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辺境の街クアーラ 3


「少し聞いても良いか?」


「ん? なんだ?」


 私が食べている間にキースは店主に声を掛ける。




「国境沿いの街に向かいたいんだが、行き方を教えてくれないか?」


「国境沿いっていうと、山の麓のデイルか? あそこは鉱山くらいしか無いが、何か用事でもあんのかい?」


 此処から先は手探りだ。 この国を出るのには、人から情報を集めなければならない。 そう、忘れてたわけじゃない。




「ああ、俺達は見習いの商人でな。 その街に商品を届けないと行けないんだ」


「そういう事か、そりゃ大変だな。 ……そうだな、ここからだと東門から出て街道を進んでいきゃあいい。 馬車なら四日ってところか」


 馬車で四日。 その言葉を聞いた途端に気分が落ち込む。 あの荷台で四日。 覚悟はしてきたとは言え実際に乗ってみると、馬車旅とは辛いものだ。




「はっはっはっ! しけた顔をしているな、お嬢ちゃん。 ……そうだな、この先の雑貨屋で旅の道具を売っている店がある。 そこで何か探してみたらどうだ?」


「そうしよう。 情報感謝する、貰っておいてくれ」


「良いってことよ! 頑張りな!」


 串を頬張りながら苦い顔をする私を見て、店主はキースに提案した。 この先に旅具を売る店があるらしい。 旅に必要な最低限しか用意してなかったので、ありがたい情報だ。 キースは店主に感謝の意味を込めて硬貨を渡す。 ……そんなに顔に出ていただろうか?




「レティ。 店を見に行ってみよう」


「ん。 ちょっと待って。 ……ん、行きましょう」


 頬張っていた肉串を食べ終わり、店のそばのごみ箱に串を捨て歩き出す。 店主の言っていた通りなら、このまま真っすぐのはずだ。




「あれだな、入ろう」


「ええ、わかったわ」


 少し歩くと、店先にロープやら寝具やらを出している店を見つけた。 あれが先程の店主が言っていたお店だろう。 中に入るとお婆さんが私達を出迎えてくれた。




「いらっしゃい。 旅の人かね?」


「ええ、お婆さん。 長い馬車旅で体が痛くて……。 何か便利なものは売っていないかしら?」


 店内は使い方がよくわからない商品が沢山置いてあった。 聞いたほうが早いだろうと、私はお婆さんに問いかけた。




「そうね……。 なら、これはどうだい? 袋の中に詰め物をしていて、これを下に敷いて座るんだ。 少しは楽になると思うよ」


 お婆さんは、私の要望に店の奥から枕のようなものを持ってきた。 それを受け取った私は感触を確かめる。 なるほど、真ん中が凹んでいて座りやすくなっている。 反対側には滑り止めのようなものが貼られていた。




「これ、いいわね! 座ってみても良い?」


「ああ、構わないよ」


 お婆さんに許可を取り、近くにあった椅子にそれを敷いて座る。 これは快適だ、おしりが痛くなることも無くなりそう。




「キース! これ、気に入ったわ!」


「わかった。 これを売って貰えるだろうか?」


 私の感想を聞いたキースが、お婆さんに買う意志を伝える。 これなら家にあった枕を持ってくれば良かっただろうか? いや、あれは嵩張るし目立つ。 それに馬車になんて敷いたらすぐ破れてしまうだろう。 敷物を掲げながら、そんなくだらない事を考えていた。




「はいよ、銅貨五枚だ」


「ああ、わかった」


「キース、貴方はいらないの?」


 私の分だけを買おうとしているキースに問いかけた。 彼も長旅は辛いだろう、出来るだけ負担は減らしてあげたい。




「レティ。 俺は良いんだ、あまり無駄遣いもしたくない」


「無駄じゃないわ。 貴方が私を心配しているように、私も貴方には無理をしてほしくないの」


 持ってきたお金には、まだ余裕はあるはずだ。 今はキースの体のほうが大事。 ちなみに宿は一日泊まって銀貨五枚、先程の串は一本銅貨一枚だ。 今の所持金なら、まだ数十日はここに泊まれる。




「お兄さん、彼女がこんなに心配してくれてるんだ。 諦めて二つ買ったらどうだい? 二つで銅貨八枚におまけしてやるよ」


「……ッ! 俺と彼女はそんな関係じゃない。 ……だがそれは二つ買うことにしよう」


 私の話を聞いたお婆さんは、少し割り引いてくれた。 キースはお婆さんの言葉に動揺している。 いつもそんな調子なら可愛いのに。……おっと、にやにや見ていたら睨まれた。




「それで、他にはなにかあるか?」


「そうだねぇ……。 あとは……」


 その後も旅に必要なものを少し買い集め、店を後にした。 敷物が結構嵩張る、一度戻ったほうが良いかもしれない。




「レティ。 一度戻って荷物を置いてこよう」


「そうね、この状態で食べ物を買うのは無理そう……あら?」


 提案するキースに答えようとした所で、少し遠くに子供が二人見える。 ボロボロの服で俯き座り込んでいる二人は何か困っているようにも見えた。




「ねえ、キース……。」


「……。 わかった、話を聞いてみよう」


 私の目線の先に、キースも子供達を見つけたらしい。 彼も私の家に雇われるまでは、親に捨てられ貧民街で過ごしてきた身だ。 何か思うところがあったんだろう。




「ねえ? あなた達どうしたの?」


「……!」


 私は屈んで二人に優しく話しかける。 彼らは驚き身を引きかけるが、切羽詰まっているのだろう。 口を開けて話し始めた。




「あ、あのね。 私の住んでいる村に魔物が出たの。 それで退治するのに、皆、怪我をしちゃって……。 この街の冒険者さんに頼みに来たんだけど…」


「お金がないと駄目だって……。 後で払うからって、今お姉ちゃんが頼んでるんだ」


 二人の子供。 女の子と男の子は順番に話を紡ぐ。 お姉ちゃんが、と言って見た先には建物がある。 看板には冒険者ギルドと書いてあった。 私はキースを振り向いた。




「レティ。 ここは冒険者ギルドと言って、街や村からの依頼を冒険者と呼ばれる者たちが請け負っているところだ。 この子達は恐らく村から来たんだろう。 報酬の少ない依頼は人気がなく、請け負う冒険者も少ない」


「そんな……」


 この子達が佇んでいたのは冒険者ギルドの前だったようだ。 キースの言葉を聞いて私は絶句した。 本で見た冒険者というのは、崇高で誇り高く人々のために行動する存在だと。 普通に考えれば、そんな事はありえない。 世の中は聖人ばかりではない。 自分が身をもって知っていたはずなのに、いざ目の前にすると言葉が出なかった。

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