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ノーランの街 29


「……」


 翌朝、私は宿屋のベッドにうずくまっていた。 何故かと言うなら、昨日の事を思い出しているからだ。 何故あんな事をしたのだろう、羞恥心で潰れてしまいそうだ。




「……」


 ベッドから少し顔を出して、隣のキースの方を見る。 彼はすました顔で、今日の準備を進めている。 ……私がこんなに悶ているというのに。 その横顔が憎たらしい。




「レティ。 試験の準備は出来たのか?」


「……ええ。 用意するわ」


 自分だけ悩んでいるのが馬鹿らしくなってきたので、私もベッドから出て準備を始める。 それを見たキースは、朝食を取ってくると部屋を出ていった。 いつもならからかう私だが、今日は心の余裕がなかった。 着替えを済ませ、持ち物を詰めた所で彼が戻ってきた。




「入るぞ」


「ええ、いいわ」


 ガチャリと音を立て、キースが部屋へ入ってくる。 いい香りだ、紅茶も淹れてくれたみたい。 彼が机の食事を置くのに続いて、私も席に着く。




「今日の試験って、どんな事をするのかしら?」


「昨日の説明だと、そんなに難しいことはやらなそうだな。 もう受かることが確定したかのような口ぶりだった」


 食事を進めながら、今日の試験について話し合う。 確かに、レイラは既にシルバーランクに上がったかのような言い方をしていた。 筆記……といっても、冒険者になるもの全員が学術を修めているわけではない。 学院に通えるのは、貴族や一部の裕福な家庭だ。 それ以外は、親や村の有識者などから教わることになる。




「それなら、人柄の確認って所かしら?」


「そんな所だろう」


 昇格させるにしても、実力だけでは不安が残る。 それに足る人物がどうかを確認するための試験という所だろうか。 私はあまり深く聞かれると困ることが多々ある。 今のうちに言い訳を考えておこう。




 食事を済ませると、そろそろ試験の時間も近くなってきた。 試験会場へと出発するために、私達は宿屋を後にした。 地図によると、会場の場所は……領主の館近くだ。 街の真ん中付近にある。




「向こうだな」


「ええ、行きましょう」


 キースに続いて、私も後ろを歩き始める。 ふと、昨日の帰りのことを思い出して、それとなく彼の隣に落ち着いた。 キースは一瞬此方を見るが、私は目線を合わせないように顔を逸した。 彼は特に何も言うこと無く、少し歩く速度を緩めてくれた。




「ん……。 そういえば、言いそびれてたのだけど。 次はリディルの街に行こうかと思うの」


「ああ、屋台で聞いた海の街か。 いいんじゃないか?」


 暫く無言で歩いていたので、居た堪れなくなった私は話を振った。 予想通り、キースは私の意見に特に反論すること無く、承諾してくれる。 そのまま、もう一つの事についても話す。




「それで、ランも着いてきたいって言ってるのだけれど……いいかしら?」


「ラン? ああ、エイリオのグループのか。 俺は構わないが、エイリオ達はどうするんだ?」


 至極真っ当な意見だ。 なにせ、三人グループの内の一人だけが離れることになるのだから。 その質問には、ランから言われたことを、そのまま伝えることにした。




「エイリオとリグは生まれの村に帰るらしいわ。 暫く滞在するから、その間は暇なのだそうよ」


「ん? ランは……。 いや、わかった。 彼女が良いのなら、俺は構わないぞ」


 キースも私と同じ疑問を持ったようで、此方に顔を向けて言いかけた。 そして、私の微妙な顔を見てなにか察したようだ。 それ以上聞いてくることはなかった。




「ランは、明日尋ねてくるわ。 その時に伝えるわね」


「任せた」


 よし、決まりだ。 次の旅にはランが同行する。 行き先は海の街リディル、目的はおにぎりの具……ではなく、海を見たい……でもなく、……そう、私の自由な人生のためだ。




 周りの雰囲気は大分変わってきた。 ちらほらと、貴族風の豪華な衣装や小物を身に纏った人物が見えてくる。 どうやら、領主の館付近は富裕層が多いらしい。




「あの建物のようだな」


「ずいぶん豪勢ね」


 目の前に見えてくる建物に、少し呆れた気分になる。 隣りにある領主の館程ではないが、それなりに大きな建物だ。 試験会場に必要なのかはわからないが、大きな庭もある。 正面には豪華な扉だ。 そこには二人の兵士が武器を持って立っていた。




「すみません。 私達、ギルドの試験を受けに来たのですが……」


「はい、ギルド証と試験証の掲示をお願いします」


 その二人の片方に、私達は証を掲示する。 それを手に取り確認した兵士は、もう片方の兵士に顔を向けた。 顔を向けられた兵士は、そのまま屋敷の中へ小走りで向かっていく。




「冒険者ギルドの昇給試験かい? 大変かもしれないが、頑張ってくれ」


「ええ、ありがとう」


 残った兵士から、そんな声をかけられた。 とりあえずお礼を言っておいたが、どういう意味だろう? 聞き返そうとも思ったが、すぐに中からもう一人が戻ってきたので思いとどまった。




「それでは、案内します。 着いてきて下さい」


 少し息を切らしながら、彼は私達を案内してくれる。 続いて建物の中へと入ると、そこはまるで領主の屋敷だ。 高価そうな調度品や、下に敷かれたカーペット。 領主の館は隣では? 私は内装を見て、そう思ってしまった。




 兵士はある扉の前で止まった。 彼がそれを開くと、中から執事の男性が出迎えてくれる。 端正な顔立ちの、白い髭を生やしたお爺さんだ。 眼光は鋭いが、表情は柔らかく笑顔になっている。




「ようこそ、おいで下さいました。 あちらの席でお待ち下さい」


「ええ、わかったわ」


「……失礼する」


 彼に促され、会場に用意された席へと座る。 どうやら試験をうけるのは、私達だけのようだ。 他に人は見当たらない。 私は後ろを伺いながら、キースに話しかけた。




「ねえ」


「ああ」


 言わずとも、キースも感づいていた。 あのお爺さん、かなりの手練れだ。 感じる魔力量が半端ではない。 なぜ、こんな所で執事などやっているか疑問に思うくらいだ。 彼は会場の奥の方を見たまま、静かに佇んでいた。


 そのまま暫くじっと居ていると、奥の方から小太りの男性が姿を表した。 私は眉をひそめる、冒険者ギルドの関係者には見えなかったからだ。 どうみても、貴族の御曹司かなにかといった所か。




「それでは、昇級試験を始める。 受け取り給え」


 彼は数枚の用紙を、私達に渡す。 それを一瞥するが、書かれているのは当たり前の事ばかり。 "依頼を受けるためには?"、"素材は何処で換金する?"、などなど……。 最初に説明を受けたことが殆どだ。 後半など、冒険者とはなんて題名の論文が並んでいる。 誰が書いたのだろうか……まさか、この人?




「……で。 ……とは」


 そこから、彼の長い講習が始まる。 言っていることは要領を得ず、半分以上聞き流していた。 試験よりも、辟易しているのが顔に出ないように務めるのが大変だった。




「冒険者は、街の支援で成り立っていることを忘れずに、貴族の依頼を優先的に受け……」


  後半は、彼の思う理想の冒険者像だ。 冒険者は貴族に従うべき、というのが持論だろう。 この紙の論文も彼のもので間違いなさそうだ。 似たようなことが載っている。 これは長くなりそうだ、準備してきたのが馬鹿らしい。 今日何度目かわからないため息を、私は心の中でついた。


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