だろうか。 売っていないのも、隠しているわけではなさそうだ。 こんな物が売り物になるはずがないと、そう思われている気がする。 確かに、ここで取れる魚類に比べたら地味かもしれない。 それでも買う人は絶対いるはずだ。 ……例えば私。
「昔はたまに売ってたんだ。 でも遺跡が出てからは、魚がたくさん取れるようになったからね。 労使さん達も、そっちに掛かりきりになってるみたい」
「そう……」
ランの言葉に一つ引っかかることがあった。 "遺跡"だ、さっきの男達も言っていた。 あたりを見渡しても、それらしい物は見えない。 遺跡が出てから魚が増えたというのも不思議な話だ。 ランに詳しく聞いてみる事にした。
「遺跡ってなんなの?」
「そういえば、さっきの奴らも言っていたな」
私の質問に、キースも反応してきた。 ランは質問に答えようと、持っている肉串を急いで頬張る。 そんなに急がなくてもいいのに。 急に食べるから少し咽てしまっている。 キースに手渡された水を飲んで落ち着いた彼女は、改めて遺跡について説明を始めた。




