港町リディル 4
「んー。 これも良いけど……。 あっちもなー」
「……」
店に入って暫く。 私は更衣所で、ランの着せ替え人形になっていた。 最初こそ、水着の恥ずかしさに顔が沸騰しそうになっていた。 その羞恥心も、ランに何度も着替えさせられて段々と薄れてきていた。 ……いや、それは嘘だ。 恥ずかしいものは、恥ずかしい。
「レティってスタイルいいし、これとか似合うよね!」
「いやよ! 殆ど布切れじゃないの、それ!」
ランの持って来る物の半分は、かなり目立つ際どいものだ。 彼女も私が恥ずかしがるのを分かっていて、わざと持ってきている節がある。 私がそう言う反応をすると、満足したような顔をして次の水着を探しに行くのだ。
「……」
私は更衣室で、二つの水着を眺めていた。 ランがどちらか選べというからだ。 こんなのは最初から決まっている。 迷うこと無く片方を選び、それを着用して目の前の仕切りを開いた。 目の前にはランが待機していて、その顔は眩しいほどの笑顔だった。
「やっぱり、そっちだったかぁ」
「当たり前でしょ! あんなの着れるわけ無いわ」
私が選んだのは、腰の部分にスカートがついた白っぽい水着だ。 パレオと言うらしい。 ちなみに、ランが持ってきたもう一つの水着はビキニというものだった。 私は死んでも、あんなものは着たくない。 これでも十分恥ずかしいのに、あれを着たら爆発できそうだ。
「じゃあ……海も近いし、このまま行っちゃおうか!」
「へっ? ちょ、ちょっと待ちなさい!」
会計は既に済ませてある。 そう、ビキニも買ったのだ。 絶対に着ることはないと断言する。 ランは私を店の外へと連れて行く、彼女も既に水着に着替えている。 ワンピースタイプの、白と青の可愛い水着だった。
「ちょっと! 待って……」
店を出た所で、待機していたキースと目が合った。 彼の手には買い物袋が握られている。 どうやら、私達が選んでいる間に、彼も水着を買っていたようだ。 いつもと変わらない真っ直ぐな視線に、思わず私は俯いてしまった。
「似合っている」
「……」
一気に顔が真っ赤になった。 返事をすることもままならなくなった私に、キースはそっと上着をかけてくれた。 そっと顔を上げてみると、彼が苦笑しながら私の方を見ていた。
「海辺に着くまでは、これを着ていろ」
「ええ、ありがとう」
ようやく調子が戻って来た。 改めて周りを見ると、私達と同じように水着を着た人がたくさん見える。 これなら恥ずかしくないか。 そう自分に言い聞かせて、私は海へと歩みを進めた。 ……無言でニヤニヤとこっちを見ているランを睨みながら。
海に行く途中で更衣所を見つけ、キースもそこで水着に着替える。 更に近くに、海用の遊具を取り扱っているお店があったので覗いてみた。 浮き輪、ボードなどなど……。 よくわからないが、ランが進めるので借りることにした。
「薬は塗った?」
「ええ、大丈夫」
ランに渡された薬のことだ。 肌が日に焼けるのを防いでくれるらしい、彼女が塗ると言ってくるのを抑えるのに苦労した。 海岸に到着し、私は波打ち際に寄る。 そっと、水に足を触れさせてみると多少温かい。 すぐに波が引き、足がくすぐられるような感触に笑顔になった。
「気持ちいいわね」
「でしょ? ほら、入ろう!」
手を引っ張られて、海の中へと進んでいく。 手には、先程の店で借りたボードというものがある。 ランは浮き輪というのを借りていた。 それは水に浮かべると浮き、体を乗せることも出来る。 泳ぐのには自信がなかったが、これなら私でも大丈夫そうだ。 キースはというと、砂浜に傘と椅子を並べて寛いでいる。 ……いや、座って入るが目線は此方から離れない。 それとなく見守っているようだ。 そんなに心配なら、こっちに来ればいいのに。
「レティ!」
―――――バシャッ
「ひゃっ」
―――――ザパン!
突然ランに水をかけられた私は、バランスを崩してボードから落ちてしまった。 すぐにボードを掴んで水の上に上がり、ランに避難の目を向ける。 彼女はそこまでするつもりはなかったようで、私の視線に引きつった笑みを浮かべていた。
「あ、あはは」
「……ラン?」
ランは少しずつ、静かに泳いで私から離れていく。 そうは行くものか、盛大に仕返しをしてあげよう。 周りにばれないように、魔力を抑えて魔法を発動させる。 ……ずるい? そんな事はない。
「Act.2 水流」
ランのいる場所から、私のいる場所に向かって水流を発生させる。 浮き輪に乗りながら逃げていたランは、その水流に流されてゆっくりと私の方へと戻ってきた。 そこから逃げようとランはもがくが、私が水流を常時いじっているので逃れることは出来ない。 目の前まで戻ってきた所で、満面の笑みを向けてあげた。 彼女もつられて笑顔になる。 ……引き攣っているが。
「Act.2 水鉄砲」
「へぶっ!」
ランの顔に向けて、弱めの水鉄砲を放った。 彼女は変な声を上げてひっくり返る。 よし、仕返しは完了だ。 今度は水上に上がってきたランが、私に非難の目を向けていた。
「ずるい!」
「ずるくないわ」
ぷくっと頬を膨らませて怒っている。 先にしかけてきたのはランだ、私は反撃しただけ。 その後も暫くやり合いを続け、結局私の勝利で事は収まった。 収まったと言うより、ランが途中で降参した。
そうして私達は満足行くまで海を楽しんだ。 途中でキースを巻き込み、ボールを使った遊びをしたりもした。 海で遊んでいる人達が、沖の方で波に乗っているのを見て、私もチャレンジしようとしたが、結局一回も上手くいく事はなかった。 見てるだけなら簡単そうだが、やってみると難しい。
「お腹空いた! なにか食べよう?」
「ええ、いいわね」
遊び疲れたランが、お腹がすいたと訴えてくる。 確かに、海で遊ぶのは体力を使うようだ。 遊んでいる最中は気づかなかったが、私も大分疲れている。 水に濡れた髪を纏め、キースの方へと近寄っていった。 彼は近くで荷物番をしてくれている。 後ろを振り返ると、太陽の光が水面に反射してキラキラと輝いていた。 こんな風に遊んだのは初めてだ、水着は慣れないがランには感謝しないと。 先へ進むランの後ろ姿を見ながら、私はそんな事を考えていた。




