ノーランの街 26
「おかえりなさい」
冒険者ギルドに戻ると、レイラさんが出迎えてくれた。 地下であったことを報告し、ギールさんから受け取った書類を手渡す。 それを受け取った彼女は、手続きの後に報酬を手渡してくれた。 これで一先ず、今回の事件は終わりだ。 次は何をしようか、と考えていると再びレイラさんから声がかかった。
「レティさん、キースさん。 ちょっと此方へ来て頂けますか?」
「どうしたの?」
レイラさんに部屋へと連れて行かれた。 後ろでランが、おめでとう!と言っている。 そんな事を言われる覚えはないのだけれど……。 レイラさんは席に付き、私達も向かいの椅子に座る。 いくつかの書類を机に出しながら、レイラさんは口を開いた。
「はい。 それでは、レティさん、キースさん。 あなた達にシルバーランクへの昇格推薦がありました」
「えっ」
驚いた、まだ登録して幾日もたっていない。 誰が推薦してくれたのだろうと、目の前の書類を確認した。 そして、私は納得する。 そこに書かれていた名前は。
「守門長のギールさんから、直々に推薦が届いています」
なるほど、さっき渡された書類に入っていたのか。 街の守護に推薦なんて冗談を言っていた時も、こんな事を考えていたと思うと、してやられた思いになる。
「本来、シルバーランクになるには昇格試験を受けなければなりません。 ですが、ここ数日の依頼で貴女達の実力は織り込み済みです。 なので、実力試験が免除となり筆記による鑑定だけで昇格することが出来ます。 どうします?」
事務的に説明しつつ、最後は笑って聞いてきた。 私はキースの方をちらりと見る、彼も頷いている。 それなら、言うことは一つだ。
「ええ、受けるわ」
「俺もだ」
その返事が分かっていたかのように、レイラさんは続けて書類を机に広げる。 そこには、筆記試験の参加証と会場の地図が詳細に描かれていた。
「それでは、試験は明後日。 時刻と会場は、その紙に書いてあります。 時間は厳守で、遅れないように注意して下さいね」
その後少しの間、レイラさんにシルバーランクに上がることの利点について教えて貰った。 まずは、シルバーランクのプレート。 これは通行証の代わりになるようで、余程の警戒態勢を取っている街以外なら見せれば入ることが出来るらしい。 これがあれば、毎回長い列に並ぶ必要がなくなる。 私にとっても有り難い事だ。
次に、依頼の事。 当たり前だが、シルバーランクの冒険者向けの依頼を受けることが出来る。 もちろん難易度も上がるので、よく吟味して依頼を受けるか決めて欲しいとの事だった。
「シルバーの依頼からは特殊な敵を相手取ることがあるわ。 貴女達が今回、戦った相手がそうね」
特殊な相手? ゴーレムの事だろうか。 いや、あれは魔物ではなく魔法で生まれた物だ。 魔物の核が埋め込まれてはいたが、その辺にいるようなものではない筈。 となると、その前に戦ったトカゲのような魔物?
「貴女達は、以前の依頼でトカゲ型の魔物と戦ったと言ってたでしょ? 地下であったのは、同じ姿でも何処か違わなかった?」
「ああ。 酸を吐いてくるし、皮膚が前の奴らより硬かったな」
レイラさんの質問にキースが答える。 確かに、地下で戦った魔物はマイアさんの畑で出会ったものと同じ姿をしていた。 しかし、その行動も手応えも全く違うものだった。
「それが"ネームド"の魔物ね。 魔物として長く生きていた個体や、何かの要因で変異をおこした個体は通常よりも手強いの。 私達は、そんな魔物をネームドモンスターと言っているわ。 貴女達が今回倒したのは、トカゲ型の魔物のネームドモンスターで、"アシッドリザード"なんて呼ばれているわ」
レイラさんの説明に聞き入ってしまった。 魔物側も成長するということか、改めて面白い生態をしている。 人間からしたらたまったものではないが。
「シルバー以上の依頼には、そんなネームドモンスターの討伐も含まれているの。 もし戦う時は、先に情報をできるだけ集めて準備をしていってね。 と言っても、魔物は日々いろんな進化をしているから対策が難しいんだけどね。 困ったものだわ」
既に発見されているネームドモンスターならば、情報を手に入れて優位に戦うことも出来るのだろう。 しかし、魔物側も馬鹿ではない。 常に変化することを念頭に置いておこう。 ……エイリオが地下で言っていた、長く生きていた個体とはこの事か。
「それじゃあ、残りの詳しい事は受かったら話すわ。 頑張ってね」
「ありがとう、レイラさん」
説明が終わり、席を立つレイラさんに私達も続く。 彼女は扉を半分開けた所で、思い出したように私を振り返った。
「あ、レティさん? もし良かったらこの後……」
「レイラ! 終わった?」
何かを話しかけたレイラさんに、ランがドアを開けて話しかける。 ドアノブを掴んでいたレイラさんは、そのまま扉に引かれてよろけてしまった。
「あっ! レティも行こう?」
「ちょっと、ラン。 意味がわからないわよ、ちゃんと具体的に話さないと」
ランは私を確認すると、何かに誘ってきた。 それだけでは意味がわからずに首を捻っていると、体勢を立て直したレイラさんが話を繋いでくれた。
「お昼、まだでしょう? この後、ランと食事に行くのよ。 良かったら貴女もどう?」
そう言う事か。 私は返事をする前に、キースの方へと顔を向ける。 目が合うと、彼は笑って口を開いた。
「言ってくると良い。 俺は適当に済ませて、宿屋に戻っている」
キースにしては珍しい判断だ、私を一人で行かせるなんて。 私としては、キースを連れて行っても良いのだが、女性の中に彼を連れ回すのも気が引ける。 言葉に甘えて、レイラさん達と一緒に行くことに決めた。
「……それじゃあ、私も行っていいかしら?」
「うん! 行こう!」
「ごめんなさいね、キースさん。 彼女、借りるわね」
私が承諾すると、ランは飛び上がって喜んでいた。 レイラさんはキースに断りを入れているが、彼は構わないと行った様子で頷いている。
「何かあったら、これを使え」
「これは?」
キースから四角い箱状の物を渡された。 何処を見ても見た目は変わらない。 しかし、全面に刻印が刻まれてる……何かの魔道具?
「それに魔力を流せば……こっちの魔道具が赤く光る。 それにお互いの大体の方向を示すことも出来る。 無くさずに持っていろ」
「便利ね……わかったわ。 何かあったら知らせるから」
こんな物何処で手に入れたのだろうか、随分細かい刻印が彫られている。 キースは私の返事を聞くと、満足したように頷いて去っていってしまった。 ふと視線を感じる方を向くと、ランとレイラさんがニヤニヤと此方を見ていた。
「そんな魔道具、見たことないよ。 愛されてるね~」
「ふふ、大事にされているわね」
その視線に耐えきれなくなり、先に進もうとするが私は店を知らなかった。 振り返って二人の所に戻り、ランの頭を両手で挟む。
「さあ、行きましょう?」
「ふぁ、ふぁい」
私に顔を抑えられながら、ランは姿勢を正して返事をした。 思えば、一人で街を歩くのは初めてかもしれない。 新鮮さを感じながら、ポケットに入っている四角い魔道具を握った。




